銀翼の奇術師
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──────羽田空港
「スカイジャパン航空、函館行き、18時15分発、865便はただいまご搭乗手続きを行っております…865便にて函館へご出発のお客様は、8番搭乗口よりご搭乗ください……」
歩「すご〜〜い!フカフカだぁ!!」
阿「なかなかいいもんじゃのォ…」
元「社長みてーだぜ!!」
舞台観劇後、私達は場所を移動し、空港までやってきた。目的は函館にある牧さんの別荘に向かうためである。何でも牧さん達は、舞台の打ち上げを函館にある牧さんの別荘で行うらしい。また今回キッドが盗むと予告していた宝石は盗まれなかったらしい。宝石を守った功績から私達もその舞台の打ち上げに参加させて頂けることになった。そしてこれから函館に向かう飛行機に搭乗し、機内を見て歩美ちゃんや元太くんは喜びの声をあげていたのだった。
それぞれ各々の座席に座る。私は2名席の窓側に1人で座ることにした。蘭と園子が気を遣ってくれたけど、1人なら1人でも楽しめるのが私。それに窓側なら飛行機から見える景色を楽しめると思ったからだ。でも、搭乗前に見た天気予報だと、今夜は雨、しかも激しい雷雨だと出ていた。……あんまり良い景色は楽しめないかもしれないが、滅多に乗ることが出来ない飛行機自体を楽しむことに気持ちを切り替えた。
蘭「はぁ……どうしてこうなっちゃうんだろ…」
園「なるって…」
コ「なるよ……」
私の前の席の蘭が、自分のお母さんを呼び、何とか小五郎さんとの関係修復の為、色々仕組んだみたいだけど、聞こえた声の様子から駄目だったようだ。蘭のお母さんと小五郎さんは、言わば小さい頃からの幼馴染夫婦。ある時を境に別居しているようだが、籍を抜いてないあたり互いに素直になれないだけの夫婦なんだろうな。
蘭達の様子を後ろからこっそり観察していると、入口の方に新たな人物が立っていることに気づく。
新「どうも皆さん、お待たせしました!」
牧「新庄さん!」
その人物とは舞台にも出演していた新庄さん。舞台の打ち上げなのだから、彼が居ても不思議では無い。しかし、新庄さんは体調が悪いからキャンセルすると今朝矢口さんが電話を貰っていたのだと共有があったのだ。だから新庄さんは、来ないことになっていたけど、現実は違う。体調不良どころかピンピンして元気な姿を見せている新庄さん。
牧「貴方体調が悪いからキャンセルしたって……」
新「いや〜…それが体調も戻ったし、1人でいても暇なんで、やっぱり僕も参加する事にしたんです!
遅くなりました、ジョゼフィーヌ様……」
膝を着き、牧さんの手に口付けをする新庄さんは自身の役でもあったイポリットのよう……ここは舞台の上では無いのに、さすが役者さん……様になるな。
牧「どうして言われた通りにしないの?!」
新「大丈夫です…向こうに着いてからでも十分…」
でも牧さんは、新庄さんに対して怒っているようだった。……何故あんなに怒るのだろう?
(そんなに怒ることだろうか……?)
漠然と考えながら、ぼんやり窓の外の景色を眺めていると、その窓に誰かの姿が反射する。
貴「!!」
振り返るとそこには新庄さんが、柔和な笑みを浮かべて立っていた。
新「どこも埋まってて空いてなくてさ……隣座ってもいいかい?」
貴「は、はい!私の隣で宜しければ……」
どうぞと返答すれば、「ありがとう」と爽やかに私の隣に座った新庄さん。彼は役者で、私は一般人、親しい仲でもないのだから、気にしすぎるのもな〜と思い、再度外に目を向けようとする……しかし、またもや窓の反射に映っている。気の所為だと思いたいけど、気の所為じゃない……
貴「……」チラッ
恐る恐る隣の方に視線を向けると、新庄さんがニコニコしながらこちらを見ていた。
(な、何故??なんでこっち見てるの?!私なんか変かな……それにしたって無言で見すぎじゃない?でも笑ってるしな〜……何故?!)
