未来からの訪問者 Part2
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―――私が初めて貴方を見たのは……
―――僕が初めて君を見たのは……
―――里香から、仲良くなって欲しい友達がいると、貴方を紹介された時だった。
―――病室で楽しそうに里香ちゃんと話す君を見かけた時だった。
里『紹介するね、この子は憂太だよ!入院してる時に出会って仲良くなったの!ほら、憂太も!』
里香の隣には、髪の毛をつんつんさせた同い年くらいの男の子が立っていた。その子は、私が退院した後にすれ違いで入院した男の子で、仲良くなった友達らしい。その里香も退院し、最近この公園で遊ぶようになった私達。ある日、病院で仲良くなったお友達を紹介したいと里香は言って、そのお友達を連れてきた。
その子は顔を赤らめ、恥ずかしそうに俯きながらも、顔をあげて私の目を見て、たどたどしくも口を開いた。
乙『は、初めまして……乙骨憂太です!』
緊張しているのかな?恥ずかしいのかな?最後に彼は、目を瞑り俯いていた。私のこの時の憂太に対する印象?そうだな……可愛らしい男の子だなって思ったかな。
貴『こ、こちらこそ、初めまして……神崎憐です!里香ちゃんとは病院で仲良くなって……その、よろしくね!憂太くん。』
まぁ、私も人のこと言えないくらい緊張して自己紹介をしたんだけどね。これが私と憂太の初めての出会いだと記憶しているし、この時私は乙骨憂太という存在を知った。
そこからはよくある子ども同士のお遊び。鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり、ブランコ漕いだり、滑り台で滑ったり、仲良く遊んでいた。
乙『里香ちゃん、押すよ!』
里『うん、いいよ〜!』
乙『それ〜!』
里『きゃっ!高いけど楽しい〜!』
乙『憐ちゃんも乗る?僕が押すよ!』
貴『私は見てるだけで……そうだ、ほら憂太くんも!』
乙『憐ちゃん?!』
私は、憂太の手を引いて里香の隣のブランコに座らせる。
貴『里香ちゃんも憂太くんも私が押すからね!せーの!』
憂太と里香が同時にブランコを漕ぐ。
乙『うわぁあ!!』
貴『えっ?!憂太くん大丈夫?!ごめん、私が勢いよく押したせいで……。』
里『もう憂太は〜!』
里香は余裕そうに漕いでるけど、憂太の方が死にそうな顔をしてて少し驚いてしまったけど、楽しかったな。
他には、たまに東京から帰ってくる姉さんが私達3人連れて、公園じゃなく、地元から少し離れた河川敷に連れてってくれたりもした。私達だけじゃ危ないからって着いてきてくれて、私達の面倒を見てくれてたな。だから憂太も里香も姉さんのこと、気に入ってくれてたと思う。
いつも外出だけじゃ飽きるから、たまには私の家に来て折り紙やお絵描きやったりしてたっけ……。幼い頃を思い出す度に、子どもの頃の楽しかった気持ちまで思い出してきて、思い出が沢山詰まったあの場所に帰りたくなる気持ちが湧いてきた。
里『憐と憂太に会えて良かった……!』
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貴「……こんなとこかな。」
陽太くんに語るは、3人の幼馴染の始まりの
――…私達はとても仲の良い友達だった。
――…3人でいれば何もかもが楽しかった。
もう取り戻せない愛おしいあの日々を、今でも思い出しては遺された二人で分かち合う。……そういえば、真希達には、この
貴「他の人にこの話をするのは陽太くんが初めてだよね、憂太。」
私視点からの語りを陽太くんと同じく黙って聞いてくれた憂太に話を振る。憂太は「そうだね。」と控えめに笑って言ってくれた。そして憂太は「でも……」と言葉を始めた。でもって……。
乙「僕が憐を初めて見たのはその時じゃないよ。」
乙「もっと前から僕は君を知っていた……。」
貴「……えっ?」
上手く言葉を返せなかった。唖然とした私を見て、憂太は言葉を続けていく。陽太くんは双方に顔を動かし、私達を見ていた。
これより語られるは、幼き少年の恋心の芽生えのお話である。
─────────────────────
彼らの初めての出会いは、外にあるいつもの公園だ。だが、乙骨が憐を知ったのはこの時じゃない……もっと前なのだ。
時は、前へと遡る。幼い頃、乙骨は肺炎にかかり、治療の為病院に入院していた。青色の病衣を着て、腕には点滴の針を刺し、台を引きずりながら廊下を歩いていく。特に何かを思うわけでもなく、まっすぐに自身の病室に向かう時のこと、大部屋の病室から聞こえてくる明るい楽しげな声。普段は気にもとめないけれど、何故だか心燻るその声に惹かれて、その病室を覗いてみることにした。
その声の正体は二人の少女だった。一番奥の左のベッドに座る黒髪の少女と、その近くの椅子に座っている茶髪の少女。茶髪の少女が、黒髪の少女に話しかけているようだった。背を向けている為、茶髪の少女がどのような表情で話しかけているか、彼には分からない……しかし、明るい声のトーンで話し、時折笑い声が聞こえていたのだ。きっと話が弾んでいたのだろう。彼は、暫く二人のやり取りを離れて見ていた。
