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玲於side
快くんがいつまで経っても帰ってこないので、僕も
盗一さんの額縁に入った写真の向こう側へ向かった。ゴゴゴっと歯車が動くような音が聞こえたと思ったら、着いた先にはオープンカーや、一昔前の航空機などその他色々物がゴチャゴチャ置かれていた。
(凄い……まるで秘密の部屋みたいだ。)
そんなことを考えながら見渡すと、白のシルクハットとマントを羽織った人の姿があった。もしかして……快くん?
玲「快くん!」
快「玲於!?お前も来たのかよ…。」
玲「当たり前だろ?!全然帰ってこないから心配したんだよ?」
快「そいつは悪ぃな。」
快くんは罰が悪そうに笑った。その姿を見てひとまず安心するも、視線は気になっている快くんの格好について……。
玲「それより快くん!その格好って……。」
快「やっぱオメーも分かったか。俺はこれからやつに会いに行く……そうしたら分かるかもしれない。」
そう言いながら快くんはシルクハットをくるりと回し自身の頭にのせた。
快「このパネルは8年経つと開くようになってたんだ……黒羽盗一最後のマジックってわけか……。
ならば…最後のマジックを、解いてやるぜ!!玲於、お前も来るか?」
不敵な笑みを浮かべた親友を見る……その姿はまるで、今世間を騒がせている怪盗そのもの……何故この怪盗が盗一さんに関係があるのか、僕はその謎を知りたい。だったら答えはひとつ……。
玲「もちろん!」
快くんの誘いに二つ返事で返すのだった。
────────────────────────
時刻はもうすく真夜中になる23時過ぎに、僕達はとある銀行の屋上にいた。上空は星が散りばめられた夜空が広がっているが、真下は多くの建物の明かりによって見事な景色となっている。こんな景色、青ちゃんや姉さんが見たらさぞ綺麗だと喜ぶだろう……だけど、僕達はそんな綺麗な景色を見に来た訳じゃない。全てはあの部屋の謎を……盗一さんが隠していた謎を知る為に。
今日の夜、世間を騒がせている怪盗キッドは、この小野銀行の所有する〝月の瞳〟という宝石を盗みにやってくる。この怪盗は、マジックを使い盗みをはたらいているようなので、有望なマジシャンでもある快くんが、彼の盗みルートを予測した所、彼は月の瞳を盗んだ後、警察を巻くために屋上に来ると踏んだ僕達はこうして今か今かと怪盗を待ち構えていた。
快「玲於、いいか……やつが来たらまずは俺が相手をする。お前は別の場所に隠れてろよ。俺と違ってお前は特に変装してる訳でもねぇからな。」
玲「分かってるよ……隠れて二人の話を聞いてるよ。この屋上に侵入しているのもあんまり良くないことだと思うからね。警察も下にいっぱいいるし、万が一バレたら不味いから。」
僕も馬鹿では無い……今回あの怪盗を待ち伏せする為に、この屋上にやってきたけど、それはあの怪盗を追っている警察だっていっぱいいる……中にはきっと青ちゃんのお父さんである銀三さんもいるはずだ。快くんの格好は怪盗キッドそのものだから万が一姿が見られても大丈夫だとは思うけど、僕は闇に紛れられるように全体的に黒尽くめにして、フードを被っているだけだから、間近で見られると不味いのだ。
