世紀末の魔術師【完】
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貴『少しでも生きている可能性があるなら、諦めたくないんです!それに、きっと彼は死んでいない……、今も何処かで生きている……。
私は、彼が生きていると信じています!』
あの凛とした強い眼差しを……今までアイツから受けたことがあっただろうか?白鳥に扮した彼は思い悩んでいた。……生死を気にする程までに彼女の中で、キッドの存在が大きくなっているのは嬉しいが、こうなってくると話は別である。
危険から最も遠ざけたい人物が、自分のせいで死地に赴こうとしているのである。だから何としてでも、横須賀行きは諦めさせたかったのだ。それなのにアイツは、キッドが生きているか確かめたいだとか、しかも自分はキッドが生きてると信じてるだとか、この〝俺〟の前で言い切ってよ……
快「アイツがいると予想外のことばっか起きて、調子狂うぜ……。」
しかし、憐が言っていたのも事実で、ここぞという時の彼女の勘は、当たることが多い。……まぁ実際当たってはいる。まさか、自分が豪語した相手がその人物だなんて夢に思わないだろう。
豪華客船下船後、毛利一行達とは別ルートで帰路に着いた快斗は、自宅で明日の作戦を練りながらも、今日の憐の様子を振り返っていた。
すると、自分の携帯から着信音が鳴る。画面を見てみると、玲於の文字が。
快「もしもし?」
玲「大変だよ!!今そっちに姉さんが向かってる!!」
快「……は?」
鬼気迫る玲於の声と正反対に、快斗は気の抜けた
声を返す。
玲「姉さんからさっき電話きて、今帰ってる途中らしいんだけど、今日の快くんの様子を聞かれたんだ。一応僕と家で勉強してた設定で話してたんだけど、なんか妙に疑われてるんだよね……ほんとに一緒に居たのかって……。」
快「マジかよ!?」
憐の帰りは、友人達と食事をしてからと連絡が玲於の所にきていた為、帰りが遅くなると把握していた。しかし、そのまま自宅に戻ると思っていたので、自分の家に向かっているとは予想外。しかも、自分の行動が疑われていると玲於からの情報が……なんで俺の行動が疑われるんだ?
玲「僕も止めたんだよ!姉さんは明日も朝早いだろうし、快くんだって例の件で予定入ってるから、今行くのは迷惑だって……。でも、姉さん聞かなくってさ。快くんに直接会って確かめたいって言ってたんだよ〜……ねぇ、快くん何か心当たりある?」
快「んなこと言われたって、憐の前では全くボロ出してねーし……、俺が刑事に変装してたのだって知らなかったはずだぜ……じゃなきゃあんなこと、俺の目の前で……言わないだろうからな。」
玲「あんなことって……?」
玲於は、快斗の仕事を手伝うべく共に大阪に赴いていた。彼が盗みを終えた後、エッグを回収する予定だったのだが、快斗がスコーピオンに右目を狙撃され、海へ落下するという壮絶なハプニングに見舞われた。その時の玲於は、死ぬほど快斗のことを心配していた。探しに行こうにも、警察が大規模なキッドの捜索を行っている中で、変な行動をして怪しまれでもしたら、大変なことになるのは目に見えていた。知り合いの中森警部に姿を見られても、アウトである。その日は結局、自力で逃げた快斗と合流、そして話し合いの末、今回の仕事は想定よりも遥かに危険度が高いということで、玲於のみ先に自宅に帰ったのだ。
だから、玲於は 白鳥に変装した快斗と、憐の船でのやり取りは知らなかった。
快「………とにかく、教えてくれてありがとうな玲於。憐が来るってんなら、堂々と迎え入れるまでだぜ。」
───── 彼女を護れるのなら、何度だって嘘をつこう……例え、その相手が彼女自身だとしても……。
──────── ピンポーン……
貴「………。」
蘭、園子達と別れた後、一人夜の道を歩く。そして辿り着いた……自宅ではなく、悪戯好きな幼馴染の家に。
玲於から散々止められたけど、こればっかりは玲於でも譲れない。私の中で、怪盗キッドの疑惑がかかっている快斗に、直接会って確かめたいだけ。別に時間を取らせたりしない……少し顔を見たいだけ……怪盗キッドが右目を狙撃されたのなら、何らかの痕跡が彼の右目付近にあるはず。その確認と……
〝待ち人 来るがさわりあり
貴方の大切な人と会えるが問題も起こります。〟
御籤の結果のことも、少しだけ気にかかっていたから……。結局会えていないけど、でも本当に無事かどうか、何も無ければそれでいいから……
(お願いだから、何事もなく……いつもの快斗であって欲しい……。)
ガチャッ
ゆっくりと玄関の扉が開かれる。息を飲んで見守って居ると、扉を開けた快斗が、欠伸をしながら立っていた。
快「ふぁ〜……お前、今何時だと思ってんだよ。夜の10時だぞ……?どうしたんだよ、こんな夜更けに…。」
その姿を見て少し安心した。
快「とりあえず、中入れよ。」
そう言って彼は、私を自宅へと迎え入れた。立ちっぱもなんだからと、ダイニングで飲み物を用意する彼に近寄る。そして私は椅子に座らずに立っていると彼は驚いていた。今日は長居するつもりはない、確認したらすぐ帰るつもり。
貴「快斗、もっとよく顔を見せて……。」
快「はっ?!憐!ちょっと待っ……!」
徐に手を伸ばす。主に右目付近に傷があるか調べたかった。仮にもずっと小さい頃から好きだった人なのに、この時の自分は必死すぎて距離感が可笑しいことなんて、気にしていなかった。
快斗が怪盗キッドなら、右目にどこかしらに傷があるはず…………………
貴「…………傷が……、ない……。」
彼の右目には、何処にも傷なんて無かった。綺麗な瞳があるだけ。
快「傷……?何のことだ?」
貴「………………。」
どういうこと……?快斗は……キッドじゃないってこと……??ほんとに……??
