世紀末の魔術師【完】
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キッドが居なくなった後も、私はベランダで月を眺めていた。私の好きな月は、夜ではないとよく見えない。しばしば家のベランダから見える住宅街の仄かな灯と、空に浮かぶ月を眺めるのが密かに好きだった。
(……色んなことがあったな。)
快斗に駅まで送って貰ってドキドキしたり
大阪に行って服部くんと和葉ちゃんと出会えたり
園子にインペリアル・イースター・エッグを見せてもらったり
エッグを狙ったキッドがスコーピオンに撃たれて、生死不明のままが続いてヤキモキしたり
そこから夏美さんと出会ってエッグの謎とキッドの生存をかけて、自ら同行を志願したり
喜市さんのカラクリと本当のメモリーズ・エッグの意味を知ったり
スコーピオンが浦思さんだと分かり、そのスコーピオンに命を狙われたり
白鳥さんに助けられて、実はその正体がキッドだったり
横須賀のお城が燃えたり
キッドと再会出来、助けて貰ったことの感謝も伝えられた
かいつまんで話してもこれだけの文量である。ここ数日の思い出が濃すぎるな。思うことは沢山ある。キッドが生きてて良かったなとか、蘭はあの後、コナンくんと工藤くんのことを聞けたのかなとか、夏美さんの曾お祖母さんが見つかって良かったなとか…………後は、命を狙われたことが、今になって少し……怖くなってしまったこととか。
人が殺される事件に巻き込まれることが多くなって、それでも色々と大変なのに、その当事者に自分もなりそうだったのが、今回はだいぶ精神にきたのかもしれない。生きているうちに、人から殺されそうになった経験をした人なんて早々いないだろう。
―――キッドに助けて貰えなければ今頃私は……
そう簡単に拭える恐怖ではない。せっかく良い気分で今日を終えられそうなのに、フラッシュバックしそうだ。
(……もしキッドに助けて貰えなかったら、今頃私はこの世にいないし、きっと家族達や友達、青子や快斗とも会えなくなってたんだもんな……あぁ、怖い……)
一度は耐えられた恐怖や不安も、一人になると考えてしまって再度蘇る。
嫌だ……助けて……誰かっ……
(……もう夜遅いけど、いいかな?)
ふと脳裏によぎった存在。ポケットから出した自分の携帯。携帯の発信履歴の上から2番目の番号を表示する。1番上は、大阪から帰宅する時に、双子の弟にかけたものだ。最新はその番号になってるけど、全体を通して見ると着信履歴も発信履歴も、この2番目の番号が多い。それにこの番号のみ、着メロが他と違う。……アイツからかかってきたらすぐ気づけるようにする為だ。 どんな連絡も逃したくないから。
まぁそんなことはどうでも良くて……、どんな時もそばにいて欲しいと思うから……、頼ってもいいのだと教えてくれたから……、私はアンタに寄りかかっちゃうんだよ。
アイツに貰った赤いミサンガ。今も手首に着けているけど今までと違うのは、そこにキラリと輝くムーンストーンが結びつけてあること。ムーンストーンを見つめながら、発信履歴の2番目の番号に電話をかける。出来れば出て欲しいな……。
―――……プルルルルッ!