快「分かってるならいいぜ……っ!そろそろ始まるな、玲於!」
玲「了解……頑張ってね快くん。」
僕は快くんの姿を尻目に、物陰に隠れた。そして、けたたましいサイレンの音ともに、下の方からガラスの割れた音が派手に響いた。警官達の声が多数聞こえる中、何かが壁伝いに登ってくるような音が聞こえる。
(……快くんの予測通り上に登ってきたんだ。)
そして、ふと顔を出すと下の方から腕が出てきて、こちらに登ってくる白い怪盗が見えた。その怪盗を待ち受けるは、その怪盗と同じ格好をした快くん。白い仮面を付けた彼の姿は、月明かりに照らされて何だか幻想的だった。
そこからはお互いのマジック対決が始まる。怪盗キッドは、自分と同じ姿をした快くんに驚くもすぐに柔軟に対応し、自らのマジックを披露した。
?「ならば、このマジック!!見破れるかな!?」
その怪盗が見せたマジックは自身の身体を消失させたマジック……僕には少なくともそんな風に見えた。
(?!…顔と手と足は見えているのに、真ん中の胴体が消えている……僕にはさっぱりだけど、きっと快くんなら分かるよね……。)
不安に思いつつも、快くんを信じて見守っていると彼は大きな声で笑いながら、トランプ銃で怪盗の額近くにトランプを撃つ。
快「体を鏡ばりにして周りの風景と同化させ、あたかも体が消滅したかのごとくみせる……初歩的なマジックだ!!」
突進してきた怪盗キッドを自身のマジックで惑わし、逆立ちしながらトランプ銃で当てて見せた快くん。やはり、彼のマジックは盗一さんみたい素晴らしいマジックだ。
しかし、そのマジックを見て突如怪盗キッドの様子が豹変する。その仮面の中から現れた顔は物腰柔らかそうなお爺さんだった……あれ、あのお爺さんどこかで見たことあるような……そして、そのお爺さんは、驚きながらもある人の名を口にする。
?「あなたはまさか!?とっ、盗一様!!」
(盗一さんのことを知ってる……?)
このお爺さん……一体何者なんだ?僕やきっと快くんも訝しんでいると、お爺さんは膝をつき快くんの手を握りながら泣き出した。
「あなた様の付き人だった寺井でございますよ!たった8年間でお忘れか!?」
(寺井さん?!……久しぶりに見たな。)
まさか怪盗キッドの正体が寺井さんだったなんて。驚いている僕らを置いて、寺井さんは、衝撃的な事実を口にする。
寺「8年前のあのショーで殺されたとばかり思っていました…私は8年間悔しくて悔しくて……だから盗一様の仮の姿である怪盗キッドになりすまして、盗一様を殺したヤツらをおびき出そうと……」
快「なんだと?!親父は殺されたのか!?誰だ!誰に殺されたんだ!?」
(盗一さんが、殺された……?!マジックショーの最中に、事故で亡くなったんじゃないの?!)
快くんはその内容に驚いて、寺井さんに鬼気迫る表情で肩を揺さぶる。僕もあまりの衝撃に地面に座り込んでしまった。
寺井さんはその時にやっと快くんだと気づいて「快斗ぼっちゃま…………?」と声に出していた。
快「もうひとつ聞く……正直に答えてくれ、ジイちゃん……どろぼうだったのか?
