6月21日
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貴「このミステリーコースター、工藤くんと蘭がデートした時に殺人事件が起こったんだって……」
快「そんな曰く付きなのかよ?!というか名探偵は事件を呼び寄せる天才だな……」
貴「そうよね〜……それで工藤くんが事件を解決したんだけど、その日を境に会えなくなっちゃったのよ……まぁ今は無事蘭と一緒になったから良かったけど……」
快「なるほどな〜(名探偵がヤバい奴らと関わり始めたのが、この時だったのか……)」
貴「快斗!?ここって……」
快「ミステリーホラーハウスだ。憐〜怖かったら無理せずに、俺の腕にしがみついても良いからな〜!」
貴「うぅ……私が怖いの苦手だって知ってるでしょ?!なんでよ〜!」
快「良いから行くぞ!大丈夫だって、俺がオメーを護ってやっから……!(頼って欲しいからなんて言ったら、怒るだろうな……)」
貴「絶対だからね!絶対快斗の手を離さないから……!」
快「!?……お、おう!任せとけ!(クソ……やっぱコイツ狡りぃ……)」
それからの私達は快斗の先導で行きたいアトラクションには一通り乗り、途中で行われたパレードも無事見ることが出来た。そんなだから楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、気づけば空は暗くなり、帰る人も増えてきた。
快「飯も食ったし、俺の行きたい所や憐の行きたい所も行ったし、後はどうする……?」
快斗が次の行き先を聞いてきた。これは絶好のチャンス……今日のフィナーレを迎えるのにうってつけのアトラクションがある。
貴「それじゃあ観覧車に乗ろ?まだ乗ってなかったし、空からの景色見てみたいな!」
私の意見に彼も意義を唱えることなかった。そして向かった先の観覧車。二人でゴンドラに向かいあわせで乗って、段々と昇っていくゴンドラに心躍らせていた。
貴「わぁ〜凄い!綺麗ね……」
快「そうだな……」
ゴンドラから地上を見下ろす……眼下には沢山の人が歩いていたり、他のアトラクションも見えたり、トロピカルランドの全域が見える。そして、その反対側は住宅街など街の灯りが見えて、より色鮮やかな景色に見蕩れていた。ゆっくり上昇していく景色を見ながら、私はおもむろに口を開く。
貴「……今日はありがとう!私の我儘に付き合ってくれて……嬉しかった!変な人達に絡まれた時も、本気で怒って助けてくれたり、私の事をか、可愛いって褒めてくれたり……いつも……いつも私の事を考えてくれて……快斗!本当にありがとう」
私のただならぬ様子に彼は、戸惑いながらも照れくさそうに頬をかいている。
快「んなこたねぇよ……今日この日をお前は楽しみにしてたのを分かってたのに、俺が遅刻したせいで、変な奴に絡ませちまった。でもそんな俺を最終的には許してくれたお前は……俺を楽しませようと俺の願いを聞き入れてくれた……俺の方が礼を言うべきなんだよ……憐、俺の方こそありがとうな……!」
照れくさそうに微笑みながら礼を告げる彼に、心臓が跳ねる。よし、この最高のタイミングで渡そう!そう思い、私はバックから包装された箱を取りだした。
快「何だよそれ……?」
……やっぱり今年も忘れてるのね。快斗らしくてつい笑ってしまった私を訝しげに見る快斗。しょうがない……答え合わせしてあげなきゃね。
貴「快斗……問題です。今日は何月何日でしょうか?」
突然のクイズ形式に、驚きながらも柔軟に対応する快斗。
快「はぁ?今日は確か……6月21日か?」
貴「正解!じゃあ第2問……6月21日は何の日?」
快「何の日ったって……この日って何か特別な日だったか?」
頭を捻って考えている彼に、クスクスと笑いがこぼれる。IQ400と天才的な頭脳を持つ快斗には、これは難問らしい。……私や玲於、青子だったらすぐ分かるのに……本当に面白いよね。
快「憐の誕生日じゃねぇし、玲於でもねぇし、青子も違ぇし、憐と初めて会った日でもないし……うーん……分かった降参だ。教えてくれ憐、今日は何の日なんだ?」
彼には自分の誕生日よりも私達幼馴染の誕生日の方が重要みたいだ。結局彼には思いつかなくて素直に答えを求めてきた。
何で私があんな無理やり快斗の要望を聞き出していたのか……それは今日この日が6月21日だから。6月21日は、私にとっては最も大切な日……そう、快斗がこの世に生を受けた日なのである。
貴「もうしょうがないな〜……6月21日は快斗の誕生日でしょ?」
快「!!」
貴「忘れてたよね」
快「忘れてたな…………そうか!だからお前は俺の要望に沿おうと、柄にもないことを言って無理にでも聞き出そうとしてたのか」
どうやら彼も私の言動を不自然に思っていたようだ。うぅ……快斗にバレてるのは恥ずかしいなもう……
貴「悪かったわね……柄にもないこと言って!でもあーでも言わないと、素直に言ってくれなかったでしょ?
