戦慄の楽譜
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快斗side
怪盗キッドたるもの、どんな人間にも変装出来なければならない。でなければ、青子の父親である中森警部やキッドに何度も遭遇している憐を騙し切る事なんて出来ないのだから。
どんな人間にも変装出来るよう一通り道具も技術も揃え完璧にしている。だから基本的にどんな服も装飾も着こなすことができるのが俺だ。だがしかし、仕事の都合上〝怪盗キッド〟としてなら機会も多い服装を今回〝黒羽快斗〟として着る事になった。
しかも今回はアイツ、憐と二人っきりで出かけるのだから、いつもと違ってこそばゆいような気合いが入るような何とも落ち着かないものだった。それは多分少しでもアイツによく見られたいという気持ちがあるからだろう。落ち着いた灰色の襟付きシャツと黒のジャケットに袖を通し、セットアップとなっている黒のスラックスを履いて、家を出る。
アイツの家はすぐ隣だから、家を出て僅か数分で着いてしまう。心の準備をする時間も与えてはくれない。約束の時間を迎えた今、堂々とした出で立ちを見せなければ……男が廃るというものだ。
扉を開けて、中に入ると丁度玲於がダイニングから出てきていた。
玲「あれ、快くんだ。どうしたの?今日なんか約束してたっけ……?」
約束事が無かったか思い出そうとするその様子に笑いが零れる。いつもならコイツと何かしら予定があり、神崎家に訪れることもあるが、今回は違う。玲於は俺の意味深な笑みと装いを見て、いつもと異なる事態だと悟る。
快「お前に言ってなかったけど、今日はアイツと予定があるんだよ。憐いるだろ?悪りぃ!呼んできてくれ!」
玲「もしかして朝から青ちゃんが来て、姉さんと何かやってるな〜とは思ったけど、まさか……姉さんとなの?!どっか行くの?!何それ詳しく……」
想定以上に食いついてくる玲於に、流石の俺も照れ臭くなり適当に流そうとするも、目の色を変えたこの男を流せる訳もなく、一から説明させられた。
玲「コンサート……だからそんな快くんにしては珍しい格好してるんだ」
快「……悪かったな、珍しい格好してて」
玲「あはははっ!良いねコンサート!姉さんもそういう催し物好きだし……でも珍しいね。君は個人的にコンサートとか誘うタイプじゃないだろ……?何か特別な理由が?」
玲於の問いかけを聞いた途端、彼の眼差しが優しいものに変わる。
快「やっと見つけたんだよ……俺達の〝思い出の歌姫〟をな……」
その眼差しも声色も全てはある一人に向けた者。その言葉に珍しく要領を得なかった玲於。自分達は小さい頃からの幼馴染。その自分でさえ分からない事があるとは……全てを覚えている程の記憶力はないにしてもピンとも来ていない自分に驚いた。そんな玲於の様子を見て快斗は密かに笑いを零した。彼の首元でネックレスに付いているアメジストが光り輝いた……。
────────────────────────
結局玲於は親友が、何故自分の姉をコンサートに誘ったのか分からなかった。彼の言う〝思い出の歌姫〟の言葉の意味も分からずじまい……それでも玲於はそれ以上深くは聞かずに、彼の言う通り憐を呼びに行った。……きっと自分と自分の彼女である青子も知らない、親友と姉だけの二人だけの思い出に存在する歌姫なのだろう……そう結論付けた玲於は、2階へと続く階段を上っていった。
しかし、自分の姉は果たして彼の思惑を分かっているのだろうか……いや、自分の事に関して鈍感な姉の事だ。きっと何にも気づいてない事に一票入れる。それに人に比べて人一倍喜ばすことも驚かす事も大好きな親友の事だ、姉に詳細を伝えず誘っている可能性がある。……傍から見ていて何ともまぁ意地らしい二人である。
憐の部屋へと辿り着いた玲於は、中にいた憐に快斗が来ていることを伝えた。憐ははにかみながら、部屋を出ていき快斗の元へと向かう。
そんな二人が大好きな玲於と青子は、普段とは異なる装いをした#(名前)を笑顔で見送ったのだった。
玲於と青子に見送られながら部屋の扉を開ける。この階段を降りれば廊下へと続き、その先に自分を迎えに来ている彼がいる……早く会いたくて、足早にかけていった。
貴「お待たせっ……ごめん遅くなっちゃっ……!?」
快「別にそんな待ってねぇから気にすんなっ……!?」
用意していた言葉が急に途切れた。そこには見慣れない上品な格好をした快斗の姿があった。あまりにも身にまとった服装が似合いすぎていて、#(名前)をは自分でも頬が熱くなるのが分かった。
貴(どうしよう……緊張して目を合わせられない!)
