鬼滅
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⚠️【君は俺が守る】の続きです
────── 藤襲山 七日後 早朝
耀「お帰りなさいませ」
か「おめでとうございます。ご無事で何よりです」
藤襲山に入山し七日目の早朝、鬼殺隊入隊の為の試練、最終選別が夜明けと共に終了した。最終選別の案内役である産屋敷耀利哉と産屋敷かなたが淡々と進める中、鬼になった妹を人間に戻す為、最終選別を受けにやってきた炭治郎は、残酷な現実に顔を歪めた。そして己の無力さに打ちひしがれていた。
当初20人程居た志願者達の人数は、最終日になると大幅に減り、最終的にこの場に帰ってきたのは僅か4人。
その者の中にブツブツと現状を嘆いている善逸の姿があった。嘆きの原因は、結局自分を助けてくれた少女に出会うことが出来なかったからだ。その影響で彼の気分はどん底である。
自分より強かった彼女が死ぬはずがない。しかし、今この場所にいないということは、この最終選別で生き残れなかったということだろう……そう考えて彼は静かに絶望した。
善「死ぬわ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。ここで生き残ってても結局死ぬわ俺。だってあの子が居ないのに、俺が生き残れる訳ない……でも死んだらあの子に会えるって考えたら、それも良いかも……」
半分ヤケクソにボヤいていると、彼の背後から突然聞こえてきた音に気づき、そのボヤキを止めて勢いよく振り返る。
貴「申し訳ございません。遅くなりました」
そこには自身を助けてくれた少女、如月憐が朝日に照らされながら立っていた。彼女は先に集まっていた善逸達に向けて一礼すると、蝶と戯れている少女の後ろに立った。
死んだと思っていた彼女が生きている……その事実に大声上げて喜ぼうとしたが、今は案内人の説明の途中であったことを思い出し、声をかけたい気持ちをグッと堪えた。だがチラチラ視線を送ってしまっている時点で、出会えた喜びが抑えきれていないことを証明している。
貴「!!……(雷の!!……無事生き残ったのね。良かった……)」
善「っ!!(気づいてくれた!!か、可愛いなぁ〜〜もう!!)」
何度も自分に向かって送られる視線に憐が気が付かないはずがない。その視線の主を見て、彼女は目を見開くも、再会出来たことを喜び微笑みを返した。しかし、形容し難い顔で自分の方に視線を向ける善逸に、苦笑いになってしまったのは言うまでもない。
それからも産屋敷兄妹の説明は続く。隊服の支給、階級の種類、刀の詳細、鎹鴉との出会い……憐の腕へと舞い降りた鎹鴉は、気の強い雄の鴉だった。
「オレガイレバ、オニナンカメジャナイ!」
小さい身体でありながら発言も態度も大きい鎹鴉の様子に憐はクスクス笑いが零れた。
貴「随分と頼もしい子ね。名前はあるの?」
「アルゾ!オレサマノナハ、
貴「勇三ね……宜しくね、勇三」
勇「カァー!!」
自分の相棒となる鎹鴉と信頼を深める中、苛立ちの声が一際大きく響いた。
「ギャアッ!!」
「どうでもいいんだよ鴉なんて!!刀だよ刀!!今すぐ刀をよこせ!!鬼殺隊の刀!!〝色変わりの刀〟!!」
〝色変わりの刀〟……その言葉に憐は鎹鴉に向けていた視線を変えて、声を上げている少年へと向けた。
貴(あの人の顔、何処かで見たような……?)