いつも私を楽しませてくれる快斗に、今日は快斗が生まれた大切な日だから……私が快斗を楽しませたかったの……」
快「憐……」
私は立ち上がって彼の隣に座った。
貴「誕生日おめでとう快斗!……この1年が快斗にとって素敵な1年になりますように……」
そしてお祝いの言葉と共にプレゼントを渡す。彼は丁寧に包装をとき、箱から中身を取り出す。プレゼントの中身は、シルバーのブレスレット……クローバーのチャーム付きだ。シンプルだけどクローバーがチャームポイントとなって、シンプル過ぎず付けやすいブレスレットとなっている。
快「これ、四葉のクローバーか」
貴「そう!可愛いでしょ?でも可愛いすぎても快斗に文句言われちゃうと思って、シンプルだけどクローバーがワンポイントになって男の人がつけてもおかしくないブレスレットにしたの」
快「……もしかしてムーンストーンを贈られた時の俺の感想を言ってんのかぁ?」
貴「だって、せっかくなら快斗の喜びそうな物を贈りたいもの」
そうよ本人の喜ぶ物を贈りたいじゃない。みんなそんなものでしょ?それにこのクローバー……快斗にぴったりじゃない。
四葉のクローバーは〝幸運〟の象徴。クローバーは三葉がほとんどで稀に、四葉のクローバーが存在する。だから滅多に見つからない四葉のクローバーを見つけたものには、幸運が訪れるのだ。
貴「ねぇ知ってる?クローバーの葉にはそれぞれ意味が込められているの」
快「へぇー?例えばどんな意味があるんだ?」
貴「えっ?!……快斗でも知らないことがあるのね」
快「俺だって何でも知ってる訳じゃねぇからな。……それで?そんなこと言うって事は、お前は知ってんだろ……?(可愛い奴……)」
貴「うん!調べたの……1枚目の葉には〝希望〟2枚目の葉には〝信仰〟3枚目の葉には〝愛情〟……これは三葉の場合ね。そしてここに4枚目の葉が加わると四葉になる……4枚目の葉には〝幸運〟の意味がある」
普段は快斗から教わることが多い私が、彼に説明出来ることがあるんだ。有益な情報とまではいかないかもしれないけれど、豆知識みたいな知識でも、知らないことを知るというのは、自分の見える世界が広がる。そんな喜びを彼に自分も与えられたということが嬉しいのかもしれない。
貴「それにクローバーには花言葉がある。別名白詰草とも呼ばれるクローバーの花言葉で有名なのが復讐よね。だけどそれ以外にもあって、この葉っぱが4枚揃うとその花言葉になる……その花言葉は〝真実の愛〟」
私なりに調べた結果がこれだ。意味も含めて彼にピッタリだと思っている。
何より私にとっての幸運は、この世界で快斗に出会えたことなのだから……彼に少しでも喜んで欲しいから、このブレスレットを贈ることに決めた。花言葉含めて私はプレゼント出来て良かったと思っている……でも肝心の彼はどう思ったのだろうか。
貴「……これが私の気持ち。私はずっと快斗の事が好きだから!貴方の幸せを何より望んでいる……贈り物としてピッタリかなと思って……だから、受け取ってくれる?」
