第二楽章
あらかじめ用意してきていた消火器をはじめとした消火グッズを巧みに使って教会の炎を着々と消していく。まだ全部の炎は消えそうにない。もう外から中に入るのは無理とみたので手榴弾型の消火器を投げ込んで内側の炎を消す。しかしさすがに暑い。既に汗でびっしょりだった。
「それ本気で全部消すつもり?一人で?諦めて大人しく帰ったらどうなの、シヴォルタ」
毒っ気の強い声に振り返ると、そこには二つに結い上げた緑髪を揺らす少女が居た。アルフィーネの、副指揮官。
「メロディア、さん……」
突然すぎて、うまく言葉が出せなくて、空気だけが口から逃げていく。
「鎮火させたいの?させたら帰るんだよね、てか帰れ」
そう言うと彼女は僕の手から消火器を奪い取って教会の方に向けて、放つ。と同時に、衝撃波のような何かが消火剤を教会一面に撒き散らしたのがわかった。一瞬にして協会は灰の塊となった。鉄骨が浮き彫りとなる。
あぁ、そうか。彼女は自身の能力を使って。
「…ありがとう。あの、俺」
また、一緒に笑いあえるなら。
「帰れよ」
「俺、また前みたいに話せたらって、一緒に笑えたらって思って」
あの頃みたいに、あの平和だった頃みたいに笑いあえるなら、俺は。
「聞こえなかった?帰れよ」
この国に平和を取り戻したいって思うよ。
「ねぇ聞いてる?ほんと頭痛いから僕もう帰りたいんだけど」
その時、俺は何か不穏な音を聞いた。何かが崩れてくるような、そんな音。
「下がって」
あぁ、これは、教会が崩れていく音だ。
「うるっさいなもう、帰れつってんだよ!」
彼女の声は、だんだんと大きくなるその音に掻き消されてしまっていた。彼女の腕を思い切り引く。勢い余って転倒する。崩れてくる。灰が、噴煙が、巻き上がる。
「大丈夫、メロ!?」
誰かを護れたとき、少しは強くなったのかもしれないなんて思う。
「…ディア、さん」
彼女は酷く傷付いたような表情をしていた。
「…僕は、もう」
「メトロ!メトロ、大丈夫!?」
「メロディア…!」
彼女が何かを言いかけたところで、俺と彼女の事を呼ぶ声が聞こえた。
「フォルテ…!大丈夫だよ、ありがとう」
「メトロはほんと、どんだけ心配かければ済むんだよ…」
ごめん、と苦笑いをする。
さっき、彼女は何を言おうとしたのだろうか。当の本人は先ほど駆けつけたアルフィーネの人と話をしていた。
「…帰ろうか、メトロ」
フォルテは第五教会を護れなかったことを悔やんでいるのか、どこか表情は暗いように見えた。
「そう、…だね。うん、シューさんたちも待ってるだろうし」
そうして教会だった場所を後にしようとした。した時だった。
「悪いけど僕、もうお前と関わる気は無いよ」
アルフィーネの彼女はそう冷たく言い捨てて僕らの横を通り過ぎてった。何も言えないで立ち尽くす。
「何アイツ、すごい嫌な感じなんだけど」
「行こう、フォルテ」
「え?あ、うん」
再び激昂しかけたフォルテの手を引いた。帰路に就く。
彼女の表情が泣きそうに見えたのは、都合がよすぎるのかな。