顔にも出ていたかもしれないが、私には余裕がなかった。そこまで面識のない男の人に、理由もなく見られていては焦ってしまう。すると、私の百面相を見ていた新庄さんが今度は声を上げて笑い始めた。
新「くくっ…ごめんごめん!君の表情がコロコロ変わるのが可愛いくてね……」
貴「か、かわっ!……揶揄うのはやめてください!」
新「揶揄ってないよ。本当のことさ……怒った顔も可愛いらしいね」
貴「新庄さん!」
あまり伝わっていない様子に、尚更恥ずかしくなって必死になる私にまたも笑っている新庄さん。……絶対私の反応見て楽しんでる。新庄さんって大人っぽい人だと思ってたのに……印象が変わりそうだ。結局私達のやり取りは飛行機が離陸した後も暫く続いた。
園「後ろの憐と新庄さん、何だか良い雰囲気じゃない?……」
蘭「うん……でも、憐にはあの幼馴染の男の子がいるのにいいのかなって……」
園「あのねぇ蘭……誰もがアンタや憐みたいに健気に幼馴染に尽くしている訳じゃないのよ。それにいい機会よ!憐には、他の男を見ておく必要があるのよ」
蘭と園子は、小声でコソコソ話す。内容は後ろで繰り広げられている憐と新庄のやり取りについて。園子は、2人の間に流れる雰囲気にニヤニヤしているが、蘭は少し心許なげに見つめる。
というのも、今まで幼馴染の男の子の話をしていなかった憐が、最近は少しずつ話してくれるようになった。
小さい頃にお菓子を巡って喧嘩したとか、スケートが苦手だから、この前スケートを教えてあげたとか、〝彼〟と過ごした思い出話の数々。聞いているこっちがドキドキしてしまうような話もあった……憐は、目尻をさげて笑って話すのだ。
それにふとした事でも「そういえば昔アイツもよくやってたっけ……」と何かと〝彼〟のことを零すことが明らかに増えたのだ。それを指摘すれば「そんな事ないよ!」と慌てて否定するけど、その男の子が憐にとって、特別な人間であることが否が応でも分かる。
(隠したって分かるよ……だって私と同じだからね)
小さい頃から新一と一緒に過ごしてきたからこそ、アイツとの思い出話が沢山あるように……憐にも小さい頃から一緒に過ごしていた〝彼〟との思い出は、沢山あり、そのひとつひとつが彼女の中でとても大切にされていることが傍から見ていて分かるのだ。
そんな憐の様子を、友人である自分もそして園子も、意地らしくて愛らしいと思うのだから、きっとその〝彼〟も憐のことを……
憐は、〝彼〟は自分ではなく、もう一人の幼馴染の事が好きなのだと悲しげな表情で語っていたが、蘭はそう思ってはいない。素直になれず、喧嘩したり、からかったり、意地悪をしていても……憐をわざわざ駅まで送っていったり、元気の無い憐を手品で励まし笑顔にさせていたり……きっと〝彼〟は憐のことを……大切に想っているのだろうと、蘭は密かに確信していた。
互いに互いのことを想っているのなら、あとはただお互いの矢印が向き合うだけ……憐が幸せになれる相手は、〝彼〟だけなのだから……。
(やっぱり新庄さんじゃ駄目よ……!憐にはあの男の子が一番!)
蘭は憐と〝彼〟の仲を応援していた。友人の幸せを心から願っている。面識がないけれど〝彼〟の為にも、大切な友人でもある憐が変な男の人に捕まらないように見張っておかなきゃと心の中で燃えていた。
園「ちょっと蘭……顔が怖いわよ」
蘭「……そんな事ないよ」
心中の決意が顔に出ていたようだ……怖い表情になっていた事を園子に心配されてしまった蘭は、直ぐに元の柔らかい笑みに直すのだった……。
──────────────────────
全員搭乗した事を確認し、飛行機は地面から機体を離し離陸する。離陸直後は急激な気圧の変化で耳に痛みが走ることがある。そういった時は耳抜きをするのだが、あまり可愛い絵面にはならないため、異性の前で行うのは幅かれる。ましてや好きな人の前で行いたくない……現にコナンくんに見られることを嫌がった歩美ちゃんは、コナンくんに前を向くよう注意していた。
暫く安定した空の旅が続いた。窓から見える景色は、見渡す限りの夜空と白い雲、荒れる天気予報となっていたが、まだ荒れる様子はない。
新「僕達の舞台はどうだったかな?」
貴「皆さんどなたも凄く良くて、特に牧さんと新庄さんが演じたジョゼフィーヌとイポリットが綺麗で素晴らしかったです……!」