初めて会った少年に対して、どこか違和感を覚えながらも早くあの暴挙を止めなければとその少年の元へと足を動かそうとする。御館様のご息女に、何より幼子に手を上げるなど許されるべきではない。しかし、憐が動く前に変わった耳飾りを付けた痣のある少年が、乱暴な少年の腕を掴んだ。
痣がある少年、炭治郎は乱暴な少年、不死川玄弥を怒鳴り、その暴挙を止めようとしているようだった。その様子に安堵した憐は、玄弥に投げられていた鴉の方へと向かう。鴉は善逸に抱えられていた。
善「あっ!……」
貴「しっ、そのまま……さぁ、良い子だから貴方の翼をよく見せて……」
善逸が抱えていた鴉に手を伸ばす。壊れ物を扱うように優しい手つきで黒い羽根を触りながら、怪我が無いか全体を調べていく。幸いにも鴉に怪我や折れも無かった事が分かると、憐は「さぁ、おいき……」とゆっくり鴉を空へと放した。無事空へと舞い戻った鴉を見送った後、憐はそのまま彼の隣に立つ。
善「あっ……あの!!」
貴「しっ……まだ話は終わっておりません。大事な話をしている最中なので、集中して聞くように……」
善「えっ?!……はい……」
憐の言いつけを守り話しかけたい気持ちを抑えて、行動が終わるまで待っていた善逸は彼女の指示に従い、案内人の話に耳を傾けた。どうやら先程のいざこざは終わっており、今は自身の身を守る刀の鋼についての説明だった。しかし、再会を望んでいた人物が隣にいる為、集中して聞けるはずもなく、自身の鼓動が五月蝿く聞こえる中、早くこの時間が終わればいいのにと失礼なことを思いながら、彼は残りの時間を過ごした。
────────────────────────
輝「鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は御自身で選ぶのです……」
鬼殺隊……大正時代から続いている人喰い鬼を狩るために、人が集まって出来た政府非公認の組織。その組織に所属する隊士が使用する武器……鬼を狩る為の刀、乱暴者の少年が大声で言っていた〝色変わりの刀〟……通称〝日輪刀〟と呼ばれる刀を使い、鬼殺隊士達は鬼を倒してきた。
────── 惡鬼滅殺……
強い信念と共に、私の師範もその他の柱の皆様も、代々鬼殺隊士達は鬼を狩ってきた。私も今日からその組織の一員となる……やっと私は望んでいたものになれたのだ。心浮き足立って仕方ない。
鬼殺隊士達はそれぞれ、各々の自分専用の日輪刀を所持しているという……なるほど、こうやって日輪刀は作られるのね。
生き残った者達は私含めて全員、鋼を選んだ後、最終選別の正式な終了を告げられ、その場で解散となった。正義感の強い痣のあった少年も、乱暴者の少年も、蝶屋敷にいたあの子もいない……だけどあの少年はまだこの場に留まってくれている。これは好都合、私には帰る前にやるべきことがある。散々待たせてしまったから、今度はこちらから出向いてあげよう。
貴「そこの雷さん」
人の名前ではないけれど、目的の人物に振り向いてもらうことは成功した。そこまでは良かったんだけど、振り向いた彼は私が言葉を発する前に、大声で詰め寄ってきた。
善「良かったよぉおおお!!また会えてっ!!いつの間にか俺気絶しちゃって、気づいたら鬼も君もいなくなっててさ!!最終日の集まりも君はいなかったから、てっきり俺…………。信じたくなかった!あんなに強くて美しかった君が死んじゃったなんて……でも君が背後から現れた時、驚いたけど嬉しかったよぉお!!生きててくれてありがとうっ……!!」
最初に出会った頃のように、大声で泣きながら話す彼に言葉が出なかった。
(……気絶?でもあの時、雷の呼吸で鬼の頸を落としたのは彼なのに……一体どういうこと?)