快斗を想って選んだ贈り物……私の想いが少しでも伝わってくれたら良いな……。
快斗は一度俯いて、私の贈ったブレスレットを自身の腕に付け始めた。そして顔を上げて得意気に笑ってこう答えた。
快「サンキュー!……どうだ、似合っているか?」
貴「……うん!似合っているよ……!」
笑顔で答えると、快斗は隣に座っている私の手を取り、自身の指と絡め始めた。同じシートに隣同士で座って恋人繋ぎのように手を取り合っている私達。そんな時に快斗が微笑みながら、語り出す。
快「なぁ、憐……実はお前に見せたいもんがあるんだよ」
貴「何?見せたいものって……?」
何だろう……?私の計画は彼にこのブレスレットを贈る事、それを喜んで貰えたなら私の計画は達成されたと言える。やり切った達成感で満足しているけど、彼は彼で何か私にサプライズがあったのかな。
そろそろ私達のゴンドラは頂上に差しかかろうとしていた……不意にその時は訪れる。
快「そろそろだな……カウントダウン始めるぜ。
10、9、8、7、6……」
貴「快斗……?」
何故か急にカウントダウンを始めた快斗。理由は不明、だけどカウントが進む度に鼓動の音が大きくなっていく。快斗はゴンドラの外へと指を指す。そこには雲ひとつ無い空に、下には街の灯りが沢山あり、綺麗な夜景が広がっていた。しかし、彼はそれでもカウントダウンをやめなかった。
快「5、4、3、2、1、0!!」パチンッ
────── ガコンッ
10カウントから数え始め、遂にそのカウントダウンは0になった。その瞬間彼は、自身の指を鳴らす……するとゴンドラ内の明かりは消え、私達のゴンドラはちょうど真ん中の頂上付近で静止したのだ。
それだけではない……他のゴンドラも停止、しかも他のアトラクションまで停止している。どうやらトロピカルランド全体の明かりが全て消えてしまっていた。
貴「えっ?!う、嘘!?何で急に真っ暗に……?停電??やだっ!か、快斗……!!」
私は不安になってしまい思わず握られていた手を強く握り返す。暗くてあまり良く見えていないが、繋がれた手はそのままだから、隣に快斗はいる。しかし、私の不安は収まらなかった。
快「目を閉じるなよ憐!大丈夫だ!俺はお前の隣にいる……」
快斗の言葉に閉じそうになっていた瞼を再度大きく開く。彼の言う通り、私の隣にちゃんといる。それにすぐそばの夜空には、白い満月が優しく輝いている。観覧車の頂上だからいつもより近くに感じ、あと少し手を伸ばしたら届きそうだ。その月明かりのおかげでうっすらではあるが、快斗の姿が見えてきた。だからか幾らか恐怖は薄まってきた。彼は相変わらず悪戯な笑みを浮かべている。
快「ちゃんと目を開けてろよ……これが俺からお前に贈るプレゼントだっ……!」
自信に満ち溢れた表情で、快斗は再び指をパチンッと鳴らした。すると目の前の空に細い光が空高く昇っていき、遅れてヒューッと音が聞こえ、その瞬間……
────── バンッ!!