親父は……怪盗キッドだったのか……?」
寺井さんは覚悟を決めた様子で「はい……。」と答えたのだった。
────────────────────────
寺「盗一様……寺井一生の不覚でございます。ぼっちゃまに言ってはならないことを……」
中「見つけたぞ、怪盗キッド!」
事態を受け入れるにはあまりにも短いが、時間が無い。警察が遂に屋上までやってきた。
快「オレが囮なるから、ジイはその隙に逃げろ!あと物陰に玲於が隠れてるからソイツも連れて行ってやってくれ!」
寺「玲於様まで?!……っ!?」
流石にここに残っているとそのうち僕も見つかっちゃうから、快くんの提案は有難いな。しかもまさか僕までいると思っていなかったのか、寺井さんは僕のいる方にチラッと目線を向けた。
玲「(……ごめんなさい、寺井さん。)」
僕はその時ペコッと頭を下げた。あの言い方からして、本来盗一さんが怪盗キッドをやっていることは息子である快斗君にまで明かすつもりはなかったんだろう……それなのに息子だけでなく、部外者である僕にまで話を聞かれてしまったんだから。罪悪感が出てくる……何だか申し訳なくて、頭を下げたのだった。
寺「でも、ぼっちゃま!?」
快「オレはもうぼっちゃまじゃない!!怪盗キッドだ!!」
この時の快くんは、ヘリコプターのライトに照らされていた。そのライトはまるでスポットライトのよう……警察を欺き、世の人を魅了する。8年の時を経て、2代目怪盗キッドとして、後にその名を再び日本中に轟かせることとなる。
怪盗キッドに扮した快くんは、自ら囮となりその姿を消した。警察が探しているその隙を狙って、僕と寺井さんはその銀行を後にする。……今日起きた出来事は、僕にとっても快くんにとっても忘れられない夜になっただろう。あの後、僕は家族に内緒で夜中に帰宅し、布団の中に入ってもしばらく寝付けなかった。
────────────────────────
青「おはようございます〜!あれ……憐がちゃんと起きてる?!」
何時ものように、青ちゃんと快くんが家に朝食を食べにやってくる。二人はそれぞれの定位置になっている椅子に座った後、青ちゃんが既に朝食を食べている姉さんを見て凄く驚いた顔をしていた。
貴「失礼な!……私だって、ちゃんと起きれる日もあるんだから!」
青「ごめんごめん〜!まさか、起きてるなんて思わなくて……。」
貴「青子貴女ね〜?!……っていうか、それ……ほんとに持ってきたの?!」
何時もだったら朝に弱い姉さんを快くんが起こしに行って、そしてなんやかんや2人が言い合いして騒がしい朝の時間を迎えるんだけど、今日は青ちゃんと姉さんのパターンか。でもなんだかんだ楽しそうなのだからどこか微笑ましいやり取りに見える。……ちょっと不思議な会話をしているけど……青ちゃん、その手に持っている物ってもしかして……。
そんなやり取りを気にせず、自分の手に持っている宝石を眺めながら、上の空の快くん……待ってよ、色々とおかしい。
(何でここに大きな魚を持ってきてるのかな青ちゃんは?!そして、君は何で月の瞳を持ってきちゃってるの快くん?!)
ツッコミどころしかない……まず、青ちゃん。そんな大きな魚、魚嫌いの快くんにバレずにどうやって持ってきたの?!あと快くんは手に隠してはいるみたいだけど、反対側にいる僕にはバッチリ見えている。青ちゃんもこっち側にいるから見えたら不味いのに?!僕の心配を他所に、何時もだったらちょっかいをかけてくる快くんが、今日は絡んでこなかった為に、不審に思った姉さんが青ちゃんとの言い合いをそこそこにし、快くんの手元を見ながら尋ねた。
貴「快斗、さっきから何を見てるの?手の中に何かあるみたいだけど……」
快「ん?……って何見てんだよ憐!」
姉さんの声に驚いた快くんは、思わず手の中にあった宝石を前に投げてしまった。
快「あ〜っ!!」
そしてその宝石は斜め前に座っている青ちゃんが持つ、魚の口の中へ……あっ。
快(しまった!月の瞳が……。)
貴「五月蝿いわね……何でいきなり怒るのよ!」
快「仕方ねぇだろ〜?!オメーがいきなり話しかけっから……。」
貴「何よ!私はただ何を見てるのか聞いただけじゃん!」
快「ケッ!それに五月蝿いって言ったけどな……オメーの声のがうるせぇーよ!」