憐が赤面し、視線を右往左往する中、彼もまた彼女の様子に驚き言葉を失っていた。
快(クソ……思っていた以上に心臓が痛ぇ……)
ポーカーフェイスをモットーとする彼は彼女のように分かりやすく表情には出さない……と思いきや彼もまた僅かだが彼女と同じように頬に朱が差していた。相手に自分の気持ちがバレぬよう必死だった。お互いに顔を逸らしていた二人は、暫くして同じタイミングでまた相手の方へと顔を元に戻す。
貴「……」
快「……」
潤んだ瞳と紅潮した頬、先に動きを見せたのはポーカーフェイスが得意な快斗の方だった。
快(見惚れてる場合じゃねぇ!落ち着け黒羽快斗……俺が乱されてどうする!いつ何時たりともポーカーフェイスを忘れるな……自分で気持ちを伝えるのと、相手にバレるのじゃ天と地程の差がある!コイツの前でダセェ真似出来るか!)
自分の中で強く理性を保つ。これは最早彼の意地だった。プロの手品師を目指す者としても、他者に己の手の内を読まれる訳にはいかない……とそれっぽい理由で体裁を繕いつつも彼の思考回路は至極単純なものだった。
世間を賑わす怪盗の一面を持つ反面、好きな彼女の前では格好付けたいと思うごく普通の男子高校生が抱く感情を持っているにすぎない。
快斗は咳払いした後に、いつもの様子に戻った。平常運転に戻した彼は逸る鼓動を抑え、彼女に呼びかける。
快「ほら行くぞ。遅れたらまずいからな……」
貴「ちょ、ちょっと待ってよ〜……」
結局は照れくささが勝り、背を向けて歩き出す快斗に置いていかれないよう、憐は急いでパンプスを履いてついて行った。
────────────────────────
憐家を出発してはや数分、場の空気は静寂に包まれていた。お互いに話のきっかけを掴めずにただただ無言で歩いていた。
貴(うぅ……いい加減普通にしなきゃ!じゃないと快斗にバレちゃうでしょ!何か話題……あっ……)
快(今度こそ挽回のチャンス……自然に……あくまでさり気なく憐の事を褒めるんだ……今の俺ならいける!)
快「なぁ……」/ 貴「ねぇ……」
貴/快「「!?」」
意を決して話し出すも、タイミングと声が重なった。驚く二人だが、その後小さく笑い出したのは憐だった。
貴「ふふふ……私達さっきからずっと変ね」
快「……だな。こんなの俺達らしくねぇよな」
彼女の様子に、快斗も強ばっていた肩の力をようやく緩めた。互いにいつもと見慣れない装いを目にして、変に緊張していた。相手は良い意味でも悪い意味でも変わらない小さい頃からの腐れ縁……だけど大切な幼馴染……少なくとも今はまだ……。
何を緊張する必要があるのか、何だか馬鹿らしくなってしまったと憐は感じていた。
貴「そうね……それもこれも快斗のせいよ!」
快「はぁ?!何でそこで俺のせいになるんだよ!」
貴「……別に!!兎に角快斗のせいなんだから!」
快「何だそれ、意味分かんねぇ〜……」
突然向けられた自分に矛先、しかも意味も結局分からず自分のせいにされて、苦い顔をする快斗に対して必死に自身の顔の熱を冷ますように仰いでみせた憐。
貴(……私が小さい頃からずっと快斗に振り回されてること、言ってやんないんだから……)
……自分の天邪鬼な部分が悪さをする。昔から彼の言動に、行動に一喜一憂していること、彼女は伝えるつもりはなかった。そんな憐の思惑など知らず、彼女の態度に疑問が募る快斗はふと呟いた。
快「そういやオメーのその格好……」
貴「!!……な、何……??」
快斗の言葉に、過剰に反応して内心ドギマギしながら答えを待った。鼓動は早く大きく動き、彼女の緊張は再び高まっている。しかし、次に出てきた彼の言葉で思わずズッコケる。
