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キッド!!キッド!!キッド!!
(……何してんだろ、私。)
人々の怪盗キッドコールがそこら中で聞こえるなか、私は時計台の近くに居た。大きな時計台を見上げながら何故この場に来てしまったのかを考えていた。もっとも、疑問を浮かべてもすぐに内なる声が否定する。分かっている……自問自答してみただけで、答えは最初から分かっている。
青子から今夜の怪盗キッドの予告状を聞かされた時、私は持っていた物を地面に落としてしまうぐらい動揺した。何故、怪盗キッドがあの時計を狙うのだろうか……そんな高価な物がついているのだろうか。分からない……正直そんなことはどうでもいい。重要なのはあの〝時計を盗む〟ということ。
最初は諦めていた……だってあの時計は、怪盗キッドが盗まなくても、テーマパークに移築することが決まっていたから。いずれこの街から無くなってしまうけれど、テーマパークのシンボルになるならと泣く泣く受け入れた。だから、青子から聞かされた時に、激しく動揺しなくたって良かったんだ。
青子が言う通り、人の物を盗み出す犯罪者……悪い人物だと分かっている。今回の時計だってもしかしたら、私が知らないだけで価値がとても高い建物なのかもしれない……だけど、私の中にある怪盗キッドの像としては、手品を巧みに扱い、宝石を盗み出す神出鬼没の泥棒……しかし、あの時学校で麻生先生から助けてくれた優しい一面を持つ怪盗なのだと知った。だから、私は勝手に怪盗キッドは時計を盗むはずがないと思い込んでいた。そう全ては私の思い込み……。
理想と現実は違う。彼は予告状を出した……この大きな時計台の時計を盗むと宣言したのだ。
(キッド……。どうして……、どうして……、この時計なの……?なんでこの時計を狙うの……?)
彼は狙った獲物は決して逃さない、今まで予告状を出して盗めなかったものなどひとつも無いらしい。どんな方法で盗み出すのかは分からないけれど、今夜この時計台が無くなるのかと思うと……
貴「なんでなの……キッド……。」
目に溜まった涙が流れそうになる。
わざわざ私が青子の誘いを断ったのは、結局移築されても、盗まれてしまってもこの街から無くなることには変わりないと諦めていたから。……気にしないようにしていた。しかし、やっぱり気にしないなんて私には無理だった。この時計台には大切な思い出があるから。
(あの日、あの時、時計台に行ったおかげで……私は、快斗に初めて出逢えた。だから……やっぱり無くなって欲しくない。この大切な思い出が残る時計を、盗んで欲しくない……。)
やっと自分の本当の思いを受け入れた頃、その時はやってきた。
リンゴーン……リンゴーン……
貴「鐘の音……っ!!。」
時計台の鐘が予告の時間を告げる。顔を上げてみると、時計から煙が溢れ出しあっという間に、白い煙で覆われた。
「お、おい……見ろよ!」
「と、時計の……針が……。」
時計台の煙が徐々に晴れていく……煙が無くなった後の時計を見てみると時刻を示す時計の針が無くなっていることに気づいた。
「消えた……!?」
「そ…そんな……。」
中「バカな!?」
時計台を見ていた全ての人がその光景を疑った。それくらい彼は凄いことをやってのけていた。
恵「凄い!凄いよ、キッド♡」
ある者は、その光景に感激し
青(キッドの……キッドの馬鹿!!)
