公安に異動したらスパダリ彼氏が豹変した
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降谷さんの突然の来店のあと、他のホステスにバトンタッチして私は店を出た。
今日コトが動けば、きっと明日以降このクラブに顔を出すことはないだろう。
これが最後の出勤だったかもしれないと思うと、少し寂しい気がした。
接客中だったママと一言も挨拶を交わせなかったのは心残りだが、切り替えて集中しなければ。
今日の服装には気合を入れた。なんてったって“期待”を抱かせなければならないのだから。
裏側が赤い某高級ハイヒールを履いて、ギリギリ胸元が見えない浅いVカットのドレスワンピース、鞄もハイブランドのものを持ってきた。あぁ、たくさんもらってるお給料(含:危険手当)が役に立ってるなぁ…(白目
捜査対象とは都内有数の高級ホテルのバーで待ち合わせて。
そこそこにお酒を飲んだところで本題。
「仕事のことで、あまり人には聞かれたくない相談があって…」と言えば、じゃあ部屋を取ってあるからと案内された。
下心ってほんと扱いやすい。下心を利用する私もしょうもないが、やはりこの後の展開ににやけているこの男もそこそこのクズである。
通されたのは、33階のスイート。
部屋に入ってすぐ、酔いが回ってよろけた様に装って、隠し持っていた「お薬」を遠慮なく首に注射させてもらった。
警察庁からこっそり持ってきた、反社会組織の押収品である。
摂取すると、小一時間ほど意識が朦朧とし、嘘がつけなくなる。そう、よくスパイ映画で出てくるアレ。
よろける彼を窓際のカウチソファに座らせる。
全面ガラス張りの窓からは、都心の夜景が一望できる。
部屋を見渡す。壁沿いには大人7、8名が座れそうなL字型ソファ、その反対側には大型液晶テレビ。
ベッドルームへの入り口では、加湿器がしゅんしゅんと音を立てている。
仕事でしかこんな部屋に来られないことが悲しい…。
カウチソファの前に置かれた正面のテーブルに彼が映るよう携帯を置き、課長へ発信する。もちろん録画をしながら。
『仕事が早いな〜』
2コールで出た課長。課長側はカメラをオフにしている為に見えないが、即電話を取ったあたり待っていたらしい。
「始めますよ」
組織構成、人員、資金源、マネーロンダリング方法…時折褒めつつ聞き続ければ、彼は嬉しそうに洗いざらい答えた。
一度だけ課長が詰めたが、薬のせいで正直な男は、女の子の質問にしかこたえない!、などと言い放った。私は呆然、課長は爆笑。
話を聞くに、製薬会社に生え抜きの研究職で入社したあと、昇進を続けるうちにいつしか利権に目が眩んだらしい。
化学薬品を応用して神経ガスをつくり、諸外国に密売。
娘も妻も出て行って…とポロリと言ったのは本心か。
これだけ吐けば、情報としては十分。逮捕して起訴するにも十分。
「…お話がお上手ね」
「レイちゃんのためならなんでも言うよ」
「……」
『…レイちゃんって』
「私の源氏名です」
課長の質問には食い気味で答えておいた。
悪気のなさそうな顔で罪を白状していても、目の前の男は犯罪者である。
きっと、自分が売りさばいた兵器が地球のどこかで人を殺しているなんて、まともに実感したことなどないのだろう。
自分の額にうっすら汗が浮かんでいるのに気づき、そっと手の甲で拭った。
さっきからこの部屋、暑い。
空調の設定温度が高いのかもしれない。
そろそろ終わりにしようかと思ったが、そういえばと彼の胸ポケットを探って、本人の携帯も頂戴する。
ここに情報が入っていれば尚良いのだが…操作しやすいように携帯を持ち直そうとしたところで、誤って取り落としてしまった。
『大丈夫か?』
かかんで携帯を拾い、物音に反応した課長に答るべく立ち上がろうとした時だった。
「……っ……」
目の前が真っ暗になるような眩暈。貧血…?
上体を起こせずしゃがんだままの私を見下ろした男が、当然の様に口を開く。
「あ〜、やっときいたの」
きく?
