公安に異動したらスパダリ彼氏が豹変した
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警察庁警備局警備企画課のオフィスの席配置は、正直言ってもう少しなんとかならないのかと思う。
僕の右隣には先日異動してきた来栖警視、さらに隣には降谷警視が座る。
僕の知る降谷さんは、どんな時でも冷静で、判断を誤ることもなく、警察官の見本のような人だ。
ここ数年ずっと彼と同じ課で仕事をしているが、プライベートな事情は一切持ち込まないし、文字通り身を粉にして働いている。
正直、彼女がいるなんて信じられないぐらい仕事を優先しているように見えたので、知った時はかなり衝撃だった。
きっと器用な降谷さんのことだから、警察官としてと彼氏としての自分とをーーあるいは潜入先での顔もーーうまく両立しているのだろう。
そんな降谷さんだが、なぜだか、来栖さんにはめっぽう厳しい。
女性には紳士的対応をしそうなのに、来栖さんには、もはや厳しいを通り越して冷徹だ。
不機嫌さを隠さない初日の反応といい、連日のスパーリング(という名のしごき)といい。
実は大学時代に何かあったんじゃないかと思うほどの距離感。
間違いなく言えることは、決して友好的ではないということだ。
僕の勝手な最近の関心は、二人の関係性である。
来栖さんが配属されて1ヶ月半。
ホステスとしての潜入は順調らしく、捜査対象とは毎週健全に親睦を深めているらしい。
しかし、二人が仕事以外の会話をしている場面は未だ見ていない。
髪を染めて現れた来栖さんを目にしても、降谷さんは何も言わなかった。
どちらも潜入任務があるゆえに、そもそも顔を合わせる機会が少ないのもあるが。
本日の二人は、珍しく同じ時間帯にここにいる。
降谷さんは、ポアロの出勤がないのか、朝からラップトップの画面を食い入るように見つめ、時々電話をかけ、時々超スピードでタイピングをしている。14時過ぎに僕に促されてようやく昼食を取るほどで、相変わらずの集中力だと思う。
来栖さんは、昼過ぎに登庁してからずっと大規模展示場の監視カメラ配置図と睨めっこだ。例の警備計画はまだまだ手が掛かるらしい。
「風見、東都南地下道の件はどうなった?」
「警視庁に早急に申請を出すように伝えてあります」
「そうか」
能率重視の降谷さんは、部下と話すときもあまりラップトップから目を離さない。
来栖さんを(物理的に)挟んだ会話になったが、彼女は無反応。
ここで、ずっと配置図を眺めていた来栖さんがこっそり呟いた。
「トイレね…」
背もたれに体を預けて、ぐっと伸びをした来栖さん。
トイレといえば。
「監視カメラ、トイレには付けられないと?」
「最終的には嫌とは言わせませんけど。各国首脳が来るのにプライバシーとか言ってる場合じゃないですよね」
「一般市民の感覚もわかりますが…今回は客が客ですしね…」
僕の質問に、うんざりしたように答える来栖さん。
彼女のラップトップにはメールのやり取りが映されている。
展示場側の担当者は、あまり協力的ではないのか。
ふう、とため息をついた来栖さんが冗談混じりで続ける。
「トイレにもちゃんとつけておかないと、カルティエのネックレス強盗されますよって言っちゃおうかしら」
「映画の見過ぎだろ」
「まぁジュエリーもないしゲロなんてそうそう吐かなー……」
ピタリと、3人の手が止まった。