公安に異動したらスパダリ彼氏が豹変した
Name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
元カノも、得意、でした、
マドラーを落とすところだった。
人の良い笑顔を浮かべているが、爆弾発言は控えてほしい。
あなた一体ほんとに何しに来たの。
抗議の意味を込めて降谷さんを睨めば、彼はどこ吹く風でウィスキーを口に運んでいる。人の心を弄ぶんじゃない。
そんな降谷さんを横目に、毛利さんが怪訝そうに口を開く。
「元カノ?梓ちゃんと付き合う前の話か?」
「ん?」
梓ちゃんって…ポアロの?
付き合う前?
うん?
毛利さんなんて言った?
「……お付き合いなんてしてませんよ」
「嘘つけ!あーんなに親しくしてたらバレバレだ!」
「も、毛利さん誤解ですよ」
へぇ……親しく、ねぇ……。
まぁ確かに今は私と降谷さんは恋人なんかじゃないですけど。
ポアロも仕事のうちかと思ったら、女の子と仲良くやってたわけか。
なにそれ。
「いいですね〜〜羨ましいですぅ」
声のトーンはホステスのそれで、だけどたっっっぷりの嫌味を込めて言ってやれば
「っ本当に違う、喫茶店の子とは何もない」
両手をテーブルについて、血の気が引いたような顔して慌てて否定の言葉を口にする安室透さん。
設定忘れてませんかね…初対面の私に、喫茶店がどうなんて言ってどうする。
毛利さんの目利きはさておき、誤解されるような態度を取る方が悪い。
「はぁ…よくわからないですが、喫茶店の子とのお付き合いなんて古風で素敵じゃないですか」
「いやだから違う、毛利さんが変なことを言うから…。本当に勘弁してくれますか」
焦りが怒りに変換されたのか、降谷さんはものすごい形相で毛利さんを睨んでいる。今にも拳銃取り出しそうですけど…。
酔っ払い始めている毛利さんはそんなこと気づいていないが、可哀想だからこの辺にしておいてあげよう。
「安室さんみたいに素敵な方だったら、女性が放っておかないのも当然ですね。もちろん毛利さんもですよ?」
「そうかぁ〜?」
とびきりの笑顔を作って(ついでに)褒めた毛利さんは余程嬉しかったのか、頰をかきながらデレている。
そんな彼を見て冷静さを取り戻したのか降谷さんは一つ咳払いをして。
「ところで毛利さん。先程、お手洗いに行きたいとおっしゃってませんでした?」
「ああそうだった。いや〜レイさんがお綺麗でそんなこと忘れていましたよ!」
人をトイレに追い払う降谷零もどうかと思うが、毛利さんもなかなかのお調子者である。
ボーイに毛利さんをお願いすれば、当然だが二人きりになった。
気まずい。お水飲んどこ。
「……いつもそうなのか?」
「な、なにが?」
周りの喧騒をいいことに、安室さんではなく降谷さんが口を開いた。
突然だったから、むせるかと…。
「だから、その……」
もごもごと、はっきりしない。
いつもってなんだろう。接客の仕方のこと?テンション?
ピンと来ずに首を傾げていれば、痺れを切らした降谷さん。
「…だから、そのスカート。どう考えても短いだろ。一体誰に見せてるんだ?」
イライラしたように言って、言ってから気まずくなったのか彼はウィスキーを煽った。
「………」
「…………」
空になったグラスを握ったままの彼の手から、ゆっくりグラスを引き抜く。
新しいグラスに氷を入れて、水を7分目まで注いで。
マドラーに沿わせるようにゆっくりウィスキーを注ぐ。
出来上がったウィスキーが手元に置かれるのを見た降谷さんが、ハッとしたのかポツリ
「ウィスキーフロート…」
付き合っていた頃、時折二人で出かけたバーでよく彼が頼んでいた飲み方。水と氷が混ざりあって、ゆっくりと味と香りが変化するのが好きなんだって言っていた。最後に行ったのがもうずっと前に感じる。
「この仕事始めてから、ときどき練習してたの。そっと注ぐのがポイントなんだって」
「…なぁ、」
「お客様に出したのはこれが初めてだよ。っていうかこれっきり」
彼が照れるのをわかっていてトドメを刺せば、案の定黙って静かにグラスに口をつけた。
味わうように口に含んで
「…美味しいよ」
ずっと見てなかったような、穏やかな笑みを浮かべて言った。
手料理を食べてくれたときみたいに、ちょっと、昔に戻ったみたいだった。
少しの沈黙の後、彼はすぐにお仕事モードになった。
それが名残惜しいなんて絶対に言えないけれど。
「今日、なんだろ」
「課長から聞いたの?」
「……油断だけはするなよ」
最後に私に釘を刺した時の降谷さんの顔。まっすぐで、びっくりした。真剣で、本当に私を案じてくれているのがわかるような、そんな表情。
気休めにしかならない大丈夫を言おうとしたところで毛利さんが戻ってきて、降谷さんとの話はお終いになった。
たとえトラブルが起きてもそんな大ごとになるような捜査じゃないと私は思っているけど、今日だからこそ、降谷さんは来たのかもしれない。