私が戸惑いを感じている中、彼は一旦話すのをやめたと思ったらまた再度語り出す。
善「あと、あの時俺を助ける為に鬼を倒してくれてありがとう!こんな可愛いのに強いなんて君は本当に凄いなぁもう!もっともっと好きになっちゃうよ〜」
貴「ちょっと待って!!鬼を倒したって……私が?!」
善「えっ?うんそうだけど何で驚くの?だって俺は、情けないけど怖くて気絶してたし、気がついたら鬼はいなくなってたから……俺じゃないなら、君が鬼を倒してくれたんだよね?」
────── 何を言っているのだろうか……あの鬼の頸を落としたのは……
『───── 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃……』
私に雷の呼吸は使えない……。そしてあの時、私以外他に人はいなかった。駆けつけた彼以外は……。そして肌で感じ取った……目にもとまらない速さで刀を抜き、鬼の頸を落としていたのを……哀れな鬼の最期を目の前で見ているのだから間違いない。なのにそれをやった張本人が分かっていないなんて……。
(難儀なものね……当の本人が分かってないなんて……)
鬼の頸を落とした目の前の彼は、目を閉じながら私の方まで来て、言葉を発したというのに記憶はない……まさか彼には別人格があるとか、もしくは別人……?もう訳が分からない……頭痛い。
善「何でそんな頭抱えてんの?!俺そんな変なこと言ってないよ?!?!」
貴「……もういいです」
善「全然良いっていう音じゃないよね!?凄く面倒くさいって顔に出てるよ!酷いよ!俺はただお礼を言ってるだけなのに〜!」
不思議な人だ……以前にも密かに思ったことだが、この人は人前で泣くことを躊躇わない。泣くことは悪い事じゃない、溢れ出る感情を抑えずに放出するというのは良い事だ。放出されず蓄積された思いは、やがて自分の身を蝕んでいく。
……分かっている人は多いけれど、でも幼子とは違うのだからと自分を律し、無闇矢鱈に表に出すことはしない。だけど、この人は他人に涙を見せる事も厭わずに出来るんだ。なんて感情表現が豊かな人なのだろう……
貴「ふふふっ……貴方って面白い人ね」
泣いている人の前で笑う事って良くない事だとは思うけれど、この人を見ていたら自分の素直な感情を出したくなった。私があまりにも変なタイミングで笑ったからなのか、彼は涙を引っ込めてみるみる顔が赤くなっていき、気づいた時には距離を詰められ、両手を掴まれていた。
バシッ!
善「お、俺!すぐ泣くし、まだまだ弱いし、これからも絶対生き残るなんて保証できないけど……でも!これだけは誓う……絶対君を幸せにするから!だから俺と結婚してください!!」
──────静かに鼓動は鳴る。きっと私だけにしか分からない……
────── そして脳裏に掠めるここ最近の記憶
甘『その人を見るだけで胸が高鳴ったり、一緒の時を過ごして嬉しくなったり、会えない時は切なくなったり、恋ってとっても素敵なものなの!
今は分からなくても、いつかきっと……憐ちゃんにも心から愛せる人が出来るわ!そうしたら、私の気持ちも、恋の呼吸の真髄も、もっと分かるようになるわっ!』
────── もしかして彼が私の……
貴「すみません、お断りします……」
自分に起きた異変を見て見ぬふりをした。断った理由としては、まだ出会ったばかりの人を、生涯の伴侶として受けいられるのは難しいから。
……だけどその条件を通ったとしても、どちらにしろ私には断る選択しかない。
だって私は、無慈悲に殺された家族の仇をとるために、鬼殺隊へ入ることを決意した。……正直それ以外のことは考えられない。この道を行くと決めた時、自分の幸せは諦めた。誰かと一緒になる未来が想像出来ない。
貴「勘違いしないで頂きたいのですが、貴方が嫌いとかではないのです。だってまだ知り合ったばっかりですから。よく知らないもの……でも良い人なのは分かる。貴方は幸せになるべきだと思う……でも貴方の傍にいるべき人間は私じゃない。誰かと生きる未来を捨てた私には、貴方を幸せにすることは出来ない……」
最初から期待させるだけ無駄なのだから、さっさと断ることが正しい判断だと思っている。彼に掴まれた手を解く。
貴「せっかく助けてくれたのに、想いを伝えてくれたのに、受け入れられなくてごめんなさい……」
軽く頭を下げ、彼の反応を伺うと悲しげな表情を浮かべながらも、やがて折れることのない強い眼差しとなり、こちらを見ていた。その様子に驚いて目を見開く。……てっきり泣かれるか、気を悪くさせるかもしれないと思ったが、彼は予想とは異なった反応を見せる。
善「……君から強く決意は伝わってくるけれど、それと同時に小さいけど悲しい音が聞こえてる……本当は誰かと一緒に生きる未来を諦めたくないんだよね……?」
貴「なっ!?何を……」
善「俺は普通の人よりも〝耳〟が凄く良いんだ。生き物は皆、音がしている……呼吸音、心音、血の巡る音、それを注意深く聞くと相手が何を考えているか分かった……だから君が隠している小さな〝本音〟も俺には分かるんだよ」
貴「!!」
これ以上心情を読み取られたくなて、思わず距離をとる……そういえばさっきから仕切りに〝音〟という単語を口にしていたのは、そのままの意味だったのかとようやっと理解する。そして密かに顔を歪める。
────── 常人は皆、彼の前では嘘を付けない
……もしその事実が真であれば、彼の言った事は全部私の…………いや、認めない。認められない、認めたくない!
