世紀末の魔術師【完】
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激しい雨音が響く。大雨にも関わらず、毛利探偵事務所の窓は開いていた。横須賀の城から帰宅した蘭は、俯きながらキッドの鳩を撫でていた。そこへコナンがやってくる……。蘭はこの時を待っていた……コナンと二人っきりになれる瞬間を……。
―――江戸川コナンという少年は、実は自分の幼馴染である工藤新一かもしれない……。
この数日、ずっとその事を考えていた。しっかりコナンを観察していたが、やはり普通の小学生ではない……今回のエッグの事件も殆どの仕掛けはコナンが解いていた。スコーピオンから狙われた時も、身を呈して自分を守ってくれた。
蘭「ありがとう…お城で助けてくれて……。あの時のコナンくん、カッコよかったよ……。
まるで新一みたいで!…本当に新一みたいで……。」
―――あの時の彼を見た時、蘭に見えたのはコナンという少年ではなく、工藤新一が自分に駆け寄ってくる姿だったのだ……。
自然と涙が込み上げてくる。少年が自らの誕生日を明かした時から、考えていた疑念。少年と幼馴染の誕生日が同一であること、その他数々の要素が似ていることからも、少年と幼馴染は同一人物ではないかということ。離れ離れになっていた幼馴染は、実は子どもとなって自分の傍にいたのではないかという疑念。一般的に高校生が小さい子どもに戻るなんてことは有り得ないだろう。蘭だってそんなことは分かっているし、百も承知だ。でも工藤家の近くには、科学者の阿笠博士だっている。ホームズのような探偵を目指す新一が、危ない事件に首を突っ込んで、そのままの姿だと危険だから、阿笠博士が発明した何かで体を小さくして……なんてことも考えてしまうのだ。
それにもし本当にこの少年が幼馴染なら、自分は彼に最も近くにいて、そばにいたのに……今までずっと隠されていたことになる。それが少なからず蘭にとっては悲しかったのだ。
彼の事で考え込んでいたら、友人の憐に気づかれ、心配かけてしまった。しかし、憐に相談をし、助言を貰った事で迷いも晴れたのだ。
蘭「でも、別人なんでしょ?」
コ「…………」
ちゃんと自分の目で見極めて、彼に問いただそう……。
蘭「そうなんだよね…」
コ「…………」
―――もう隠さないで欲しい……本当のことを教えてコナンくん……ううん、新一……
蘭「コナンくん……?」
蘭は涙を浮かべながら、コナンに問いかけた。
コ(限界だな……。)
そんな蘭の確信を得ている問いかけに、隠すことを諦めたコナン。
コ「あ、あのさ……蘭。」
眼鏡を外し、今までのこと、本当のことを打ち明けようとした。
蘭「…………」
コ「実は俺……本当は……」
しかし、蘭の目は、自分よりも遠くを見つめているような気がした。そして、その予想は当たっていたこととなる。
蘭「新一…………」
蘭がふと自分の名前を呟く。蘭の目の先を知りたくて、自分も後ろを振り返る。
コ「!!!」
するとそこには……びしょ濡れになっている工藤新一が、事務所の入口の扉を背にして立っていたのだ。
コ(な、何だ!?)
