探偵たちの鎮魂歌
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玲「白馬くん!?」
快「白馬……」
玲於は驚きの、快斗は不機嫌そうな声をあげる。それもそのはず、二人に声をかけてきた人物の名は白馬探。以前よりこの江古田高校に転校してきた男子生徒。シャーロック・ホームズを敬愛し、怪盗キッドを追っている英国帰りの高校生探偵。
物腰柔らかい言動、整った顔立ちで、快斗に劣らぬ頭脳を持っており、国内や留学先で幾つもの難事件を解き明かしている。頭も顔も良い為、女子生徒に人気が高く、よく黄色い声をあげられているのを目にする。父親は全国の警察を束ねる警視総監。頭脳も容姿も富も名誉も全て兼ね備えている男……それが玲於のもつ白馬探の認識だった。
玲「白馬くん、帰ってきてたんだね」
白「えぇ……ロンドンでやり残していた事件は粗方解決しましたから。それより先程から何の話をされてたんですか?」
玲「え〜と……」
興味津々と言った様子で疑問を投げかける白馬に、玲於は言葉に詰まってしまう。先程の話となると、姉と親友の進展しない関係にヤキモキした自分が半ばふっかけるように助言をした内容だろう。玲於は気にしないが、白馬を快く思っていない快斗にとっては知られたくない事だろう。
ましてや怪盗キッドの事も絡んでくる為、怪盗キッドを追い詰めてくる白馬には絶対バレてはいけない。
玲(快くんは白馬くんの事あんまり得意じゃないしね。まぁ、キッドを何処までも追ってくる探偵だからしつこくて嫌なのは分かるけど……。快くんはヘボ探偵って貶すけど、白馬くんは鋭いし、際どい所を攻めてきては快くんも散々な目にあってるからな〜……ボロを出したらすぐバレちゃう。気をつけないと……)
どんな小さな違和感でも決して見過ごさない……聡明な頭を持ち、鋭い洞察力と並外れた推理力で怪盗を追い詰める白馬探……怪盗キッド基黒羽快斗の天敵だ。
玲於は慎重に言葉を選びながら答えようとする。しかし、それよりも早く鋭い視線を彼にぶつける者がいた。
快「ケッ……お前に話す事なんか何もねぇよ!」
快斗は顔を顰めて答えた。毛嫌いしている理由はいつも自分の仕事の邪魔をしてくる所、こちらを見透かしてくるような態度、全てが鼻につく言動etc……あげればキリがないほどに白馬の気に入らない部分が出てくる。
白「……なるほど。黒羽くん……いつもは冷静な君が、今日はやけにムキになると言うことは……余程僕に知られたくない話なのかな。それこそ今夜の獲物 の話とか……」
快「はっ!何言ってんだか……」
白「それとも!……君が懇意にしているというSweet Ladyの話かな……?」
まるで確信を得てるように得意げな顔の白馬に対して、一瞬更に顔を顰める快斗だが、平静を保つ。玲於は白馬の発した言葉の意味を思案する。
快「……何の話だよ」
白「惚けても無駄ですよ。以前僕が君に渡したコンサートのチケット……2枚あったんですから誰かと行きましたよね。僕はてっきり、君の同行者は青子さんか神崎くんだと思っていた。しかし、青子さんに話を聞いたら、どちらでもない人物と君がそのコンサートに行ったと聞いて驚いたよ」
快「チッ……(青子の奴!口止めしとくんだったぜ……)」
玲「この前のコンサート……もしかして、西多摩市の堂本ホールで行われたコンサートの事?」
玲於は思い当たる節があり、そのコンサートの名前を口にする。それは先日、快斗が憐を誘い、二人で行ったコンサート。中学時代、ある理由から憐が、快斗を避け二人の仲がギクシャクしていた頃。憐が道に迷い、途方に暮れていた時、偶然出会ったのがそのコンサートでも素晴らしい歌声を披露していたソプラノ歌手、秋庭怜子だった。
当時怜子は亡くなった婚約者が大好きな歌だったAmazing Graceを歌っていた。かの魂が安らかに眠れるように、婚約者に送る鎮魂歌として……。
その歌を偶然聞いていた憐は、その綺麗な歌声に感銘を受け涙を流す。聴き入っていると、探しにやってきていた快斗が憐を見つけた。彼も同じく隣でその歌を聴いた後、憐を連れて帰った。その時にギクシャクした関係を解消したと快斗から聞いていた。
『やっと見つけたんだよ……俺達の〝思い出の歌姫〟をな……』