姉さんと快くんの言い合いがヒートアップしている。特に快くんは月の瞳が嫌いな魚の口の中に入ったことを忘れてるのかなってぐらいに熱くなっている。まぁでも、僕も青ちゃんも何時ものことなので、外野から見守っている。でも今日は何時もと違うものがある……姉さんはともかくそれが大嫌いな快くんは、姉さんに意識を集中しているのか、一度見ているはずなのにまだ気づいていないみたいだ。
しかし、その言い合いに痺れをきらした青ちゃんが、快くんにウキウキした声で言い合いに割って入る。
青「まぁまぁ二人とも落ち着いて……ねぇ〜快斗??これな〜んだ!!」
そう言って青ちゃんは手に持っていた大きな魚を快くんの前に突きつける。
快「魚ぁ〜〜っ!」
流石の快くんも二度目となれば気づいたみたいだ……何を隠そう、快くんは大の魚嫌いなのだ。見るだけでも無理らしいので食べるのなんてもっと難しいだろう。
貴「ふふっ!いい気味……!」
玲「姉さん……💧」
快くんが息を荒くするくらい驚いた姿を見て、イタズラが成功したかのように笑う姉さんと青ちゃん。どうやら姉さんは青ちゃんの共犯かな。
快「何で魚なんか持ってきてんだよ!!」
青「今日、お父さんに料理してもらうんだもぉ───ん♡」
快「だからって何でこのうちに……。」
青「それはもちろん、快斗だけじゃなく玲於や憐にも見てもらいたくて♡どう?玲於?憐?」
僕らに感想を求める青ちゃん。どうって言われても……正直見た目は良い訳では無いけど、僕は快くん程じゃないからそこまで嫌悪感はない。ましてや姉さんは共犯だから僕以上にないだろう。でも、あんなに嬉しそうな青ちゃんを見ているとつい……味方になりたくなっちゃうよね?
玲「とっても大きい魚だね青ちゃん!凄いな〜!」
快「……玲於てめぇ、俺を裏切るのか?!」
ごめん、快くん……でも、惚れた女の子には逆らえないよ。親友よりも好きな女の子を優先した僕に、快くんは目玉を見開くぐらい怒っていた。
貴「さすが青子〜!活きのいい魚用意してくるなんてね!良かったわね〜快斗?せっかく青子がアンタの為に、用意してくれた魚だよ?アンタの大好きな!!魚さんだよ??もっとよく近くで見たら??」
姉さんもここぞとばかりに、快くんを煽る。その様子に何か気づいた快くん。
快「憐……まさか青子に喋ったな!?」
貴「残念でした〜!私〝は〟話してないよ。青子が自分で他の人に聞いたのよ!」
あくまで自分が話したことでは無いと強調する姉さん。快くんの弱点を知る人と言ったら他に居るとすれば……
(うちの母さんか千景さんだろうな……。)
知っているとすれば、この二人だろうな。……弄られている快くんが流石に可哀想に見えてきたので、青ちゃんと姉さんにそこまでにしなよと止めに入る。僕に止められた2人は、追及はしなかったけど、笑みを浮かべたままだった。
青「この魚いくらすると思う?」
青ちゃんがワクワクしながら聞いてきた。
貴「この大きさだと……いくらなの?」
玲「う〜ん……。」
僕も姉さんもお手上げだ。そんなに魚に詳しくないからね。市場価格っていくらぐらいなんだろう。
快「聞いて驚くなよ!!……時価4億円!!」
快くんの冗談なのか本当なのかよく分からない値段に、目を点にする青ちゃんと姉さん。
(そういえば、その魚のお腹の中に月の瞳が入っちゃってたの忘れてた。)
途中までは覚えていたのに、なぜだかいつの間にか消えていたその記憶。だけどその現場をちゃんと見たのは僕と快くんだけだから、その意味を真に理解しているのは僕らだけ。
青「うそ……。」
貴「は?……。」
快「これほんと……。」
母「あらま……。」
だから快くんと僕以外の全員が、驚きのあまり気の抜けた声を出すのも無理は無い。その後の空気は……言いたくない。
その日の夜、青ちゃんの言葉通り銀三さんが魚を捌いたらしいが、その魚から時価4億円にのぼる宝石、怪盗キッドが盗んだ月の瞳が発見されたのだとか……。
快くんがいつまで経っても帰ってこないので、僕も
盗一さんの額縁に入った写真の向こう側へ向かった。ゴゴゴっと歯車が動くような音が聞こえたと思ったら、着いた先にはオープンカーや、一昔前の航空機などその他色々物がゴチャゴチャ置かれていた。
(凄い……まるで秘密の部屋みたいだ。)
そんなことを考えながら見渡すと、白のシルクハットとマントを羽織った人の姿があった。もしかして……快くん?
