銀翼の奇術師【完結】
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ある病院の、ある一室にその少女はいた。少女は頭部に包帯を巻き、静かにベッドで横たわっている。数日前に急患として病院に運ばれてきたこの少女は、頭部に怪我を負い意識不明の重体だったが、医師の懸命な処置により命を取りとめた。今は症状も落ち着いた為、東京の病院に転院し、穏やかに眠っている。頭を強く打った為に、いまだ意識が戻っていないが、いつ目覚めてもおかしくはない状態だった。
少女がいつ目覚めても良いように、かの少年は絶えず色んな人物に変装しては、少女の様子を見守っていた。入院して初めの時は、少女の友達や知り合いが訪ねてきていた。数日後少女の家族がやってきて、少女の現状を見て悲しく思うも無事であったことを喜び、涙を流した。そこから毎日見舞いにくる人は絶えず、眠っている少女に色々なことを語りかけて、まるで少女が起きているかのように振る舞うのだ。
今日も少女の幼馴染が病室を訪れて、少女に語りかけ談笑していた。
青「今日は良い天気ね〜まさに絶好のピクニック日和って感じよ!」
玲「本当にそうだね〜……風が気持ちいいな。これだけ気候も良かったら、姉さんが起きた時に喜びそうだね」
病室の窓を開け、清涼な空気を取り込む。空気を入れ替えて循環させることは大切だ。窓を開けた青子は、隣に立っている玲於は揃って後ろを振り返る。そこには静かに眠っている憐の姿があった。今の会話を聞いても彼女の返答は無い……青子は段々と瞳が潤んでいくのを感じた。
青「そうね!……そろそろ起きようよ憐……青子達、ずっと待ってるんだよっ……」
玲「姉さん……」
悲痛な声を聞いても彼女の瞼はいまだに開く気配は無い。その様子にとうとう涙を浮かべた青子、その彼女に寄り添って同じく憐の様子を悲しそうに見つめる玲於の姿があった。
もう症状は回復し、いつ目を開けてもおかしくはないのに、憐の意識は戻らない。医師も手の施しようがなく、後はもう本人次第であると言われてしまい、憐の意識が戻るのを皆待っていた。
そして憐の様子をずっと見守っていた少年、快斗は、ようやく本来の自分の姿で訪れることが出来ていた。今まで憐の学校の友達、気を抜けない名探偵、そしてその名探偵の友達の少年探偵団達を避ける為と、あの日憐と交換した、彼女の象徴でもあるアメジストを失くしてしまった罪悪感を抱いていた為、本来の自分の姿で訪れるのがこんなにも遅くなったのだ。
……快斗は悲しそうな青子、玲於の姿を見て、今まで黙っていた口をようやく開いた。
快「玲於、青子……悪ぃけど花を買ってきてくれねぇか?コイツが起きた時に、真っ白な風景だけじゃ面白くねぇだろ?……だから憐が喜ぶ綺麗な花を飾りたい……」
快斗は悲しそうな二人を見て、気分転換のために憐の為に花を買ってきて欲しいと二人に頼んだ。
青「(快斗……)うん、そうね!憐が起きた時に喜んでもらえるように、凄く綺麗な花を買ってくる!」
玲「(快くん……)了解!僕と青ちゃんで綺麗な花を買ってくるから、姉さんのこと頼むね」
憐が目覚めることを誰もが願っている。とりわけ誰よりも心待ちにしている人物を自分達は知っている……本当は誰よりも気分が落ちている癖に、自分達に見せないよう気丈に振る舞う快斗の姿を見て、二人はより一層心が締め付けられるような気がした。
二人は快斗と憐を二人きりにさせた方が良いと判断し、早々に病室を出ていった。
病室の扉が静かに閉まる。ここには自分と憐の二人きり……快斗は二人の前で保っていた顔を崩し、悲痛な表情を見せる。彼はずっと後悔をしていたことがある……
快(クソッ……何であの時俺は……無理やりにでも憐の手を掴まなかったんだッ!そしたら今頃コイツは……こんな傷も負わず、いつものように笑っていたはずなのに……)
倒れている彼女を見つけた時から、彼は自分を責め続けている。あの時自分は怪盗キッドで、飛行機から飛び降りる際に、憐を連れて飛び降りることも出来たのだ。彼女の意思を無視することになるが、それで彼女に嫌われたとしても、彼女が救えるのなら実行するべきだったのではと後悔してもしきれない。……実際彼女の命は救えた……けれども、こんな結末……望んでいなかった。
快(どうしてだよ……操縦していた名探偵の彼女も、そばにいたあのお嬢様も無事だったのに……どうして憐だけっ……!)