ある者は盗まれた事実に悲しみ
玲「……!(よし。)」
ある者は、作戦が上手くいったことに安堵し
貴「あぁっ……、そんな……(本当に盗まれた……、キッド……。)」
ある者は、予告通りに盗まれた事実に、静かに涙を流した。
しかし、それもつかの間……次の瞬間、時計の針が無くなった時計盤がいきなり外れて、今度はちゃんと針がついていた時計盤が現れた。外れた布ような時計盤は落下し、地面に落ちた。訳が分からず、疑問符を浮かべながら、再度時計台を見上げると、そこにはちゃんと時計の針がついていた。
貴「……時計の針が……ついてる。」
怪盗キッドが盗むと予告していたのは時計台の針だったけど、銀三さん達警察の人が止めてくれたおかげなのか、それとも何か事情があって怪盗キッドが盗まなかったのか……それは分からない。
(……もう、キッドの……馬鹿……。)
とりあえず流れた涙を拭う為に、目を擦って居ると後ろから、声が聞こえた。
「なぁ……何で泣いてんだ……。」
─────── 周りの音が聞こえなくなる
息を飲む。その声に……その言葉に……聞き覚えがあって、気がついたら笑みが零れていた。私の背後にはきっと、私が予想している人物が立っている。私は後ろを振り返りながら、あの時と同じ言葉で答える。
「別に……泣いてないよっ……。
ていうか、貴方誰……? 」
初めて出逢った頃を再現しようと、あの時の言葉を口に出してみるが、止まった筈の涙が零れ、言葉も詰まってしまう。彼の姿を見たら安心して、溢れ出てきてしまった。……困ったなと思いつつも、しょうがないと諦める。だって今ここに来てくれて、あの時の言葉を再現してくれたということは……私達の始まりの物語を、覚えててくれたのだと分かったからだ……。
目の前にいる彼は、所々汚れており、くせっ毛強めな髪型いつもより崩れていた。だけど涙を浮かべながらも笑う私を見て、困ったように笑いながらも、あの時と同じように無邪気に笑い、何も持ってなかった手からあの時と同じように薔薇を差し出して、あの言葉を口にした。
快「オレ、黒羽快斗ってんだ!よろしくな!」
────── ちゃんと覚えててくれてた……私だけじゃなかったんだね……。
貴「っ……快斗っ……!!」
この時だけは、周りにいた人々など気にならなかった。快斗から差し出された薔薇を、大事そうに受け取る憐と、それを暖かく見守る快斗。二人は互いに相手のことしか目に入らず、ただただこの時間を……大切に噛み締めていた。真相はどうあれ……今はただ……、あの時の出会いに感謝しようと……憐はこの出来事を経て、改めてそう思ったのだった……─────────。
同時刻
青子は時計台を見上げ、安堵した。結局時計の針は盗まれていなかった……時計は無事だった。
青(あの時、お父さんが来てくれるか不安だった青子に声を掛けてくれたのは……っ!!)
後ろから足音が聞こえる。その足音は、青子の真後ろに立った。
「ね……大丈夫だったでしょ?」
聞き慣れた声が得意気に青子に語りかける。あの時もこの時までも、貴方はいつも私を励ましてくれた……いつだって私のそばに居てくれたのは貴方だった……。
青「……玲於っ!」
待ち望んでいた彼を見つけて、青子に笑顔が戻る。彼は涙が残っている青子の目元に優しく指を伸ばす。
玲「ほら、もう泣かないで……。」
青「うんっ……。」
玲「僕は、絶対あの時のことを忘れない……君と初めて出逢った時のことを……この時計台を、忘れたことなんて一度もなかったよ。」
青「うん、青子もね……ずっと覚えてたんだよ。」
玲於はクスッと笑って手を差し出す。
玲「帰ろう……?」
青「うんっ!……」
二人は隣に並んで、帰り道を歩いていく。その道中で過去の思い出を語り合ったのだ。そして改めて自分の好意を自覚する……中森青子は、神崎玲於が好きなのだと……自信を持って言える。確かに最初は、手品を巧みに使い、周りを楽しませてくれた快斗が好きだった。だけど今は……悲しい時、楽しい時、どんな時も青子に寄り添ってくれたのは、玲於だったことが分かり、その思いは変わっていった。
青(青子も頑張るから、憐も頑張ろうね……。)
ここにはいないもう一人の幼馴染の親友を思い出しながら決意する。玲於も快斗も学校では男女ともに人気者なのだ。きっとライバルも多い……でも、自覚したからには負けてられない。同じ境遇の親友を鼓舞するように自分を鼓舞する。また明日から平和で少し変わった日常を楽しみにしながら、玲於との思い出話を楽しむのだった。
──────────────────────
東都タワー 上部
快(忘れるかよ……バーロ……。)
快斗は物思いにふけっていた。寺井とのやり取りで、心の奥底にしまっている大切な思い出を振り返っていた。