里『明日憐は退院だね。』
貴『うん。……でも、嫌なの。せっかく里香ちゃんと友達になれたのに、もう離れ離れだなんて……まだ入院していたいな。』
里『もう憐ったら〜』クスクス
少女達の談笑は、暖かい春の日差しを背景に見るもの全てを癒すような、そんな和やかなものだった。彼は患っていた病気を一時忘れ魅入られるように見ていた。そして少しずつ気づく……自分が思いがけず気になった声の主は多分……桜のように華やかで愛らしい声ではなく、鈴蘭のように控えめな愛らしさを秘めた声の持ち主……背を向けている少女だったのだと。
貴『だって……悲しいんだもん。私と初めて友達になってくれたの、里香ちゃんだけだったし……里香ちゃんっ……っ ……。』
茶髪の少女が黒髪の少女のベッドに、透明の雫を落とす。ポロポロと泣き出してしまった彼女をすかさず黒髪の少女は、笑って茶髪の少女の涙をハンカチで拭き取った。
里『大丈夫だよ、憐……きっとすぐ会える。絶対里香は憐に会いに行くから!だからもう泣かないで……里香は憐の笑ってる顔が見たいな〜。』
茶髪の少女は、黒髪の少女の言葉を受け、流していた涙をとめた。そして、不格好と分かりながらも笑い始めた。
貴『うんっ……分かった!もう泣かない!……だから、絶対また会おうね!絶対だからね……私も絶対里香ちゃんに会いに行くから!』
里『うん!……約束だよ!』
貴『約束っ!』
お互いの小指を握る。それは、約束事を決める時の儀式……指切りげんまん。それを見守りながら少し体をずらし、彼女の顔が見える位置へ……
彼女の顔が少しずつ顕になる。
静かにその時を待つ。やっと顔が見れた瞬間、無意識に息を飲んだ。胸の鼓動が高鳴り、全身の血液が身体中を巡り、体全体が熱くなった。体温が上がっていくのが分かる……きっと顔全体も熱い……。見られたくない一心で、すぐさま体を引っ込め、廊下の手すりに凭れ掛かる。
乙(何これ……一体、僕は……。)
こんな気持ちは……初めてだ。一体何なのだ……一体この症状は……。
貴『じゃあもうすぐお姉ちゃん達来るから行くね……またね、里香ちゃん!』
自分の初めて抱いた感情に戸惑いをみせていると、少女達の話は進展する。茶髪の少女は、自分で涙を拭いながら黒髪の少女に笑顔で別れを告げ、病室の扉の方へ歩いていく。そして、最後にもう一度黒髪の少女に手を振り、自分の病室へと戻って行った。……自分と目が合うことは、無かった。
少女が居なくなって数分……やっと熱が収まってきたので、改めて少女達がいた病室へ顔を出す。先程いた茶髪の少女はいなくなり、黒髪の少女だけが、近くにある窓の外の散っている桜の花びらを、名残惜しげに見ていた。ふと黒髪の少女が、こちらの視線に気づく……先程のやり取りを盗み見ていたとバレてしまったのかと驚いてしまったが、黒髪の少女は、先程の少女がいた時のように自分に笑いかけてくれた。
そこから彼と里香と呼ばれる少女との付き合いが始まる。
里香ちゃんは、あの時居た茶髪の女の子のことを嬉しそうに教えてくれた。あの子は、里香ちゃんが入院するより少し前に、体を悪くし先に入院していたらしい。里香ちゃんは、自分と同じくらいの女の子がいると喜び、話しかけに行ったのだと。里香ちゃんが話しかけた際、あの子は他人と話すことに慣れていないのか、しどろもどろになりながらも答えてくれたこと。徐々に会話をして、今ではすっかり仲良しなことも。僕が入院した次の日にはもう退院してしまうこと。色んなことを僕に教えてくれた……里香ちゃんからあの子の話を聞く度に思う。僕もあの子と関わりたい……でも、あの子はもう病院にはいないから、会うのは難しいし、会ったとして……こんな僕と仲良くしてくれるのかな。……僕も里香ちゃんみたいにあの子と……友達に……なりたい。不安ばかり浮かんできた。僕の浮かない顔を見た里香ちゃんは、自信満々に僕に言ってくれた。
里『……じゃあ、里香と憂太が退院したら憐に会いに行こう!憐も憂太のことを知ったら、きっと仲良くなれる!友達になれるよ。』
里香ちゃんの言葉に励まされる……本気でそう思ってくれているのだと伝わる。
乙『里香ちゃん……うん!僕、頑張るよ!』
神崎憐ちゃんに、会いに行こう。そして……友達になるんだ。大丈夫……だって僕には、里香ちゃんがついているから…!
少年は、見知らぬ少女に初めての感情を抱いた。鈴蘭のような控えめにも愛らしい女の子に……所謂一目惚れだったのだと、後に成長した本人は思い返す。その後、無意識ながらに友情と愛の狭間を行き来する日々。徐々に気づいてく、初めに見た時に起きた憐に対してのみに起きる、自分の不可思議な心体の変化。やっと自覚した時は、里香ちゃんに相談したあの時。
初めて彼女の見た時のこと、今でも覚えている……頬に涙の跡がうっすら残ったまま、涙ぐみながらも、満面の笑みで黒髪の少女に笑いかけていたことを……あの時僕は、里香ちゃんの為に、涙を堪えながら笑いかける君に……恋をしました──────。