操縦していた憐の友人も、他の乗客達も皆大きい怪我なく無事だったのに……どうして憐だけ頭を強く打つようなことが起こったんだ!どうして……血を流すようなことになったんだ!
それに……ずっと大切にしていた憐のアメジストを失くしてしまった。きっとあの時……キッドの時はあったのだから、救急隊員に変装していた時に落としてしまったのだろう。あの後、血眼になって探したが結局見つからなかった。
アイツから無理言って俺が交換して貰った宝石、肌身離さずつけていてと憐から言われた大切な物……それすら守れない愚か者の自分、自身の目的の為、怪盗を演じ盗みを犯している俺への罰なのだろうか……
快(……だったらコイツは関係ねーだろ……何で俺じゃなくて、憐に……)
いくら考えても、堂々巡り……出口の無い迷路を延々と進んでいるかのよう。窓から入ってきた風が優しく頬を撫でる。俯いていた視線をあげ、意識のない彼女の姿を見る。彼女の髪も風によってサラサラと揺られていた。
……こうして見ると、ただ普通に眠っているみたいだ。
快「ったく、いつまで寝てんだよ……こんな時でもオメーは相変わらずの寝坊助なんだな……」
口から出てくるのはいつだって優しくない言葉……キッドの時はどんなキザなセリフでも、アイツに素直に伝えられるのに、黒羽快斗に戻るとこれだ……何でこういう時くらい素直に言えないんだ。
快「お前のこと、皆待ってんだぞ……青子も玲於もおばさんも中森警部も……今日なんか俺のお袋が心配して、何度も電話かけてきたんだぜ……」
彼女の反応は無い……だが、彼は語りかけ続ける。彼女が目を開けると信じて……
快「……勿論、俺もずっとお前が目を覚ますのを待ってる……お前に謝らなきゃいけねーことがあんだよ……」
いつもの憐だったら、きっと思い当たらず「何のこと?」って聞き返してくるのにその返事も期待出来ない。
快「お前のアメジスト……失くしちまったんだ。お前から肌身離さず付けててって言われてたのにな……」
これを聞いて憐は何と答えるだろう……怒るのか……いや、アイツは優しいから何だかんだ責めないんだ。人の気持ちに寄り添える奴だから、誠意を見せれば、その気持ちを汲み取って
「大丈夫よ!また買えばいいんだから……」って笑って許してくれる。
高校1年生の時に俺があげたミサンガを、いまだに大切にしている……人一倍贈り物を大切にする奴だから……
ごめん……お前のアメジストを失くしちまって……
ごめん……お前を護るって言ったのに護れなくて……
快「全部謝るから……だから目を開けてくれよ…………憐…………」
ギュッと目を瞑り、眠っている彼女の手をそっと掴んだ。藁にもすがる思いだった。すると掴んでいた彼女の手が僅かにだが、ピクリと動いた気がした。
快「?!」
快斗はすぐさま憐の手に視線を向けた。微かに動いている……自分の手を握り返そうとしていることが分かった。
心臓が早鐘を打つ……彼女の手に向けていた視線をあげて彼女の顔を見た……
貴「……か……いと……」
そこには薄らと目を開けた憐が、微笑んで彼の名前を呼んだのだった。
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視界が……少し明るい??何だか体が凄く重い……頭もズキズキ痛みがあるけど、我慢出来る程度だ。何より匂いがいつもの落ち着く匂いじゃない……これは薬品??の匂いが充満している。ここは一体何処だろう……それに、誰かに手を握られている。
この手の温もり……私は知っている。昔からよくこの手に引っ張られていたような……指先が細くて綺麗で、私をいつも助けてくれていた……安心出来る手だ。だから私も弱々しい力だったけど、握り返した。するとハッと息を飲む声が聞こえた……。
私は現状を確認する為に薄らと目を開ける。何だか眩しいような……久々に瞳に光を取り込んだような感覚だ。そして私の瞳には、信じられない物を見たような顔をした快斗の姿があった。
貴「……か……いと……」