快「……馬子にも衣装ってやつだな!」
それはもうとびっきり良い笑顔で快斗は憐に伝えた。待ちに待った自分の感想が褒められたものではない事に気づいた憐は一瞬固まった後、先程よりも低いトーンで返答する。
貴「へぇー……そっか……」
快「何だよ憐……お前ひょっとして怒ってんのか?」
貴「怒ってるかって……?当たり前でしょ!!馬子にも衣装って褒め言葉じゃないのよ!!」
快「しょうがねーだろ〜……?だってそう思ったんだから……」
隣を並んで歩いていた憐はゆっくりと歩くスピードを緩め、そして完全に立ち止まった。彼女の声のトーンの低さ、立ち止まった様子に流石にと彼は冷や汗をかきはじめる。彼女の機嫌をどうなおそうか、快斗はIQ400の己の頭脳をフル回転させていた。すると背後にいた憐が、快斗の方へとゆっくり歩みを再開する。影が彼女の表情を隠していて正確な表情は分からないが、心做しか彼女の背後に、メラメラと炎が見える気がした。
貴「か〜い〜と〜!!💢💢 」
快「(ゲッ!!不味い!?)お、落ち着けって……!?冗談だよ冗談!!」
貴「冗談ですって?!尚更タチ悪いわよ!!そうやって言えば私が許すとでも思った?!💢💢」
烈火の如く怒り狂う憐を見て本格的に己の命の危機を悟った快斗。憐に背を向けて勢い良く走り出した。
貴「あっちょっと!!💢 待ちなさい快斗!!💢💢 今日という今日は許さないから!!💢💢」
快「嫌だね!待てって言われて待つ馬鹿がどこにいるんだよ〜!」
彼の逃走を阻止しようと全力で追いかけようとするが、履きなれないパンプスで遅れをとる。
貴(上手く走れない!履きなれたスニーカーじゃないから余計に……これじゃ差は縮まらないじゃない!!)
必死に走る憐の前を颯爽と走っていく快斗。ここまで彼女を予想外に怒らせてしまうつもりはなかった。しかし、2人の距離はそんなに離れていない。人1人分離れている程度。手を伸ばせば指先が触れるか触れないくらいの距離……もっと簡単に逃げようと思えば逃げられる。彼の運動能力は一般人よりも遥かに高い。なんてったって彼の裏の顔は、幾度もなく警察を煙に撒き、いまだ正体を掴めさせない怪盗キッドなのだから……。
貴「もうー!!待ちなさいってばっ……あっ!!……」
パンプスが脱げ、重心を失った体は前のめりになって倒れていく。自分の体がゆっくり倒れるように彼女は感じられた。
貴(折角この日の為に準備した服だったのに……転けて台無しになるなんて、馬鹿みたい)
自身の行動に後悔し、目を瞑り、体にくる衝撃に備えようとすると突然腕を引っ張られた。重力に従って体は前のめりに倒れてしまった。
快「いてっ!!」
頭上から快斗の声が聞こえていた。痛みに備えていたのにも関わらず、自分は痛みを感じなかった。何かの物の上に乗っているような感覚……彼女はすぐに目を開けた。そこには必死に後を追っていた快斗が、自分の下で同じように座り込んでいた。
貴「快斗?!何で私の下にいるのよ……」
快「何でって……そりゃこうなる未来が見えてたからに決まってんだろ!いててて……」
頭を掻きながら呆れたように返す快斗を見て、一気に表情を変えて心配そうな視線を向けた。
貴「ごめん私のせいで!何処か怪我してない?痛い所とか……」
そう言って彼女は更に下を向き、彼の状態を見て更に顔を青くする……。
貴「……快斗の服汚れちゃってるっ……ごめんなさい」
自分のドジな行動で、彼を下敷きにして尚且つ彼の服まで汚してしまった……彼女の頭の中は罪悪感にいっぱいになる。明らかに先程とは違い落ち込んだ様子を見せる憐の頭に手が置かれた。