背後で着信音が鳴っている。音にびっくりして振り返る。
貴「……快斗!」
そこには自身の携帯を耳に当てて、窓を開けてこちらを見る快斗の姿があった。
貴「
まさか背後にいるなんて思わなかったから、驚いて大きな声を出してしまった。
快「……一応弁解しとくと、俺はちゃんと入る前にノックして声掛けたぜ。」
快斗は悪びれもなく堂々と言い放つ。
貴「え?ほんとに??」
快「流石にお前の部屋に無断で入るわねぇだろ!玲於の部屋で喋ってたけど、玲於が便所行って暇になったから、こっち来たんだよ。玲於からお前が帰ってきてたことは聞いてたからな。
それでノックして声掛けたけど、全然反応ねぇから何かあったんじゃないかと思って入ってみたらもぬけの殻だから驚いたぜ。だけど、お前よくベランダに出ては外を眺めてるのを思い出してな……。カーテン開けたら、お前がいたから声をかけようとしたら、俺の携帯が鳴ったって訳だ。」
貴「へ、へぇー……」
経緯を説明されても今は頭に入ってこない。まさかいるとは思わなかったから、軽くパニック。今更柄にもないことしたと後悔してるから、何故電話をかけたのかと追求されると困る。
快「で……俺に何か用があったのか?」
貴「えっ?!……えっとその……」
私の隣に立ち、手すりに肘をつきながら訳を聞いてくる快斗。彼は夜空を見上げていた。
(いきなりすぎて心の準備が整ってないよ!いやでもせっかく来てくれた訳だし……頑張れ憐!しっかりしなさい!女は度胸……)
きっと私が話しやすいように、敢えて視線を合わせないでいてくれてるんだ。彼の気遣いが嬉しい。今までずっと……彼に素直になれなかった。でも、自分を頼っていいのだと、どんな私でも受け止めてくれると言い切った快斗……だから、少しだけ寄りかかってもいいかな。
貴「この数日間、色んな事があったの……」
上空で一際輝く月を見上げて話す。
快「……どんな事があったんだ?」
彼は静かに話の続きを促す。見ているものは同じだと思いたい。心を落ち着かせて、話を切り出す。
貴「友達に見せて貰った美術品が、とても貴重で素晴らしい物だった。それ故に色んな人から狙われていた……快斗の好きな怪盗キッドも狙っていたの。でもその美術品を狙っていた悪い人に、命を狙われて、狙撃された。生きてるかも死んでるかも分からないまま……数日間過ごした。」
快「……」
貴「でも何度も助けてくれたキッドが、そんな簡単にいなくなるはずないって思ってた……きっとどこかで生きているんじゃないかって思った……勘だったけどね。」
快「そうか……憐の勘はよく当たるからな。それでお前の思った通り、キッドはちゃんと生きていた。そうだろう?」
貴「……そうだよ、ちゃんと生きていた。」
快「それでお前はどう思ったんだ……」
どう思った?そんなの…………
貴「安心したよっ……だって死んで欲しくなかったから!本当に良かった!……」
私が見た事、感じた事、考えている事を出来るなら、快斗だけは全てを知っていて欲しい……さらけ出せるのは彼だけなのだから
快「あぁ……良かったな憐。」
快斗は私の率直な思いにも、一緒に喜んでくれた。嬉しかった……でも、本当に伝えたかったのはこれだけじゃない。
貴「……でもね、怖かったこともあるの。」
見上げていた視線を手すりに移す。今でも思い出すだけで、気が滅入り手足が震える。
貴「さっき言ったよね?怪盗キッドは悪い人に命を狙われたって……実は、私も命を狙われたの……その人に……」
快「は?!(スコーピオン……!)」
ここでやっと快斗の方に目を向ける。彼は目を見開き、驚いているように見えた。
貴「その人は、私の友達と友達のお父さんを撃った。その時は、小さい男の子が守ったおかげで二人に怪我はなかった。」
快(名探偵のことか……!)
貴「でもそうしたら、今度は私に銃口を向けて撃ってきたの……」
快「おい、大丈夫かよ!傷は?!」
慌てて私の両肩を掴む快斗。こんなに焦っている快斗、久々に見た気がする。
貴「ないよ!……キッドが助けてくれたの……身を呈して私を守ってくれた……」
快「そうか……良かったぜ、お前になんともなくて……(分かってはいたが、本当にあの時護れて良かった。憐に何かあったら、俺は自分を許せなくなる……)」
彼はふぅ……と息を吐いて再度落ち着きを見せる。
快「どうした憐?なんでお前が驚いてんだよ……??」
私が驚いたような顔をしてるから、彼まで驚きの表情を見せる。
貴「だって……そこまで心配してくれるなんて思わなかったっ!」
もう終わったことだし、キッドのおかげで最悪な結末を回避できた。そこまで心配するような事じゃないのに、快斗は当たり前のように気にかけてくれた。いつもは取り乱さない快斗が、分かりやすく焦ってくれたのが、嬉しかった。喜びとあの時の恐怖を思い出して、涙が溢れ出てくる。私は涙が流れるのも気にせず、快斗に必死に訴える。