空に豪快な音と共に大輪の花が咲いた───
貴「は、花火?!……花火が上がってる!!」
目の前の上空に紫色の大きな花火が打ち上がった。
快「驚くのはまだ早いぜ!」
そう告げた快斗は再び指を鳴らした。すると次々とカラフルな花火が打ち上がる。その圧倒的な光景に目を奪われた。しかもゴンドラが頂上で動かず静止しているからこそ、より近くで花火を見ることができている。普段は地に足ついて見上げることが多いけれど、今回は幾らか地上より離れ、空に近い場所……まさに特等席でこの光景を目にしているのだ。
貴「綺麗……まるで赤い薔薇が咲いているみたい……! 凄いよ快斗!この綺麗な花火も、さっきの停電も……快斗がやったの?」
はかられたタイミングでの停電、大量の花火……仕舞いには花火の形が私の好きな薔薇だったこと……そして満足気な彼の表情……聞かなくても分かるけど、確信が欲しくて、私は彼に問いかけた。
快「そりゃあ勿論!俺は奇跡を起こすマジシャン黒羽快斗だぜ?手は抜かないさ……」
貴「さすが期待の天才マジシャンね。きっと盗一さんも喜んでると思うな……!快斗のマジックは、見る人を心から楽しませてくれる!……あの頃の盗一さんみたいにね」
私は綺麗な花火を見上げては呟く。小さい頃から盗一さんの事が大好きだった快斗は、盗一さんについて回っては色んなマジックを教わっていた。そんな様子を私達は近くで見ていた……。
快斗の中に盗一さんは生きている……快斗のマジックを見る度にそう思うのだ。
快「……憐の中で、親父の存在が大きいの知ってた。小さい頃からお前はいつだって親父ばっかりだ……俺がどんな気持ちで見てたかもしらねぇで……今もそうだよ……」
顔を逸らし、彼が小さく零した言葉。それは少し棘が含まれているように感じた。
貴「それは……」
快「……あぁ、分かってる!俺も小さい頃から親父の背中を追いかけてきた!偉大なマジシャン黒羽盗一の背中を……何もかも適わなかった!お前が親父の事を凄く慕っていたことも分かってる……だけど俺は……昔からずっと……」
否定する言葉すら否定された。彼にとっても盗一さんは大好きな父親で、一人のマジシャンとしても凄く尊敬しているからこそ、その盗一さんを超えたいのだと彼はマジックの腕を磨き上げていた。
だけどその裏で、快斗に私の態度がそんな風に伝わってしまっていた事に悲しくなった。それと同時にそれを気づけずに彼に言わせてしまったことについても、自分を責めたくなった。でも今は自分よりも快斗の事……
───── 私は盗一さんが大好きだ……
─── でもそれ以上に好きなのが……
─── 今みたいに私を喜ばせようと、一生懸命やってくれる彼が……
快「!?」
貴「このまま聞いてね……」
彼が頑張って伝えてくれた思いに答えと訂正を……今も花火が上がっている。花火の音に負けないよう伝えなくちゃ……私は繋がれた手にもう片方の手を使って両手で彼の手を包み込む。
貴「……確かに私は小さい頃から盗一さんが大好きで、盗一さんが披露するマジックにいつも感動していた。でもそもそも私がマジックを好きになったきっかけって、盗一さんじゃないんだよ?」
快「!!」
貴「幼い頃時計台で、ひとりぼっちで泣いていた女の子に声をかけてくれた男の子がいた……」
それは十数年前まで遡る。まだ時計台が移築していなかった時、大きな時計を見にきた女の子。一緒に来ていたはずの家族とはぐれ迷子になっていた。迷子になった女の子が、その状況に絶望し瞳から涙を一筋流した時、ある男の子が女の子に声を掛けてきた。
貴「男の子に泣き顔を見られた女の子は恥ずかしくて、素直じゃない態度を取ってしまった。なのにその男の子は意地っ張りな女の子に、薔薇のマジックを見せてくれた……私を元気づける為に……」