ポンポンと擬音が似合う優しい手つきで彼女の頭を撫でている。
快「何でオメーが落ち込んでんだよ。心配すんな!怪我も痛みもねぇから!女と違って男は頑丈なんだよ。服の汚れだって見てみな……スリー、ツー、ワン!!俺の手品 で綺麗さっぱりなくなるんだぜ……!」
快斗は自ら立ち上がり、憐の手を引いて立たせた。汚れてしまった己の衣服も、手ではたけば綺麗になった。プロ顔負けの手品 披露して彼女の心を掴み、優しく次々に彼女が気にしていたことを否定していく。己の手品 を見て楽しそうにする顔、花が咲いたように笑う顔、頬を膨らませて怒る顔、あげていくとキリがないくらい彼女の表情が浮かび上がる。しかし、そんな彼女の色々な表情を見る事が大好きな彼が唯一苦手としているものがある。
それは今みたいに落ち込んでいたり、涙を流す表情だった。だからいつも彼は、自分の得意な手品 で彼女の笑顔を引き出していたのだ。
自分を思いやった行動に笑顔を取り戻す憐だったが、途端に先程の言葉を思い出しある事を思いつく。そして走っても追いつけなかった彼が、今は拳骨1個分の距離にいる事に気づく。彼女はおもむろに両手で彼の髪を触り、一気に動かした。
快「うわぁ!?いきなり何すんだよ!!」
貴「あのね……元はと言えば快斗のせいなんだから!良いじゃない!元から癖っ毛なんだし……こうした方がかっこよくなるよ!」
笑いながら快斗の髪をぐしゃぐしゃにする憐の様子に、一瞬見惚れて動けなかった快斗。間近で好きな彼女の笑顔を見たせいで、彼の心臓が激しく動ていた事など本人以外知る由もない。快斗は頬に熱が籠っている事を感じながら、憐の手を掴み「やめろよ!俺の髪がぐしゃぐしゃになるだろうが……!」と憐の行動を止めさせた。それでも笑いが絶えることはなく、その後の2人は穏やかな空気で目的地まで歩を進めていく。
────── 目的の場所はもうすぐそこまで迫っていた……
怪盗キッドたるもの、どんな人間にも変装出来なければならない。でなければ、青子の父親である中森警部やキッドに何度も遭遇している憐を騙し切る事なんて出来ないのだから。
どんな人間にも変装出来るよう一通り道具も技術も揃え完璧にしている。だから基本的にどんな服も装飾も着こなすことができるのが俺だ。だがしかし、仕事の都合上〝怪盗キッド〟としてなら機会も多い服装を今回〝黒羽快斗〟として着る事になった。
しかも今回はアイツ、憐と二人っきりで出かけるのだから、いつもと違ってこそばゆいような気合いが入るような何とも落ち着かないものだった。それは多分少しでもアイツによく見られたいという気持ちがあるからだろう。落ち着いた灰色の襟付きシャツと黒のジャケットに袖を通し、セットアップとなっている黒のスラックスを履いて、家を出る。
アイツの家はすぐ隣だから、家を出て僅か数分で着いてしまう。心の準備をする時間も与えてはくれない。約束の時間を迎えた今、堂々とした出で立ちを見せなければ……男が廃るというものだ。
扉を開けて、中に入ると丁度玲於がダイニングから出てきていた。
玲「あれ、快くんだ。どうしたの?今日なんか約束してたっけ……?」
約束事が無かったか思い出そうとするその様子に笑いが零れる。いつもならコイツと何かしら予定があり、神崎家に訪れることもあるが、今回は違う。玲於は俺の意味深な笑みと装いを見て、いつもと異なる事態だと悟る。
快「お前に言ってなかったけど、今日はアイツと予定があるんだよ。憐いるだろ?悪りぃ!呼んできてくれ!」
玲「もしかして朝から青ちゃんが来て、姉さんと何かやってるな〜とは思ったけど、まさか……姉さんとなの?!どっか行くの?!何それ詳しく……」
