公安に異動したらスパダリ彼氏が豹変した
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部屋の外に出れば、同じ警備局の男性が二人いた。これから男を連行するのだ。
まともな空気を取り込みたくて、深呼吸する。
二人は私の顔を見て困惑の表情を浮かべた。
そんなに顔色悪いだろうか…。
「加湿器から薬品が出ているので、スイッチを切って十分に換気してください」
「わかりました。ずいぶん具合が…」
「大丈夫。あとはお願いします」
二人が部屋に入るのを見届けて、エレベーターホールに向かいボタンを押した。
待つこと数秒。機械音のあとに開いたドア。
すぐ乗り込んでロビー階を示すLのボタンを押す。
ピンと張り詰めていた緊張がほぐれて、どっとしんどさが増した気がする。
動き始めたエレベーターの浮遊感すら不快だ。
数字盤の横で壁に背を預けて目を瞑る。しんどい。背中にあたるひんやりとした金属質が気持ちいい。
でも、早く地上についてほしいと思う時ほど途中で停車するもので。
「……」
「……」
29階で止まり開いたドア。
乗り込んできたのはニット帽をかぶった長身の男。
私が相当な顔をしていたのか、こちらを見た途端纏う空気を硬くした。
いや、この目つき…もしかしてやばい人…?
危機察知能力が反応してしまうんですが…ていうか今時ニット帽とか怪しすぎませんか。
男は閉ボタンだけを押して、真ん中に立つ。私のことを視界に入れたまま。あまり好ましいとは言えない視線。
どこのどなただか知らないが、今の私に厄介ごとを持ってくるのは勘弁願いたい。
まさかさっきの密売組織の人間じゃないよね…?
再び動き出したエレベーター。
高層階から低層階にむかう特有の耳のつまりと、臓器が浮く感覚が最高に気持ち悪い。
吐き気と冷や汗が止まらない。
吸わなくなったら大丈夫なんじゃなかったのあのオヤジ…
これもうほんと限界、早く降ろして、
「おい、」
ずる、と体勢を崩した私。
突然こちらに手を伸ばして動きをみせた男。
悲しいかな、
職業病と言うべきか
「!…君は……」
見知らぬ人間の接触には、咄嗟に防衛本能が働いてしまうのがこの職の性である。
自分の一体どこにそんな力が残っていたのか謎であるが、近づいて来た腕を振り払ってスカート下から愛銃を取り出した。
そんな私に反応して同じく拳銃を構えた男。
ぶっちゃけ今更だが、私に手を伸ばしたのは支えようとしてくれたのだろうか。
だが彼の懐から出てきたのは拳銃。つまり。つまり…?
狭いエレベーター内で銃口を向け合う私とニット帽の彼。
「……」
「……」
睨み合うこと数秒。
「……?」
お互い凶器を向けあっているが、なにかおかしい。
なぜだか、敵ではないと直感が告げるのだ。
チーーン
ロビーへの到着を知らせる間抜けな音が響いて、ドアが開く寸前にほぼ二人同時に拳銃を仕舞った。
こんな場面一般人に見られたら通報される。
エレベーター内の監視カメラ映像は後で上に何とかしてもらおう…。
幸いにも、ドアの先、エレベーターを待っている人間はいなかった。
そして一度は降りようとした彼は、何を思ったのか今度こそ私に手を差し伸べた。
「……そんな顔色では歩けないだろう」
「いえ……、」
大丈夫だからさっさと行ってくれと伝えたいが、いかんせん具合が悪すぎてもう何も発することができない。
迎えをよこすって課長は言っていたけど、その人が気付いてくれたらいいのに。誰なのかちゃんと聞いておけばよかった。
なんとか立ち上がろうと壁伝いに上半身を起こす。そんな私を見かねてか
「肩を貸してやる。高くつくがな」
謎の男(もうこれでいい)が、ちょっと意地悪く笑って私を支えるように右肩を貸してくれた。
高くつくって幾らですか。
「……」
本当にご親切を頂いておいてあれですが失礼ですがどちら様ですかと聞きたい。言葉じゃなくて吐き気しか出てこないけど。
「そこのソファで休むか?」
空いている方の手でロビーにあるソファを指差してくれたので、有り難く頷く。
とにかく今は、座って体調を落ち着かせたい。
側から見たら酔っ払いとその付添人に見えるだろうか。全然それでいい。
よくわからないけど、これだけ弱った私に襲いかからずに介抱しようとしてくれているのだから、まぁたぶん大丈夫な人なのだろう。拳銃は持ってたけど………いや、そういえばあれはアメリカの……
「赤井…?!」
アメリカ…の…………。
ふらふらながらもなんとか働かせていた私の思考を遮断した声。
足元を見るのに精一杯で声の主はわからないが、カツカツと革靴が大理石を踏む音はこちらに向かってくる。
なんかうるさいのが来たな…。
「……あぁ…面倒だな…」
赤井さん(という名前だったらしい隣の彼)が面倒とか言ってる時点でもうお察し…
誰か知らないけど…巻き込まないで…
赤井さんは呼びかけを無視したまま私をソファまで運んでくれた。
ようやっと腰を下ろして、ゆっくりと浅く息を吐いた。心臓がばくばくと鳴っている。お礼を言おうとずっと伏せていた視線を上げれば
「みらに何をした…?」
怒 り 心 頭 の 降 谷 零 がいた。
え…待って…迎えってこの人なの。
18/18ページ