彼等の中に存在する〝思い出の歌姫〟……その存在が秋庭怜子であること、その歌姫にようやくその時のお礼を言うことが出来たと憐は嬉しそうに話してくれたのがつい最近の出来事だった。
白「えぇ……その様子だと黒羽くんからは何も聞かされてないんですね」
そう言って白馬はやれやれと言わんばかりに、首を横に振った。
白「実はそのコンサート……本来はうちの両親が行く予定だったんですが、二人とも行けなくなってしまって僕が行くことになったんです。しかし、急な依頼が入り僕も行けなくなってしまった。婆やも楽しみにしていたので本当は行きたかったのですが、そういう訳にもいかず、どうしようか悩んでいた時に丁度学校で、そのコンサートについて色々調べている黒羽くんと出会いましてね……」
白馬は丁寧に説明を続ける。その間快斗の表情は面白くないと言いたげに不機嫌そうであった。
白「同じ高校のクラスメイトでもありますし、欲しいのであれば快く譲ろうと思い声をかけたんですが、最初彼は断固として受け取ろうとしなかった。だけど僕の席が良席だったこと、もうコンサートまで日付がなかった事……そして、断りはしたが、やっぱりそのコンサートに行きたい理由があったのでしょう……僕に譲ってくれと頼んだ」
***
白『……このチケットを譲って欲しい?どうしたんですいきなり……。ついさっき、君は僕が譲ると言ったチケットを『要らない』と言って断ったばかりというのに……』
快『うるせぇな!良いだろ別に……こっちにも事情があんだよ!ほら早く、そのチケット寄越せよな!仕方ねぇから貰ってるよ……!』
***
玲(快くん……君ってやつは……)
一時は毛嫌いしている人に頼るなど自分のプライドが許さなかった。だから一度断ったけど、自分のプライドよりも優先するべきものがあった為、どうしてもそのコンサートのチケットが欲しかった。
……全ては想い人 の為に……。だけど、一度断った後にその横柄な態度で、白馬に頼み込むとは……快斗らしいと玲於は密かに苦笑いしていた。
白「ですが、僕も一度は断られた身……。そう易々と渡したくなくなった……だから〝ある賭け〟をしました。もしこの賭けに勝てば、チケットを譲っても良いと……」
玲「〝賭け〟って何……?」
玲於の疑問に、白馬は平然と答えた。
***
白『……でも君は一度断っている。僕もはい、どうぞと渡す訳にはいかないですね』
快『はっ?!何でだよ!』
白『気が変わったんですよ。賭けをしましょうか……この賭けに君が勝てば、チケットを譲ってあげても良いですよ』
快『何ぃ〜……?』
白『簡単な事です。今夜怪盗キッドがある宝石を狙って予告状を出しています』
快『!?』
快斗の怪訝そうな顔つきが驚きのものへと変わる。
白『〝怪盗キッド〟が予告通り宝石を盗み出すか、〝僕〟が怪盗を追っ払い見事宝石を守りきるか……どちらに勝利の女神が微笑むのか、賭けませんか?勿論僕は、僕が怪盗を追い払い、宝石を守りきる方に賭けますがね……』
快『……なら俺は、キッドがお前を出し抜いて、華麗に宝石を盗み出す方に賭ける!』
両者一歩も譲らぬ気迫を持ち、視線で火花を散らし合う。
快(白馬の奴……何考えてんだ?だがまぁいいぜ……俺は、完璧に白馬を出し抜いて宝石を盗んでみせる!そして、お前から正々堂々奪い取ったチケットで、堂本ホールのコンサートに行くんだ……アイツの為にも絶対負けられない!)
白(フッ……まさかここまで食いついてくるとは……良いでしょう。今度こそ絶対君を捕まえて見せるよ黒羽快斗くん……いや、怪盗キッド!)
片や変幻自在な変装術、奇想天外な奇術 で警察を欺き、数々のお宝を盗み出す月下の奇術師……
片や鋭い洞察力と優れた推理力を持ち、その名は日本国内に留まらず世界にも轟いており、宿敵怪盗キッドを追いかけ続ける英国帰りの高校生探偵……
快『男に二言はねぇよな……?』
白『勿論……』
快『言質取ったからな……約束だぞ。キッドが宝石を盗み出したら、お前のその堂本ホールのチケット2枚分……俺に譲れよ!』
白『分かってますよ……もしキッドが勝てば……ですがね。まぁ、今度こそ僕が勝ちます……』
快『言ってろ!今回も絶対キッドが勝つ!』
絶対負けられない戦いがここにある……快斗も白馬も相手から視線を逸らさずに、不敵な笑みを浮かべていた。
────── 最後に笑うのは俺/僕だ……!!