新「そんなに喜んで貰えるとは、役者冥利に尽きるってもんだな……」
新庄さんが私に舞台の感想を求めた。演じていた男優の方に、普段観劇していない初心者が伝えるには、とても緊張するけど自分なりの言葉で伝えた。新庄さんにもちゃんと伝わったようで嬉しかった。
あれから数時間が経つ。少し小腹も空いていたので、巡回していたCAさんに洋菓子を頂く。飛行機の機内食なんて滅多に食べられないから、味わって食べていると横で見ていた新庄さんが、「僕も貰ってもいいかい?」と声をかけてきた。1人よりも2人で食べた方が美味しい、そう思って私の分を分けてあげた。新庄さんはスマートにお礼を言うと、早速口に運びもぐもぐと食べ無邪気な顔で美味しいと笑っていた。
切れ長のツリ目、スマートでかっこいい新庄さんが、子どもみたいに無邪気に喜んでお菓子を食べている。……その姿を見て、何故だかここには居ない彼の姿を思い浮かべる。
(全然似てないのに……何で快斗を思い出しちゃうかな……)
脳裏に浮かぶ美味しそうにお菓子を食べる幼馴染の姿。アイツもこうやってあげたお菓子を美味しそうに食べてくれるんだよね……あぁ、そっか。
少しの類似点だけで思い出しちゃう私って本当に馬鹿だなと思うけど、無意識なんだから救えない。
新「どうした?そんなに熱い眼差しで見つめてきて……もしかして、僕に見惚れてる?」
貴「へっ?!」
新「駄目だぜ……僕に惚れても…」
貴「ち、違いますっ!そんなんじゃないです!……」
新「へぇ〜それにしては目が泳いでいるようだけど?」
貴「うっ……」
上手く言い返せず、言葉が詰まる。もしかして私の心の内、バレてるのか……?
新「……僕の言うこと遮ってまで、否定したんだ。君にはいるんだろう?……他に好きな奴が。もしかして、今回キッドを捕まえようとしていた高校生探偵くんとか?」
少し挑発的に言葉を発する新庄さんを見て違和感を覚える。なんだろう……新庄さんのことは、まだよく分からないけど、何故だか纏う雰囲気に刺々しさが追加されたような感じがする。
貴「……た、確かに工藤くんは良い人ですよ!賢くて、サッカーも上手くて、同年代の男の子より大人っぽくて人気者なんですから。……でも工藤くんは、ある女の子の前だと明らかに雰囲気が変わるんです。」
新「…??」
貴「いつもの大人っぽさが無くなって年相応の顔になって笑ったり、素直になれなくてぶっきらぼうになったり……でも、その子のことをずっと守っている……これは本人にも伝えましたけど、その女の子と一緒にいる工藤くんが素敵だなと思うので、早くくっついて欲しいんですけどね〜」
新「へぇ〜…そうなんだな(名探偵のことは気の合う友人としか思ってないってことだな。……それなら良い)」
貴「??」
私の説明を聞いた新庄さんの雰囲気が変わったような……先程の刺々しさがなくなり、また元の柔らかい雰囲気に戻ったような感じだ。
新「じゃあ後は時間の問題だな」
貴「そうですね。ただお互い素直じゃないですからね〜あの2人は……私の幼馴染達と一緒で。」
最初出会った頃、顔も似ている工藤くんと蘭のやり取りを見ていると、青子と快斗を思い出して辛かった時もあった。しかし、今は二人は違う存在だと認識し、重ねることも少なくなり、純粋に応援出来るようになったのだ。
新「君の近くにも、彼らみたいな子達がいるんだな」
貴「そうなんですよ〜小さい頃からずっと一緒にいる幼馴染達がいるんですけど、その2人と彼らが似てるんです。お互い想いあっているのに素直になれないから喧嘩ばっかり……もう早く収まるところに収まって欲しいって思ってるんですけどね……」
快斗と青子だって時間の問題なんだよね。そうなると玲於の恋は実らないことになるけど、姉として慰める準備は何時でも出来ている……そして後からひっそり……自分の恋の終わりを慰めようとも考えている。
新「なるほどな……それはちゃんと本人達に確認したのか?」
新庄さんが発した言葉に驚いて思わず動作が固まる。何も言えない私に新庄さんは続けてこう言った。
新「幼少期からずっと一緒に居たとしても、他人であることには変わりない。家族だって結局自分とは違う……他人なんだ。幾ら深い関係だったとしても、本人にしか本当の気持ちは分からないものだよ。
