探偵たちの鎮魂歌
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────── ミラクルランド
日が落ちるほど時は経つ。空の色は暗い闇夜に変わっていく……しかし、地上では昼に負け劣らず光に溢れ、多くの人々に終わらない夢を届けている。
盛大な音楽が響き渡り、笑顔溢れる空間で険しい顔付きで何かを探すもの達がいた。蘭、和葉、憐、歩美、光彦、元太は窃盗を行った大柄な男を探していた。
和「野球帽にジャンパー着てる男やったよね」
蘭「えぇ……でも、もう脱いでるかも」
鋭い目つきで群衆の中を掻き分けて進んでいく。事件に首を突っ込んだり、はたまた呼び寄せてしまう幼馴染の探偵を想っているからか、不本意ながら数々の修羅場を乗り越えてきた為、このような犯人探しも率先して行っていた。
蘭「!?」
和「どないしたん?」
少し前を歩く黄色のシャツを着た大柄な男。蘭はその人物に不信感を抱いた。
蘭「……ちょっと怪しくない?」
和「あぁ、あの黄色のシャツの……」
蘭「ほら、髪の毛が二段に跳ねてる……」
和「……帽子を被ってたってことやねぇ」
蘭「多分、ジャンパーや奪ったバッグと一緒に処分したのよ」
和「さすが東の高校生探偵、工藤新一の彼女やわ!!」
蘭「別に彼女じゃないって〜……!」
蘭の推理を和葉は上機嫌に褒めた。長年工藤新一のそばに居た女の子は伊達じゃない。
────── 小さい頃からずっと……
────── 誰よりも傍で見てきた……
──────
貴「ふふっ!蘭だけじゃないよ……!」
彼女達の様子を背後から見ていた憐は、嬉しそうに蘭達に声をかけた。
貴「和葉ちゃんも凄いよ!蘭の話を少し聞いただけで、蘭の言いたい事が分かってるんだもん。さすが西の高校生探偵、服部平次くんの彼女さんだね!!」
和「えっ〜!?」
貴「だって蘭と息ぴったりだよ?なんか工藤くんと服部くんみたい〜!」
ニコニコ笑みを浮かべながら伝える憐の様子に、本心から言っていることが分かった蘭と和葉は嬉しくなるも気恥しさを誤魔化すように、頬を赤く染めて笑っていた。
和やかな雰囲気になりながらも、先程の男を探していると、近くから「ドロボー!!」と声が上がった。
蘭「!?……和葉ちゃん!憐!」
和「おん!」
貴「うん!」
私達は蘭の声を合図に、悲鳴が上がった方へと走り出す。人の合間をすり抜けて、広いところに出ると、丁度元太くんが黄色シャツの男にタックルを決めてるところに出くわす。
(元太くん凄っ……って感心してる場合じゃないよ)
貴「元太くん!光彦くん!」
二人を呼び寄せて、黄色シャツの男との距離を物理的に離す。怪我ないか確認したら元太くんも光彦くんも大丈夫だと元気に告げる。
貴「二人ともお手柄だね!でも危険だから、後は蘭お姉さん達に任せて二人は離れててね」
その間、男と相対しているのは蘭と和葉ちゃん。空手の都大会で優勝している蘭と、合気道有段者の和葉ちゃんなら大丈夫だろう。そこらの男性よりも強い二人なら……。
寧ろ何も出来ない私は邪魔でしかないので、元太くん達を安全な所まで引き離す。後は歩美ちゃんだけだ。私は急いで少し離れていた歩美ちゃんのそばに駆け寄る。
貴「歩美ちゃん!大丈夫?怪我とかない?」
歩「うん!あのね!歩美があの人見つけたんだよ〜!」
貴「そうだったんだ……うん、偉いね!流石少年探偵団だ!みんなお手柄だね〜!」
私は歩美ちゃんの頭を優しく撫でた。本当にこの子達には、ハラハラドキドキさせられてばかりだけど、少年探偵団の名に恥じぬ通り、実際犯人逮捕に貢献してくれている。褒めると歩美ちゃんが、一目で分かるくらい嬉しそうに笑っていた。
蘭達の方では諦めるように促すが、男は怯まず蘭に向かっていく。見ていて清々しいほどに腹と首、それぞれに拳と蹴りをお見舞いされていた。
(うわぁ〜痛そう……)
思わず顔を顰めてしまう。蘭の拳は電柱や校舎の壁にヒビが入るほどのもの……園子から話を聞くと大の男複数人相手に、京極さんと一緒に蹴散らしたという……
蘭「はぁっ!!」
────── バキッ
普段が聖母みたいに優しい子だから、今みたいに凛とした姿は同じ女性から見ても、とてもかっこよく見える。
そして、それは和葉ちゃんに対しても同様の事が言える。
蘭に敵わないと思った男は、近くにいた和葉ちゃんに向かっていく。しかし、和葉ちゃんは合気道有段者。特に合気道は、相手の力を利用して戦う武道なので、あのように突進したら……
和「はぁっ!!」