***
玲「なるほどね〜そんな賭けをしてたんだ……で、つい先日快くんと姉さんがコンサートに行けたってことは、その賭けの勝敗は……」
快「勿論……キッド(俺)が勝ったに決まってんだろ!!」
声高に勝利の宣言をした快斗。玲於はそう言い切った快斗の清々しい程の笑いに拍手を送る。その際に白馬は悔しそうな表情見せるも、直ぐにいつもの彼の様子にもどった。
白「ま、まぁ奇しくも勝利したのはキッドだった。約束は約束でしたからね……彼にそのチケットを譲ったんです。しかし、ある考えが僕の頭を過ぎった。黒羽くんは〝2枚分〟のチケットを欲していた。彼は誰とコンサートに行ったのか……」
白「先程廊下で出会った青子さんに聞いたら、あのコンサートに青子さんや神崎くんとではなく、黒羽くん……君が恋焦がれてやまない女性と行ったと聞きました」
快「な!?べ、別にアイツはそんなんじゃねぇよ!!(青子どんな説明したんだよ!?)」
よりにも寄って一番知られたくない相手に自分
トップシークレットが知られる事を恐れた快斗は、頑張って否定するもあまり意味を成していない。白馬は快斗の態度を見て確信する……
白(……青子さんの言った通り、やはり黒羽くんには大切なSweet Ladyがいるようだ……これは今後キッドを捕まえるのに、いつか役に立つだろう)
どちらかというと有利な立場であると確信している白馬は更に追撃を始める。
白「しかもその女性と言うのは神崎くんの双子のお姉さんだそうですね」
玲「う、うん……」
白「名前は神崎憐さん……ですか。なるほど……名前から人柄が現れているようだ。さぞ美しく可憐な女性なのでしょうね」
玲「そ、そうかな……あははは……」
白馬が憐の名前まで知っているのは、青子に聞いた時に詳細を聞いたからだと予想ができた。白馬の調子が良くなればなるほど、快斗の機嫌がどんどん悪くなる。今の発言も快斗の神経を逆撫でしているようなものだ。二人の間に挟まれている玲於は猛烈にこの場から抜け出したいと思った。
白「でもこの学校にそんな名前の女性はいない……ということは別の学校に通っているんですか?」
玲「そうだね」
白「やはりそうですか……それは残念です。友人である神崎くんのお姉さんであれば是非ともご挨拶したかったのですが……」
玲「あははは……ありがとう白馬くん。その内会えるかもしれないし、また機会があればね……」
────── バンッ
白馬に妙に気に入られている玲於は残念そうな表情を見て、いつかの機会にと淡い期待を持たせるが、今迄黙って聞いていた快斗は突如、机を叩き立ち上がる。
快「おい白馬……俺は、アイツをお前だけには絶対会わせない。嗅ぎ回るんじゃねぇぞ!」
比較的友好的な態度を見せる玲於とは反対に、断固拒否の姿勢を崩さない快斗。自分の想い人と天敵を絶対に出会わせたくない。その為の牽制だった。
白「おや、何故です?さっき君は彼女との関係性を否定していましたよね?別に好きな人ではないのでしょう……?」
快「!!……そ、それは……」
白「ましてや君は彼女の恋人でもないんですよね?君に命令する権利などないし、僕も君の命令に従う必要はない……」
玲「ちょっと快くん!幾ら君でもそれは……」
客観的に見れば白馬と玲於の言うことの方が正しいと誰もがそう思うだろう。恋人でもないただの幼馴染……それが快斗と憐を表す公正に判断した関係値だ。
それなのに、彼女の交友関係に口を挟むとは幾ら何でも傲慢ではないかと玲於は諌めようとした。
最初は各々昼食タイムを楽しんでいたクラスメイト達だが、いつの間にか白熱している3人のやり取りに注目していた。その中でも互いの本当の想いを知っている青子は内心興奮した様子で恵子と一緒に見ていた。
白「例え僕と憐さんがどういう関係になろうと、恋人でもないただの幼馴染の君には関係がない……」
快「そんな事ねぇ!!」
白馬の意見を大声で遮った快斗は、真剣な瞳で白馬を射抜いた。
快「アイツの事で……憐の事で俺が関係なかった事なんて一度もねぇよ!!」
白馬探はこの時、自分の過ちに気がついた。
快「俺がどんな想いで、ガキの頃からアイツのそばにいると思ってんだよ。お前みたいな軽い気持ちと一緒にすんな……!
