天空の難破船【完結】
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飛行船から逃げ出せたキッドは、海上を飛んでいた。もう少しで陸地にたどり着くことができそうだと安心し、己の両腕に大人しく収まっている憐の姿を見た。
(後はコイツを病院に連れて行くだけ……)
貴「うっ……寒い……」
すると今迄意識がなかった彼女が口を開く。そしてゆっくりと閉じていた瞼を開けた。
貴「キッド??……えっ?!空!?!?飛んでる?!?!」
首を左右に振り、己の置かれている状況を把握した憐は戸惑いの声を上げた。困惑した彼女が次に行う動作が分かっていたキッドは冷静に彼女に告げる。
キ「……戸惑う気持ちは分かりますが、今は何も聞かず大人しくしていてくださいね。これから貴方を病院に連れて行くだけですから」
憐は何度か瞬きを繰り返した後、視線を逸らしていた。どうやら彼の言いつけを守る気はあるらしく、大人しくしていた。暫く無言の時間が続く。憐はキッドの顔を見ずに、下に広がる海を見ながら静かに呟く。
貴「ねぇキッド……貴方は本当に工藤くんなの?」
キ「ふっ……貴方はどちらだと思いますか……?」
本日2度目の問いかけ内容にキッドは、敢えてはぐらかした。彼にとって勘違いされたくない事実ではあるが、少し試してみたくなった……。
怪盗キッドの正体は工藤新一であると告げた人物は二人……。
一人は工藤新一の幼馴染である毛利蘭に……
もう一人は、工藤新一のクラスメイトであり、怪盗キッドの本来の姿……黒羽快斗の幼馴染である神崎憐に……
毛利蘭は自ら答えを導き出した。
〝怪盗キッドと工藤新一は別人である〟と……
ならば自分の幼馴染は自ら導き出せるのか……
己の変装技術は完璧で見破られることはないと自負している。しかし、そうなると誤解されたままになる。それはそれで後々面倒なことになるのと、あの小さな探偵に確実に恨まれることは予想出来る為、訂正はするつもりだった。
しかし出来る事なら……彼女の方から気づいて欲しいという矛盾した思いを彼は抱えていた。本当の正体には気づいて欲しくない癖に、毛利蘭 のようにせめて工藤新一ではないと気づいて欲しいだなんて……一番分かってほしい相手は今そばに居る彼女だと……我ながら面倒な性格をしている。
彼女を試すべく質問を質問で返したキッドに、憐は顔を顰めながら答えた。
貴「……違う。貴方と工藤くんは別人。それが私の答え……」
キ「おや……それはまた何故?」
彼女自ら気づいて欲しい答えにたどり着いていた。その事実に喜びが見え隠れした様子のキッドが再度彼女に問いかける。
貴「…………貴方の手」
キ「手……?」
もし何もしていなければ、自分の手をマジマジと見ていただろう。しかし今は彼女を抱えて飛んでいる為それも出来ない。自分の手とは一体どういう意味なのだろう。
貴「コナンくんが飛行船から落とされそうになった時、駆け寄ろうとした私を貴方は引き止めた。そして代わりに自分が行くと言い出して、私の手を掴んだ」
キ「えぇ、嫌な予感が働いたものですから。案の定貴方は無謀にもあの少年を助けようと動いた。私が止めなければ、最悪の事態になっていたかもしれないんですよ」
貴「……怒ってる?」
キ「…………いいえ」
もしあの場にキッドとして乗り込んでいたのではなく、黒羽快斗として乗り込んでいたら間違いなく憐を叱っていた。叱る理由などひとつしかない……他の人間ならまだしも、彼女だから無謀な真似をして欲しくないから。
人は誰しも無意識に優先順位を付けている。もし片方しか救えない状況で、天秤にかけられているのが見知らぬ誰かと自分の大切な人ならば、多くの人間は自身の大切な人を救う選択肢をとるだろう。それはこの怪盗も例外ではない。彼女にとっては知り合いの怪盗でも、怪盗からしたら想い人なのだから、態度に差が出るのは至極当然の事だった。もうあんな無茶をしないで欲しい、心臓がいくつあっても足りない……だからつい口調もキツくなってしまった。
貴「珍しいね。いつもは温厚な貴方が怒るなんて……」
キ「……怒ってなどいませんよ。私はただ貴女に無茶をして欲しくないだけです」
貴「……やっぱり怒ってるじゃない。怒りたいのは私も一緒なのに……」
憐は俯く。彼女の態度に怪盗はあることを思い出す。
