公安に異動したらスパダリ彼氏が豹変した
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ずっと追いかけていた案件がひと段落して、胸をなで下ろしていたある日。
積滞した事務を片付けていたら、次長から呼び出しを受けた。
「来栖、警備局の仕事に興味はあるか?」
「警備局と言いますと…」
正式な希望を出した覚えはないので、突然のことに言葉が出なかった。
「あちら側が君の働きぶりに目をつけててな。うちとしては引き抜かれたくないが…君が希望すれば通す」
組織犯罪対策部に来て二年。
そろそろ異動だろうとは思っていた。
黙って逡巡する私に、
「ただ…、」
次長が言葉を続ける。
「来年の春に、総務課へ行く話もある」
「…私が、ですか?」
「ああ、部長のお墨付きだからな。総務課で数年、そのあと人事課に行けるだろう」
警察庁でも一般企業と同じように、人事関係への異動は出世ルートの大本命である。
私、部長からお墨付きまで頂いていたらしい。
総務や人事のようにバックオフィスから警察を支えることも立派な仕事に違いはない。
けれど。
国民の安全の為に第一線で働くか、出世を取るか。
「しばし、お時間を頂戴してもよろしいでしょうか」
*
その日の晩。
タイミングよく降谷さんの家で会うことができたので、異動の話を打ち明けた。
これが、付き合って8年間一度も喧嘩という喧嘩がなかった私たちの関係に亀裂をもたらした事件となる。
「……は?嘘だろ?」
彼の最初の一言はそれだった。
テーブルを挟んで向き合ってラグに座って。
口にしかけたコーヒーのマグカップを宙に浮かせたまま降谷さんの動きが止まった。
嘘なわけがないでしょう。
どんだけ動揺しているんだ。
「まさか即諾してないよな?」
「してないよ」
私の答えに安心したようだが、深いため息をついた降谷さん。
諸手を挙げて歓迎されるとは思ってなかったけど、まさかこんな反応を取られるなんて。
組織犯罪対策部での働きぶりを評価されての打診なのに。
次長の呼び出しの後、ここに来るまでに相当考えた。
はっきり言って、総務課と警備局を天秤にかけたら、おそらくキャリアの100人中100人が総務課を選ぶだろう。
いまの組織犯罪対策部でさえ、年中残業ざんまいで、ろくな休暇を取れた試しがない。それは、労基法なんてクソくらえの国家公務員の宿命だ。警備局に行っても、残業と繁忙度は同等かそれ以上だろう。
そんな超ブラック体質は、総務課や人事課には当てはまらない。
この国の省庁の中で、一番クリーンな職場が総務系だからだ。
だけど、それでも、やっぱり自分が必要とされる仕事を、自分の信念を貫ける仕事をしたいと思ったのだ。
考え込む降谷さんに、正面から目をそらさずに伝える。
「受けようと思ってる」
私の言葉に、一拍間をおいて。
「…本気か?同じ部内で働くなんて無理だろう」
「もちろんバレないようにする、」
「そういう問題じゃない。ゼロの仕事は特殊だ、対策部とはわけが違う」
今まで見たことのないような厳しい顔をされるが、私だって何も気概だけで受けようと思っているわけじゃない。
組織犯罪対策部で2年、暴力と戦いながら犯罪を検挙してきた自負がある。
わけが違うだなんて、そんな言い方もあんまりだ。
警備局の仕事に危険が伴うことはわかってる。
個人責任の原則だって。
でも、それも含めて、上層部は私を引き抜こうとしているんじゃないのか。
「どうしてそこまで否定するの?」
「僕の仕事を見てきただろう。ゼロはただ犯罪者を検挙するだけじゃない。潜入だって裏の仕事だってする。…耐えられるのか?」
そんな言い方、まるで
「私じゃ務まらないって言いたいの…?」
私の言葉に、降谷さんは動じることなく
「ああ、そうだよ」
一気に感情が冷えた気がした。
降谷さんのこんな声、知らなかった。
こんな心のこもっていない目をすることだって。
「どうしても異動するっていうなら、みらとこの関係は続けられない」
いま目の前にいるのが、自分の知る降谷零だとは到底思えなかった。
どんな時だって、私の味方でいてくれたのに。
能力を見込まれての異動に、おめでとうの一言もなく。
出てくるのは否定の言葉、ついで別れの脅しまで。
仕事柄、人の心の機微には敏感なのだろうに。
こんな最悪の方法で説得にかかってくるなんて、降谷零、女心を学び直した方がいい。