白馬……お前、アイツにちょっかい出したら承知しねぇからな……」
白「!!」
闘気にも殺気にも似た雰囲気を漂わせ、威圧感を放っている。快斗はじっと白馬を見据え、彼に釘を刺す。静かな対抗心をにじませていた。
白(なるほど……僕は、開けてはならない〝パンドラの箱〟を開けてしまったようですね)
まさかここまで想いが強いとは思ってもみなかった。自分の想定以上に……彼は深く懸想を募らせているらしい。
しかし、白馬は怯まなかった。快斗に敵意なるものを向けられても、怯えず逆に強気に笑い始めた。
白「黒羽くん、これだけは君に言っておきます……隠されると、逆に徹底的に調べたくなるのが探偵ですよ」
快「チッ……名探偵と言いコイツと言い、これだから探偵共は……」
忠告しても変わらない態度でいる白馬に対し、快斗は思わず悪態をついた。
玲「二人ともその辺にしとこ……?目立ってるよ」
近くで見守っていた玲於は、控えめに口を挟んだ。そのお陰でクラスメイト達の視線を浴びていた事に気づいた快斗。居心地が悪くなり、白馬から顔を背けた。白馬は白馬で視線を集めることは慣れている為然程気にしていなかったが、常に余裕綽々の態度であった快斗が大きく感情を乱している様子を見て、益々快斗が大切にしている彼女の正体について気になり始めていた。
白「失礼、僕とした事があまり紳士的ではなかったですね。まぁ神崎憐さんについては、追々調べていくこととして……」
快「おい!お前人の話聞いてなかったのかよ!だから憐の事は……」
白「お詫びと言ってはなんですが、良ければこれをどうぞ……」
快「はぁ?!急になん……っ!?」
快斗の罵声が途中で止まった。白馬から差し出されたある物を10秒ほど見つめた後、勢いよくもぎ取った。
玲「えっ!?何でそんな勢い良く取っ……っ?!」
青「ねぇ〜白馬くんから何を……っ!?」
白馬に背を向け、熱心に手元を見つめている快斗の背中から気になった玲於と今迄の様子を見守っていた青子が覗いた。そして二人とも言葉を失う……
玲「そのチケット……!!」
青「もしかして……!!」
快「ミラクルランド……!?」
三者の驚き様に、上機嫌になった白馬はこれまた流暢に説明を始める。
白「えぇ、黒羽くん達の言う通り、これはミラクルランドのチケットです。実は僕に依頼してきた人物がここのチケットを送ってきましてね……。何でも、この僕にミラクルランドに赴き、ある事件を解決して欲しいと……」
白「だけど僕は明日には日本を発って、イギリスに戻っているので難しいと断ったんですが、余程解いて欲しいのか何とかならないかと交渉を受けましてね……それで僕はある人物を推奨しました」
快「おいおい……それってまさか……」
白「僕の代わりに、必ず事件を解決してくれる人物を紹介すると言っておきました……それが君の事ですよ黒羽くん」
快「ゲッ……」
やはり警戒すべきだったと後悔する。今の自分は甘い蜜に惹かれて、自ら籠の中に入った哀れな虫のようだ。このチケットを自ら白馬の手から奪い去ったのだから、文句は言えない。
快「ちょっと待て!何で俺に許可なくOK出してんだよ!それにそもそも俺は探偵じゃねぇ!!」
快斗の正当な主張を受けても、白馬は意に介さない。また長丁場になると思いきや、会話の応酬は白馬の一言で終わりを告げる。
白「そうそう、この依頼を無事成功した暁にはミラクルランドの物なら何でもフリーで満喫し放題……だそうですよ」
快「!?(……それなら悪くない所か、逆に最高じゃねぇか?!)」
玲(あっ……快くん悩んでる。けどこれは……)
青「なんで悩むのよ!こんな良い条件ないんだから行っちゃいなさいよ!それに青子達がミラクルランドから帰ってきた当日に、その時の話をしたら言ってたよ……!」
***
貴『へぇ〜ミラクルランド楽しかったんだ……良かったね青子っ!でもそっか〜いいなぁ……私もいつか行きたいな……ミラクルランドに……』
***
青「憐を連れてってあげなよ〜!きっと喜ぶよ……!」
玲(……青ちゃんの一言でチェックメイトだね)
白「さて……答えを聞かせて貰いましょうか?黒羽くん……」
白馬だけじゃなく、2年B組のクラスメイト達全員が黒羽快斗の出す回答を固唾を飲んで見守っていた。
「────── 俺は……」
