公安に異動したらスパダリ彼氏が豹変した
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そんな歓迎会から1週間が経った。
あれから降谷さんが警察庁に現れることはなく私は平穏な日々を送っていた…と言いたいところだが。
なにか私、悪いことしましたか。あれほど祈ったのに、神様はいないらしい。
歓迎会翌日、申し訳なさそうな顔をした課長が私のデスクの横に来たかと思えば、1週間で今度の諸外国お偉いさん訪日に備えた警備草案を急遽チェックしてほしいと言う。他の業務を後回しにしてでも最優先で。
承知致しましたと言う私に送られたファイルは、あまりにページ数が多すぎて最後までスクロールするのを諦めそうだった。
なんでも本来担当する予定だった人が、あまりの激務に病んで海外逃亡してしまったらしい。断末魔の叫び声付きで。
あるよねぇ、そういうこと。
リフレッシュしたら戻ってきてください。
それから1週間、私の事務作業を毎日邪魔する者がいた。
言わずもがな、もちろん降谷零である。
毎日警察庁に現れ、昼間は事務を片付けたかと思えば、時間のない中で各種方面への確認を進める私を、夕方になると問答無用でボクシングジムに連れ出すのである。事務はじむでもジムのほう…あれ?ダジャレ?
草案チェックで本当に時間がないのに、「降谷に特訓してもらえるなんて貴重だから来栖行ってこい」と課長はやはり満面の笑みで言うのであった(最優先でやれって言ってたじゃん?どういうこと?)。
もちろん、ジムまでの移動は各自なので甘酸っぱいようなことは起きない。
お互いバラバラに警察庁を出て、ひたすらスパーリングをして、終わったら解散、帰庁。再び仕事に戻る。
私もびっくりしてる。元恋人同士が、こんな淡白な関係性にもなれるんだって。なお、スパーリングはめちゃくちゃきつい。
はじめにジムに連れ出された日、私の実力を知りたいとかそれっぽい理由をつけてきたから、売られた喧嘩は買う主義の私は、負けてたまるかと意気込んだ(これはヤ○○さんと過ごした日々の後遺症だと言ってもいい)。
だがしかし、よく考えてほしい。
そもそも付き合っていたのだから、私がどれくらい身体を鍛えているか、どれくらい体力があるかなんて彼にとって既知の事実だったはずである。
私、これでも女子警官の平均以上には戦闘能力があるつもりだし、「てめぇ東京湾沈めてやろうか?!」とか言ってくるおっちゃんと拳を交わしていたこともある。
だが相手は降谷零…もはやキングコングなのではないかと割と本気で思う。
初日、私をあっという間にダウンさせた降谷零が、持ち前の高身長を活かして見下しながら言い放ったのは衝撃の一言。
「これでよく今まで無事だったな」
どっかで聞いたことあるようなセリフですね?私も思いました。
自分の好みの顔に、鼻で笑われながらこんな屈辱的なことを言われるなんて、人生そう何度もあるまい。悔しい。
もはやこれを言いたくて私をこき下ろしているのではなかろうか…。
いつまで続くのかもわからないが、7日目、今日も今日とて、降谷零のパンチを受けている。
草案チェックの締め日が今日であるが、悲しいかなキャリアとしての姿勢が染み付いた私は、昨日の夜に死ぬ気で終わらせて今朝提出を済ませておいたのでそちらの心配は無用である。
降谷零とのスパーリングは、キックも投げも何でもありなので、ボクシングというより総合格闘技である。
手加減なんてありはしない。降谷零は毎日全力だ。ほんの少し前まで私たちが恋人だったことを忘れるほど関係も冷え切っているので、会話なんてものも存在しない。
あるとすれば
「本当は対策部のお荷物だったんじゃないか?」
だの、
「とても前線には出せそうにないが」
などと、いつも彼の毒舌は好調で、ひとのメンタルをここぞとばかりに抉ってくるのだ。