敢えて問おう……君はちゃんと確認したのか?」
貴「そ、それはっ…………」
ハッキリと断言できない。だって、私は2人に直接確認はしていない。なんでって?……見ていれば分かるから。青子は特にそう……昔から分かりやすかった。明らかに玲於と快斗とで態度が違う。でもそれは快斗がいつも変なちょっかいを出すからだと思っていたけど、満更でもなさそうな青子を見て気づいたのは、私が中学生の時。
そして快斗はというと、昔聞いてしまった。彼が私の事について友人に話しているところに出くわしてしまったことがあった。状況的には盗み聞きみたいになってしまったけど、あの時出ていく勇気もなかった。
快『憐?アイツとも何もねーよ!……ただの幼馴染だ……』
―――そう、快斗にとって私は……ただの幼馴染なんだから……
貴「…………」
自分の手をギュッと握り込む。手首につけている赤のミサンガと白のムーンストーン……いつもは力を貰っているのに、今は尚更苦い記憶を呼び起こしている気がした。久々に思い出した苦い記憶……早くこれを何ともない普通の記憶だと思えるようになりたい。
新「どれだけ一緒にいたって、ソイツの全部が分かる訳じゃない。意外と知らないこともあるもんだぜ?もしかしたら君がそう思っているだけで、実際は違うのかもしれないしな……もし自信が無いなら一度、本人達に聞いてみな」
貴「……はい」
新庄さんがいる手前、あからさまに落ち込む姿を見せる訳にはいかない。何とか顔を上げて答えた。
―――しかし、この時の私は夢にも思わなかった……
牧「!!…ぐっ……う……ぐ……」
「「「「「「!?」」」」」」
――― 飛行機の中でまさかあんなことが起きるなんて……
貴「?!……今の声、呻き声みたい……」
新「!!……僕が様子を見てくる。君はここで大人しく待っているんだ!」
貴「あっ!ちょっと新庄さん!!」
通路側に座っていた新庄さんは、私を置いて前方へと向かう。その間にも呻き声は響き、他の皆も声のある方へ動き始める。
(何なの……嫌な予感しかしない。でも、皆いるんだから私も行かなくちゃ……)
一足遅れて私も前方の人集りに向かう。蘭達がすぐ前に立っており、蘭と園子の間にある隙間から覗いた。
貴「……!!」
二人の間の隙間から見えた光景に、思わず口に手をあてた。
小五郎さんの背中と、倒れ込んでいる人が一人……目を閉じて眠っているように見えるが、小五郎さんが首筋の脈を取った結果「ダメだ……」と呟いていることから、その人は助からなかったことを示す。
貴「っ………(牧……さん……)」
苦しそうな呻き声を出して亡くなった人は、今回行われた舞台の主演女優、牧樹里さんだった。あまりのショッキングな出来事に、声も出せず青ざめていると、自分の肩に手を置かれた。
新「だから大人しく待っていろと言ったんだ……君には耐えられないだろうからな」
貴「新庄さん……」
険しい顔をした新庄さんが、固まった私の体を引っ張って、座っていた座席へと誘導する。私を座らせた後、隣に自分も座った。
新「大丈夫……こういった不可解な事態にも対処出来るプロの探偵がいるんだ。すぐに解決してくれるさ。ここはプロに任せて、僕達は大人しくしていよう」
新庄さんから大人しくしているよう促される。また私が不安にならないよう、険しい表情から一変して穏やかに笑っていた。その態度に感化され、ようやく強ばっていた肩をおろす。私を心配する新庄さんの心遣いが純粋に嬉しかった。
貴「……ありがとうございます、新庄さん。分かりました、小五郎さん達の邪魔にならないように大人しくしています」
(新庄さんの言う通り、ここには小五郎さんがいるんだし、不安になる必要はないよね。大人しくしとこう……それに何だろう……新庄さんがそばに居るからか、パニックにならず落ち着いているしね)
前のエッグの事件の時に白鳥さんから感じた安心感を、何故か新庄さんにも感じている……あの時は白鳥さんがキッドだった訳だけど、まさかこの人…………
新「??……どうかしたかい?」
新庄さんをじっと見つめるけど、やっぱり分からない……それに本人だったら申し訳ないので、考えるのをやめた。
貴「いえ、すみません!……何でも無いです」