善「ご、ごめん!本当は言うつもりはなかったんだけど、君の聞こえてきた音があまりにも辛そうで……」
貴「やめろ!!」
感情的に怒鳴ってしまった。そのせいで彼はビクッと怯えてしまった。涙を流す様子に罪悪感がわき、熱くなった感情を落ち着ける為に、深呼吸をして冷静に語りかける。
貴「……怒鳴ってしまってごめんなさい。でも先程の言葉は訂正して。私は鬼を殲滅する為、覚悟を決めてここに立っている。今もこれからも自分の生き方を変えるつもりは無い……」
その為に今よりも更に鍛錬を積み重ねて、心身共に強くならなければならないのだ。例えどんな犠牲をはらっても己の人生をかけて、この世の悪鬼を全て滅殺する……そう決めたから。
貴「……貴方は決して弱くは無い。多くの人間が志半ばで命を落とすこの最終選別で生き残っていること……雷が落ちたような素早い剣技で鬼を殺したこと、それが全てを物語っている。
信じられないかもしれないけれど、あの夜私を助けてくれたのは他の誰でもない……貴方なのよ……」
彼はさっきの私の怒号と身に覚えのない話をされて、怯えて信じられない様子で見ていた。それでも良い……事実はちゃんと正しく伝えられるべきだ。疑念の目を向けられたとしても、私しか知らないあの夜の彼の功績を伝えた。それをどう受け取るかは彼次第……
貴「それだけは貴方に伝えたかった……これからの道をどうするのか、鬼殺隊士として生きていくのかどうか、貴方自身で決めていきなさい……」
そう伝えると彼は俯いてしまう。
(出会ったばかりの……名も知らぬ臆病で勇敢な雷のような人。もしこの先、再び相見えなかったとしても、助けて貰ったこの恩は一生忘れない)
貴「あの夜私を助けてくれてありがとう……それでは私はこれで……どうかお元気で」
相手の返答待たずして、踵をかえそうとした所、背後から大声で「待って!!」と引き止める声が聞こえた。振り返ると俯いていたはずの彼は、涙をぽたぽたと流しながら、それでも私に懸命に訴えかけた。
善「お、俺達はまだ出会ったばかりで、互いの事情なんか殆ど知らない!そんなの当たり前だよ!!だってまだ出会ったばっかりなんだから!!なんで君がそんな悲しい音をさせているのか、詳しい理由とか今の俺には分からない……でもこれでお別れなんて嫌だよ!!絶対嫌だ!!せっかくまた会えたんだから、この出会いを大切にしたい!!それに知らないなら、これからお互いの事を知っていけばいいんだよ!!」
貴(何で……どうして……)
潤んだ瞳、真っ直ぐな視線、自分と関わりを持とうとする姿勢に困惑を隠せなかった。
善「俺はあの夜、鬼が怖くて泣いてた!誰かに助けて貰いたくて、大声で叫びまくってたけど、誰も来なくて……いや、気づいていた人はいたけど、自分のことで精一杯、他人なんか助ける余裕ないんだよね……分かってたけど、本当に怖くて……情けないけど泣いて逃げ回ることしか出来なかった!でも君は……そんな臆病で弱い俺を鬼から助けてくれた!守ってくれた!