明るく話しかけてくれた男の子に対して、泣いてないのだと可愛くない返答をした。あまり良い態度とは言えないだろう……それでもその男の子は、泣いていた女の子を元気づけようと薔薇のマジックを披露した。あの時家族ともはぐれてしまい、周囲には見知らぬ大人達ばかりだった女の子にとっては絶望的な状況だった。そんな女の子を救ったのが、マジックが上手なその男の子だったのだ。
少年は少女に赤い薔薇を一輪手渡して、自身の名前を告げる。
『オレ、黒羽快斗ってんだ!よろしくな!』
貴「女の子は驚いた……男の子が見せてくれた小さな〝魔法〟によって涙が止まったから。それ以来女の子はマジックが大好きになった……特に自分の為に色んなマジックを見せてくれるその男の子を好きになった。
……ね?この男の子が誰か……快斗なら分かるでしょ?」
今度は私が誇った笑みを見せる。私の物語は快斗と出会った時から始まったのよ。
快「勿論っ……あの時泣いていた女の子は、成長した今もその男の傍にいる……親父じゃない……俺だ……!」
快斗は掴まれてる手を引いて私の体事覆い隠すように抱き締めた。
貴「ごめんね……私が素直に伝えていないばかりに勘違いさせて……」
快「……いや、お互い様だろ。……それに憐と初めて会った時に見せたマジック……あれはお前が一番好きなマジックだったってこと、俺は分かってたはずなのにな……でも、もう間違えたりしない……ありがとうな憐」
貴「ううん、分かってもらえて良かった」
私も快斗の背中に腕を回し抱き締めた。花火の音が少なくなってきている。恐らくこのイベントはもうすぐ終盤を迎える。それでも今この時だけはお互いしか目に入らなかった。体を少し離し、視線を合わせる。
観覧車の中、二人きり、ゴンドラ内は停電し、光源は花火と僅かな月明かりのみ……誰にも邪魔されない空間が出来上がっている。
互いに距離を縮め、遂に二人の影は一つに重なった。背後には大きな満月が輝き、彼等を優しく見守っていた。
暫くして一つの影が二つに離れた頃、花火は終わり再び電気が供給され、トロピカルランド全域に光が取り戻される。
貴「あっ!停電が直ったみたい」
快「そうだな」
二人が乗ったゴンドラも無事動き出し、地面に到着するまでの間、二人は寄り添って眼下に広がる景色を見ていた。
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快斗には今日という日を楽しんでもらって、プレゼントを渡すという私の目的は、一時ハプニングに遭遇するも大成功という結果を収めた。
先程のトロピカルランドで起きた停電、花火はちょっとした問題となったが、幸い閉園時間近くだったこと、ミステリーコースターなどアトラクションに乗っていた人は少人数で、安全な場所で停止していたこと、怪我人もいなかったことからそこまで問題にはならなかったらしい。
……観客の中には、この花火はトロピカルランド側が用意した催し物ではと考える人もいたらしい。すれ違う人々の声が聞こえてきた。
貴「ねぇ快斗……今日は楽しめた?」
私は彼よりも先を歩き、立ち止まって振り返る。というのも、もうすぐ入口と出口を兼任しているゲートへと辿り着く。ここを抜けたら現実へと戻って行く。その前にちゃんと確かめたかった。……1年の中でも特別な1日、彼がこの世に生まれた日……いつも誰かを笑顔にさせている彼を、今度は私が笑顔にさせたかったのだ。
快「あぁ!これ以上にないほどにな……!」
貴「ふふっ!それならば良し!今回の私の目的見事達成ー!」
快斗の満足気な返答に喜んでいると、彼は静かに言葉を紡ぐ。
快「俺の目的も見事達成されたしな」
貴「快斗の目的って、あの花火を成功させることね!」
私に見せてくれたあの花火のことだろうか?それなら彼の言う〝これ以上にないほど〟の出来だっただろう。私だけじゃなくこのトロピカルランドの多くの人々が感動していたのだから。
快「……バーロー!んなもん俺なら出来て当然だ!今更失敗するとか考えながらやってねぇよ」