新庄さんに謝り、座席に座り直し、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。それだけでは心許ない為、自身の手首に巻いたミサンガを外し、手の中に収める。ミサンガに着いたムーンストーンは、こんな時でも白く輝いて見える。この輝きを見つめながら、ここにはいない幼馴染達との思い出を心の中で振り返りながら、長くて短い不安な時間を過ごした……。
隣の新庄さんが横目で、私を見つめていることも知らずに……
「スカイジャパン航空、函館行き、18時15分発、865便はただいまご搭乗手続きを行っております…865便にて函館へご出発のお客様は、8番搭乗口よりご搭乗ください……」
歩「すご〜〜い!フカフカだぁ!!」
阿「なかなかいいもんじゃのォ…」
元「社長みてーだぜ!!」
舞台観劇後、私達は場所を移動し、空港までやってきた。目的は函館にある牧さんの別荘に向かうためである。何でも牧さん達は、舞台の打ち上げを函館にある牧さんの別荘で行うらしい。また今回キッドが盗むと予告していた宝石は盗まれなかったらしい。宝石を守った功績から私達もその舞台の打ち上げに参加させて頂けることになった。そしてこれから函館に向かう飛行機に搭乗し、機内を見て歩美ちゃんや元太くんは喜びの声をあげていたのだった。
それぞれ各々の座席に座る。私は2名席の窓側に1人で座ることにした。蘭と園子が気を遣ってくれたけど、1人なら1人でも楽しめるのが私。それに窓側なら飛行機から見える景色を楽しめると思ったからだ。でも、搭乗前に見た天気予報だと、今夜は雨、しかも激しい雷雨だと出ていた。……あんまり良い景色は楽しめないかもしれないが、滅多に乗ることが出来ない飛行機自体を楽しむことに気持ちを切り替えた。
蘭「はぁ……どうしてこうなっちゃうんだろ…」
園「なるって…」
コ「なるよ……」
私の前の席の蘭が、自分のお母さんを呼び、何とか小五郎さんとの関係修復の為、色々仕組んだみたいだけど、聞こえた声の様子から駄目だったようだ。蘭のお母さんと小五郎さんは、言わば小さい頃からの幼馴染夫婦。ある時を境に別居しているようだが、籍を抜いてないあたり互いに素直になれないだけの夫婦なんだろうな。
蘭達の様子を後ろからこっそり観察していると、入口の方に新たな人物が立っていることに気づく。
新「どうも皆さん、お待たせしました!」
牧「新庄さん!」
その人物とは舞台にも出演していた新庄さん。舞台の打ち上げなのだから、彼が居ても不思議では無い。しかし、新庄さんは体調が悪いからキャンセルすると今朝矢口さんが電話を貰っていたのだと共有があったのだ。だから新庄さんは、来ないことになっていたけど、現実は違う。体調不良どころかピンピンして元気な姿を見せている新庄さん。
牧「貴方体調が悪いからキャンセルしたって……」
新「いや〜…それが体調も戻ったし、1人でいても暇なんで、やっぱり僕も参加する事にしたんです!
遅くなりました、ジョゼフィーヌ様……」
膝を着き、牧さんの手に口付けをする新庄さんは自身の役でもあったイポリットのよう……ここは舞台の上では無いのに、さすが役者さん……様になるな。
牧「どうして言われた通りにしないの?!」
新「大丈夫です…向こうに着いてからでも十分…」
でも牧さんは、新庄さんに対して怒っているようだった。……何故あんなに怒るのだろう?
(そんなに怒ることだろうか……?)
漠然と考えながら、ぼんやり窓の外の景色を眺めていると、その窓に誰かの姿が反射する。
貴「!!」
振り返るとそこには新庄さんが、柔和な笑みを浮かべて立っていた。
新「どこも埋まってて空いてなくてさ……隣座ってもいいかい?」
貴「は、はい!私の隣で宜しければ……」
どうぞと返答すれば、「ありがとう」と爽やかに私の隣に座った新庄さん。彼は役者で、私は一般人、親しい仲でもないのだから、気にしすぎるのもな〜と思い、再度外に目を向けようとする……しかし、またもや窓の反射に映っている。気の所為だと思いたいけど、気の所為じゃない……
貴「……」チラッ
恐る恐る隣の方に視線を向けると、新庄さんがニコニコしながらこちらを見ていた。
(な、何故??なんでこっち見てるの?!私なんか変かな……それにしたって無言で見すぎじゃない?でも笑ってるしな〜……何故?!)