キ(そういえば俺の正体を工藤新一だと告げてから、憐の態度が明らかに変わった……)
正体を告げた後、彼女は避けるように目を合わせようとはしなかった。他の人間には態度が変わらなかった為、恐らく自分にだけ態度が冷たかった。憐の発言を受けて、やっぱり怒っていたのかと納得する。だが何故怒っていたのか……結局謎は解けていないままだ。
貴「腹が立ったのよ!あ、あんな……恥ずかしい言葉を言っておいて、実は工藤くんだっただなんて……許せる訳ないじゃん!!蘭の事があるのに……本当に最低!!」
キ「……なるほど」
俯いていた顔を勢い良く上げて、彼女は刺々しい態度で言葉を発する。ようやく理解できた……何故彼女が自分に対して冷たい態度を取っていたのか……
キ(憐は、名探偵とも彼女とも交流がある。俺でさえ気づいた二人の関係にコイツが気が付かないはずはない。当然二人の想いも知っていた……それなのに好意を示してきた怪盗キッドの正体が名探偵となれば、まぁそうか……本命がいるのに何でだってなるよな〜。しかも憐は二人を応援していた訳だし……そりゃ怒るわ)
納得し、軽い返答を見せたキッドに憐は、眉を顰めた。
貴「……何よその態度は!!何でそんな軽いのよ!!」
キ「(ヤベッ!)これは失礼……貴女が私に向けていた冷たい態度に納得がいったので、つい……ですが貴女の答えはNo……私は工藤新一ではない……でしょ?」
貴「……えぇ、そうよ!貴方が飛び降りるまでは工藤くんだと本気で思ってた……だけど、あの時手を掴まれた時に感じたあの感触……」
再度目を逸らし、彼女は静かに呟いた。
貴「工藤くんに手を掴まれたこと、そんなにないけど……違ったの。貴方が蘭に変装していた時も、私の手を掴んだでしょ……?あの時と同じ感触だった……」
キ「!?」
貴「上手く言えないけれど……貴方の手はね、安心するの……どうしてなのかな……」
その声には疑問と切なさが滲んでいる。どうしてそう悲観的な顔をしているのか……
────── この時の怪盗は気づかなかった……
貴「私最低なんだよ……一瞬貴方が本当に工藤くんだったらって思ってしまった!!じゃないと……そうじゃないと……っ……!!」
────── 彼女が己の予想以上の真実に気づき始めようとしていることに……
それ以降話すことは無くなり、気がつけば彼女が意識を無くしていることに怪盗は気づいた。自分に怒っていた理由には納得したが、結局最後の悲しげな表情、悲痛な叫びの意図は分からなかった。
────────────────────────
突然意識が戻る。気がつけば白いベッドの上だった。見覚えのない衣服、これは病衣という物だろう。また私は意識を失い、病院に運ばれたんだ……連れ去った怪盗キッドの手によって……。
幸いにも飛行機事故の時よりは早く目が覚めたらしい。目覚めた際にそばにいてくれた銀三さんが教えてくれた。銀三さんの話によると、あの後キッドは私を連れ去って飛行船から消え、残された銀三さん達は必死に私を見つける為に捜索してくれていた。
私が発見された後、お見舞いに蘭や園子、少年探偵団達も来てくれていた。その時に蘭から私が意識を失っている間の出来事を聞いた。
キッドの正体は工藤新一ではないことを怪盗に伝え、その怪盗と少し話をしたらしい。また私を悪戯に連れ去るのではなく、病院に連れて行く為に連れ去る事を聞いていた。蘭が聞いた情報を元に銀三さん達は大阪市内の病院を手当り次第捜索した結果、1日経たずに私が預けられた病院を発見したらしい。
夜通し私を探してくれた証拠として、銀三さんに隈があった。申し訳なさから、意識が戻った後即座に謝罪の言葉を伝えた。でも銀三さんはそんな事気にしなくて良いと言いながら、頭を撫でてくれた。それに蘭や園子達にも迷惑をかけたから謝ったけど、みんな気にしてないかった。ただ無事で良かったと……笑ってくれた。歩美ちゃんと、光彦くん、元太くんは良かったと泣いてくれた。守ってくれてありがとうともお礼を言われた。心配かけたことは申し訳ないと思いつつも、守りたいものを守れた事実に嬉しくなって私も笑みが零れた。
幸いにも漆のかぶれ以外、特に大きな怪我は見当たらなかった。頭や脚に怪我あってもおかしくなかったけど、なかったんだから少し驚いた。
(私の体……少し頑丈になった?)