そんな緊迫した雰囲気の中、渦中の少年は悩み抜いて、一番納得できる答えを導き出す……──────
快「白馬……」
玲於は驚きの、快斗は不機嫌そうな声をあげる。それもそのはず、二人に声をかけてきた人物の名は白馬探。以前よりこの江古田高校に転校してきた男子生徒。シャーロック・ホームズを敬愛し、怪盗キッドを追っている英国帰りの高校生探偵。
物腰柔らかい言動、整った顔立ちで、快斗に劣らぬ頭脳を持っており、国内や留学先で幾つもの難事件を解き明かしている。頭も顔も良い為、女子生徒に人気が高く、よく黄色い声をあげられているのを目にする。父親は全国の警察を束ねる警視総監。頭脳も容姿も富も名誉も全て兼ね備えている男……それが玲於のもつ白馬探の認識だった。
玲「白馬くん、帰ってきてたんだね」
白「えぇ……ロンドンでやり残していた事件は粗方解決しましたから。それより先程から何の話をされてたんですか?」
玲「え〜と……」
興味津々と言った様子で疑問を投げかける白馬に、玲於は言葉に詰まってしまう。先程の話となると、姉と親友の進展しない関係にヤキモキした自分が半ばふっかけるように助言をした内容だろう。玲於は気にしないが、白馬を快く思っていない快斗にとっては知られたくない事だろう。
ましてや怪盗キッドの事も絡んでくる為、怪盗キッドを追い詰めてくる白馬には絶対バレてはいけない。
玲(快くんは白馬くんの事あんまり得意じゃないしね。まぁ、キッドを何処までも追ってくる探偵だからしつこくて嫌なのは分かるけど……。快くんはヘボ探偵って貶すけど、白馬くんは鋭いし、際どい所を攻めてきては快くんも散々な目にあってるからな〜……ボロを出したらすぐバレちゃう。気をつけないと……)
どんな小さな違和感でも決して見過ごさない……聡明な頭を持ち、鋭い洞察力と並外れた推理力で怪盗を追い詰める白馬探……怪盗キッド基黒羽快斗の天敵だ。
玲於は慎重に言葉を選びながら答えようとする。しかし、それよりも早く鋭い視線を彼にぶつける者がいた。
快「ケッ……お前に話す事なんか何もねぇよ!」
快斗は顔を顰めて答えた。毛嫌いしている理由はいつも自分の仕事の邪魔をしてくる所、こちらを見透かしてくるような態度、全てが鼻につく言動etc……あげればキリがないほどに白馬の気に入らない部分が出てくる。
白「……なるほど。黒羽くん……いつもは冷静な君が、今日はやけにムキになると言うことは……余程僕に知られたくない話なのかな。それこそ今夜の
快「はっ!何言ってんだか……」
白「それとも!……君が懇意にしているというSweet Ladyの話かな……?」
まるで確信を得てるように得意げな顔の白馬に対して、一瞬更に顔を顰める快斗だが、平静を保つ。玲於は白馬の発した言葉の意味を思案する。
快「……何の話だよ」
白「惚けても無駄ですよ。以前僕が君に渡したコンサートのチケット……2枚あったんですから誰かと行きましたよね。僕はてっきり、君の同行者は青子さんか神崎くんだと思っていた。しかし、青子さんに話を聞いたら、どちらでもない人物と君がそのコンサートに行ったと聞いて驚いたよ」
快「チッ……(青子の奴!口止めしとくんだったぜ……)」
玲「この前のコンサート……もしかして、西多摩市の堂本ホールで行われたコンサートの事?」
玲於は思い当たる節があり、そのコンサートの名前を口にする。それは先日、快斗が憐を誘い、二人で行ったコンサート。中学時代、ある理由から憐が、快斗を避け二人の仲がギクシャクしていた頃。憐が道に迷い、途方に暮れていた時、偶然出会ったのがそのコンサートでも素晴らしい歌声を披露していたソプラノ歌手、秋庭怜子だった。
当時怜子は亡くなった婚約者が大好きな歌だったAmazing Graceを歌っていた。かの魂が安らかに眠れるように、婚約者に送る鎮魂歌として……。
その歌を偶然聞いていた憐は、その綺麗な歌声に感銘を受け涙を流す。聴き入っていると、探しにやってきていた快斗が憐を見つけた。彼も同じく隣でその歌を聴いた後、憐を連れて帰った。その時にギクシャクした関係を解消したと快斗から聞いていた。
『やっと見つけたんだよ……俺達の〝思い出の歌姫〟をな……』
彼等の中に存在する〝思い出の歌姫〟……その存在が秋庭怜子であること、その歌姫にようやくその時のお礼を言うことが出来たと憐は嬉しそうに話してくれたのがつい最近の出来事だった。