腕を掴まれて、そのまま地面へと叩きつけられていた。……蘭も和葉ちゃんも武道の経験者だから、安心して見ていたが、飛ばされてきた男が私達の方へと飛ばされた事により状況が一変する。
歩「きゃあっ!!」
────── 考えるよりも先に体が動いていた……
和「しもた!!」
元「歩美!!」/ 光「歩美ちゃん!!」
歩「憐お姉さんっ!!」
歩美ちゃんの声が鮮明に聞こえる。……そんな顔をしないで。きっと……大丈夫だから……
***
男は、和葉の合気道によって、体を飛ばされ、地面に叩き付けられた。妙に強い女二人には勝てないと判断した男は、その際近くにいた歩美を捕らえようとした。少女を人質にとれば、周囲の人間も迂闊には手が出せない。そしてそのまま行けば、このミラクルランドから脱出できるかもしれないと……
然し、男が飛ばされた先には歩美だけでなく、憐も近くに立っていた。憐は男が飛ばされたと同時に、直感的にこれから起こりうる危機を察知し、反射的に歩美の腕を取り後ろへと放った。
構える余裕もなく、少し乱暴に放ってしまったお陰で、突然後ろへと追いやられた歩美は体勢を崩し地面に座り込んでしまったが特に怪我もなかった。
衝撃に驚いた歩美は、一瞬だけ瞼を閉じてしまった。気づけば自分の体勢は崩れ、地面に尻餅をついていた。閉じていた瞼を開くと、目の前には歩美の意図しない光景があった。
聡い歩美は即座に状況を理解する……
……お世話になっているお姉さんが、自分を助けてくれたのだと……
歩「憐お姉さんっ!!」
歩美の声を聞いて、憐は微笑んだ。
言葉はなかったけれど、歩美にはその表情で彼女が何を伝えたかったのか理解した。
────── そんな顔をしないで。大丈夫だから……
男「動くな!!!動いたらこの女がどうなるか分かんねーぞ!!」
貴「っ!!!」
不利な盤上を一気に引っくり返す為、男がとった行動とは……投げ飛ばされた先にいた髪の長い女を人質にとることだった。本当は近くにいた幼い年齢の少女を狙うつもりだったが、女の機転によりそれは叶わなくなる。リスクは高くなるが人質に取れないことはない。先程の武道に長けている女達のように、妙な強さがあるのかと内心焦りもあったが、抵抗力も然程強くなく押さえつけられる事から、こいつは普通の女だと男は判断した。
片方の手で憐の体を押さえつけ、身動きが取れないようにし、もう片方の手でナイフを持ち、彼女の首に当てる。黄色シャツの男がミラクルランドから抜け出す為の人質として、憐が捕らえられてしまった。
男「近寄るなよ……近寄ると女の命はねーぞ……」
男は憐を押さえながらジリジリと後方に下がる。その先はミラクルランドの入退場ゲートが見える。
目「君!その子を放しなさい!!ワシが代わりに人質になろう!!」
男「ふざけんなジジイ!!」
目暮が代わりに人質になると提案するも、男は聞く耳を持たず更に怒りを助長させる。
蘭「じゃあ私が……」
和「あたし人質になる!!憐ちゃんが捕まったんはあたしのせいやし……」
白「君達は……」
貴「駄目だよっ!!!」
目暮だけでなく蘭や和葉が代わりに人質になることを提案する。その提案を受けて白鳥が必死に止めようとする前に、憐が叫んだ。
貴「私だけで良いから……!(嫌な予感がする……あの時感じた言い表せない不安が……また……)」
あの時、園子達と一緒に入退場が出来るゲートに近づいた時……自分達の腕に付いているIDが赤く点滅していたこと……それが何故か憐を不安に駆り立てた。その時の不安が今も徐々に蘇っている……
男「うるせぇ!!おい、女!!次余計な事したら、容赦しねぇぞ!!」
貴「っ!!」
憐が口を開いた事が気に入らなかった男は、再度ナイフを彼女に向け、余計な事はするなと脅した。改めて間近に向けられたナイフの存在に、今度こそ憐も黙った。
貴(歩美ちゃんがいる手前、情けない事は言えなかったけれど……やっぱり怖い……)
自分の行動に後悔はない……あの時咄嗟に動かなければ、私の代わりに歩美ちゃんが人質に捕らわれていたと思う。まだ小さくてか弱い女の子に、ナイフなんか向けさせたくない。これでトラウマになったら可哀想だから……だから、私の行動は間違っていない。
……だけど、気持ちとは裏腹に体は正直なのだ。よく見ると憐の手は、僅かに震えていた。然し、それに気づいた者はいない。
気付く者がいるとすればきっと……
(……駄目。弱気になっちゃ……今も快斗は、頑張ってるかもしれないのに……帰ってきた時に、笑ってる出迎えられるようにしないと!へこたれている場合じゃない!)