その時に完全に落ちた!俺の心は君の事でいっぱいだよ……君の事を考えると心臓がバクバクして五月蝿いし、今こうして話しているだけでも、嬉しすぎて頭がどうにかなっちゃいそう!こうなったのも全部君のせいなんだから!責任取って俺と結婚してよ!!」
貴「……ん?!?!何を言ってるの?!無理だって断っているでしょう!?」
……私への想いを次々と恥ずかしげもなく話す姿に開いた口が塞がらないとはこの事を言うんだろう。断られても尚諦めない彼はそれでも止まらなかった。
善「そんな悲しい事言わないでよぉ〜!頼むよぉ!俺には君しかいないんだよぉおお!!!」
貴「ちょっと!袴に縋り付くのはやめて!みっともないわよ!」
何が彼をそう駆り立てるのか、分からないけれど私の袴に縋り付いてわんわん泣く姿に内心引きながらも仕方なく対応していた。
貴「もう分かった!……結婚は無理だけど、これからは良き友人として付き合っていきましょう……それならいいでしょう?」
妥協案として友人関係なら良いと彼に伝えた。
善「え?!付き合ってくれるの?!やったぁああ!!えへへ!!これからも宜しくね〜」
立ち上がったと思ったら喜び始めている。何か勘違いしていないだろうか……
貴「付き合うって恋仲になるという訳ではないですからね!?〝友人〟としてですから!……聞いてるの?!ちゃんと聞きなさい!!」
暫く彼のヘラヘラした笑いは続いた。
────────────────────────
あれから憐は何度も善逸に説明して、自分達は友人関係であることをやっと分かって貰えた。
貴「……分かりましたか?」
善「ハイ!」
貴「ご理解頂けたようで良かったです…」
善(こっわ!!そりゃあすぐ頷かなかった俺も悪いけど、だからって持ってた刀ちらつかせて無理やり頷かせることある?!最早脅しだよね!?返事しなきゃ絶対殺られてたわ……)
貴「……何か失礼なこと考えてますよね」
チャキ
善「ヒッ!何でもないです!」
善(ほら今も!何でこれみよがしに刀を見せるの?!俺、もしかして嫌われてる……!?)
自分に嫌気がさしたと善逸は疑ったが、憐の様子を見て狼狽えていた自分を思い直す。
善(あっ……刀しまってくれた!俺を嫌っているような音も聞こえない……や、やっぱり彼女は俺の事好いてくれているのでは?!)
貴「私達は、これから鬼殺隊の一員として鬼を狩ることになります。もしかしたら任務で一緒になることがあるかもしれませんね。その時はよろしくお願いいたします」
善「へっ?!……あっ!よろしくね!」
顔では緩ませぬよう気を張っているが、間抜けな声をあげたせいで危うく彼女によからぬ事を考えている事がばれそうと思いきや、特に疑問を持たれずにいけた為、心の中で安堵した。しかし自分でボロを出す前に、彼はようやく彼女に本題を告げる。
善「あ、あのさ!せっかく友達になれたんだから、その……」
彼女にあることを聞くだけなのに、ここまで勇気がいるとは……視線は動き、口もおぼつかない。だが、それも仕方ないだろう……目の前にいる人は、己が人生感じたことの無い激しい想いをを向けている人だ。今迄にない緊張感、これ以上己の不甲斐ない所を見せて嫌われるのは避けたい。だから普通の事を聞くだけでも緊張して、声が震えてしまう。善逸がしどろもどろに口を開いても、憐は決して笑わなかった。急かすこともなく、静かに彼の言葉が紡がれるのを待った。
善「さっきも言ったけど、俺は君の事をもっと知りたいし、俺の事も君に知ってもらいたい!だ、だから…………よ、良かったら文通をしませんか!!」
善逸は言い終えた瞬間に顔を歪ませる。