玲「快くん!」
快「玲於!?お前も来たのかよ…。」
玲「当たり前だろ?!全然帰ってこないから心配したんだよ?」
快「そいつは悪ぃな。」
快くんは罰が悪そうに笑った。その姿を見てひとまず安心するも、視線は気になっている快くんの格好について……。
玲「それより快くん!その格好って……。」
快「やっぱオメーも分かったか。俺はこれからやつに会いに行く……そうしたら分かるかもしれない。」
そう言いながら快くんはシルクハットをくるりと回し自身の頭にのせた。
快「このパネルは8年経つと開くようになってたんだ……黒羽盗一最後のマジックってわけか……。
ならば…最後のマジックを、解いてやるぜ!!玲於、お前も来るか?」
不敵な笑みを浮かべた親友を見る……その姿はまるで、今世間を騒がせている怪盗そのもの……何故この怪盗が盗一さんに関係があるのか、僕はその謎を知りたい。だったら答えはひとつ……。
玲「もちろん!」
快くんの誘いに二つ返事で返すのだった。
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時刻はもうすく真夜中になる23時過ぎに、僕達はとある銀行の屋上にいた。上空は星が散りばめられた夜空が広がっているが、真下は多くの建物の明かりによって見事な景色となっている。こんな景色、青ちゃんや姉さんが見たらさぞ綺麗だと喜ぶだろう……だけど、僕達はそんな綺麗な景色を見に来た訳じゃない。全てはあの部屋の謎を……盗一さんが隠していた謎を知る為に。
今日の夜、世間を騒がせている怪盗キッドは、この小野銀行の所有する〝月の瞳〟という宝石を盗みにやってくる。この怪盗は、マジックを使い盗みをはたらいているようなので、有望なマジシャンでもある快くんが、彼の盗みルートを予測した所、彼は月の瞳を盗んだ後、警察を巻くために屋上に来ると踏んだ僕達はこうして今か今かと怪盗を待ち構えていた。
快「玲於、いいか……やつが来たらまずは俺が相手をする。お前は別の場所に隠れてろよ。俺と違ってお前は特に変装してる訳でもねぇからな。」
玲「分かってるよ……隠れて二人の話を聞いてるよ。この屋上に侵入しているのもあんまり良くないことだと思うからね。警察も下にいっぱいいるし、万が一バレたら不味いから。」
僕も馬鹿では無い……今回あの怪盗を待ち伏せする為に、この屋上にやってきたけど、それはあの怪盗を追っている警察だっていっぱいいる……中にはきっと青ちゃんのお父さんである銀三さんもいるはずだ。快くんの格好は怪盗キッドそのものだから万が一姿が見られても大丈夫だとは思うけど、僕は闇に紛れられるように全体的に黒尽くめにして、フードを被っているだけだから、間近で見られると不味いのだ。
快「分かってるならいいぜ……っ!そろそろ始まるな、玲於!」
玲「了解……頑張ってね快くん。」