快「憐??」
貴「…………………良かった。」
快「へっ??」
貴「……っ、……良かったよっ……、何にもなくて……っ……。」
涙がポロポロと溢れ出す。我慢できなかった……ずっと船の中で不安だったのだ。もし、快斗がキッドなら、生きていることは玲於のメールで確認できたけど、それでも怪我してないかとか、海に落ちたんだから風邪ひいてないかなとか、心配で堪らなかった。
でも、快斗はキッドじゃない……そうだよねっ……、快斗は快斗だもの。何を心配する必要があったのか……きっと少し似てただけだよ。もうあんな不安に怯えずに済む。
貴「……なんでもないの!ごめん、快斗!こんな夜遅くに来ちゃって……」
快「何でもない訳ないだろっ!……こんなに泣いて……、どうしたんだよ!何かあったのか?!」
快斗が私の両肩を掴んで、覇気迫る勢いで聞いてきた。でも言えない……快斗とキッドが同じ人物だと疑ってたなんて、どちらにも失礼だから。
貴「……大阪の神社で御籤を引いてね。その結果が悪かったの……私の周りの人に何か起きるって書いてあって……だから青子や快斗に何かあるんじゃないかと思って心配だったんだけど、快斗は特に昨日も今日も危ない目にあってないよね?玲於と勉強してたんだもんね?」
快「あ、あぁ……。」
貴「ならいいの……。」
自分で涙を拭って笑顔を見せる。これ以上要らぬ心配をかけたくなかった。
貴「あっ!そうだこれ、快斗へのお土産!はい、どうぞ!」
快「……なんだよこれ。」
貴「なんだよってどう見てもパワーストーンのストラップだよ。可愛いでしょ〜?」
私のもうひとつの目的は、これ。お土産を渡すこと!青子は後日渡すとして、快斗には確認も兼ねてお土産を先に渡しておこうと思っていた。
快「男の俺に可愛いもんを渡すなよ……。」
しかし、反応は予想よりも不服そうだ。
貴「……そんなことを言う快斗にはお土産はありませんー。それだけだから、夜遅くにごめんなさいね!じゃあ……」
バシッ
差し出した手を引っ込めようとした時、快斗がバシッと私の手を掴んだ。そして私の手の中にあったパワーストーンのストラップを奪い取った。
快「別にいらねーなんて言ってないだろ!……しょうがねーから貰ってやるよ。」
顔を逸らしながら宣う快斗にムッとしつつも、貰ってくれるならいっかと、聞き流す。彼にあげたパワーストーン、石はムーンストーン……快斗の誕生日の宝石。6月の誕生石は真珠、ムーンストーン、アレキサンドライトとあり、どれも素敵な宝石で迷ったけど、安全祈願の意味があるのと、月を閉じ込めたような淡い白を持つムーンストーンを選んだ。何となくだけど、快斗には〝月〟が似合うと思ったのだ。そう何となく……
貴「肌身離さずつけててよね。」
例え何かあっても……というのは大袈裟かもしれないけど、きっと危ない時にパワーストーンが守ってくれるから。
快「なぁ、これ俺のだけじゃなくて玲於や青子の分も買ったのか?」
貴「うん、買ったよ。まだ2人には渡してないけどね。」
快「…………それならお前のパワーストーン、アメジストを俺にくれよ。」
貴「えっ?なんで私が買ってるって……しかも買った石がアメジストだって分かったの……?」
快斗は、私があげたムーンストーンを私の目の前に出す。
快「お前がくれたこの石、色、形から見てムーンストーンだ。ムーンストーンっていうのは、6月の誕生石でもある。つまり俺の誕生石だから、こいつを俺に贈ったってことだ。」
パワーストーンなんて興味無いと思ってたのに……
快「9月生まれの青子にはサファイアを、双子の玲於にはキャッツアイを。で、お前の事だから自分も気に入るものを贈るはず……当然自分の分も手に入れている。
憐の誕生月は2月。2月の誕生石は主に2つ。玲於には守護、慈愛の意味を持つキャッツアイを渡して、自分の分には高貴の意味を持つアメジストってな。まぁ、意味よりも色味を優先したんだろ?オメーは、赤や紫が好きだからな。」
凄い……全部当たってる。快斗には敵わないなとつくづく思う。
貴「よく分かったね。私がアメジスト買ったなんて。」
私はポケットに入っていた自身のストラップを取り出す。快斗の推理通り、紫色に輝くアメジストを自分用に買ったのだ。
快「まぁな〜……。」