善(うわぁあああ!何やってんだよ俺!!それ聞く前にもっと他に聞くことあるだろ?!?!先走りすぎだよ!!どうするんだよぉ……)
自分の発した内容に後悔しながらも、憐の返答を待っていると、意外にも彼女はすぐに言葉を返した。
貴「えぇ、良いですよ。少し待っていてくださいね……」
そう言って自身の懐から紙と万年筆を取り出し、器用にも空中で紙にスラスラと自身の住所を書き出したのだ。
貴「はい、これが私の居住地です。私に持ち家はなく、今は師範の家に住まわせて貰っていますので、文はこちらに送ってくださいね。貴方から送られてきた文の宛名を元に私も送り返しますから」
あまりにもあっさりとした態度に善逸は思わず「え?そんなあっさり教えてくれても良いの?!」と聞き返す。そんな様子に憐は「えぇ、良いですよ。だって貴方なら、悪用するようなことはしないでしょ?」と微笑みながら言い返す。彼女の様子に再度心打たれ、自身の心臓を抑える善逸だった。
彼は暫く悶えた後、懐に大事そうに紙をしまった。そして改めて姿勢を正し緊張した面持ちで話し出す。
善「ごめん、順番間違えちゃった。本当はこっちを先に聞きたかったのに……」
貴「??」
善「お、俺の名前は我妻善逸です!き、君の名前を教えてください…!」
顔を赤くしながらも、必死に話す善逸の姿を見て、憐もようやく互いに〝名前〟を告げていなかったことを悟った。思えば知り合った当初で聞くはずのものをここまで聞かなかったこともおかしな話だが、彼に言われるまで気づかなかった。憐は今の今迄気づかなかった自分を少し恥ながらも、彼に対しふんわりと笑いながら、こう告げる。
貴「我妻善逸さん……素敵な名前ですね。私の名前は如月憐です。これからよろしくお願いしますね、我妻さん……」
日に照らされながら優しく微笑む如月憐、そしてその様子に蕩けそうになるも忘れないよう己自身の記憶に大切に刻み込んだ我妻善逸の姿があった……。
その後二人は、互いに文を送り合うことを改めて約束し、互いの帰るべき場所へと向かう為、背を向けて歩き出した。片や興奮冷めやらぬ様子で自身の相棒となる雀に対し、ありのままの自分自身の気持ちを吐露し、雀を困らせる者と、片や平然を装いながらも、素直に感情をぶつけてきた彼に対し、戸惑いを見せながらも嬉しい気持ちを認められずモヤモヤしている者。
────── それでも互いに強く共通して思うことがただ一つ……
善「ただいま〜!爺ちゃん聞いてよ!最終選別、本当に死ぬかと思って色々大変だったけど、でもそのお陰ですっごく大切な子に出逢えたんだ!俺、あの子と絶対結婚するから!……いつか爺ちゃんにも紹介するから待っててね!」
貴「師範、ただいま戻りました……顔がほんのり赤い……ですか?!…………実は少し変わった人に出会ったんです。大声で泣くし、人の話は全然聞かないし、煩くて大変でしたけど……でも私の事を助けてくれたんです。雷のようだけど、とても優しい人に出逢ったんです……」
────── 彼/彼女に出逢えて良かった……。
END
〜あとがき〜
やっと書き終わりました!お互いの出逢い編はこれにて終了です。いつもながら短編に収めるために、短く書こうとしても何故か長くなる現象、どうにかしたいです。後ほど章事に纏めたいなとは思ってますので、今はまだ短編に置かせてください。この後暫く二人は会わず、文通でやり取りをしています。と言っても少しの期間だけです。
次回再会編、〝鼓屋敷編〟を考えておりますので、気長にお待ちいただければ幸いです。ここまでお読み頂きありがとうございました!
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