貴「あのね……キッドが助けてくれたから、私は助かったし、傷ひとつ無い。でも怖かったっ……銃を向けられた時……これで撃たれたら、きっと私なんか死んじゃって……もう家族や友達と会えないのかなって考えちゃってさ…っ…」
快(憐っ……)
貴「青子にも…っ…、快斗にも…っ…、もう会えないと思ったら、怖くて……怖かったよぉ……っ……」
大粒の涙は頬をつたって、ポタポタと落ちていく。前から思っていたけど、私の涙腺は本当に緩くなった。特に快斗の前だと、我慢する必要が無いと思ったら止まらなくなった。
家のベランダで号泣する女……みっともない姿だと思う。でも部屋で泣いたら家族に気づかれるかもしれない。家族に心配かけたくなかった。涙を自分の手で拭っていると、頭上に影がかかる。
気づくと私の身体は、彼が覆うように抱き締められていた。
(えっ……)
顔をあげようとするも、後頭部を彼の胸に抑えられてあげられない。こんなことしたら涙で服が汚れてしまう。それでも彼は抱き締める力を抑えなかった。そして、いつもよりも少し掠れた声で語りかけた。
快「……よく頑張ったな憐。大丈夫だよ、お前を苦しめる奴はここには居ない……。
それでもまだ不安なら、俺がお前を護る……だから、もう泣くな……。」
小さい頃からずっと傍にいた幼馴染。いつから好きだったのか、それはまだ彼のお父さんが生きていた頃からかな……。
私はいっつも素直になれなくて……彼と喧嘩しながらも甘えられる青子が羨ましかった。
私ともよく喧嘩をするけど、それでも私にも優しい所、ちゃんと気にかけてくれる所、マジックで私や周りを楽しませてくれる所、その他好きな部分が沢山あって、全部あげたらキリがない。
彼は優しいのだ……青子が好きなのは分かってる……それでも……報われなくてもいい。
(例え結ばれなくとも……ずっと大好きよ……)
貴「……ありがとう……、快斗……」
快斗の優しさが嬉しくて、暫く彼の腕の中で泣きじゃくった。彼が家に帰る頃には、夜もだいぶ更けていた。私が泣き止むまで傍にいてくれた快斗。彼は最後に薔薇のマジックを見せてくれた。それを見て笑う私に安心した快斗は、私の部屋から出た後、隣の部屋で待っていた玲於にバレないよう何とか誤魔化して、家に帰って行った。
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―――…数日後
青「大阪の花火って凄い派手なんだね〜!」
貴「そうなんだよ〜、本当に綺麗だったな……。」
青「憐お土産ありがとう〜!このサファイア、とっても可愛いな〜」
貴「どういたしまして…!青子には、澄んだ青色が似合うね。」
玲「僕のはキャッツアイなんだね。」
貴「そうだよ……気に入った?」
玲「うん、とっても!」
数日後憐達は、玲於の部屋に集まってそれぞれ青子と玲於に大阪のお土産を渡した。お土産は快斗にもあげたそれぞれの誕生石があしらわれたストラップだ。憐から貰ったお土産を、翳したり、手に転がしてみたりと二人は喜んでいた。そんな様子を優しく見つめる憐と、快斗。
青「あれ?快斗にはないの?」
貴「えっと……快斗には先にあげてるから!」
青「そうなの〜?じゃあ青子達にも見せてよ!」
貴「えっ!それは……!」
自分と彼の石は交換してある……青子にもしそれがバレたら、あまり良い気はしないだろうなと考え、悩みながらも、困ったように快斗に視線を送る憐。
理由までは分からないが、何か言えない事情が二人にあると考え、見守っている玲於。
そして視線を受けた快斗は、気だるそうに言い放つ。
快「確かに、俺は先に憐から貰ってるぜ。」
青「なら見せてよ〜!快斗はどんな物貰ったの?」
快「やなこった!これは俺が貰ったんだから、俺だけが知ってればいいんだよ!」
顔を背けて話す快斗。それどころか、舌を出して更に青子を煽る始末。
青「何でよー!別に減るもんじゃないしいいじゃない!」
玲「そうだよ〜僕らに見せられないなんて、何か特別な訳でもあるのかな?」
怒り出す青子に、宥めながらも鋭い指摘を入れる玲於。あわあわし出す憐。状況はあまり良くないが、それでも快斗は教えなかった。
快(……青子はともかく玲於は絶対石の意味を知っている。俺から憐に石の交換を申し出たなんて言ったら、絶対含み笑いしてくるぜ。)