想定以上に食いついてくる玲於に、流石の俺も照れ臭くなり適当に流そうとするも、目の色を変えたこの男を流せる訳もなく、一から説明させられた。
玲「コンサート……だからそんな快くんにしては珍しい格好してるんだ」
快「……悪かったな、珍しい格好してて」
玲「あはははっ!良いねコンサート!姉さんもそういう催し物好きだし……でも珍しいね。君は個人的にコンサートとか誘うタイプじゃないだろ……?何か特別な理由が?」
玲於の問いかけを聞いた途端、彼の眼差しが優しいものに変わる。
快「やっと見つけたんだよ……俺達の〝思い出の歌姫〟をな……」
その眼差しも声色も全てはある一人に向けた者。その言葉に珍しく要領を得なかった玲於。自分達は小さい頃からの幼馴染。その自分でさえ分からない事があるとは……全てを覚えている程の記憶力はないにしてもピンとも来ていない自分に驚いた。そんな玲於の様子を見て快斗は密かに笑いを零した。彼の首元でネックレスに付いているアメジストが光り輝いた……。
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結局玲於は親友が、何故自分の姉をコンサートに誘ったのか分からなかった。彼の言う〝思い出の歌姫〟の言葉の意味も分からずじまい……それでも玲於はそれ以上深くは聞かずに、彼の言う通り憐を呼びに行った。……きっと自分と自分の彼女である青子も知らない、親友と姉だけの二人だけの思い出に存在する歌姫なのだろう……そう結論付けた玲於は、2階へと続く階段を上っていった。
しかし、自分の姉は果たして彼の思惑を分かっているのだろうか……いや、自分の事に関して鈍感な姉の事だ。きっと何にも気づいてない事に一票入れる。それに人に比べて人一倍喜ばすことも驚かす事も大好きな親友の事だ、姉に詳細を伝えず誘っている可能性がある。……傍から見ていて何ともまぁ意地らしい二人である。
憐の部屋へと辿り着いた玲於は、中にいた憐に快斗が来ていることを伝えた。憐ははにかみながら、部屋を出ていき快斗の元へと向かう。
そんな二人が大好きな玲於と青子は、普段とは異なる装いをした#(名前)を笑顔で見送ったのだった。
玲於と青子に見送られながら部屋の扉を開ける。この階段を降りれば廊下へと続き、その先に自分を迎えに来ている彼がいる……早く会いたくて、足早にかけていった。
貴「お待たせっ……ごめん遅くなっちゃっ……!?」
快「別にそんな待ってねぇから気にすんなっ……!?」
用意していた言葉が急に途切れた。そこには見慣れない上品な格好をした快斗の姿があった。あまりにも身にまとった服装が似合いすぎていて、#(名前)をは自分でも頬が熱くなるのが分かった。
貴(どうしよう……緊張して目を合わせられない!)
憐が赤面し、視線を右往左往する中、彼もまた彼女の様子に驚き言葉を失っていた。
快(クソ……思っていた以上に心臓が痛ぇ……)
ポーカーフェイスをモットーとする彼は彼女のように分かりやすく表情には出さない……と思いきや彼もまた僅かだが彼女と同じように頬に朱が差していた。相手に自分の気持ちがバレぬよう必死だった。お互いに顔を逸らしていた二人は、暫くして同じタイミングでまた相手の方へと顔を元に戻す。
貴「……」
快「……」
潤んだ瞳と紅潮した頬、先に動きを見せたのはポーカーフェイスが得意な快斗の方だった。
快(見惚れてる場合じゃねぇ!落ち着け黒羽快斗……俺が乱されてどうする!いつ何時たりともポーカーフェイスを忘れるな……自分で気持ちを伝えるのと、相手にバレるのじゃ天と地程の差がある!コイツの前でダセェ真似出来るか!)