僕は快くんの姿を尻目に、物陰に隠れた。そして、けたたましいサイレンの音ともに、下の方からガラスの割れた音が派手に響いた。警官達の声が多数聞こえる中、何かが壁伝いに登ってくるような音が聞こえる。
(……快くんの予測通り上に登ってきたんだ。)
そして、ふと顔を出すと下の方から腕が出てきて、こちらに登ってくる白い怪盗が見えた。その怪盗を待ち受けるは、その怪盗と同じ格好をした快くん。白い仮面を付けた彼の姿は、月明かりに照らされて何だか幻想的だった。
そこからはお互いのマジック対決が始まる。怪盗キッドは、自分と同じ姿をした快くんに驚くもすぐに柔軟に対応し、自らのマジックを披露した。
?「ならば、このマジック!!見破れるかな!?」
その怪盗が見せたマジックは自身の身体を消失させたマジック……僕には少なくともそんな風に見えた。
(?!…顔と手と足は見えているのに、真ん中の胴体が消えている……僕にはさっぱりだけど、きっと快くんなら分かるよね……。)
不安に思いつつも、快くんを信じて見守っていると彼は大きな声で笑いながら、トランプ銃で怪盗の額近くにトランプを撃つ。
快「体を鏡ばりにして周りの風景と同化させ、あたかも体が消滅したかのごとくみせる……初歩的なマジックだ!!」
突進してきた怪盗キッドを自身のマジックで惑わし、逆立ちしながらトランプ銃で当てて見せた快くん。やはり、彼のマジックは盗一さんみたい素晴らしいマジックだ。
しかし、そのマジックを見て突如怪盗キッドの様子が豹変する。その仮面の中から現れた顔は物腰柔らかそうなお爺さんだった……あれ、あのお爺さんどこかで見たことあるような……そして、そのお爺さんは、驚きながらもある人の名を口にする。
?「あなたはまさか!?とっ、盗一様!!」
(盗一さんのことを知ってる……?)
このお爺さん……一体何者なんだ?僕やきっと快くんも訝しんでいると、お爺さんは膝をつき快くんの手を握りながら泣き出した。
「あなた様の付き人だった寺井でございますよ!たった8年間でお忘れか!?」
(寺井さん?!……久しぶりに見たな。)
まさか怪盗キッドの正体が寺井さんだったなんて。驚いている僕らを置いて、寺井さんは、衝撃的な事実を口にする。
寺「8年前のあのショーで殺されたとばかり思っていました…私は8年間悔しくて悔しくて……だから盗一様の仮の姿である怪盗キッドになりすまして、盗一様を殺したヤツらをおびき出そうと……」
快「なんだと?!親父は殺されたのか!?誰だ!誰に殺されたんだ!?」
(盗一さんが、殺された……?!マジックショーの最中に、事故で亡くなったんじゃないの?!)
快くんはその内容に驚いて、寺井さんに鬼気迫る表情で肩を揺さぶる。僕もあまりの衝撃に地面に座り込んでしまった。
寺井さんはその時にやっと快くんだと気づいて「快斗ぼっちゃま…………?」と声に出していた。
快「もうひとつ聞く……正直に答えてくれ、ジイちゃん……どろぼうだったのか?