快(初めて出逢った時のことも、あの時の嬉しそうな笑顔も……俺は、お前の事で忘れたことなんか、一度もねーんだよ……憐。お前との思い出は全部、俺自身の全てで記憶してるんだからな。)
IQ400と謳われた天才的な頭脳と、天下のマジシャンの父親から教わった変装術を駆使し、狙った獲物は逃がさない……神出鬼没の月下の奇術師【怪盗キッド】
その正体は、江古田高校に通う少年黒羽快斗である。彼は高校生と怪盗という二足の草鞋を履くような忙しくて充実した毎日を送っている。彼が扮する怪盗キッドの行動理念は、父親の死の真相を知る為と、強く願う人の想いに答える為である。前半は、自分の知らない間に父親が初代怪盗キッドとして世界をまたにかけていた頃、誰かの思惑で事故死ではなく殺されたのではないかと疑念が浮上した為、その死の真相を知る為にわざと予告状を出して、存在をアピールしビックジュエルを盗み出している。そうすれば、いずれこの件について知っている人物側から接触してくるだろうと考えているから。しかし、後半については黒羽快斗の信条に近い。
その中でも彼の大部分は、周りにいる友人、幼馴染が占めている。大きな時計を盗むと予告状を出したのは一重に幼馴染達の為だった。
この時計台は俺達4人が初めて出逢った場所だ……青子も玲於も、そして憐もこの場所を大切に思っていた。忘れる筈がない……特に時計台が移築することを一番悲しんでいた憐の酷く落ち込んでいたあの表情を鮮明に記憶している。
───── 俺達の思い出を守る為……
───── アイツの悲しみを払う為……
快斗は、以前盗み出した時計のことを思い出していた。
寺「ぼっちゃま?どうかしましたか?」
快「ジイちゃんが妙な事を言うから、思い出しちまったんだよ!スゲーヤバかった時計台のヤマ……。」
寺井に声をかけられ過去の記憶から、今に意識を戻す。
玲「色々大変だったね、あれは……でも、快くんの頑張りで僕達の思い出が守られたから、本当に感謝してる。」
快「別にいいって言ってんだろ……憐に似て、お前も律儀だな。」
玲「あはははっ!そうかな〜(……そういえば、あの時警察に助言してた高校生探偵が誰なのかってこと、結局快くんに伝え損ねちゃったままだな……。)」
キッドの動きを予測し次々と当て、快くんを追い詰めた人物。姉さんと同じ帝丹高校に通っていて、東の高校生探偵と呼ばれ今注目されている少年。その人物の名は工藤新一。帝丹高校二年生の男子高校生だ。前は新聞にも度々名前や写真が載っていたみたいだけど、最近は滅多に表舞台に出てこなくなった。一部死亡したと噂が流れているみたいだが、姉さんはそんなこと言ってなかったし、きっと何処かで生きているんだろう。
玲(だから今更伝えなくても……いっかな!)
高校生探偵について、自分で納得した玲於。
寺「そういえば、あの時計台どうなりました?」
快「あっ、そっか!ジイちゃん引越しちまったから知らねーんだ……。」
寺井がその後の時計台の行方を尋ねる。
寺「では、やっぱりあの後、移築を……。」
玲於は口と目を閉ざし、その時を待つ。快斗は自身の腕時計で時刻を見ながらカウントダウンを始めた。
玲「……。」
快「スリー、ツー、ワン……」
リンゴーン……リンゴーン……。
カウントダウンを終えた瞬間、街全体に響き渡る鐘の音……正しく、時計台の鐘の音だった。
寺「こ、この鐘の音は……」
玲「あの後、警察が調べて時計台の針についていたダイヤが偽物だと分かり、市が安く買い取ってくれたんです。」
結局時計台は無くなってしまったが、その名残である時計台の鐘の音は、いまだこの街で存在を主張するように鳴り響いている。
快「よーし、そろそろ行くとすっか!」
快斗はハンググライダーを装着し、飛行の準備を整える。そして今夜狙う獲物を言い放つ。
快「狙いはビックジュエル……
鈴木財閥の至宝【
今回怪盗キッドが盗もうとしているものは、日本が誇る財閥のひとつ、鈴木財閥の至宝【
その名に相応しく漆黒に輝くビックジュエルである。膨大な資金力を有する財閥の宝とあっては、警察の数、そしてその警備も凄まじく厳重である。過去の時計台の時と同じかそれ以上に大きな現場に飛び込もうとしているのである。それゆえ寺井は、快斗が心配だった。しかし、自分の敬愛する主人の力を引き継いだ一人前のマジシャンでもある。その為これ以上の心配は彼の仕事の邪魔になると考え、身を引いた。しかし、過去の主人がよく言っていた言葉を彼に残す。
寺「ぼっちゃま……もはや止めはしませんが…、盗一様が常々言っておられました……。客に接する時、そこは決闘の場。決して驕らず侮らず相手の心を見透かし、その肢体の先に全神経を集中して、持てる技を尽くし……」
玲「なおかつ笑顔と気品を損なわず……」
快「いつ何時たりとも……
ポーカーフェイスを忘れるな。 」
世間を騒がせている白い怪盗は、今夜も闇夜を駆け抜けて宝を盗み出す。