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第三楽章



「うう~~~ず、ずみまぜん…ぐす、面目ないです…」

ベッドの上で布団にくるまりながらめそめそと泣くわたしをメルヴィンさんは優しく宥める。
「いいんだよ、こういう時こそ頼ってほしいんだ。…ね?」
さすがは副指揮官。本当、心強くて頼りになる。


昨日の第五教会護衛のための対アルフィーネ作戦の際にまさかの高熱で倒れてしまうというトンデモを発揮したわたしは、現在大人しく布団の下に潜り込んでいた。昨日フローラさんが倒れた私を拠点まで送り届けてくれたあとからずっと、メルヴィンさんはちょこちょこ様子を見に来てくれたりと、看病をしてくれていた。

「…あの、一つ訊いても、いいですかね」

ずび、と間抜けな音を立てて鼻をすすった後で尋ねる。彼は何かな、とだけ返す。

「神様は、いる…んですよね」

メルヴィンさんは驚いたように目を丸くした後で、口元を小さく緩め言う。

「悪い夢でもみたのかい」

その通りだった。まぁバレているだろうなとは思っていたけど、図星をつかれてしまうとどこか照れ臭い。肯定の意を込めてこくりと頷く。メルヴィンさんはそっとわたしの頭を撫でてくれる。何かに安堵してまた涙が少し零れる。

数分前、酷い夢から覚めると同時にわたしはこの医務室のベッドから布団たちと共に雪崩落ちた。それはもう、ものすごい音を立てて。実を言うと、メルヴィンさんがここに駆けつけてくれたのもその物音を聞いたからである。絵面だけ見ればもはや漫才なんかのようではあるがわたしの心情はそんなに可愛らしいものではなく、なんというか酷いものだった。全部をぐちゃぐちゃにされて、何もかも否定されてしまって。…そんな夢だった。抽象的な話しかしていないが、夢の内容や光景は嫌なほどハッキリと、明瞭に、覚えている。

「思い出したくなかったら別に無理しなくていいんだけど、それはどんな夢だったか…とか、教えてくれるかい?ほら、話した方が楽になることもあるからさ」

なるほど。たしかに、少しくらいは話した方がどこかしらすっきりするかもしれない。さすがは副指揮官、考え方が大人だなぁと感心してしまう。どこから話そうか、どこまで話そうか。ふ、と息を吸い込んで口を開く。涙はもう乾いていた。…ん?

あれ?

「もしかして忘れちゃった?」

またまた図星だった。おかしいな、つい五秒前くらいまでは張り付くように覚えていたのに。思わず首を傾げてうーんと唸る。綺麗なくらいすっかりと忘れてしまっている。
「忘れちゃったならいいんだ。さっきよりか、表情もいつもみたいに明るいしね」
メルヴィンさんの言う通り、先ほどまでの嫌な気分はもうどこにもなかった。いや、体調は相変わらず優れないんだけれど。思い出したくもないのにフラッシュバックを繰り返していたような夢だ、忘れてしまって良い。
「えへへ…なんか、すみません…。でもほんと、気分はよくなりました!多分もう少し休めば良くなると思います~!」
いつものような笑顔で答えると、ならよかった、と言ってメルヴィンさんは微笑む。

「それじゃあ、僕はとりあえず戻るよ。お大事に。…早く、良くなってね」
「はい!…わざわざすみません、超速で治しますね!」
そんな会話を少しした後でメルヴィンさんは医務室を後にした。

そして再びベッドに横になった後で、わたしは質問の答えを聞くのを忘れていたことに気が付いた。


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