特に何もトレーニングとかしていないけどね。その後すぐに退院して、銀三さんに送ってもらい我が家へと戻ってきた。玄関の前には母、玲於、青子、快斗が立っていたのだ。
送って貰った銀三さんの車から扉を開けて降りると、青子と母が駆け寄って来た。
青「おかえり〜憐!」
母「おかえり憐」
青「体は大丈夫?もう何ともない?」
貴「大丈夫だよ!心配かけてごめんね……」
青「キッドに連れ去られたって聞いた時は心配だったけど、こうして見つかったし、大きな怪我や病気じゃなくて本当に良かったよ〜」
少し涙目になっていた青子の頭を撫でた。そして母にも向き直ると、母は無事で良かったと私の頭を撫でてくれた。青子と母の背後には玲於と快斗がゆっくりこちらに向かって歩いているのが見えた。
玲「銀三さん、姉を見つけて下さりありがとうございます」
その言葉と共に玲於と母は頭を下げた。私も同様に頭を下げる。銀三さん達警察の方々が熱心に捜索を続けてくれたお陰で、私はすぐ保護されたから、警察の方々には頭が上がらない。
銀三さんは、私達をギョッとした目で見てすぐさま首を横に振った。それどころか「あのコソ泥から憐ちゃんを守れなくて申し訳ない……」と逆に頭を下げられてしまった。
青「お父さんに聞いたよ……身を呈して憐がお父さんを守ってくれたこと。青子からもお礼を言うよ、ありがとう憐!」
銀三さんの隣に立った青子は笑ってくれた。
……単純かもしれないけれど、自分の行動によって守りたかったものは守れた事に安堵する。銀三さんには叱られたけど、あの時行動を起こしていて良かったと今やっと心の底から思えた。
その後青子と銀三さんは自分の家に帰って行った。その姿を見送った後、私達も家へと戻って行った。
(後はコイツを病院に連れて行くだけ……)
貴「うっ……寒い……」
すると今迄意識がなかった彼女が口を開く。そしてゆっくりと閉じていた瞼を開けた。
貴「キッド??……えっ?!空!?!?飛んでる?!?!」
首を左右に振り、己の置かれている状況を把握した憐は戸惑いの声を上げた。困惑した彼女が次に行う動作が分かっていたキッドは冷静に彼女に告げる。
キ「……戸惑う気持ちは分かりますが、今は何も聞かず大人しくしていてくださいね。これから貴方を病院に連れて行くだけですから」
憐は何度か瞬きを繰り返した後、視線を逸らしていた。どうやら彼の言いつけを守る気はあるらしく、大人しくしていた。暫く無言の時間が続く。憐はキッドの顔を見ずに、下に広がる海を見ながら静かに呟く。
貴「ねぇキッド……貴方は本当に工藤くんなの?」
キ「ふっ……貴方はどちらだと思いますか……?」
本日2度目の問いかけ内容にキッドは、敢えてはぐらかした。彼にとって勘違いされたくない事実ではあるが、少し試してみたくなった……。
怪盗キッドの正体は工藤新一であると告げた人物は二人……。
一人は工藤新一の幼馴染である毛利蘭に……
もう一人は、工藤新一のクラスメイトであり、怪盗キッドの本来の姿……黒羽快斗の幼馴染である神崎憐に……
毛利蘭は自ら答えを導き出した。
〝怪盗キッドと工藤新一は別人である〟と……
ならば自分の幼馴染は自ら導き出せるのか……
己の変装技術は完璧で見破られることはないと自負している。しかし、そうなると誤解されたままになる。それはそれで後々面倒なことになるのと、あの小さな探偵に確実に恨まれることは予想出来る為、訂正はするつもりだった。
しかし出来る事なら……彼女の方から気づいて欲しいという矛盾した思いを彼は抱えていた。本当の正体には気づいて欲しくない癖に、
彼女を試すべく質問を質問で返したキッドに、憐は顔を顰めながら答えた。
貴「……違う。貴方と工藤くんは別人。それが私の答え……」
キ「おや……それはまた何故?」
彼女自ら気づいて欲しい答えにたどり着いていた。その事実に喜びが見え隠れした様子のキッドが再度彼女に問いかける。