親父は……怪盗キッドだったのか……?」
寺井さんは覚悟を決めた様子で「はい……。」と答えたのだった。
────────────────────────
寺「盗一様……寺井一生の不覚でございます。ぼっちゃまに言ってはならないことを……」
中「見つけたぞ、怪盗キッド!」
事態を受け入れるにはあまりにも短いが、時間が無い。警察が遂に屋上までやってきた。
快「オレが囮なるから、ジイはその隙に逃げろ!あと物陰に玲於が隠れてるからソイツも連れて行ってやってくれ!」
寺「玲於様まで?!……っ!?」
流石にここに残っているとそのうち僕も見つかっちゃうから、快くんの提案は有難いな。しかもまさか僕までいると思っていなかったのか、寺井さんは僕のいる方にチラッと目線を向けた。
玲「(……ごめんなさい、寺井さん。)」
僕はその時ペコッと頭を下げた。あの言い方からして、本来盗一さんが怪盗キッドをやっていることは息子である快斗君にまで明かすつもりはなかったんだろう……それなのに息子だけでなく、部外者である僕にまで話を聞かれてしまったんだから。罪悪感が出てくる……何だか申し訳なくて、頭を下げたのだった。
寺「でも、ぼっちゃま!?」
快「オレはもうぼっちゃまじゃない!!怪盗キッドだ!!」
この時の快くんは、ヘリコプターのライトに照らされていた。そのライトはまるでスポットライトのよう……警察を欺き、世の人を魅了する。8年の時を経て、2代目怪盗キッドとして、後にその名を再び日本中に轟かせることとなる。
怪盗キッドに扮した快くんは、自ら囮となりその姿を消した。警察が探しているその隙を狙って、僕と寺井さんはその銀行を後にする。……今日起きた出来事は、僕にとっても快くんにとっても忘れられない夜になっただろう。あの後、僕は家族に内緒で夜中に帰宅し、布団の中に入ってもしばらく寝付けなかった。
────────────────────────
青「おはようございます〜!あれ……憐がちゃんと起きてる?!」
何時ものように、青ちゃんと快くんが家に朝食を食べにやってくる。二人はそれぞれの定位置になっている椅子に座った後、青ちゃんが既に朝食を食べている姉さんを見て凄く驚いた顔をしていた。
貴「失礼な!……私だって、ちゃんと起きれる日もあるんだから!」
青「ごめんごめん〜!まさか、起きてるなんて思わなくて……。」
貴「青子貴女ね〜?!……っていうか、それ……ほんとに持ってきたの?!」
何時もだったら朝に弱い姉さんを快くんが起こしに行って、そしてなんやかんや2人が言い合いして騒がしい朝の時間を迎えるんだけど、今日は青ちゃんと姉さんのパターンか。でもなんだかんだ楽しそうなのだからどこか微笑ましいやり取りに見える。……ちょっと不思議な会話をしているけど……青ちゃん、その手に持っている物ってもしかして……。
そんなやり取りを気にせず、自分の手に持っている宝石を眺めながら、上の空の快くん……待ってよ、色々とおかしい。
(何でここに大きな魚を持ってきてるのかな青ちゃんは?!そして、君は何で月の瞳を持ってきちゃってるの快くん?!)
ツッコミどころしかない……まず、青ちゃん。そんな大きな魚、魚嫌いの快くんにバレずにどうやって持ってきたの?!あと快くんは手に隠してはいるみたいだけど、反対側にいる僕にはバッチリ見えている。青ちゃんもこっち側にいるから見えたら不味いのに?!僕の心配を他所に、何時もだったらちょっかいをかけてくる快くんが、今日は絡んでこなかった為に、不審に思った姉さんが青ちゃんとの言い合いをそこそこにし、快くんの手元を見ながら尋ねた。
貴「快斗、さっきから何を見てるの?手の中に何かあるみたいだけど……」
快「ん?……って何見てんだよ憐!」
姉さんの声に驚いた快くんは、思わず手の中にあった宝石を前に投げてしまった。
快「あ〜っ!!」
そしてその宝石は斜め前に座っている青ちゃんが持つ、魚の口の中へ……あっ。
快(しまった!月の瞳が……。)
貴「五月蝿いわね……何でいきなり怒るのよ!」
快「仕方ねぇだろ〜?!オメーがいきなり話しかけっから……。」
