銀翼の奇術師【完結】
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キ「こんばんは、お嬢さん……」
貴「キッド……どうしてここに……??」
キ「お忘れですか……??約束したでしょう??〝いつか必ず……月下の淡い光の下でお会いしましょう……〟と……」
そう言われて私は脳内で過去の記憶を辿っていった……。
キ『いつか必ず……月下の淡い光の下でお会いしましょう……』
貴『うん!……生きてまた会おうね』
貴「……あっ……」
それはあの飛行機で、互いに生きてまた会うことを約束し、別れた記憶……今更になって思い出した。また怪盗が律儀に覚えていてくれたこと、少なくとも今の私にはとても嬉しかった。何気ない喜びでさえ大袈裟と思われるかもしれないけれど、救われた……。
キ「……思い出して頂けて何よりです。私はあの時の約束を果たす為、貴女に会いにやって来ました。あの危機的状況で見事生還された貴女の勇気と行動を称えたい……流石ですね憐嬢」
貴「……」
キ「……憐嬢?」
彼はわざわざあの日の約束を果たしに来てくれた。そして嘘偽りのない素直な賞賛を私に述べた。
やはり世間で言われているイメージとは何処か違う印象を受ける。本当の名前も、顔も、性別も、年齢も、知らないけれど、……何処かアイツと似ているキッドの言葉が、今の私には涙が流れる程嬉しかった……眠る前に快斗の素っ気ない態度を思い出して泣いてしまっていたから、涙自体は流れていたけど、流れる訳が違う。そんな事……キッドは知らないだろうけどね……。
貴「……貴方の言葉が自分の中で凄く響いちゃって……寧ろお礼を言いたいのはこっち!ありがとうキッド!私の事を信用してくれて……貴方が照らして道を作ってくれたおかげで助かったよ!」
せっかく会いに来てくれたのだから、お礼を伝えなければ……涙を拭いながら、キッドにお礼を述べた。ベッドの上からで申し訳ないんだけど、そこは大目に見てほしい。でも、そろそろ本当に何か報酬を渡した方が良いと真剣に考えている。この怪盗に満足させられる物って何だろう?形として残る物だと重いよね?手作りで何か食べられる物を渡すのも、嫌がる人は嫌がるし……そう考えると無難に既製品とかどうだろうか?
憐があれこれ考えている時、キッドはキッドで何か考え込んだ様子で彼女を見つめていた。
キ(泣いていた……さっき憐が呟いていた言葉……今日の俺の態度のせいか……クソッ……)
黒羽快斗が怪盗キッドとなって、憐の病室に尋ねた理由……彼女との約束も会ったが、昼間の自分の態度に彼女がどう感じたのか、気になり様子を探る為である。何度か着慣れた白衣に身を包み医師に変装、真夜中に彼女の病室に堂々と入り、眠っている彼女の姿を見た。憐は気づいていなかったが、彼女が涙を流し悲しく呟いた時、その言葉を彼女と同じ病室で気づかれないよう怪盗は立って聞いていた。彼女が窓の方を向き、瞼を閉じた際に、実は彼女の背を向けた方に立っていた快斗。呟かれた言葉に心当たりしかない快斗は、己の未熟さ故に犯してしまった行動を責めた。
少し考えれば分かったはずだ……自分が憐を大切にしているように、〝幼馴染〟として慕ってくれている自分に避けられたと分かれば、憐が傷つくことは目に見えていたのに、己の身を優先してしまった自分の行動を後悔した。
だが、後悔だけで終わらせてはいけない……彼女の涙を拭うことができるのは、今この場において〝黒羽快斗〟ではなく、〝怪盗キッド〟であること。〝黒羽快斗〟として素直に優しく出来ないのであれば、もうひとつの姿……〝怪盗キッド〟として、傷ついてしまった憐を慰める。
キ「隠しても無駄ですよ……気づいていないようでしたが、実は貴女が眠りにつくほんの少し前から私はこの病室に居たのです」
貴「……え?!」
キ「そして見ていました…… 貴女がある男の事を思い、その綺麗な瞳から一雫の涙が溢れ落ちる様を……」
貴「!!」
キ「誰よりも純粋で慈悲深い心を持つ貴女を傷つけるような者の事など……」
貴「やめてキッド……それ以上口に出すなら幾ら貴方でも怒るからね」
キ「?!」
キッドは憐の言葉に大きく目を見張った。自分を貶めるような言い方だったが、彼女は発言をやめるよう促す。彼女が静かに怒りを顕にしたのは、自惚れでなければきっと
憐は、キッドの物言いに苦言を呈した。しかし彼の驚いた表情にハッとして、眉を下げ俯いた。……そして小さな声で話し始める。
