第二楽章
「あれれ、もう駆けつけて来ちゃった感じ?あーやっぱ教会爆破バレてた感じっすか?だからって待ち伏せなんて、アンタらも随分な悪趣味っすねぇ」
駆けつけた教会には、案の定アルフィーネが待ち構えていた。僕らを悪趣味と云う彼女、アルフィーネのレヴィは自身の加えていた煙草を教会の方に向かって投げ捨てる。燃え盛る炎が熱い。
「悪趣味、って…どっちが」
腹が立つ。飄々と笑ってのける、教会から少し離れた塔の傍にいる彼女を思わず睨みつけた。
「まぁまぁそんなにかっかしないでほしいっすよ…。てことで、レヴィちゃんは非力なんで一旦バイバイっす!」
「あっちょっと待てお前!!」
そう言って追いかけようとしたその時だった。
「危ないッ!!」
その声と同時に体勢が崩れてその場に自分…ともう一人誰かが倒れたことが分かった。どうやら引火した木が気付かないうちに僕の方に倒れてきたのを庇おうとしてくれたらしかった。
「フォルテさん、大丈夫でした…!?」
「うん、ありがとう、ネリネ」
僕に覆いかぶさったままの彼女に微笑んだ。…と、ここで僕は一つの異変に気が付いた。
「ネリネ、あの…熱くない?」
「へ!?あっすみませんそうですよねごめんなさい!炎すごいですし暑かったですよね、くっついたままですみません…!」
そう言ってがばりと離れるネリネの顔はこれまでに無いほど真っ赤だった。おそらく教会を取り巻く炎のせいではないだろう。
「そうじゃなくて。熱、あるんでしょ」
僕が指摘するとネリネは
「あ…うう、バレてしまいましたかぁ…さすがです、フォルテさん。か、なわない、なぁ…へへ…あ、でもネリネは大丈夫ですよぉ、元気いっぱい、…おきになさら…ず……」
などという。いやどう見たって大丈夫じゃないだろ!!今思えばさっきのカフェでぼんやりとしていた時も既に限界が来ていたのかもしれない。そんなにつらい中で僕を助けてくれたネリネには感謝しかない。将来は大物かも、なんてね。
「わ、ネリネ…すごい熱ね…。私、連れて帰るわ。…ここは、任せて」
見かねたのか、駆けつけてくれたフローラはそういってネリネを先ほどのカフェの方まで連れて行った。
…と、少し他方面にばかり集中してしまったがまだまだ火災は酷い。このままだと二次災害の発生も否めないだろう。シュー兄さんが予定通りうまく近隣住民を誘導してくれたおかげか、僕ら以外に人影は見えない。
「…おい、どこにいる、アルフィーネ」
人影が見えない。それは奴らに関しても同じことが言えた。まったく、本当に意地汚い奴らだ。どこに隠れている?意識を集中させて教会周辺を睨みつける。
「こっちだよ」
音もしないうちに腕に一瞬の冷たい感覚。刃物で浅く切り付けられたのを理解する。__アルフィーネの首輪の奴か。音を消す能力、だっけ。なかなかじゃん、殺したくなるよほんと。
「いっ…たいなぁ」
「背後の護りが浅すぎるんじゃないの、お前。そんなだとすぐに殺されるよ…俺に」
あぁ腹が立つ。口の中が嫌悪感で埋め尽くされていく。
「お前は時間に対しての護りが浅いんじゃない」
向かい合う首輪の奴の腕からは血がにじんでいる。してやったり、とでもいう感じだ。思わず口元がにやける。
「いったいんだけど。…お前、時間止められたんだ」
「ご名答」
不快そうにこちらを睨む相手にそう答えた矢先、いつの間にか鎮火して灰の建造物と化していた教会ががらり、と瓦礫となって崩れ落ちる姿が見えた。嫌な予感がする。あっちの方にはメトロが居た筈だ。
「メトロッ…!!」
僕は形振り構わず駆け出していた。