貴「じゃあ何よ?」
快斗の反応見るに私の回答は的はずれだったようだ。私は彼に回答を促す。予想外にも彼は穏やかに語り出した。
快「俺の目的はずっと一環していた……一部変な輩が絡んだせいで嫌な思いさせちまったけど……」
貴「……」
あまりピンと来ない私に彼は再度口を開く。
快「俺はただ……オメーの笑ってる顔が見たかったんだよ」
貴「!!」
快「今日憐は、俺が行きたい場所を教えて欲しいと言っていた。後に分かったが、俺の誕生日だったから……お前は俺を楽しませる為に、要望を聞き出そうとしていた……
でも、俺はお前が隣で笑ってくれるなら、何処でも良かったんだ……
あの花火ショーも、憐に喜んで欲しくて準備したんだからな」
優しく笑う快斗に、言葉が出ない。口元を手で覆い隠す……しまいには目の前の視界が歪みはじめた。
貴「もしかして快斗が朝遅れてきたのも……」
快「……準備してたら思ったより時間かかっちまったんだよ。本当は俺もトロピカルランド付近にいたけど、憐と鉢合わせしねぇように色々と大変だったんぜ」
私が無理をしてでも要望を聞いたのに、すんなり話してくれなかったのも、自分の誕生日を忘れてたのに、彼が朝遅刻してまで準備していたのも、彼の話す事柄全てに私がいる……
貴「……せっかくっ……誕生日なんだからっ……こういう時くらい、自分を優先してよ……っ……快斗の馬鹿っ……」
文句を言いながらも嬉しくて笑みを浮かべて彼に悪態をつく。嬉しいはずなのに、おかしいな……涙が止まらないっ……
快「何で憐が泣くんだよ……ったく、いつまで経ってもオメーは泣き虫だな」
そう言って快斗は私の頭を撫でる。その行動に余計涙が溢れて仕方ない。いつだって私の原動力に快斗の存在があるように、快斗の原動力にもきっと私が存在している。互いの存在が互いにとって必要不可欠なのがとてつもなく嬉しいのだ。
快「そろそろ泣きやめよ〜…」
貴「無理だよっ……アンタの言う通りっ……私は泣き虫なんだからっ……嬉しくても泣けちゃうんだよ!」
快「仕方ねーな……ほら憐!」
快斗は泣き止まない私を呼びかける。手で顔を覆うほど泣いている私は顔をあげた。
────── ポンッ
快「言っただろ……俺は泣き顔よりも、お前の笑ってる顔が見たいって!だから笑ってくれ……!俺の為に……」
快斗は私に赤い薔薇を差し出した。大好きな快斗が、私の為に見せてくれた大好きなマジック……これは彼の要望に沿うべきだろう……だってまだ彼の誕生日は終わっていない。
貴「ありがとうっ……!ずっと大好きだからっ……これからもお祝いさせてねっ……!
改めて誕生日おめでとう……! 」
頬につたう涙を拭い、彼の要望通り彼女は笑った。周囲の人間は目を見張る。泣き腫らした眼の少女が差し出された薔薇を受け取っていたから。しかし、重大性はないと判断した……何故なら、真っ赤に燃ゆる薔薇を受け取った時の少女は、涙に濡れながらも幸せそうに笑っていたから。
それは途中まで一緒にいた友人達にも目撃されていた。特に彼女の友人である少女は、その現場を見て興奮冷めやらぬ様子で見守っていた。傍にいた恋人の少年は、マジックを披露した少年の腕に、先程一緒に行動した時はなかったブレスレットがあったこと、今日が6月であることで状況を把握、察した様子で見守っていた。
結局この日、一時ハプニングに見舞われるも楽しい時間を過ごせた二人。
翌日改めて憐と玲於と青子の三人が主催した快斗の誕生日を祝うパーティーを開催。参加者は上記三人は勿論、ロンドン帰りの気障な高校生探偵白馬探や、赤髪の魔女小泉紅子等、江古田に通うクラスメイト達が、快斗を祝う為にやってきた。沢山の友人達に祝われて、満更でもない快斗と、その様子を微笑ましく見守っている憐の姿があった……。
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