世紀末の魔術師【完】
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貴「…………」
浦思さんを追いかけたコナンくんがエッグを持って無事戻ってきた。コナンくんが言うには、やっぱり浦思さんがスコーピオンで、白鳥刑事が捕まえて連行していってくれたらしい。
お城は燃えてしまったけど、スコーピオンも捕まって、エッグも無事に戻ってきた。最善の結果とは言えないけれど、それでも悪くない結果ではないだろうか。少なくとも私の大切な人達は、皆無事だった。それぐらいなら喜んでもいいでしょ?
……それに、あの人もちゃんと生きていた。コナンくんを追いかけてしまってから会えていないが、怪我もなく生きていて……、また私を助けてくれた。
浦思さんから撃たれそうになった時、耳に届いたのは大好きな人によく似た声だった。
『憐っ!!!』
あの時は気が動転していて、ろくにお礼は伝えられなかったし、考えられなかったけど、あの声は白鳥刑事の声じゃなかった。……大好きな幼馴染によく似た声で、私を庇って助けてくれた。頭では理解しても……声が聞こえた時、私は快斗を思い出してしまったのだ。でも実際に助けてくれたのは白鳥さん……。白鳥さんとはまだ知り合ったばかりだから、多くのことは知らない。だけど、あの声を聞いて……、
白『貴女が無事なら良いんですよ……。』
あの優しい眼差しを見て、既視感があった。私はあの瞳を何処かで見ている……いや、違う……何度も見ている……この感じ……何処かで……まさかっ!?
庇われた時にようやく気づいた。白鳥さんの正体に。
―――白鳥さんは、キッド……!
生きていると信じていた……だけど、気づいた時にはもう遅くて、コナンくんを追いかけて行ってしまった。結局あの後も帰ってきたのはコナンくんのみで、白鳥さんとは会えていない。
家に帰った後も、青子から送られてきたメールの返信の時も、玲於と母からの労いの言葉を貰った時も、対応はしながらも頭の中では彼のことを考えていたのだ。あんまりにも考えるものだから、気分転換したくて、自室のベランダで夜空を見上げてみる。上空には綺麗な星空と、少し欠けた月が優しく光っている。でもやっぱり考えてしまう。
貴「……結局また助けられちゃったな。優しすぎるよキッドは……今回大変だったのは貴方の方なのに……」
なんで、彼は私なんかを助けてくれるのだろうか……?やっぱりコナンくんの言った通り、彼の正体は私の身近にいる人物??
「お礼伝えそびれちゃった……そろそろ私、彼に何かあげた方がいいのでは??でも宝石あげられるほどお金ないしね〜……。」
お礼の言葉だけでは、足りない……何なら彼に献上する物があったりした方がいいのだろうか。
貴「ちょっと待って……白鳥さんがキッドなら、そういえば私……
あの時は本当に白鳥さんだと思っていたし、必死だったから今の今まで忘れていたけど、私はよりにもよって本人の前で、キッドは生きていると信じてますなんて強く言っちゃってた……。
あの時のことを思い返して、恥ずかしくなってうなだれる。もう会うことはないかもしれないけれど、今後のことを考えると出来ればもう会いたくは無いかな……そして、その事を忘れてくれると嬉しい。
貴「どうかキッドが、あの時の宣言を忘れてくれますように……」
流れ星は流れてないけど、こっちも必死である。夜空で美しく輝く月に、目を閉じて手を組み祈る。
―――……カタン
自身のすぐ傍から何か音が聞こえた。目を開く前に、その音が自ら正体を明かす。
「月明かりに照らされ、ただひたむきに祈る貴女の姿もまた美しいですね……。」
この甘い声に、女を落とすようなキザなセリフ……もしかして……
貴「キッド!!」
キ「こんばんは、お嬢さん。またお会い出来ましたね……。」
目を開くと、ベランダの手すりに堂々と立つキッドの姿があった。キッドは相も変わらず、不敵な笑みを浮かべては、こちらを見下ろしていた。
貴「な、なんで……貴方がここに……?!」
キ「今夜の月がとても美しかったので、夜空の散歩をしていましてね……そんな時に、ベランダで月に祈る美しい貴女に惹かれて、降りてきたという訳です。」
貴「な、な、なな……!!」