自分の中で強く理性を保つ。これは最早彼の意地だった。プロの手品師を目指す者としても、他者に己の手の内を読まれる訳にはいかない……とそれっぽい理由で体裁を繕いつつも彼の思考回路は至極単純なものだった。
世間を賑わす怪盗の一面を持つ反面、好きな彼女の前では格好付けたいと思うごく普通の男子高校生が抱く感情を持っているにすぎない。
快斗は咳払いした後に、いつもの様子に戻った。平常運転に戻した彼は逸る鼓動を抑え、彼女に呼びかける。
快「ほら行くぞ。遅れたらまずいからな……」
貴「ちょ、ちょっと待ってよ〜……」
結局は照れくささが勝り、背を向けて歩き出す快斗に置いていかれないよう、憐は急いでパンプスを履いてついて行った。
────────────────────────
憐家を出発してはや数分、場の空気は静寂に包まれていた。お互いに話のきっかけを掴めずにただただ無言で歩いていた。
貴(うぅ……いい加減普通にしなきゃ!じゃないと快斗にバレちゃうでしょ!何か話題……あっ……)
快(今度こそ挽回のチャンス……自然に……あくまでさり気なく憐の事を褒めるんだ……今の俺ならいける!)
快「なぁ……」/ 貴「ねぇ……」
貴/快「「!?」」
意を決して話し出すも、タイミングと声が重なった。驚く二人だが、その後小さく笑い出したのは憐だった。
貴「ふふふ……私達さっきからずっと変ね」
快「……だな。こんなの俺達らしくねぇよな」
彼女の様子に、快斗も強ばっていた肩の力をようやく緩めた。互いにいつもと見慣れない装いを目にして、変に緊張していた。相手は良い意味でも悪い意味でも変わらない小さい頃からの腐れ縁……だけど大切な幼馴染……少なくとも今はまだ……。
何を緊張する必要があるのか、何だか馬鹿らしくなってしまったと憐は感じていた。
貴「そうね……それもこれも快斗のせいよ!」
快「はぁ?!何でそこで俺のせいになるんだよ!」
貴「……別に!!兎に角快斗のせいなんだから!」
快「何だそれ、意味分かんねぇ〜……」
突然向けられた自分に矛先、しかも意味も結局分からず自分のせいにされて、苦い顔をする快斗に対して必死に自身の顔の熱を冷ますように仰いでみせた憐。
貴(……私が小さい頃からずっと快斗に振り回されてること、言ってやんないんだから……)
……自分の天邪鬼な部分が悪さをする。昔から彼の言動に、行動に一喜一憂していること、彼女は伝えるつもりはなかった。そんな憐の思惑など知らず、彼女の態度に疑問が募る快斗はふと呟いた。
快「そういやオメーのその格好……」
貴「!!……な、何……??」
快斗の言葉に、過剰に反応して内心ドギマギしながら答えを待った。鼓動は早く大きく動き、彼女の緊張は再び高まっている。しかし、次に出てきた彼の言葉で思わずズッコケる。
快「……馬子にも衣装ってやつだな!」
それはもうとびっきり良い笑顔で快斗は憐に伝えた。待ちに待った自分の感想が褒められたものではない事に気づいた憐は一瞬固まった後、先程よりも低いトーンで返答する。
貴「へぇー……そっか……」
快「何だよ憐……お前ひょっとして怒ってんのか?」
貴「怒ってるかって……?当たり前でしょ!!馬子にも衣装って褒め言葉じゃないのよ!!」
快「しょうがねーだろ〜……?だってそう思ったんだから……」
隣を並んで歩いていた憐はゆっくりと歩くスピードを緩め、そして完全に立ち止まった。彼女の声のトーンの低さ、立ち止まった様子に流石にと彼は冷や汗をかきはじめる。彼女の機嫌をどうなおそうか、快斗はIQ400の己の頭脳をフル回転させていた。すると背後にいた憐が、快斗の方へとゆっくり歩みを再開する。影が彼女の表情を隠していて正確な表情は分からないが、心做しか彼女の背後に、メラメラと炎が見える気がした。
貴「か〜い〜と〜!!💢💢 」
快「(ゲッ!!不味い!?)お、落ち着けって……!?冗談だよ冗談!!」
貴「冗談ですって?!尚更タチ悪いわよ!!そうやって言えば私が許すとでも思った?!💢💢」
烈火の如く怒り狂う憐を見て本格的に己の命の危機を悟った快斗。憐に背を向けて勢い良く走り出した。
貴「あっちょっと!!💢 待ちなさい快斗!!💢💢 今日という今日は許さないから!!💢💢」
快「嫌だね!待てって言われて待つ馬鹿がどこにいるんだよ〜!」
彼の逃走を阻止しようと全力で追いかけようとするが、履きなれないパンプスで遅れをとる。
貴(上手く走れない!履きなれたスニーカーじゃないから余計に……これじゃ差は縮まらないじゃない!!)