顔にも出ていたかもしれないが、私には余裕がなかった。そこまで面識のない男の人に、理由もなく見られていては焦ってしまう。すると、私の百面相を見ていた新庄さんが今度は声を上げて笑い始めた。
新「くくっ…ごめんごめん!君の表情がコロコロ変わるのが可愛いくてね……」
貴「か、かわっ!……揶揄うのはやめてください!」
新「揶揄ってないよ。本当のことさ……怒った顔も可愛いらしいね」
貴「新庄さん!」
あまり伝わっていない様子に、尚更恥ずかしくなって必死になる私にまたも笑っている新庄さん。……絶対私の反応見て楽しんでる。新庄さんって大人っぽい人だと思ってたのに……印象が変わりそうだ。結局私達のやり取りは飛行機が離陸した後も暫く続いた。
園「後ろの憐と新庄さん、何だか良い雰囲気じゃない?……」
蘭「うん……でも、憐にはあの幼馴染の男の子がいるのにいいのかなって……」
園「あのねぇ蘭……誰もがアンタや憐みたいに健気に幼馴染に尽くしている訳じゃないのよ。それにいい機会よ!憐には、他の男を見ておく必要があるのよ」
蘭と園子は、小声でコソコソ話す。内容は後ろで繰り広げられている憐と新庄のやり取りについて。園子は、2人の間に流れる雰囲気にニヤニヤしているが、蘭は少し心許なげに見つめる。
というのも、今まで幼馴染の男の子の話をしていなかった憐が、最近は少しずつ話してくれるようになった。
小さい頃にお菓子を巡って喧嘩したとか、スケートが苦手だから、この前スケートを教えてあげたとか、〝彼〟と過ごした思い出話の数々。聞いているこっちがドキドキしてしまうような話もあった……憐は、目尻をさげて笑って話すのだ。
それにふとした事でも「そういえば昔アイツもよくやってたっけ……」と何かと〝彼〟のことを零すことが明らかに増えたのだ。それを指摘すれば「そんな事ないよ!」と慌てて否定するけど、その男の子が憐にとって、特別な人間であることが否が応でも分かる。
(隠したって分かるよ……だって私と同じだからね)
小さい頃から新一と一緒に過ごしてきたからこそ、アイツとの思い出話が沢山あるように……憐にも小さい頃から一緒に過ごしていた〝彼〟との思い出は、沢山あり、そのひとつひとつが彼女の中でとても大切にされていることが傍から見ていて分かるのだ。
そんな憐の様子を、友人である自分もそして園子も、意地らしくて愛らしいと思うのだから、きっとその〝彼〟も憐のことを……
憐は、〝彼〟は自分ではなく、もう一人の幼馴染の事が好きなのだと悲しげな表情で語っていたが、蘭はそう思ってはいない。素直になれず、喧嘩したり、からかったり、意地悪をしていても……憐をわざわざ駅まで送っていったり、元気の無い憐を手品で励まし笑顔にさせていたり……きっと〝彼〟は憐のことを……大切に想っているのだろうと、蘭は密かに確信していた。
互いに互いのことを想っているのなら、あとはただお互いの矢印が向き合うだけ……憐が幸せになれる相手は、〝彼〟だけなのだから……。
(やっぱり新庄さんじゃ駄目よ……!憐にはあの男の子が一番!)
蘭は憐と〝彼〟の仲を応援していた。友人の幸せを心から願っている。面識がないけれど〝彼〟の為にも、大切な友人でもある憐が変な男の人に捕まらないように見張っておかなきゃと心の中で燃えていた。
園「ちょっと蘭……顔が怖いわよ」
蘭「……そんな事ないよ」
心中の決意が顔に出ていたようだ……怖い表情になっていた事を園子に心配されてしまった蘭は、直ぐに元の柔らかい笑みに直すのだった……。
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全員搭乗した事を確認し、飛行機は地面から機体を離し離陸する。離陸直後は急激な気圧の変化で耳に痛みが走ることがある。そういった時は耳抜きをするのだが、あまり可愛い絵面にはならないため、異性の前で行うのは幅かれる。ましてや好きな人の前で行いたくない……現にコナンくんに見られることを嫌がった歩美ちゃんは、コナンくんに前を向くよう注意していた。
暫く安定した空の旅が続いた。窓から見える景色は、見渡す限りの夜空と白い雲、荒れる天気予報となっていたが、まだ荒れる様子はない。
新「僕達の舞台はどうだったかな?」
貴「皆さんどなたも凄く良くて、特に牧さんと新庄さんが演じたジョゼフィーヌとイポリットが綺麗で素晴らしかったです……!」
新「そんなに喜んで貰えるとは、役者冥利に尽きるってもんだな……」