いまだ震えは止まらないけれど、弱気になるのは違う。危険な状況にも関わらず、憐は今もまだ何処かで頑張っている快斗の存在を思い出し、自分自身を鼓舞した。
白「君達は駄目だ!民間人の君達を身代わりにする訳には……」
一方白鳥が、改めて蘭達に、憐の代わりに人質になるのは駄目だと説明する。妙に気迫が強い白鳥の様子に、蘭達は違和感を持つこともなく、事態は悪い方へと進んでいく。
男「グダグダ言ってんじゃねぇ!!人質は絶対交換しねぇ!!お前ら、俺がゲートを抜けるまで動くんじゃねぇぞ!!……女の命がかかってんだからなぁ!!」
黄色シャツの男から再度の脅し。ゲートに近づくにつれて憐の腕に着いたIDは赤く点滅を繰り返し、その間隔も短くなっている。男に捕らえられている憐の鼓動もIDの赤い光と同様、どんどん早くなっていた。
哀(駄目!このまま外に出たら……あの人が……)
この場で真実を知るものは極小数。小五郎から託された目暮達警察と、コナンから直接知らされた哀。自分達に付けられたIDは、ミラクルランドの外に出ると爆発するシステムが組み込まれている。蘭達がランドの外に出ないよう気を遣いながら目を見張っていると、途中で友人の和葉と憐と出会う。それぞれ別々にやってきた彼女達にも自分達と同じようなIDが付けられていた。
────── 彼女達も恐らくミラクルランドの外に出れば、ID事爆発する……
その危機に瀕しているのが、彼女……神崎憐。正直一緒にいた時間は少なかったけれど、飛行船の時に自分を守ってくれた人……
今日も自分の仮病を心配して、優しく接してくれた人……
……何処か姉と雰囲気が似ていて、何故か放っておけない人……
このままではミラクルランドの外に出た途端、彼女のIDは爆発して、死んでしまう……どうする?どうすれば良いの……??