必死に走る憐の前を颯爽と走っていく快斗。ここまで彼女を予想外に怒らせてしまうつもりはなかった。しかし、2人の距離はそんなに離れていない。人1人分離れている程度。手を伸ばせば指先が触れるか触れないくらいの距離……もっと簡単に逃げようと思えば逃げられる。彼の運動能力は一般人よりも遥かに高い。なんてったって彼の裏の顔は、幾度もなく警察を煙に撒き、いまだ正体を掴めさせない怪盗キッドなのだから……。
貴「もうー!!待ちなさいってばっ……あっ!!……」
パンプスが脱げ、重心を失った体は前のめりになって倒れていく。自分の体がゆっくり倒れるように彼女は感じられた。
貴(折角この日の為に準備した服だったのに……転けて台無しになるなんて、馬鹿みたい)
自身の行動に後悔し、目を瞑り、体にくる衝撃に備えようとすると突然腕を引っ張られた。重力に従って体は前のめりに倒れてしまった。
快「いてっ!!」
頭上から快斗の声が聞こえていた。痛みに備えていたのにも関わらず、自分は痛みを感じなかった。何かの物の上に乗っているような感覚……彼女はすぐに目を開けた。そこには必死に後を追っていた快斗が、自分の下で同じように座り込んでいた。
貴「快斗?!何で私の下にいるのよ……」
快「何でって……そりゃこうなる未来が見えてたからに決まってんだろ!いててて……」
頭を掻きながら呆れたように返す快斗を見て、一気に表情を変えて心配そうな視線を向けた。
貴「ごめん私のせいで!何処か怪我してない?痛い所とか……」
そう言って彼女は更に下を向き、彼の状態を見て更に顔を青くする……。
貴「……快斗の服汚れちゃってるっ……ごめんなさい」
自分のドジな行動で、彼を下敷きにして尚且つ彼の服まで汚してしまった……彼女の頭の中は罪悪感にいっぱいになる。明らかに先程とは違い落ち込んだ様子を見せる憐の頭に手が置かれた。
ポンポンと擬音が似合う優しい手つきで彼女の頭を撫でている。
快「何でオメーが落ち込んでんだよ。心配すんな!怪我も痛みもねぇから!女と違って男は頑丈なんだよ。服の汚れだって見てみな……スリー、ツー、ワン!!俺の
快斗は自ら立ち上がり、憐の手を引いて立たせた。汚れてしまった己の衣服も、手ではたけば綺麗になった。プロ顔負けの
それは今みたいに落ち込んでいたり、涙を流す表情だった。だからいつも彼は、自分の得意な
自分を思いやった行動に笑顔を取り戻す憐だったが、途端に先程の言葉を思い出しある事を思いつく。そして走っても追いつけなかった彼が、今は拳骨1個分の距離にいる事に気づく。彼女はおもむろに両手で彼の髪を触り、一気に動かした。
快「うわぁ!?いきなり何すんだよ!!」
貴「あのね……元はと言えば快斗のせいなんだから!良いじゃない!元から癖っ毛なんだし……こうした方がかっこよくなるよ!」
笑いながら快斗の髪をぐしゃぐしゃにする憐の様子に、一瞬見惚れて動けなかった快斗。間近で好きな彼女の笑顔を見たせいで、彼の心臓が激しく動ていた事など本人以外知る由もない。快斗は頬に熱が籠っている事を感じながら、憐の手を掴み「やめろよ!俺の髪がぐしゃぐしゃになるだろうが……!」と憐の行動を止めさせた。それでも笑いが絶えることはなく、その後の2人は穏やかな空気で目的地まで歩を進めていく。
────── 目的の場所はもうすぐそこまで迫っていた……