白「えぇ……その様子だと黒羽くんからは何も聞かされてないんですね」
そう言って白馬はやれやれと言わんばかりに、首を横に振った。
白「実はそのコンサート……本来はうちの両親が行く予定だったんですが、二人とも行けなくなってしまって僕が行くことになったんです。しかし、急な依頼が入り僕も行けなくなってしまった。婆やも楽しみにしていたので本当は行きたかったのですが、そういう訳にもいかず、どうしようか悩んでいた時に丁度学校で、そのコンサートについて色々調べている黒羽くんと出会いましてね……」
白馬は丁寧に説明を続ける。その間快斗の表情は面白くないと言いたげに不機嫌そうであった。
白「同じ高校のクラスメイトでもありますし、欲しいのであれば快く譲ろうと思い声をかけたんですが、最初彼は断固として受け取ろうとしなかった。だけど僕の席が良席だったこと、もうコンサートまで日付がなかった事……そして、断りはしたが、やっぱりそのコンサートに行きたい理由があったのでしょう……僕に譲ってくれと頼んだ」
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白『……このチケットを譲って欲しい?どうしたんですいきなり……。ついさっき、君は僕が譲ると言ったチケットを『要らない』と言って断ったばかりというのに……』
快『うるせぇな!良いだろ別に……こっちにも事情があんだよ!ほら早く、そのチケット寄越せよな!仕方ねぇから貰ってるよ……!』
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玲(快くん……君ってやつは……)
一時は毛嫌いしている人に頼るなど自分のプライドが許さなかった。だから一度断ったけど、自分のプライドよりも優先するべきものがあった為、どうしてもそのコンサートのチケットが欲しかった。
……全ては
白「ですが、僕も一度は断られた身……。そう易々と渡したくなくなった……だから〝ある賭け〟をしました。もしこの賭けに勝てば、チケットを譲っても良いと……」
玲「〝賭け〟って何……?」
玲於の疑問に、白馬は平然と答えた。
***
白『……でも君は一度断っている。僕もはい、どうぞと渡す訳にはいかないですね』
快『はっ?!何でだよ!』
白『気が変わったんですよ。賭けをしましょうか……この賭けに君が勝てば、チケットを譲ってあげても良いですよ』
快『何ぃ〜……?』
白『簡単な事です。今夜怪盗キッドがある宝石を狙って予告状を出しています』
快『!?』
快斗の怪訝そうな顔つきが驚きのものへと変わる。
白『〝怪盗キッド〟が予告通り宝石を盗み出すか、〝僕〟が怪盗を追っ払い見事宝石を守りきるか……どちらに勝利の女神が微笑むのか、賭けませんか?勿論僕は、僕が怪盗を追い払い、宝石を守りきる方に賭けますがね……』
快『……なら俺は、キッドがお前を出し抜いて、華麗に宝石を盗み出す方に賭ける!』
両者一歩も譲らぬ気迫を持ち、視線で火花を散らし合う。
快(白馬の奴……何考えてんだ?だがまぁいいぜ……俺は、完璧に白馬を出し抜いて宝石を盗んでみせる!そして、お前から正々堂々奪い取ったチケットで、堂本ホールのコンサートに行くんだ……アイツの為にも絶対負けられない!)
白(フッ……まさかここまで食いついてくるとは……良いでしょう。今度こそ絶対君を捕まえて見せるよ黒羽快斗くん……いや、怪盗キッド!)
片や変幻自在な変装術、奇想天外な
片や鋭い洞察力と優れた推理力を持ち、その名は日本国内に留まらず世界にも轟いており、宿敵怪盗キッドを追いかけ続ける英国帰りの高校生探偵……
快『男に二言はねぇよな……?』
白『勿論……』
快『言質取ったからな……約束だぞ。キッドが宝石を盗み出したら、お前のその堂本ホールのチケット2枚分……俺に譲れよ!』
白『分かってますよ……もしキッドが勝てば……ですがね。まぁ、今度こそ僕が勝ちます……』
快『言ってろ!今回も絶対キッドが勝つ!』
絶対負けられない戦いがここにある……快斗も白馬も相手から視線を逸らさずに、不敵な笑みを浮かべていた。
────── 最後に笑うのは俺/僕だ……!!