貴「何よ!私はただ何を見てるのか聞いただけじゃん!」
快「ケッ!それに五月蝿いって言ったけどな……オメーの声のがうるせぇーよ!」
姉さんと快くんの言い合いがヒートアップしている。特に快くんは月の瞳が嫌いな魚の口の中に入ったことを忘れてるのかなってぐらいに熱くなっている。まぁでも、僕も青ちゃんも何時ものことなので、外野から見守っている。でも今日は何時もと違うものがある……姉さんはともかくそれが大嫌いな快くんは、姉さんに意識を集中しているのか、一度見ているはずなのにまだ気づいていないみたいだ。
しかし、その言い合いに痺れをきらした青ちゃんが、快くんにウキウキした声で言い合いに割って入る。
青「まぁまぁ二人とも落ち着いて……ねぇ〜快斗??これな〜んだ!!」
そう言って青ちゃんは手に持っていた大きな魚を快くんの前に突きつける。
快「魚ぁ〜〜っ!」
流石の快くんも二度目となれば気づいたみたいだ……何を隠そう、快くんは大の魚嫌いなのだ。見るだけでも無理らしいので食べるのなんてもっと難しいだろう。
貴「ふふっ!いい気味……!」
玲「姉さん……💧」
快くんが息を荒くするくらい驚いた姿を見て、イタズラが成功したかのように笑う姉さんと青ちゃん。どうやら姉さんは青ちゃんの共犯かな。
快「何で魚なんか持ってきてんだよ!!」
青「今日、お父さんに料理してもらうんだもぉ───ん♡」
快「だからって何でこのうちに……。」
青「それはもちろん、快斗だけじゃなく玲於や憐にも見てもらいたくて♡どう?玲於?憐?」
僕らに感想を求める青ちゃん。どうって言われても……正直見た目は良い訳では無いけど、僕は快くん程じゃないからそこまで嫌悪感はない。ましてや姉さんは共犯だから僕以上にないだろう。でも、あんなに嬉しそうな青ちゃんを見ているとつい……味方になりたくなっちゃうよね?
玲「とっても大きい魚だね青ちゃん!凄いな〜!」
快「……玲於てめぇ、俺を裏切るのか?!」
ごめん、快くん……でも、惚れた女の子には逆らえないよ。親友よりも好きな女の子を優先した僕に、快くんは目玉を見開くぐらい怒っていた。
貴「さすが青子〜!活きのいい魚用意してくるなんてね!良かったわね〜快斗?せっかく青子がアンタの為に、用意してくれた魚だよ?アンタの大好きな!!魚さんだよ??もっとよく近くで見たら??」
姉さんもここぞとばかりに、快くんを煽る。その様子に何か気づいた快くん。
快「憐……まさか青子に喋ったな!?」
貴「残念でした〜!私〝は〟話してないよ。青子が自分で他の人に聞いたのよ!」
あくまで自分が話したことでは無いと強調する姉さん。快くんの弱点を知る人と言ったら他に居るとすれば……
(うちの母さんか千景さんだろうな……。)
知っているとすれば、この二人だろうな。……弄られている快くんが流石に可哀想に見えてきたので、青ちゃんと姉さんにそこまでにしなよと止めに入る。僕に止められた2人は、追及はしなかったけど、笑みを浮かべたままだった。
青「この魚いくらすると思う?」
青ちゃんがワクワクしながら聞いてきた。
貴「この大きさだと……いくらなの?」
玲「う〜ん……。」
僕も姉さんもお手上げだ。そんなに魚に詳しくないからね。市場価格っていくらぐらいなんだろう。
快「聞いて驚くなよ!!……時価4億円!!」
快くんの冗談なのか本当なのかよく分からない値段に、目を点にする青ちゃんと姉さん。
(そういえば、その魚のお腹の中に月の瞳が入っちゃってたの忘れてた。)
途中までは覚えていたのに、なぜだかいつの間にか消えていたその記憶。だけどその現場をちゃんと見たのは僕と快くんだけだから、その意味を真に理解しているのは僕らだけ。
青「うそ……。」
貴「は?……。」
快「これほんと……。」
母「あらま……。」
だから快くんと僕以外の全員が、驚きのあまり気の抜けた声を出すのも無理は無い。その後の空気は……言いたくない。
その日の夜、青ちゃんの言葉通り銀三さんが魚を捌いたらしいが、その魚から時価4億円にのぼる宝石、怪盗キッドが盗んだ月の瞳が発見されたのだとか……。