悲痛な声で私の名前を呼んでいたから、安心させたくて頑張って声を出したつもりだけど、実際の声は小さくて、掠れてしまっていた。何日意識がなかったのか分からなかったけど、その間喉を使ってなかったから十分な声が出せなかったのかな。今ので聞こえたかなと心配したが、その心配は要らなかった。何故なら……
快「っ……遅せぇよ……憐」
目が合った快斗は、泣きそうな笑顔で答えてくれたからだ……。
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玲於side
青「快斗の奴……大丈夫かな……」
玲「どうだろうね……(大丈夫じゃないだろうな……)」
僕達は快くんに頼まれて、お見舞いの花を買ってきていた。快くんは姉さんの為に、花を買ってきて欲しいと言っていたけど、あれは……自分の為でもあるんだろうな。勿論姉さんの為もあるんだろうけど、僕らに心配かけまいために敢えて普段通りにしているんだ。
彼のモットーでもある〝ポーカーフェイス〟を心がけているんだろうけど、流石に今回のことでだいぶ気が滅入っているのが伝わる。……いつも通り周りを楽しませてくれるような明るい彼ではなかった。今回の自分の行動を後悔し、自分を責め続けている快くん。キッドの時に、あの飛行機から姉さんを一緒に連れ出せば良かったとポツリと僕の目の前で言ったことがあった。
僕はそれ以上自分を責めて欲しくなくて、咄嗟に否定した。と同時に快くんの行動を称えたのだ。だって、彼が飛び降りなければ、あの滑走路は作られず、上手く飛行機は着陸出来なかったかもしれない……そうしたら多くの人が傷つき、亡くなった人だって出てきていたのかもしれない。姉さんだって、もっと酷い怪我をおっていたかもしれない……最悪命を落としていた可能性だってある。それを考えたら、生きていてくれているだけで十分凄いことなんだよ。
その説明で幾分か良くなったけど、ただやっぱりどうしても空元気のままだった。もう快くんを元に戻せるのは姉さんしかいない。しかし、肝心の姉さんもいつになったら目が覚めるのだろう……
玲「姉さんの目が覚めた時に、今の快くんの姿を見たら悲しむよね」
青「……そうよ!青子達まで暗くなってどうするの?!快斗があんな調子だからこそ、憐が起きた時に安心出来るよう、青子達はいつも通りにしなきゃね!」
先程の悲しそうな青ちゃんの姿はどこにもなかった。元気の無い快くんの姿を見てこれでは駄目だと自分を奮い立たせているのだ。
玲「そうだね……姉さんが起きた時に僕らまで沈んでいたら、姉さんか心配しちゃうからね。僕らはいつも通りにして、待ってよう」
そんな彼女の姿を見て励まされている自分もいる。青ちゃんの言う通り、僕らだけでもいつも通りにしていよう……いつ姉さんが起きてもいいように……
僕達は決意を改めて、姉さんの好きな花を購入した。そして再度病院に戻ると、受付の方に眼鏡をかけた小さな男の子の姿が見えた。
「ねぇ、看護師さん。」
「あら、どうしたの……?僕ひとり?」
「うん。今日は知り合いのお姉さんのお見舞いに来たんだ」
どうやらこの病院に訪れた見舞い客のようだ。それにしても、あんな小さいのに一人で来たんだ。凄いなと感心していると、その子の顔に見覚えがあった。
(あの子……何処かで……)
青「ほら玲於!何してるの!早く乗らないとエレベーター行っちゃうよ〜!」
僕が考え込んで立ち止まっている隙に、青ちゃんはさっさとエレベーターに乗り込んだようだ。青ちゃんに置いていかれないよう、後ろ髪を引かれながらも、青ちゃんの待つエレベーターの方へ走って駆け寄る。
エレベーターに乗り込み、姉さんの待つ階へ。エレベーターの扉が閉まる瞬間、眼鏡の少年と目が合ったような気がした。
エレベーターに乗って数分後、姉さんの病室がある階で降りる。そこまで青ちゃんと一緒に歩いて向かっていると、姉さんの病室の前で数人の看護師さんとお医者さんが少し急いで入ってく様子を見かけた。
青「今のお医者さんと看護師さんだよね?」
玲「うん、そうみたいだね……何だか急用があったみたいに姉さんの病室に入っていったってことは……」
青「まさか憐に何かあったんじゃ ……?!」
玲「ちょっと青ちゃん……!」