貴「……さっきの聞かれてたんだ……やだなもう……」
キ「……」
貴「実は私ね……ここ数日間今まで意識がなかったの……今日やっと目覚めたんだ……。起きる直前に誰かが手を握ってくれたの……勿論誰なのか直ぐに分かったよ……だって私は、小さい頃からずっと彼に助けられてきたんだから……」
憐は自身の手首についているミサンガを視線を向けた。そこには月光に照らされて優しく輝くムーンストーンがあった。
貴「その彼の態度がおかしかったの……目も合わせてくれないし、話してもくれない。その態度に見覚えがあった。昔私がそんな態度を彼に取っていたから、それと同じだって……でも目覚めた直前、彼の名前を呼んだ時、彼が泣き出しそうな顔して笑ってくれた……あの日の携帯の着信履歴見たら、何度も私に電話してくれてたの……それだけで十分よ」
キッドは憐に気づかれないよう、自身の手を強く握る。自分で気づいた時と想いを寄せている相手に自ら言わせてしまった時ではショックの大きさは異なる。余計彼女に申し訳なく思った。そしてあの頃の……憐に素っ気ない態度を取られていた日々を思い返し、苦々しい気持ちとなった。
貴「……私が避けても、快斗はいつものように接してくれたから……だから今度は私も同じように接するし、原因を聞く!それで改善出来るならするし、彼の望むことをしようと思う!」
先程の月明かりに照らされ、涙を流していた時とは違い心強い意志を見せる憐に、また別の意味で目を見張るキッド。彼女の心境の変化に戸惑ったが、それと同時に心の中でつぶやく。
快(……本当に強くなったな……憐)
ある意味関わることを拒絶するような相手に、臆せず関わっていくことは少なからず勇気が必要になる。いつか憐が自分だけを避け始めた時のことを、今でも昨日の事のように思い出せる。会話が続かなくなり、笑いかけてくれることも減った憐……青子や玲於には普通なのに、何故か自分への態度だけ冷たい彼女。お互い素直になれない天邪鬼だが、本当は誰よりも優しい心を持つ人間だと知っている。だから何か原因があるはず……ここで引いてたらもっと関係が悪化してしまう。それならいつものように接しながら、原因を探り解決する。当時中坊だった自分には何がなんでも彼女との繋がりを途切れさせたくなくて必死だった。
貴「悲しかったのも事実だけど、悲しんでても仕方ない……それに私はこのまま何もせず関係が悪化して、アイツとの繋がりが途切れてしまうなんてことは絶対したくない……それなら怖くても彼にいつものように接して、また笑い合えるように頑張る……!」
彼女の健気な想い、行動に……思わず顔を歪める。キッドの姿で慰めようと思っていたが、どうやら憐には要らないようだ。この数日間彼女のめざましい成長具合を見て、嬉しい反面自分を頼って欲しい思いを持ち、寂しさを感じている快斗は複雑な思いで憐を見ていた。
キ「最初に言った通り、私は貴女との交わした誓いを守る為にやって来ました。決して貴女を怒らせたかった訳じゃない……それだけは分かって頂きたいのです」
しかし、表情には見せない……どんな時でもスマートでミステリアスな怪盗を演じてみせる。少なくとも憐の前だけでは……
貴「勿論だよ!……今だって私の為に言おうとしてくれたんだもんね……!それに貴方が本当は……とってもお人好しな怪盗だって事、よく分かってるから!」
予想外の返答に思わずポーカーフェイスを崩しそうになるキッド。今の発言だと、誰にでも優しい怪盗だと思われているみたいで尚更複雑だ。確かに怪盗キッドとしての自分は、親切で紳士な対応をしている。一般的に優しい人間に入るだろう……だけど、そんな自分でも分かるほど、気にかけているとすれば、それはやはりこの幼馴染以外他ない。他人と比べて憐への対応は名探偵からも指摘された通り、だいぶ手厚い。しかし、それは仕方ないだろ……?幼少期からの想い人なのだから……そして、そんな恩恵を他人も貰っていると勘違いしていそうな彼女は以前に比べてだいぶキッドの事を信用している。でなければ、あんな命懸けの頼み事などするだろうか……まぁ、それほどの緊急事態だったからと言われれば、そうかもしれないが……
貴『私も皆も絶対死なない……生きて帰るから!お願いキッド……力を貸して!この飛行機が無事に着陸出来るよう、サポートして!』
貴『キッド!……私は貴方を信じてる!!