貴「…………貴方の手」
キ「手……?」
もし何もしていなければ、自分の手をマジマジと見ていただろう。しかし今は彼女を抱えて飛んでいる為それも出来ない。自分の手とは一体どういう意味なのだろう。
貴「コナンくんが飛行船から落とされそうになった時、駆け寄ろうとした私を貴方は引き止めた。そして代わりに自分が行くと言い出して、私の手を掴んだ」
キ「えぇ、嫌な予感が働いたものですから。案の定貴方は無謀にもあの少年を助けようと動いた。私が止めなければ、最悪の事態になっていたかもしれないんですよ」
貴「……怒ってる?」
キ「…………いいえ」
もしあの場にキッドとして乗り込んでいたのではなく、黒羽快斗として乗り込んでいたら間違いなく憐を叱っていた。叱る理由などひとつしかない……他の人間ならまだしも、彼女だから無謀な真似をして欲しくないから。
人は誰しも無意識に優先順位を付けている。もし片方しか救えない状況で、天秤にかけられているのが見知らぬ誰かと自分の大切な人ならば、多くの人間は自身の大切な人を救う選択肢をとるだろう。それはこの怪盗も例外ではない。彼女にとっては知り合いの怪盗でも、怪盗からしたら想い人なのだから、態度に差が出るのは至極当然の事だった。もうあんな無茶をしないで欲しい、心臓がいくつあっても足りない……だからつい口調もキツくなってしまった。
貴「珍しいね。いつもは温厚な貴方が怒るなんて……」
キ「……怒ってなどいませんよ。私はただ貴女に無茶をして欲しくないだけです」
貴「……やっぱり怒ってるじゃない。怒りたいのは私も一緒なのに……」
憐は俯く。彼女の態度に怪盗はあることを思い出す。
キ(そういえば俺の正体を工藤新一だと告げてから、憐の態度が明らかに変わった……)
正体を告げた後、彼女は避けるように目を合わせようとはしなかった。他の人間には態度が変わらなかった為、恐らく自分にだけ態度が冷たかった。憐の発言を受けて、やっぱり怒っていたのかと納得する。だが何故怒っていたのか……結局謎は解けていないままだ。
貴「腹が立ったのよ!あ、あんな……恥ずかしい言葉を言っておいて、実は工藤くんだっただなんて……許せる訳ないじゃん!!蘭の事があるのに……本当に最低!!」
キ「……なるほど」
俯いていた顔を勢い良く上げて、彼女は刺々しい態度で言葉を発する。ようやく理解できた……何故彼女が自分に対して冷たい態度を取っていたのか……
キ(憐は、名探偵とも彼女とも交流がある。俺でさえ気づいた二人の関係にコイツが気が付かないはずはない。当然二人の想いも知っていた……それなのに好意を示してきた怪盗キッドの正体が名探偵となれば、まぁそうか……本命がいるのに何でだってなるよな〜。しかも憐は二人を応援していた訳だし……そりゃ怒るわ)
納得し、軽い返答を見せたキッドに憐は、眉を顰めた。
貴「……何よその態度は!!何でそんな軽いのよ!!」
キ「(ヤベッ!)これは失礼……貴女が私に向けていた冷たい態度に納得がいったので、つい……ですが貴女の答えはNo……私は工藤新一ではない……でしょ?」
貴「……えぇ、そうよ!貴方が飛び降りるまでは工藤くんだと本気で思ってた……だけど、あの時手を掴まれた時に感じたあの感触……」
再度目を逸らし、彼女は静かに呟いた。
貴「工藤くんに手を掴まれたこと、そんなにないけど……違ったの。貴方が蘭に変装していた時も、私の手を掴んだでしょ……?あの時と同じ感触だった……」
キ「!?」
貴「上手く言えないけれど……貴方の手はね、安心するの……どうしてなのかな……」
その声には疑問と切なさが滲んでいる。どうしてそう悲観的な顔をしているのか……
────── この時の怪盗は気づかなかった……
貴「私最低なんだよ……一瞬貴方が本当に工藤くんだったらって思ってしまった!!じゃないと……そうじゃないと……っ……!!」