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玲「なるほどね〜そんな賭けをしてたんだ……で、つい先日快くんと姉さんがコンサートに行けたってことは、その賭けの勝敗は……」
快「勿論……キッド(俺)が勝ったに決まってんだろ!!」
声高に勝利の宣言をした快斗。玲於はそう言い切った快斗の清々しい程の笑いに拍手を送る。その際に白馬は悔しそうな表情見せるも、直ぐにいつもの彼の様子にもどった。
白「ま、まぁ奇しくも勝利したのはキッドだった。約束は約束でしたからね……彼にそのチケットを譲ったんです。しかし、ある考えが僕の頭を過ぎった。黒羽くんは〝2枚分〟のチケットを欲していた。彼は誰とコンサートに行ったのか……」
白「先程廊下で出会った青子さんに聞いたら、あのコンサートに青子さんや神崎くんとではなく、黒羽くん……君が恋焦がれてやまない女性と行ったと聞きました」
快「な!?べ、別にアイツはそんなんじゃねぇよ!!(青子どんな説明したんだよ!?)」
よりにも寄って一番知られたくない相手に自分
トップシークレットが知られる事を恐れた快斗は、頑張って否定するもあまり意味を成していない。白馬は快斗の態度を見て確信する……
白(……青子さんの言った通り、やはり黒羽くんには大切なSweet Ladyがいるようだ……これは今後キッドを捕まえるのに、いつか役に立つだろう)
どちらかというと有利な立場であると確信している白馬は更に追撃を始める。
白「しかもその女性と言うのは神崎くんの双子のお姉さんだそうですね」
玲「う、うん……」
白「名前は神崎憐さん……ですか。なるほど……名前から人柄が現れているようだ。さぞ美しく可憐な女性なのでしょうね」
玲「そ、そうかな……あははは……」
白馬が憐の名前まで知っているのは、青子に聞いた時に詳細を聞いたからだと予想ができた。白馬の調子が良くなればなるほど、快斗の機嫌がどんどん悪くなる。今の発言も快斗の神経を逆撫でしているようなものだ。二人の間に挟まれている玲於は猛烈にこの場から抜け出したいと思った。
白「でもこの学校にそんな名前の女性はいない……ということは別の学校に通っているんですか?」
玲「そうだね」
白「やはりそうですか……それは残念です。友人である神崎くんのお姉さんであれば是非ともご挨拶したかったのですが……」
玲「あははは……ありがとう白馬くん。その内会えるかもしれないし、また機会があればね……」
────── バンッ
白馬に妙に気に入られている玲於は残念そうな表情を見て、いつかの機会にと淡い期待を持たせるが、今迄黙って聞いていた快斗は突如、机を叩き立ち上がる。
快「おい白馬……俺は、アイツをお前だけには絶対会わせない。嗅ぎ回るんじゃねぇぞ!」
比較的友好的な態度を見せる玲於とは反対に、断固拒否の姿勢を崩さない快斗。自分の想い人と天敵を絶対に出会わせたくない。その為の牽制だった。
白「おや、何故です?さっき君は彼女との関係性を否定していましたよね?別に好きな人ではないのでしょう……?」
快「!!……そ、それは……」
白「ましてや君は彼女の恋人でもないんですよね?君に命令する権利などないし、僕も君の命令に従う必要はない……」
玲「ちょっと快くん!幾ら君でもそれは……」
客観的に見れば白馬と玲於の言うことの方が正しいと誰もがそう思うだろう。恋人でもないただの幼馴染……それが快斗と憐を表す公正に判断した関係値だ。
それなのに、彼女の交友関係に口を挟むとは幾ら何でも傲慢ではないかと玲於は諌めようとした。
最初は各々昼食タイムを楽しんでいたクラスメイト達だが、いつの間にか白熱している3人のやり取りに注目していた。その中でも互いの本当の想いを知っている青子は内心興奮した様子で恵子と一緒に見ていた。
白「例え僕と憐さんがどういう関係になろうと、恋人でもないただの幼馴染の君には関係がない……」
快「そんな事ねぇ!!」
白馬の意見を大声で遮った快斗は、真剣な瞳で白馬を射抜いた。
快「アイツの事で……憐の事で俺が関係なかった事なんて一度もねぇよ!!」
白馬探はこの時、自分の過ちに気がついた。
快「俺がどんな想いで、ガキの頃からアイツのそばにいると思ってんだよ。お前みたいな軽い気持ちと一緒にすんな……!