だから貴方も……私を信じて……!!』
恐怖を隠し、一生懸命訴えかける凛とした彼女の姿を今でも鮮明に思い浮かべることができる。
キ(本当にお前って奴はよ……俺が言うことじゃないが、そんなにすぐに信用すんなよ!信用してるからってあんな殺し文句を他人に言うなんて……俺だから良かったけど……)
生きるか死ぬかの瀬戸際とはいえ、もう少しかける言葉を考えて欲しいと思いつつも、実際は何も言えない怪盗。キッドの場合彼女を翻弄することが多いが、逆に今の自分は彼女に翻弄されてしまっている。それだと癪なので、少しのサプライズを仕掛けた。
キ「憐嬢……私が誰にでも優しい怪盗だと思っているようですが、それは大きな間違いですよ」
貴「そうなの……??」
憐は眼を丸くさせる。自分の事になると鈍感な彼女はやはり分かっていないらしい。……そこもまた愛らしいと思う怪盗は、柔和な笑みを浮かべて答える。
キ「えぇ……親切な怪盗であることは否定はしません。だけど私は誰にでも親切な訳では無い……
……貴女だからです」
貴「……え?」
キ「……誰よりも大切な貴女だから、この身を賭してでも護りたいのです」
貴「えっ?!」
化け物に変装していた教師から襲われていた所を助けた。犯人から拳銃で撃たれそうになった時も、命を懸けて護った。墜落の可能性がある飛行機から一人だけ連れ去ろうとした。
他の誰でもない神崎憐という人間だから、怪盗キッドではなく黒羽快斗の想いが強く出て行動してしまっている事実……名探偵にも指摘された〝特別扱い〟にも気づいていない彼女の事が……
―――……誰よりも好きな女だから、何があってもお前だけは護りたいんだよ……憐
彼女に伝わらなくても、自分だけが分かってればそれで良い……怪盗キッドの姿をした快斗は敢えて多くを語らなかった。
月明かりに照らされるのはいつも自分の方だったが、今は彼女の方が照らされている。そんな仄かな明かりでも、確認出来るほど赤く染まった彼女の頬。何て愛らしいのだろう……この場にいるのが自分だけで良かったと怪盗は安堵した。
キ「ふん……そろそろ私は失礼致しますね。これ以上憐嬢のお体に障っても良くありませんから……」
赤い顔で驚いている彼女に再度声をかける。その際に意地の悪い笑みがつい零れてしまっていたが、とうにキャパオーバーしていた憐は口をパクパクさせるだけでそれ以上の事は何も出来なかった。
結局キッドは憐の返答を待たずして、病院から去ってしまった。
彼が飛び去った後、一人置いていかれた憐は窓の外を見上げて、先程の事を思い出し再度自身の顔が火照るのを感じた。
(いきなり何てこと言うのよ……あんな優しい表情と声で……しかも内容も愛の告白みたい……まるで……快斗に言われてるみたいで、本当に心臓に悪い……勘違いしそうになるじゃない)
深呼吸して自分を落ち着かせる。そしてある事を思い出してより冷静になった。
(……そういえば飛行機に乗っていた新庄さんって、キッドの変装だったのよね?ならあの時揶揄ってきたのもキッドってことになる……そうよ!きっと本気じゃなくて、揶揄って反応を楽しんでたんだ……)
彼は態とキザなことを言って、私の反応を楽しんでいたんだと分かった。そう思うといくら恩人でも少しムカつく訳で……これ以上考えるのも馬鹿らしくなり、再度横になり目を閉じる。
貴「キッドの馬鹿……」
最後に彼への悪態をついて今度こそ私は眠りについた……。
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青「それじゃせーの……」
青/玲「「「退院おめでとうー!!」」