蘭「本当に新一なの…!?」
新「あんだよ、その言い草は!オメーが事件に巻き込まれたって言うから様子を見に来てやったのによ!」
呆然としているコナンを置いて蘭と新一の会話は進んでいく。
蘭「待ってて!今、拭くもの持ってくるから!」
蘭はタオルを取りに2階へ駆け上がっていった。その様子を見た新一は、笑みを浮かべて、すぐさま大雨が振る外へと足を向ける。
コ「待てよ怪盗キッド!まんまと騙されたぜ…まさか、白鳥刑事に化けて船に乗ってくるとはな……」
新一は、指笛を使い、毛利探偵事務所にいた鳩を呼んだ。有り得るはずがないのだ。何しろコナンが一番よく分かっている……。江戸川コナンがここに存在している以上、工藤新一は存在出来ない……なぜなら、工藤新一が薬を飲まされ、幼児化した姿が江戸川コナンなのだから。そう……それこそ、誰かが変装でもしない限り……江戸川コナンと工藤新一は同時に存在出来ない。
だからこそ今ここにいる工藤新一が、偽物だということは分かる。そして、その正体も……今まで生死不明とされていた神出鬼没のキザな怪盗……怪盗キッドであることをコナンは誰よりも確信していた。
キッドは、あの船に乗っていた時から一緒にいたのだ。白鳥刑事に変装していた。最初は気づかなかったが、今までの奴の行動を振り返れば自ずと分かってくる。
コ「お前分かってたんだな……あの船の中で何か起きる事を……」
新「確信はなかったけどな……一応船の無線電話は盗聴させてもらったぜ。」
新一基キッドは、次から次へと鳩を出し、己の身に纏わせる。気にせずコナンは、自分が気がついたことをキッドに話し始める。
キッドの目的は、エッグを本来の持ち主である夏美に返すこと。彼は知っていた……香坂喜市が、〝世紀末の魔術師〟と呼ばれていたこと、あのエッグが喜市の手によって作られていたこと、だから予告状にそのフレーズを使った。
また夏美の曾祖母が、ニコライ皇帝の三女、マリアだったことを。
コナンから聞かされた事実を静かに聞くキッド。一部合っている箇所、知らなかった事実もあるが、彼は思う。
新「君に助言を一つさせてもらうぜ……世の中には謎のままにしといた方が、良いこともあるってな!」
探偵はその性故、人の粗探し、秘密を探ることに長けている。しかし、何でもかんでも暴けば良いという訳ではない。世の中には、知らないままのほうが幸せなこともある。謎の中でも、この謎は謎のままにしておいた方が良いであろう。
―――……互いに自分の大切な人に、隠し事をしているように……
敵同士だが、そんな共通点のある彼らに、雨は止まること無くいまだ降り続けていた。
コ「それにしても、もっとキレてくると思ったが案外普通だったな。」
コナンは、変わらず不敵な笑みを浮かべたままキッドに語りかける。
新「というと?」
コ「今回も危ない目に合わせちまったからな……神崎を。」
コ「オメー、前に言ってただろ?次神崎を巻き込んだら容赦しねぇってな。」
新「……今回は憐嬢自ら飛び込んできたんだ。お前に非はねーよ……あるとすれば、それは俺の方だ……。俺のせいでアイツは……」
そう言って雨に打たれながら、俯く
コ「お前の正体に心当たりあるのか聞いた時、アイツは首を横に振った。お前の対応が他とは違うんだ、絶対神崎と関係が深いやつだと……だけど、そう伝えてもアイツは答えなかった。
それに神崎はこう言っていた……
〝彼は、何度も私を助けてくれた。だから私、彼のこと嫌いじゃないの……〟ってな……。」
新一「!!」
先程よりも分かりやすく反応を示す新一の姿に、コナンは諦めたように笑う。
コ「オメーに恩義を感じてるんだろうな。それに俺達の知る前からオメーはアイツのことを助けてたんだろう?俺達の知らない何かでお前達は繋がっている。」
新「…………」
コ「お前が白鳥刑事に変装していたことは伝えてないが、神崎は恐らく気づいていた……お前が白鳥刑事に変装していることに。だから、俺に白鳥刑事に怪我が無いか聞いて来たんだ。」
新「……そうか。」
コ「無傷でしっかり生きてることを伝えたら、神崎泣きながら笑ってたぜ……良かったってな……。」
新「……そうかよ。」
多くの鳩を出していた
新「なぁ、名探偵……この謎は解けるか?何故俺が工藤新一の姿で現れ、厄介な敵である君を助けたのか……。」
蘭「新一っ!」
いつもの大胆不敵な態度に戻った
背後からタオルを持った蘭が外に飛び出そうとする。
―――パチンッ!
コナンの回答を聞く間もなく、
コ(バーロー……んなもん謎でも何でもねぇよ。お前が俺を助けたのは、コイツを手当したお礼……だろ?)
その後しばらくして、探偵事務所に戻った蘭とコナン。蘭は先程までいた
蘭「もう!どうして引き止めてくれなかったのよ!コナンくん!」
コ「でもぉ……新一兄ちゃんまた来るって……」
蘭「いいわ……今度会った時には……ハァーッ!!」
コ「ヒッ!!」
蘭「こうしてやるんだから!!」
蘭は持っていたタオルを空中に投げ、自身の手で技をかける。今度会ったら絶対逃さないという強い意志が感じられた。
コ(当分、元には戻れねーなこりゃ…💧)
思った以上に己に対して怒っている蘭の姿を見て、しばらく元に戻らない方が良いと考えたコナンは、心の中で苦笑するのだった。