「もういい」
彼の目は見ずにそれだけ告げて、荷物を持って家を出た。
本当に信じられない。
積滞した事務を片付けていたら、次長から呼び出しを受けた。
「来栖、警備局の仕事に興味はあるか?」
「警備局と言いますと…」
正式な希望を出した覚えはないので、突然のことに言葉が出なかった。
「あちら側が君の働きぶりに目をつけててな。うちとしては引き抜かれたくないが…君が希望すれば通す」
組織犯罪対策部に来て二年。
そろそろ異動だろうとは思っていた。
黙って逡巡する私に、
「ただ…、」
次長が言葉を続ける。
「来年の春に、総務課へ行く話もある」
「…私が、ですか?」
「ああ、部長のお墨付きだからな。総務課で数年、そのあと人事課に行けるだろう」
警察庁でも一般企業と同じように、人事関係への異動は出世ルートの大本命である。
私、部長からお墨付きまで頂いていたらしい。
総務や人事のようにバックオフィスから警察を支えることも立派な仕事に違いはない。
けれど。
国民の安全の為に第一線で働くか、出世を取るか。
「しばし、お時間を頂戴してもよろしいでしょうか」
*
その日の晩。
タイミングよく降谷さんの家で会うことができたので、異動の話を打ち明けた。
これが、付き合って8年間一度も喧嘩という喧嘩がなかった私たちの関係に亀裂をもたらした事件となる。
「……は?嘘だろ?」
彼の最初の一言はそれだった。
テーブルを挟んで向き合ってラグに座って。
口にしかけたコーヒーのマグカップを宙に浮かせたまま降谷さんの動きが止まった。
嘘なわけがないでしょう。
どんだけ動揺しているんだ。
「まさか即諾してないよな?」
「してないよ」
私の答えに安心したようだが、深いため息をついた降谷さん。
諸手を挙げて歓迎されるとは思ってなかったけど、まさかこんな反応を取られるなんて。
組織犯罪対策部での働きぶりを評価されての打診なのに。
次長の呼び出しの後、ここに来るまでに相当考えた。
はっきり言って、総務課と警備局を天秤にかけたら、おそらくキャリアの100人中100人が総務課を選ぶだろう。
いまの組織犯罪対策部でさえ、年中残業ざんまいで、ろくな休暇を取れた試しがない。それは、労基法なんてクソくらえの国家公務員の宿命だ。警備局に行っても、残業と繁忙度は同等かそれ以上だろう。
そんな超ブラック体質は、総務課や人事課には当てはまらない。
この国の省庁の中で、一番クリーンな職場が総務系だからだ。
だけど、それでも、やっぱり自分が必要とされる仕事を、自分の信念を貫ける仕事をしたいと思ったのだ。
考え込む降谷さんに、正面から目をそらさずに伝える。
「受けようと思ってる」
私の言葉に、一拍間をおいて。
「…本気か?同じ部内で働くなんて無理だろう」
「もちろんバレないようにする、」
「そういう問題じゃない。ゼロの仕事は特殊だ、対策部とはわけが違う」
今まで見たことのないような厳しい顔をされるが、私だって何も気概だけで受けようと思っているわけじゃない。
組織犯罪対策部で2年、暴力と戦いながら犯罪を検挙してきた自負がある。
わけが違うだなんて、そんな言い方もあんまりだ。
警備局の仕事に危険が伴うことはわかってる。
個人責任の原則だって。
でも、それも含めて、上層部は私を引き抜こうとしているんじゃないのか。
「どうしてそこまで否定するの?」
「僕の仕事を見てきただろう。ゼロはただ犯罪者を検挙するだけじゃない。潜入だって裏の仕事だってする。…耐えられるのか?」
そんな言い方、まるで
「私じゃ務まらないって言いたいの…?」
私の言葉に、降谷さんは動じることなく
「ああ、そうだよ」
一気に感情が冷えた気がした。
降谷さんのこんな声、知らなかった。
こんな心のこもっていない目をすることだって。
「どうしても異動するっていうなら、みらとこの関係は続けられない」
いま目の前にいるのが、自分の知る降谷零だとは到底思えなかった。
どんな時だって、私の味方でいてくれたのに。
能力を見込まれての異動に、おめでとうの一言もなく。
出てくるのは否定の言葉、ついで別れの脅しまで。
仕事柄、人の心の機微には敏感なのだろうに。
こんな最悪の方法で説得にかかってくるなんて、降谷零、女心を学び直した方がいい。
「もういい」
彼の目は見ずにそれだけ告げて、荷物を持って家を出た。
本当に信じられない。