新庄さんが私に舞台の感想を求めた。演じていた男優の方に、普段観劇していない初心者が伝えるには、とても緊張するけど自分なりの言葉で伝えた。新庄さんにもちゃんと伝わったようで嬉しかった。
あれから数時間が経つ。少し小腹も空いていたので、巡回していたCAさんに洋菓子を頂く。飛行機の機内食なんて滅多に食べられないから、味わって食べていると横で見ていた新庄さんが、「僕も貰ってもいいかい?」と声をかけてきた。1人よりも2人で食べた方が美味しい、そう思って私の分を分けてあげた。新庄さんはスマートにお礼を言うと、早速口に運びもぐもぐと食べ無邪気な顔で美味しいと笑っていた。
切れ長のツリ目、スマートでかっこいい新庄さんが、子どもみたいに無邪気に喜んでお菓子を食べている。……その姿を見て、何故だかここには居ない彼の姿を思い浮かべる。
(全然似てないのに……何で快斗を思い出しちゃうかな……)
脳裏に浮かぶ美味しそうにお菓子を食べる幼馴染の姿。アイツもこうやってあげたお菓子を美味しそうに食べてくれるんだよね……あぁ、そっか。
少しの類似点だけで思い出しちゃう私って本当に馬鹿だなと思うけど、無意識なんだから救えない。
新「どうした?そんなに熱い眼差しで見つめてきて……もしかして、僕に見惚れてる?」
貴「へっ?!」
新「駄目だぜ……僕に惚れても…」
貴「ち、違いますっ!そんなんじゃないです!……」
新「へぇ〜それにしては目が泳いでいるようだけど?」
貴「うっ……」
上手く言い返せず、言葉が詰まる。もしかして私の心の内、バレてるのか……?
新「……僕の言うこと遮ってまで、否定したんだ。君にはいるんだろう?……他に好きな奴が。もしかして、今回キッドを捕まえようとしていた高校生探偵くんとか?」
少し挑発的に言葉を発する新庄さんを見て違和感を覚える。なんだろう……新庄さんのことは、まだよく分からないけど、何故だか纏う雰囲気に刺々しさが追加されたような感じがする。
貴「……た、確かに工藤くんは良い人ですよ!賢くて、サッカーも上手くて、同年代の男の子より大人っぽくて人気者なんですから。……でも工藤くんは、ある女の子の前だと明らかに雰囲気が変わるんです。」
新「…??」
貴「いつもの大人っぽさが無くなって年相応の顔になって笑ったり、素直になれなくてぶっきらぼうになったり……でも、その子のことをずっと守っている……これは本人にも伝えましたけど、その女の子と一緒にいる工藤くんが素敵だなと思うので、早くくっついて欲しいんですけどね〜」
新「へぇ〜…そうなんだな(名探偵のことは気の合う友人としか思ってないってことだな。……それなら良い)」
貴「??」
私の説明を聞いた新庄さんの雰囲気が変わったような……先程の刺々しさがなくなり、また元の柔らかい雰囲気に戻ったような感じだ。
新「じゃあ後は時間の問題だな」
貴「そうですね。ただお互い素直じゃないですからね〜あの2人は……私の幼馴染達と一緒で。」
最初出会った頃、顔も似ている工藤くんと蘭のやり取りを見ていると、青子と快斗を思い出して辛かった時もあった。しかし、今は二人は違う存在だと認識し、重ねることも少なくなり、純粋に応援出来るようになったのだ。
新「君の近くにも、彼らみたいな子達がいるんだな」
貴「そうなんですよ〜小さい頃からずっと一緒にいる幼馴染達がいるんですけど、その2人と彼らが似てるんです。お互い想いあっているのに素直になれないから喧嘩ばっかり……もう早く収まるところに収まって欲しいって思ってるんですけどね……」
快斗と青子だって時間の問題なんだよね。そうなると玲於の恋は実らないことになるけど、姉として慰める準備は何時でも出来ている……そして後からひっそり……自分の恋の終わりを慰めようとも考えている。
新「なるほどな……それはちゃんと本人達に確認したのか?」
新庄さんが発した言葉に驚いて思わず動作が固まる。何も言えない私に新庄さんは続けてこう言った。
新「幼少期からずっと一緒に居たとしても、他人であることには変わりない。家族だって結局自分とは違う……他人なんだ。幾ら深い関係だったとしても、本人にしか本当の気持ちは分からないものだよ。
敢えて問おう……君はちゃんと確認したのか?」
貴「そ、それはっ…………」
ハッキリと断言できない。だって、私は2人に直接確認はしていない。なんでって?……見ていれば分かるから。青子は特にそう……昔から分かりやすかった。明らかに玲於と快斗とで態度が違う。でもそれは快斗がいつも変なちょっかいを出すからだと思っていたけど、満更でもなさそうな青子を見て気づいたのは、私が中学生の時。