貴「さっきの快斗、何だか探偵みたいだったよ。」
快「げっ……やめろよ、俺は探偵じゃねーつっーの!ちょっと考えれば分かる事だぜ。」
貴「なんで探偵を嫌がるのよ!かっこいいよ?シャーロック・ホームズとか……」
快「探偵なんて俺の柄じゃねーよ!」
貴「探偵はかっこいいのに……」
快「とにかく!……お前のアメジストいいだろ?俺のムーンストーンと交換だ。」
私のアメジストと快斗のムーンストーンを交換する真意が分からなかった。
貴「なんで私のアメジストなのよ。第一快斗に似合うと思ってムーンストーンを買ってきたのに……」
快「あのなぁ……オメーは知らないかもしれねーけど、ムーンストーンは一般的に女性を象徴する石なんだよ。」
貴「へぇ〜そうなんだ……。」
快「ということで……頂き!」
貴「あっ!」
手に持っていたアメジストを取られ、私の手の中には先程快斗にあげたムーンストーンがちょこんとのっている。
貴「まぁ〜いっかな。ちゃんと調べずに印象で決めちゃった私も悪いし……その代わり肌身離さずつけなさいよね。」
うーん、私に似合うかはさておきムーンストーン可愛いな。
快「へいへいー……ほらもう帰るだろ、送ってくぜ。」
貴「すぐ近くなんだから大丈夫だよ。」
快「こんな夜更けに女ひとりで出歩かせられるかよ!いいから、ほら行くぞ……。」
結局この後快斗に自宅まで送って貰った。玲於にもお土産を渡し、明日に備えて入浴後すぐベッドに入る。横になりながらも、手にはムーンストーンのストラップ。
(……何で交換したのかな〜って思ったけど、このムーンストーン……何だかアイツが傍にいてくれてるみたいで、今になって互いに石を交換したこと、良かったなって思うよ。)
貴「きっと私のアメジストが、快斗を守ってくれる……明日はキッドとエッグの事に……集中……出来そう……。」
今日の疲労がピークになる。眠気が来てウトウトしだした私は、ゆっくり瞼を閉じて寝入るのだった。
─────────────────────
憐を自宅に送った後、快斗は考えながら帰路の途に着く。手には、憐から許可を得て交換したアメジストのストラップがのっていた。
(アイツ、石の意味とか調べずに買ったってことだよな。ならムーンストーンの意味も、アメジストの意味もきっと知らない。)
ムーンストーンは、文字通り月に関連するもので、月の光が秘められた聖なる石。女性を象徴する綺麗な石で、昔から人気の宝石だ。石言葉は、〝幸運〟〝恋の予感〟〝無垢〟〝純潔〟と様々なものがある。月を見ると愛おしく感じるのは、憐を思い出させるからだと彼は思っている。月のように柔らかな光で自分という存在も温かく受け入れてくれる彼女を、彼はよく月を眺めては思い起こしていた。自分よりも彼女に相応しいと思ったから、交換を申し出たのだ。後は自分が見ていない所でも、きっと彼女を守ってくれるとお守りとして持っていて欲しかったからだ。
自宅に着いた彼は、部屋のベッドに横になる。そしてアメジストを見ながら、こう呟く。
快「ムーンストーンは、恋愛成就の石。アメジストは真実の愛を守り抜く石。」
ムーンストーンは片思いを実らせ、恋愛を成就させるという伝承がある。中世ヨーロッパでは、恋人同士でムーンストーンを贈りあい、互いの愛を深めるという風習もあったぐらいだ。このような意味を持つ石を異性に送る意味を考えて欲しい……絶対分かってないだろうけど。
アメジストは、紫色の水晶であり石言葉は、〝高貴〟〝誠実〟。絆を深め、愛を守り抜く強さを育むことから〝愛の守護石〟とも呼ばれている。……俺はアイツを護れるだろうか。
明日予定されている香坂家の城探索のことを考えると、柄にもなく自信を無くしている自分。名探偵と玲於が調べていた右目を狙うスナイパー、スコーピオンも2個目のエッグを狙いにやってくるだろう。大阪観光の時よりも、危険な出来事が起きる可能性が高い。
いやもう彼女が同行することは決まってしまったのだ……クヨクヨ悩んでいても仕方ない。
エッグもあるべき所有者に返す。名探偵達の仲間も、個人的なお礼の為に守らなければならない。
そして……憐だけは、必ず無事に護りきることが最低限の条件だ。
快斗は自身の持つアメジストに誓ったのだった……。