親友だけど、時々自分と憐の関係を見て楽しんでいる玲於に、これ以上情報を与えたくなかった。口を割ろうとしない快斗に諦めを見せた青子と玲於は、標的を快斗から贈り主の憐へと変える。憐に詰め寄る青子と玲於に対し、憐は言い淀んでいた。しかし、彼女も言えなかった……快斗の石と交換したなんて、快斗は気にしていないかもしれないけど、よくよく考えてみると、何だか恋人同士みたいなことだと感じて、恥ずかしくて言えなかった。それに快斗の事が好きな青子に伝えたら、悲しませてしまうかもしれないと思ったら、素直に言えなかった。
それと……ムーンストーン見ると彼の抱擁を思い出してしまい、申し訳なさと嬉しさと羞恥心が一気に襲ってきて、彼女は自分の感情に翻弄されて、何が正解なのか分からなかった。
快「憐も教えんなよ!お前から貰ったけど、貰った石はお前の手元から離れて、俺の所有権にある。その持ち主の俺が教えるなって言ったんだから、こいつらに勝手に漏らすなよ!」
貴「う、うん……」
理不尽な命令だが、これで助かったと素直に従う憐。その態度に満足気な快斗。この二人のやり取りにどこか釈然としない青子と玲於。
青「憐にまで箝口令を敷くのは狡いわよ!!」
玲「酷いな快くん……僕と君の仲だろう……?(これは相当良い事があったと見た……)」
再度抗議の声をあげる青子と、快斗を責めつつも、彼の内心を察した玲於。
(快くんは、本当に嬉しかった出来事は隠す傾向があるからな……しかも姉さん関連だと、なおのこと教えてくれないんだよね〜……まぁ、ある意味分かりやすいけど……)
そう考察しながら、憐の方に視線を向ける玲於。玲於に意味深な視線を向けられていることにドギマギしている憐。その様子は挙動不審で、玲於は笑いが零れてしまった。
貴「あーー!もうこんな時間!ほ、ほら!今日は青子の家で食べる約束でしょ?もうそろそろ銀三さんも帰ってくるし、夜ご飯の支度しないと!」
弟からの温かな視線、含み笑いに耐えきれず、憐は、視線を送っている玲於や今だ言い合いをしている快斗と青子にも聞こえるよう声をあげる。
青「そうだった!早くしないとお父さん帰ってきちゃうよ!!憐行くよ!」
貴「了解〜!ちなみに今日は何を作るの?」
青「焼肉だよ!お父さんが良い肉を買ってきてくれるから、青子達はサラダとかお父さん用におつまみ作らなくちゃ!
あっ!そういえばプレートで焼く野菜が少し足りないのよね〜……快斗と玲於で買ってきてよ!」
憐の言葉に、青子は慌てたように立ち上がる。ちなみに今日の神崎家の母親は、旧友達と飲みに行くと言って、早くから家を出ている。それなら自分の家で食べようと、青子からの提案だった。それを聞き付けた父親の銀三は、その提案を受け入れ、仕事の帰りに良い肉を買ってくるからと張り切って家を出かけたのだ。
その銀三がもうすぐ帰ってくる。その前にこの前の大阪旅行の大まかな話とお土産を渡すことになったのだ。
玲「了解!必要なものはメールで送っておいてね。それじゃ、準備してから出るから快くんは先に外で待ってて。」
青「お願いね〜……じゃあ青子先に準備始めちゃうから、憐もなるべく早く来てよ!」
そう言って玲於と青子は、部屋から出ていく。残されたのは、憐と快斗の二人きり。あまり乗り気では無い快斗の姿を見て、憐は笑いながら声をかける。
貴「ねぇ、快斗!私アイス食べたい……!」
快「は?」
貴「だから買ってきてよアイス!バニラアイス!」
快斗に詰寄る憐に、距離の近さにそっぽを向く快斗。
快「分かったから!落ち着けっての!急にどうしたんだよ……」
半ばヤケクソな対応だ。彼の内心は、目の前の彼女に心乱されて正常な対応は難しいらしい。
貴「バニラだけじゃないよ!ストロベリーとチョコミント……それとチョコアイスもね?」
次々フレーバーをあげられた時、彼は悟った。
ストロベリーは青子、チョコミントは玲於、バニラは憐、チョコは自分の好きな種類だと……
貴「ご飯食べ終わったら、皆でアイス食べよ?」
意味が分かって憐を見つめていると、憐はクスッと笑った。……つくづくコイツは俺をやる気にさせるのが上手い。彼は仕方ないと言いたげに、彼女に背中を向ける。
快「……ったく、しゃーねーな……そこまで言うな買ってきてやるよ。とびっきりのアイスをな!」
こうして快斗と玲於は買い出しへ、憐と青子は夕餉の支度へとそれぞれの作業にとりかかる。そして完成した頃には、銀三も家に帰宅し、その日は、憐の不安や恐怖を吹き飛ばす程の賑わった食事となった。
悲しげな彼女の姿はもうなかった……
END
〜あとがき〜
やっと世紀末完結致しました!ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございます🙇♀️
色々オリジナリティー溢れておりますが、書ききったことがもう満足です。次はまだ考えておりませんが、恐らく銀翼か
改めましてお読み頂きありがとうございました!次回作は気長にお待ち頂ければ幸いです🙇♀️