そして快斗はというと、昔聞いてしまった。彼が私の事について友人に話しているところに出くわしてしまったことがあった。状況的には盗み聞きみたいになってしまったけど、あの時出ていく勇気もなかった。
快『憐?アイツとも何もねーよ!……ただの幼馴染だ……』
―――そう、快斗にとって私は……ただの幼馴染なんだから……
貴「…………」
自分の手をギュッと握り込む。手首につけている赤のミサンガと白のムーンストーン……いつもは力を貰っているのに、今は尚更苦い記憶を呼び起こしている気がした。久々に思い出した苦い記憶……早くこれを何ともない普通の記憶だと思えるようになりたい。
新「どれだけ一緒にいたって、ソイツの全部が分かる訳じゃない。意外と知らないこともあるもんだぜ?もしかしたら君がそう思っているだけで、実際は違うのかもしれないしな……もし自信が無いなら一度、本人達に聞いてみな」
貴「……はい」
新庄さんがいる手前、あからさまに落ち込む姿を見せる訳にはいかない。何とか顔を上げて答えた。
―――しかし、この時の私は夢にも思わなかった……
牧「!!…ぐっ……う……ぐ……」
「「「「「「!?」」」」」」
――― 飛行機の中でまさかあんなことが起きるなんて……
貴「?!……今の声、呻き声みたい……」
新「!!……僕が様子を見てくる。君はここで大人しく待っているんだ!」
貴「あっ!ちょっと新庄さん!!」
通路側に座っていた新庄さんは、私を置いて前方へと向かう。その間にも呻き声は響き、他の皆も声のある方へ動き始める。
(何なの……嫌な予感しかしない。でも、皆いるんだから私も行かなくちゃ……)
一足遅れて私も前方の人集りに向かう。蘭達がすぐ前に立っており、蘭と園子の間にある隙間から覗いた。
貴「……!!」
二人の間の隙間から見えた光景に、思わず口に手をあてた。
小五郎さんの背中と、倒れ込んでいる人が一人……目を閉じて眠っているように見えるが、小五郎さんが首筋の脈を取った結果「ダメだ……」と呟いていることから、その人は助からなかったことを示す。
貴「っ………(牧……さん……)」
苦しそうな呻き声を出して亡くなった人は、今回行われた舞台の主演女優、牧樹里さんだった。あまりのショッキングな出来事に、声も出せず青ざめていると、自分の肩に手を置かれた。
新「だから大人しく待っていろと言ったんだ……君には耐えられないだろうからな」
貴「新庄さん……」
険しい顔をした新庄さんが、固まった私の体を引っ張って、座っていた座席へと誘導する。私を座らせた後、隣に自分も座った。
新「大丈夫……こういった不可解な事態にも対処出来るプロの探偵がいるんだ。すぐに解決してくれるさ。ここはプロに任せて、僕達は大人しくしていよう」
新庄さんから大人しくしているよう促される。また私が不安にならないよう、険しい表情から一変して穏やかに笑っていた。その態度に感化され、ようやく強ばっていた肩をおろす。私を心配する新庄さんの心遣いが純粋に嬉しかった。
貴「……ありがとうございます、新庄さん。分かりました、小五郎さん達の邪魔にならないように大人しくしています」
(新庄さんの言う通り、ここには小五郎さんがいるんだし、不安になる必要はないよね。大人しくしとこう……それに何だろう……新庄さんがそばに居るからか、パニックにならず落ち着いているしね)
前のエッグの事件の時に白鳥さんから感じた安心感を、何故か新庄さんにも感じている……あの時は白鳥さんがキッドだった訳だけど、まさかこの人…………
新「??……どうかしたかい?」
新庄さんをじっと見つめるけど、やっぱり分からない……それに本人だったら申し訳ないので、考えるのをやめた。
貴「いえ、すみません!……何でも無いです」
新庄さんに謝り、座席に座り直し、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。それだけでは心許ない為、自身の手首に巻いたミサンガを外し、手の中に収める。ミサンガに着いたムーンストーンは、こんな時でも白く輝いて見える。この輝きを見つめながら、ここにはいない幼馴染達との思い出を心の中で振り返りながら、長くて短い不安な時間を過ごした……。
隣の新庄さんが横目で、私を見つめていることも知らずに……