公安に異動したらスパダリ彼氏が豹変した
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迎えた着任日。
初めて足を踏み入れる警備局。
いるかもわからないが降谷さんと万一目が合っても困るので、可能な限り視線を動かさずに課長の後に続く。
通された自席には、真新しいノートパソコンとマニュアルの山。
いくら個人責任で自由に動ける公安とはいえ、それは捜査官としての基本を頭に入れている人間だけが許されるものだ。
こういう組織だから慣れっこだが、今日から全速力でマニュアルを頭に入れなければ…。
私の左隣の方は風見さんとおっしゃるらしい。
人の良さそうなタイプだ…よかった。
課長がすっと紙を差し出す。
「一応これが座席表。今はいないが右隣が降谷だ」
「…ジーザスクライス」
「おお、来栖とは英語で会話した方がいいか?」
まずいまずい。あまりに衝撃すぎてスラングが出てしまった。
しかも小声で言ったつもりだったのに課長に拾われてしまった。冗談で返してくれたからよかったけど。
なぜ隣…。
腑に落ちない私のことは全然気にせず、課長ははっはっはと笑って、降谷とは知り合いなんだってな?と無垢な顔で聞いてくるので、ええまぁ大学の頃少しだけ関わりが、とだけ答えておいた。
ジーザスと言った以上、嫌そうな気持ちを隠さずに。
表情筋総動員で答えたのだが、バレていなかっただろうか。
お世話になります、と周囲の人々に声をかけ、ひとまず席に着いた。
降谷さんがどうか登庁されませんように…。
*
私の異動からしばらく経っても、降谷さんは警察庁に姿を見せなかった。
ポアロにいるのか潜入の仕事なのか。
詳しくはわからない(興味を持っていると思われても困るので、誰にも聞いていない)が、まぁよかった。
先日のポアロでの絶対零度の視線(零だけに、なんつって)を浴びてから、極力彼には会いたくないと思っている。
あの人の隣で事務仕事なんてとんでもない。
それなら仮眠室で睡魔と戦いながらこなした方がまだ効率も良さそうだし。
マニュアルもほぼ頭に叩き込み終わって、次に取り掛かるのはこれから自分が担当する案件の情報精査だ。
それもまた30ページほどあるのだから、眼精疲労も悪化するわけである。
「目がしばしばする…」
「休憩されたらいかがですか?」
隣の風見さんが提案する。
一瞬天使に見えたけどそんなに私、疲れてるかな。
目を瞑って眉間をぐりぐりしていると、風見さんがそういえば、と問う。
「来栖さんは、降谷さんとどこでお知り合いになられたんですか?」
私の気分転換のためか、単なる興味か。
前者であってほしいが、その手の質問にはこう答えると異動前に決めておいた。
「ゼミが一緒だっただけですよ」
嘘はついていない。
お知り合いになられたのは、ゼミに入るよりも前なんだけれど。
風見さんはそれ以上は聞かずに、そうなんですかと言ってこの話題は終わった。
おおかた、降谷さんからも大した関係でないような旨を伝えられていたのだろう。
あるいは、この反応で仲があまりよくないと印象付けられたかな。
さて、また活字と戦おうと報告書を手に取った時だった。
「降谷さん、お疲れ様です」
なんと、地球上でいま会いたくない人物No.1、降谷零が現れたのである。
颯爽と入り口から隣までどストレートに来た降谷さんに、落ち着き払って立ち上がり会釈する。
内心めちゃくちゃドキドキしているけど。
「来栖です。お久しぶりですね。ご迷惑をお掛けすることもあるかと思いますが、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
かっちりとキマったスーツ。
涼しげな横顔。
どこから見てもイケメンだ。
むかつくほどイケメンだ。
こちらを見たのは挨拶の一瞥だけ。
どんだけ無碍にされるんだ、私。
辛くあたれば投げ出して辞めるとでも思われてるんだろうか…。
降谷さんは机上の書類を確認した後、すぐに席を離れてしまった。
別室で上司に捜査の進捗を報告しているのかもしれない。
「降谷さん、何かあったんですかね…かなり機嫌が…」
それは120%私のせいです。