貴「ありがとう!」
あれから私は念の為多くの検査を行ったが、異常がみられず退院して良いとお医者さんから許可も出たので、退院した。退院時、母が車で迎えに来てくれた。母が上機嫌で運転する車に乗り、私は様々な事を考えながら帰路に着く。家に着き、玄関の扉を開けると青子と玲於が迎えてくれた。
青子は私の手を引いて、リビングの方へと連れていく。玲於は私の荷物を持ってくれた。二人先導の元、リビングに続く扉を開けると、目の前には数々の豪華な料理が並んでいた。驚いていると、先程の青子と玲於の言葉……そうか、これは私の退院祝いだったのかと納得した。
そして始まる退院祝いのパーティー……主催は恐らく青子で、参加者の玲於に母と私の4人……いつも一緒に居るアイツの姿はなかった。
……覚悟をしていたけど、実際会えないと幾らか落ち込む訳で……でも皆がせっかく用意してくれたのだから、精一杯楽しみたい。そんな思いでいたら察した玲於がコソッと私の耳元で囁く。
玲「……大丈夫だから、今はこのパーティーを楽しんでよ姉さん」
貴「!!…………うん」
結局このパーティーは、途中仕事終わりの銀三さんも参加し、夜遅くまで行われた。今はその片付けの真っ最中……私も手伝おうとしたら、青子と玲於に止められた。青子曰く「主役にさせる訳ないじゃん!青子と玲於と桜おばさんと片付けるから憐はゆっくりしてて!」
この桜おばさんというのが私の母の名前。私の母とも実の娘のように仲の良い青子が一緒に皿洗いをしている。玲於は机の上にのった皿を片付け、銀三さんはいびきをかいて机に突っ伏して寝ている。青子に凄く謝られたが、別に気にしていない。
どうやら今日も怪盗キッドから予告状が届き、宝石を盗まれてしまったようだ。仕事が上手くいかず、イライラしているだろうに……そんな様子を見せずに振舞ってくれた。それでも私の退院を祝いに来てくれたのだ。嬉しいに決まってる。それに相手はあの怪盗キッドなのだから、一筋縄ではいかない相手だからしょうがない。
青「今日は楽しかったよ憐ー!またね〜!ほら、お父さんしっかり歩いて!」
中「おい青子〜〜もっとワシを労わってくれ〜」
突っ伏している銀三さんの腕を肩に回し自身で支えて、玄関まで辿り着く青子。一人で大丈夫だって言ってるけど、銀三さんを支えるには少し心許ない。
青「もう何言ってるの?青子が支えないとお父さん立つことも出来ないじゃん!……あっ!」
青子が再び銀三さんに文句を言おうとすると、その勢いで銀三さんが後ろに倒れそうになる。危ないと思い、手を貸そうとするもいつの間にか隣にいた玲於が先に前に出て、銀三さんのもう片方の腕を掴み、自分の肩に回す。さっきまで誰かに連絡をしていたのか、携帯を手放さなかった玲於が、どうやら用を済ませて戻ってきていた。それにしてもいつの間に玲於はここにいたの……?
玲「僕も着いていくから!母さんも銀三さんの鞄もってくれる?」
母「いいわよ……じゃあ憐。お留守番お願いね〜」
貴「あっ!ちょっと……」
パタン
完全に出遅れた……私以外の人達は、家を出て中森家へと向かった。今この家には……私一人。仕方ないからお母さんに言われた通り、玲於とお母さんが帰ってくるのをリビングで待つ……椅子に座り、何気なく携帯を開く。
結局今日……アイツはここに来なかった。きっとまだ私を避けているんだろうな……
分かっているけれど、やっぱり諦めきれない……玲於は大丈夫と言ったけど、私が会いたいの……連絡していいかな、すると不味い……?家族の帰りを待ちながら、悶々として自分の携帯と睨めっこしていた。