男に人質として捕らえられた憐がゲート付近に差しかかるその時、救世主が現れた……。
────── ピッポッパ……
男の背後から電子音が羅列して聞こえる。
園「ちょっとここは入口でしょ〜?出口は隣!!」
園子が携帯を打ちながら言い放つ。彼女は携帯だけを注視しており、男が何故入口ゲートから出ようとしているのか気づいていなかった。彼女もまさか自分の目の前に居る男が、憐を人質にしている凶悪犯などと夢にも思わない。
男から「いいからそこをどけ!!」と怒鳴られても、園子は顔を顰めて「怒鳴ってもダ〜〜〜メ!!ルールは守って!!」と強気に男に言い返した。その際に男の背中をドンッと強く押し返した。
蘭「憐!こっち!」
貴「っ……うん!」
園子に背中を押された男は、急な衝撃に耐えられず掴んでいた憐を離してしまった。その隙を狙って一気に蘭の方へと走り出す憐。
園「全くいい年して……こんなルールも守れないんじゃ……」
目「確保しろ!!」
園「っ!?……ひっ!!……へ?」
園子が驚いたのは、目の前に集まっている人の数。そしてその殆どの人が彼女の方へと視線を向けていた。そして目暮の大声と共に自分の横を覇気迫る勢いで駆け抜けていく警察官達を見て、状況を把握出来ずにいた。
男は憐を手放した後でも、警察に追われたとしても諦めなかった。近くにいた一人の女性を再度人質にとった。
男「ハハッ!人質の代わりならいくらでもいるぜ!!」
目「ぬぅ……っ!?」
……その女性が誰かも知らず。男のツキはどうやらここまでのようだ……。
光/元「「「あっ……」」」
蘭/貴/歩/和/哀「「「「「……」」」」」
蘭達は皆、狼狽えず彼の言動を見守った。
男「近づくなよ……近づくとこの女を……」
歩/光/元「「「……どうするの?」」」
男「ど、どうするったって……」
怯えず普通に言葉を疑問形で返してくる歩美達に、男の方が不信感を抱き狼狽えてしまう。すると捕らえられていた女が、意気揚々と男に声をかけた。
?「どうするか……教えてくれる?」
男「……へっ?」
────── ゴォッ! ドカッ!
男の背中に拳が入り込んだ。
男「ぐわっ!!」
────── ズルッ! ガシッ!
?「はぁああああああっ!!」
背中に直撃して入った拳は、男の体勢を崩すのに十分だった。崩れた男の体を両手で捕らえた女は、そこから一気に持ち上げて、地面へと頭から叩きつけた。
────── ゴンッ!
硬い音が響いて、男は倒れた。
貴(あんな高いヒール履いてるのに、佐藤刑事、凄い……!返り討ちにしてる)
しっかりと最後まで事の顛末を見届けていた憐は、佐藤の逞しさに感服した。
男が次の人質として選んだ女性は、佐藤美和子という女性だった。佐藤は警視庁捜査一課の紅一点……つまり警察官だ。しかし、仕事ではなく今回は休暇の為私服だ。後からソフトクリームを両手に持った同じく警視庁捜査一課の高木渉とデートの為に、このミラクルランドへと訪れていたのだった。
結局佐藤のプロレス技、ジャーマンスープレックスをくらった男は倒れ、後に手首に手錠をかけられる。
蘭「憐ごめんね……」
和「憐ちゃんほんまにごめん……あたしのせいで、憐ちゃんを危険な目に合わせてしもて……」
蘭と和葉は顔を暗くし憐に謝る。謝罪の言葉を受けた憐は、首を横に振り、元気に笑った。
貴「何言ってるの!二人のお陰で皆無事だったんだよ?蘭、和葉ちゃん……ありがとう……!」
嘘偽りのない純粋な憐の言葉に、蘭も和葉も笑顔を取り戻す。そこへようやく状況を把握した園子と離れていた子ども達が蘭達の傍へとやってきた。
歩「ごめんなさいっ……憐お姉さんっ……」
貴「歩美ちゃん!泣かないで〜……ほら見てー!私は大丈夫だよ〜!私の方こそごめんね……あの時嫌な予感がして、咄嗟に歩美ちゃんを後ろに押しちゃって……怪我しなかった?」
憐の傍へ来るなり、涙を流して泣き始めた歩美。憐は彼女の目線に合わせる為、しゃがみこみ、微笑んで頭を撫でた。
歩「うんっ……」
貴「それなら良いの!それより私は泣いてる歩美ちゃんより、笑ってる歩美ちゃんが見たいな〜」
光「そうですよ歩美ちゃん!憐さんもこう言ってますし……」
元「そうだぞ歩美!」
憐だけじゃなく、傍に来た光彦、元太からも同様の言葉を受け、ようやく歩美も笑顔を取り戻した。
貴「園子ありがとう!園子のお陰で助かったよ〜!」
園「良いって良いって!なんかよく分かんないけど、アンタが助かって良かったわ!」
憐は自分を助けてくれた最大の功労者、園子にお礼を伝える。それを受けて園子は満更でもなさそうに答える。まさか自分の行動が、知らないうちに、人質にされていた憐を助けているとは夢に思わず、尚且つあのような状況だったとは本当に分かっていなかったのだ。だから園子としては、いまだ助けた実感も湧かないのだが、それでも大切な友人を助けることが出来て良かったと思うのだった。
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