CH1

ボロボロになったパーティードレスとスーツを手に取って溜め息。
ある程度予想していたものの、それでもやはり一度しか着られなかった残念さと、折角仕立ててくれた親友への申し訳無さで胸が痛む。

そもそもの原因は『パーティーに出席する要人の護衛』と言う今回の依頼。
男のガードなんて却下だ却下!とゴネるパートナーを力業で説き伏せて仕事を受けた迄は良かった。
会場へ潜り込む為には然るべき装いが必要になるから、クローゼットを開けて何着か引っ張り出し、見繕ってみたところ…手持ちのドレスはいつの間にかサイズが合わなくなっていた。主に胸回りが。
状況に依っては大立ち回りを演じる可能性もある。衣装を汚損するかも知れない以上、レンタルは論外。新調しようにも現在の懐具合では厳しい、と言うか無理。
頭を抱えた時、脳裏に閃いたのは有名デザイナーである親友の顔だった。彼女なら依頼料が入る迄、支払いを待ってくれる…筈。多分、きっと。
藁にも縋る思いで連絡すると、親友は二つ返事で頼みを聞いてくれた。
此方の仕事事情に理解のある彼女は手際良くサイズを測った後、身を乗り出して「次のショーのモデルを引き受けてくれたら、代金はチャラにするわよ?」と、冗談とも本気ともつかない事を口にしていたが。
ついでに揃えて用意してくれた相棒のフォーマルと、動き易さとシルエットの優美さを兼ね備えてデザインされた自分用のドレス。
擦り切れ泥で汚れた、見るも無残な状態の服を前に肩を落とした時、モバイル端末が短く鳴った。メッセージは親友から。
『格好良かったでしょ?』の一言に、ぱちり、と瞬く。
正装と、普段着と。愛銃を構える横顔と、酔い潰れて爆睡する寝顔と。良くも悪くも見慣れてしまった自分にとっては、どれも違うけれど、どれも同じ、パートナーの姿で。
だから。

「…あんまり変わらない、かも」

小首を傾げ、人差し指を当てた唇に小さな笑みを浮かべて呟いた。


初出・2019年3月26日-3月31日
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