キッドは、軽く飛び降りて私の隣に立つ。なんでこの人って、恥ずかしげもなくこんなことを言えるのだろうか……あぁ〜もう!!あの時、浦思さんから守ってくれた時も、今もそうだけど……
貴「その声で、そういうこと言うのやめてよねっ……!!」
キ「どうしてですか??私は正直に思ったことを伝えた迄です。」
貴「そ、それは!!…………」
キ「憐嬢??」
貴「……貴方の声は似てるのよ!!私の大切な人に……」
キ「!!」
貴「まぁ、貴方は声帯模写も完璧と聞いているから地声じゃないんでしょうけど……」
顔が熱い……恥ずかしくて何を言っているんだろう私は……でも、これ以上言われるのは良くない。ただでさえ姿も似ているのだから、余計思い出して駄目だな。
キ「……その
貴「えっ?」
キ「いえ……貴女からそんな大切に想われている方が羨ましいと思っただけです。」
貴「!!………と、とにかく私にそんなキザなセリフは要らないから!!」
密かに見える彼の瞳は、切なさを秘めているように見えた。少し疑問に思いつつも、場の空気を変えたくて誤魔化すように、咳払いをしてから再度彼に語りかける。
貴「キッド、あの時浦思さんから守ってくれてありがとう。白鳥さんに変装していたんでしょ?」
キ「お気づきだったんですね。」
貴「守られた時、白鳥さんとは違う声が聞こえたから。……貴方の声が聞こえたから。その時に気づいたんだけどね。
それにしても貴方っていい性格してるよね。自分なんだから、生きてるのも横須賀のお城に来ることも分かってるのに、私を試すようなこと言って……」
キッドに不満をぶつけるも、彼は眉をひそめて訳を話す。
キ「貴女を危険な事に巻き込みたくはなかった……、私のせいで貴女は、スコーピオンに狙われてしまったんですから……。」
何故か自分を責めているように見えた。彼は黙って遠くの景色を見つめているだけ、視線は合わない。彼は悪くないのだから、自分を責めてるなら訂正しておかなくっちゃ。
貴「言っておくけど、貴方のせいじゃないよ。だってあれは私の我儘だから。」
キ「………」
貴「貴方は白鳥さんの役目を果たし、止めてくれてた。だけど、それを聞かなかったのは私。むしろ私が謝らなければいけないの。自分の身は自分で守ると宣言していたのにも関わらず、貴方に助けて貰っちゃったね……ごめんなさい、キッド。」
私は結局誰かに守られて生きている。自分ひとりでは、満足に自分の言ったことをすら守れないなんて情けない。大切な人を守れるような強さを持っている蘭や和葉ちゃんが、羨ましく感じた。
彼を励ますつもりが、今度は自分の気分が落ち込んでいる気がする。私は、自分の足元ばかり見ていたが、不意に隣の白い靴が自分の方に向いていることに気づく。すると、突然自分の目線が上がる。彼の白い手が優しく触れて、私の顎をクイっとあげる。二人の視線と視線がようやく交わった。
キ「言ったでしょ……貴女が無事なら良いんです。」
そして彼は、一息ついてから再度語りかける。
キ「ですが、これからは自重してくださいね。貴女が危険な目にあっては元もこうもないのですから。」
貴「……分かった!分かったから、離れてよもう!」
いつまでもこの体勢は羞恥心が限界に達しそうだったので、一旦離れてから承諾する。
キッドは私の返事を聞いて安心したのか、しおらしい態度から、元の大胆不敵な怪盗に戻る。そして彼は、私に背を向けて、ベランダの手すりに立つ。
キ「……貴女は私の生存を愚直に信じてくれていた。私が生きていると分かった時も、貴女だけが感涙してくれていた。
……貴女のその気持ちが、私には何よりも嬉しかったですよ。」
貴「っ!!」
キ「ふっ……それでは、またお会いしましょうお嬢さん。貴女とは、今回のような優しい月光の下で、お会いしたいですね。」
彼は、お得意の歯の浮くような言葉を残して、ベランダから飛び降りた。慌てて下に視線を向けても、そこには誰の姿も無かった。
貴「……会いたいなんて簡単に言わないでよね。でもそうね……もしまた会えたら、その時は話くらいなら聞いてあげてもいいよ。」
彼の言う通り、優しい月の光が我が家のベランダにも降り注いでいる。まるで彼との語らいの余韻に浸るよう、私は暫く夜空に浮かぶ月を見上げていた。