「いい薬なんだよ、ほんとうに」
「加湿器にうんと入れておいたんだ」
そうだ
相手は薬品のプロだというのに
降谷さんの言葉が今さら頭の中で甦る。
顔を上げて横目で男を睨めば、その得意げな表情が憎くて仕方ない。殴ってやりたい。
どうして違和感を持たなかったんだろう。
加湿器は掃除のスタッフがつけっぱなしだったのかなとか考えられることは色々あるけど。
こういう時には些細なことでも命取りなのに。
むかついて、膝の上においた掌をぐっと握ればスカートには皺が寄る。
自分の息が浅くなる。
匂いも何もしない。これが神経ガスの怖さか。
本人は事前に耐性のある薬品を摂取しておいたのだろう。
『大丈夫か。脱出できるか』
事態を把握した課長が静かに告げる。
頭はふらふらだが、脱出はできる。ただ…
「どうして、こんな薬使ったの…?」
膝に手をついて上半身を起こし、男に問いかける。それだけでもいっぱいいっぱいだ。
「そんなの決まってる。君とあそびたかったから」
「…女の子と遊ぶときは、いつも使ってる?」
「そうだよ。かわいがりたいんだ」
女の子捕まえて薬で好き勝手するとはまぁ気持ち悪すぎて性悪すぎて吐き気がするが、最悪の事態ではなかったのか。
答えを聞いて、少しだけ安堵した。
ここに来るまでの時点で、私が“警察の犬”だとはバレていなかったということだ。
未だニコニコと笑顔を浮かべる男。
正直、妻と娘に見捨てられたと聞いて、同情できないにしても寂しいものだなと思っていた。でも違う、こいつはとことんクズだった。
ほんと、ホステスを協力者にしなくてよかった。
「清掃をお願いします」
『降りてこい、迎えをやってある』
課長との通話を切って、重たい体を動かして男の背後に回る。
不思議そうにする男。
残念ながら私は並大抵の女の子ではないので、簡単にはくたばらない。
「薬がまわってるわりに元気だね」
「体力あるのよ…解毒剤は?」
「ないよ。吸わなくなったらそのうち治る」
「そう…ねえ、痛いのもすき?」
体を屈めて耳元で囁いて、なけなしの力で…—裏をかかれた悔しさも込めてー…手刀を入れた。だらんと首をもたげた男。
反動でまた貧血を起こしそうになったが、ぎゅっと一度目を瞑ってから荷物をまとめてドアへ向かった。
今日コトが動けば、きっと明日以降このクラブに顔を出すことはないだろう。
これが最後の出勤だったかもしれないと思うと、少し寂しい気がした。
接客中だったママと一言も挨拶を交わせなかったのは心残りだが、切り替えて集中しなければ。
今日の服装には気合を入れた。なんてったって“期待”を抱かせなければならないのだから。
裏側が赤い某高級ハイヒールを履いて、ギリギリ胸元が見えない浅いVカットのドレスワンピース、鞄もハイブランドのものを持ってきた。あぁ、たくさんもらってるお給料(含:危険手当)が役に立ってるなぁ…(白目
捜査対象とは都内有数の高級ホテルのバーで待ち合わせて。
そこそこにお酒を飲んだところで本題。
「仕事のことで、あまり人には聞かれたくない相談があって…」と言えば、じゃあ部屋を取ってあるからと案内された。
下心ってほんと扱いやすい。下心を利用する私もしょうもないが、やはりこの後の展開ににやけているこの男もそこそこのクズである。
通されたのは、33階のスイート。
部屋に入ってすぐ、酔いが回ってよろけた様に装って、隠し持っていた「お薬」を遠慮なく首に注射させてもらった。
警察庁からこっそり持ってきた、反社会組織の押収品である。
摂取すると、小一時間ほど意識が朦朧とし、嘘がつけなくなる。そう、よくスパイ映画で出てくるアレ。
よろける彼を窓際のカウチソファに座らせる。
全面ガラス張りの窓からは、都心の夜景が一望できる。
部屋を見渡す。壁沿いには大人7、8名が座れそうなL字型ソファ、その反対側には大型液晶テレビ。
ベッドルームへの入り口では、加湿器がしゅんしゅんと音を立てている。
仕事でしかこんな部屋に来られないことが悲しい…。
カウチソファの前に置かれた正面のテーブルに彼が映るよう携帯を置き、課長へ発信する。もちろん録画をしながら。
『仕事が早いな〜』