白馬……お前、アイツにちょっかい出したら承知しねぇからな……」
白「!!」
闘気にも殺気にも似た雰囲気を漂わせ、威圧感を放っている。快斗はじっと白馬を見据え、彼に釘を刺す。静かな対抗心をにじませていた。
白(なるほど……僕は、開けてはならない〝パンドラの箱〟を開けてしまったようですね)
まさかここまで想いが強いとは思ってもみなかった。自分の想定以上に……彼は深く懸想を募らせているらしい。
しかし、白馬は怯まなかった。快斗に敵意なるものを向けられても、怯えず逆に強気に笑い始めた。
白「黒羽くん、これだけは君に言っておきます……隠されると、逆に徹底的に調べたくなるのが探偵ですよ」
快「チッ……名探偵と言いコイツと言い、これだから探偵共は……」
忠告しても変わらない態度でいる白馬に対し、快斗は思わず悪態をついた。
玲「二人ともその辺にしとこ……?目立ってるよ」
近くで見守っていた玲於は、控えめに口を挟んだ。そのお陰でクラスメイト達の視線を浴びていた事に気づいた快斗。居心地が悪くなり、白馬から顔を背けた。白馬は白馬で視線を集めることは慣れている為然程気にしていなかったが、常に余裕綽々の態度であった快斗が大きく感情を乱している様子を見て、益々快斗が大切にしている彼女の正体について気になり始めていた。
白「失礼、僕とした事があまり紳士的ではなかったですね。まぁ神崎憐さんについては、追々調べていくこととして……」
快「おい!お前人の話聞いてなかったのかよ!だから憐の事は……」
白「お詫びと言ってはなんですが、良ければこれをどうぞ……」
快「はぁ?!急になん……っ!?」
快斗の罵声が途中で止まった。白馬から差し出されたある物を10秒ほど見つめた後、勢いよくもぎ取った。
玲「えっ!?何でそんな勢い良く取っ……っ?!」
青「ねぇ〜白馬くんから何を……っ!?」
白馬に背を向け、熱心に手元を見つめている快斗の背中から気になった玲於と今迄の様子を見守っていた青子が覗いた。そして二人とも言葉を失う……
玲「そのチケット……!!」
青「もしかして……!!」
快「ミラクルランド……!?」
三者の驚き様に、上機嫌になった白馬はこれまた流暢に説明を始める。
白「えぇ、黒羽くん達の言う通り、これはミラクルランドのチケットです。実は僕に依頼してきた人物がここのチケットを送ってきましてね……。何でも、この僕にミラクルランドに赴き、ある事件を解決して欲しいと……」
白「だけど僕は明日には日本を発って、イギリスに戻っているので難しいと断ったんですが、余程解いて欲しいのか何とかならないかと交渉を受けましてね……それで僕はある人物を推奨しました」
快「おいおい……それってまさか……」
白「僕の代わりに、必ず事件を解決してくれる人物を紹介すると言っておきました……それが君の事ですよ黒羽くん」
快「ゲッ……」
やはり警戒すべきだったと後悔する。今の自分は甘い蜜に惹かれて、自ら籠の中に入った哀れな虫のようだ。このチケットを自ら白馬の手から奪い去ったのだから、文句は言えない。
快「ちょっと待て!何で俺に許可なくOK出してんだよ!それにそもそも俺は探偵じゃねぇ!!」
快斗の正当な主張を受けても、白馬は意に介さない。また長丁場になると思いきや、会話の応酬は白馬の一言で終わりを告げる。
白「そうそう、この依頼を無事成功した暁にはミラクルランドの物なら何でもフリーで満喫し放題……だそうですよ」
快「!?(……それなら悪くない所か、逆に最高じゃねぇか?!)」
玲(あっ……快くん悩んでる。けどこれは……)
青「なんで悩むのよ!こんな良い条件ないんだから行っちゃいなさいよ!それに青子達がミラクルランドから帰ってきた当日に、その時の話をしたら言ってたよ……!」
***
貴『へぇ〜ミラクルランド楽しかったんだ……良かったね青子っ!でもそっか〜いいなぁ……私もいつか行きたいな……ミラクルランドに……』
***
青「憐を連れてってあげなよ〜!きっと喜ぶよ……!」
玲(……青ちゃんの一言でチェックメイトだね)
白「さて……答えを聞かせて貰いましょうか?黒羽くん……」
白馬だけじゃなく、2年B組のクラスメイト達全員が黒羽快斗の出す回答を固唾を飲んで見守っていた。
「────── 俺は……」
そんな緊迫した雰囲気の中、渦中の少年は悩み抜いて、一番納得できる答えを導き出す……──────