────── 彼女が己の予想以上の真実に気づき始めようとしていることに……
それ以降話すことは無くなり、気がつけば彼女が意識を無くしていることに怪盗は気づいた。自分に怒っていた理由には納得したが、結局最後の悲しげな表情、悲痛な叫びの意図は分からなかった。
────────────────────────
突然意識が戻る。気がつけば白いベッドの上だった。見覚えのない衣服、これは病衣という物だろう。また私は意識を失い、病院に運ばれたんだ……連れ去った怪盗キッドの手によって……。
幸いにも飛行機事故の時よりは早く目が覚めたらしい。目覚めた際にそばにいてくれた銀三さんが教えてくれた。銀三さんの話によると、あの後キッドは私を連れ去って飛行船から消え、残された銀三さん達は必死に私を見つける為に捜索してくれていた。
私が発見された後、お見舞いに蘭や園子、少年探偵団達も来てくれていた。その時に蘭から私が意識を失っている間の出来事を聞いた。
キッドの正体は工藤新一ではないことを怪盗に伝え、その怪盗と少し話をしたらしい。また私を悪戯に連れ去るのではなく、病院に連れて行く為に連れ去る事を聞いていた。蘭が聞いた情報を元に銀三さん達は大阪市内の病院を手当り次第捜索した結果、1日経たずに私が預けられた病院を発見したらしい。
夜通し私を探してくれた証拠として、銀三さんに隈があった。申し訳なさから、意識が戻った後即座に謝罪の言葉を伝えた。でも銀三さんはそんな事気にしなくて良いと言いながら、頭を撫でてくれた。それに蘭や園子達にも迷惑をかけたから謝ったけど、みんな気にしてないかった。ただ無事で良かったと……笑ってくれた。歩美ちゃんと、光彦くん、元太くんは良かったと泣いてくれた。守ってくれてありがとうともお礼を言われた。心配かけたことは申し訳ないと思いつつも、守りたいものを守れた事実に嬉しくなって私も笑みが零れた。
幸いにも漆のかぶれ以外、特に大きな怪我は見当たらなかった。頭や脚に怪我あってもおかしくなかったけど、なかったんだから少し驚いた。
(私の体……少し頑丈になった?)
特に何もトレーニングとかしていないけどね。その後すぐに退院して、銀三さんに送ってもらい我が家へと戻ってきた。玄関の前には母、玲於、青子、快斗が立っていたのだ。
送って貰った銀三さんの車から扉を開けて降りると、青子と母が駆け寄って来た。
青「おかえり〜憐!」
母「おかえり憐」
青「体は大丈夫?もう何ともない?」
貴「大丈夫だよ!心配かけてごめんね……」
青「キッドに連れ去られたって聞いた時は心配だったけど、こうして見つかったし、大きな怪我や病気じゃなくて本当に良かったよ〜」
少し涙目になっていた青子の頭を撫でた。そして母にも向き直ると、母は無事で良かったと私の頭を撫でてくれた。青子と母の背後には玲於と快斗がゆっくりこちらに向かって歩いているのが見えた。
玲「銀三さん、姉を見つけて下さりありがとうございます」
その言葉と共に玲於と母は頭を下げた。私も同様に頭を下げる。銀三さん達警察の方々が熱心に捜索を続けてくれたお陰で、私はすぐ保護されたから、警察の方々には頭が上がらない。
銀三さんは、私達をギョッとした目で見てすぐさま首を横に振った。それどころか「あのコソ泥から憐ちゃんを守れなくて申し訳ない……」と逆に頭を下げられてしまった。
青「お父さんに聞いたよ……身を呈して憐がお父さんを守ってくれたこと。青子からもお礼を言うよ、ありがとう憐!」
銀三さんの隣に立った青子は笑ってくれた。
……単純かもしれないけれど、自分の行動によって守りたかったものは守れた事に安堵する。銀三さんには叱られたけど、あの時行動を起こしていて良かったと今やっと心の底から思えた。
その後青子と銀三さんは自分の家に帰って行った。その姿を見送った後、私達も家へと戻って行った。