2コールで出た課長。課長側はカメラをオフにしている為に見えないが、即電話を取ったあたり待っていたらしい。
「始めますよ」
組織構成、人員、資金源、マネーロンダリング方法…時折褒めつつ聞き続ければ、彼は嬉しそうに洗いざらい答えた。
一度だけ課長が詰めたが、薬のせいで正直な男は、女の子の質問にしかこたえない!、などと言い放った。私は呆然、課長は爆笑。
話を聞くに、製薬会社に生え抜きの研究職で入社したあと、昇進を続けるうちにいつしか利権に目が眩んだらしい。
化学薬品を応用して神経ガスをつくり、諸外国に密売。
娘も妻も出て行って…とポロリと言ったのは本心か。
これだけ吐けば、情報としては十分。逮捕して起訴するにも十分。
「…お話がお上手ね」
「レイちゃんのためならなんでも言うよ」
「……」
『…レイちゃんって』
「私の源氏名です」
課長の質問には食い気味で答えておいた。
悪気のなさそうな顔で罪を白状していても、目の前の男は犯罪者である。
きっと、自分が売りさばいた兵器が地球のどこかで人を殺しているなんて、まともに実感したことなどないのだろう。
自分の額にうっすら汗が浮かんでいるのに気づき、そっと手の甲で拭った。
さっきからこの部屋、暑い。
空調の設定温度が高いのかもしれない。
そろそろ終わりにしようかと思ったが、そういえばと彼の胸ポケットを探って、本人の携帯も頂戴する。
ここに情報が入っていれば尚良いのだが…操作しやすいように携帯を持ち直そうとしたところで、誤って取り落としてしまった。
『大丈夫か?』
かかんで携帯を拾い、物音に反応した課長に答るべく立ち上がろうとした時だった。
「……っ……」
目の前が真っ暗になるような眩暈。貧血…?
上体を起こせずしゃがんだままの私を見下ろした男が、当然の様に口を開く。
「あ〜、やっときいたの」
きく?
「いい薬なんだよ、ほんとうに」
「加湿器にうんと入れておいたんだ」
そうだ
相手は薬品のプロだというのに
降谷さんの言葉が今さら頭の中で甦る。
顔を上げて横目で男を睨めば、その得意げな表情が憎くて仕方ない。殴ってやりたい。
どうして違和感を持たなかったんだろう。
加湿器は掃除のスタッフがつけっぱなしだったのかなとか考えられることは色々あるけど。
こういう時には些細なことでも命取りなのに。
むかついて、膝の上においた掌をぐっと握ればスカートには皺が寄る。
自分の息が浅くなる。
匂いも何もしない。これが神経ガスの怖さか。
本人は事前に耐性のある薬品を摂取しておいたのだろう。
『大丈夫か。脱出できるか』
事態を把握した課長が静かに告げる。
頭はふらふらだが、脱出はできる。ただ…
「どうして、こんな薬使ったの…?」
膝に手をついて上半身を起こし、男に問いかける。それだけでもいっぱいいっぱいだ。
「そんなの決まってる。君とあそびたかったから」
「…女の子と遊ぶときは、いつも使ってる?」
「そうだよ。かわいがりたいんだ」
女の子捕まえて薬で好き勝手するとはまぁ気持ち悪すぎて性悪すぎて吐き気がするが、最悪の事態ではなかったのか。
答えを聞いて、少しだけ安堵した。
ここに来るまでの時点で、私が“警察の犬”だとはバレていなかったということだ。
未だニコニコと笑顔を浮かべる男。
正直、妻と娘に見捨てられたと聞いて、同情できないにしても寂しいものだなと思っていた。でも違う、こいつはとことんクズだった。
ほんと、ホステスを協力者にしなくてよかった。
「清掃をお願いします」
『降りてこい、迎えをやってある』
課長との通話を切って、重たい体を動かして男の背後に回る。
不思議そうにする男。
残念ながら私は並大抵の女の子ではないので、簡単にはくたばらない。
「薬がまわってるわりに元気だね」
「体力あるのよ…解毒剤は?」
「ないよ。吸わなくなったらそのうち治る」
「そう…ねえ、痛いのもすき?」
体を屈めて耳元で囁いて、なけなしの力で…—裏をかかれた悔しさも込めてー…手刀を入れた。だらんと首をもたげた男。
反動でまた貧血を起こしそうになったが、ぎゅっと一度目を瞑ってから荷物をまとめてドアへ向かった。