僕が止める間もなく青ちゃんも急いで扉を開け、病室の中へと入っていった。僕も後に続いて病室の中に入る。青ちゃんはお医者さん達の背後に立っていた。それ以上中に進もうとはしなかった……その理由は、僕も彼女の隣に立つ事で分かった。
医「まだ痛みがあるとの事ですので、念の為2〜3日検査で入院、その検査で特に異常なければ退院出来ますよ」
快「分かりました…」
医「それでは私達はこれで……」
そう言って背後に立っていた僕達にも頭を下げて、看護師さんとお医者さんは病室を出ていった。それを見届けていると、快くんに名前を呼ばれ、そちらを振り返る。快くんは何も言わず、ただ微笑んで僕達に手招きした。僕と青ちゃんはその手招きに従って姉さんが寝ているベッドの方へと寄っていく。
段々と露になっていく……白いベッドの上に横たわっていた姉さんが、上体を起こし、僕らを笑って迎えてくれていたのだ。
青「……憐っ!!!」
青ちゃんは姉さんの傍に駆け寄って持っていた花ごと姉さんを抱き締めた。姉さんは「青子!ちょっと苦しいよ……」と苦しそうだったけど、満更でもなさそうだった。
青「テレビ見たら、憐が乗ってた飛行機が大変なことになっててっ……!憐は怪我して病院に運ばれて、傷はそこまで大きいものじゃないって……これなら大丈夫だって……聞いてたのにっ……お医者さんの話だと、もう起きても良い筈なのにっ……全然起きないからっ……青子ずっと心配で……っ………」
貴「ごめんね青子、凄く心配かけたね……でもこの通り!私は生きてるよ」
青「ほんとだぁ……っ……憐ちゃんと生きてるっ……!良かったよ〜……っ……!」
青ちゃんは泣きながら姉さんに抱き着いていた。そんな青ちゃんをしっかり抱き締める姉さん。僕は快くんの隣に立ち、その様子を見守った。
玲「いつ起きたの?」
快「お前らが来るちょっと前だな。俺の手を急に憐が握り返したんだよ。それで顔をあげたら、憐が目を開けて俺の名を呼んだんだ……それでナースコール押して、現状説明してたら、お前らが帰ってきた……って所だな」
玲「……へぇ〜」
快くんに姉さんの起きた時の様子を聞いたら、想像以上の答えが返ってきて驚いている。快くんは気づいていないみたいだけど、今の言い方だと……
(〝俺の手を握り返した〟……だなんて、君から姉さんの手を握らないと、そんな行動発生しないよね……ってツッコむのは野暮か)
快「何だよその意味深な返事は……」
玲「別に〜……ねぇ、快くんは姉さんと何か話せた??」
快「俺は良いんだよ……それよりお前は弟なんだから、ほら話してこいよ……」
玲「ちょっと快くん……?何処行くの??」
快「喉乾いちまったから飲み物買ってくるわ……」
快くんは僕達に背を向けて手を振りながら、病室を出て行った。
青「快斗何処に行ったの?」
玲「……飲み物買いに行ったよ。喉が渇いたんだって……」
貴「……」
青「ふーん……あっ!そういえば憐達のお母さんには言った方がいいんじゃない??憐が起きたこと……」
玲「確かにそうだね。じゃあ僕ちょっと母さんに電話してくるから青ちゃん、姉さんのこと宜しくね」
青「は〜い!憐は青子に任せて!行ってらっしゃい〜!」
僕も数分後、快くんに続くように病室を後にする。病室から出た後、談話室に向かう。
その向かう途中、前方に快くんの後ろ姿が見えたので、声をかけようとしたが、その声を押し留める。
(あの子……さっき受付にいた眼鏡の男の子!その男の子が何で快くんと??)
快くんのすぐ後ろを先程病院の受付で見かけた眼鏡の男の子が歩いていたからだ。あの様子だと快くんと一緒に何処か向かっている。二人に気づかれないよう、離れて後を追う。すると二人は、エレベーターに乗り込み上の階へと登って行った。快くん達が乗ったエレベーターは、途中の階で止まることなく一番上の階で止まった。
玲「快くんと男の子は一体何処へ?……最上階で止まった?何で……まさか屋上??」
何処か見覚えのある眼鏡の男の子は誰なのか?快くんとはどういう関係なのだろうか?二人は、一体どんな目的で、最上階に上がったんだろう?
僕は当初の目的を忘れ、二人を追いかけるべく上の階へ行くエレベーターに乗り込んだ。
