未来からの訪問者 Part2
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陽太くんが話してくれた夢の中の少女とは……十中八九、〝祈本里香〟だろう……。これでもし違ったら愚かな己を呪いたくなるぐらいだ。それぐらい私は確信を持っていた。
だってどの情報も里香を指し示すピースにすぎない。
ただそれを
貴「…………。」
踏ん切りがつかない。どうしようかと悩んでいると、隣の憂太が口を開く。
乙「君が夢の中で会っている子。その子の名前は祈本里香。」
真剣な表情ながらも、どこか柔らかさのある声で話す憂太。彼は陽太くんに話すことに決めたらしい。
乙「僕達の小さい頃からの幼馴染。僕と憐の縁を繋いでくれた女の子だよ。」
陽「憂太さんと憐さんの縁を繋いだ女の子……?」
乙「僕らが出逢えたのも、こうして一緒にいることができるのも……里香ちゃんのおかげなんだ。」
陽太くんが不思議そうな表情を見せた後、憂太は私に視線を変えた。
乙「憐、陽太くんに話してもいいかな?去年の百鬼夜行と……僕と憐が初めて出逢った時の事。」
貴「!!」
陽「去年??……確かこの時代は2018年。去年といえば、2017年。2017年の出来事……?」
―――彼は、去年の百鬼夜行のこと、幼き日の3人の思い出、そして……私達の出会いを語るつもりだ。
貴「……。」
私は顔を伏せ、窓の方に近寄る。
―――あの時もこんな天気の良い日だったな……。
貴「いいよ……憂太が望むなら。」
くるりと彼らの方に振り返りながら笑う……今の私は上手に笑えたのだろうか。憂太は、未来の私達よりも陽太くんに事実を話す選択肢を選んだ。彼の選択は私の選択……尊重しよう憂太の選択を。
憂太が私の方へと足をすすめる。彼は私の意思を尊重してくれるから、話す前に先に聞いてくれた。これは彼だけの思い出ではない……私と憂太と里香、3人の思い出なのだから。彼は私の頭を自身の胸元に誘導し、全身を包み込んだ。陽太くんに背を向けている状態だ。そして彼は、私の耳元に顔を近づけ囁いた。
乙「ありがとう憐……。未来の僕達が何故里香ちゃんの事を話していないのか分からない。だけど未来の僕達が話せないのなら、過去の僕達が教えてあげよう。未来の僕達のことを教えてくれたお礼に……。」
貴「うん。」
乙「大丈夫……陽太くんならきっと分かってくれるよ。」
貴「……そうね。私が最初に、陽太くんを信じると言ったんだもの。怖がってちゃ駄目だね。」
陽太くんは自身と両親の思い出を語る時、未来の私から既に誰かを呪っていたことを伝えられている。未来の私は、〝誰か〟の名前は出していないようだったから、誰を呪ったのかは知らないのかもしれない。
真希や狗巻くん、パンダくんは去年の百鬼夜行を共に乗り越えた大事な友達だ。3人は私と憂太が里香を解呪した現場に居合わせていたこともあり、事情を把握している。悠仁や伏黒くん、野薔薇ちゃんにはあまり詳細に伝えていないけど、何となく分かっていてくれると思ってる。だけど、陽太くんは未来の自分達の子どもとはいえ、まだ出会ったばかりの人なのだ。会話する中で、ある程度彼の人柄は分かった。とても素敵な子だ……こんな私を励ましてくれて、憂太との言い合いも止めてくれた子だから。だからこそ……私達の過去の過ちを教えることで、彼に失望されたら……と物事をネガティブに考える私の癖を、憂太は分かっていた。
でも憂太の言う通り、彼ならきっと分かってくれる……受け入れてくれる……。憂太の言葉に後押しされた。だから私も信じてみよう……何より最初に陽太くんを信じると言ったのは、私だから。
陽「あの……お二人を苦しめる気は微塵もないので、話しづらいのであれば、無理して話さなくて大丈夫です…!誰かを傷つけてまで、俺は真実を知りたくは無いので……。」
私の表情を見て何かを察した陽太くんは、こちらを気遣うように申し出た。
貴「優しい子ね……大丈夫だよ。貴方は、本当に憂太に似てる。真実よりも人の心情を優先する優しい心。里香が気に入るのも分かるわ。」
陽「!!」
陽太くんの顔に笑みが浮かぶ……やっぱり父親に似てるって言われて嬉しいんだね。
乙「じゃあ、順に遡って話そうと思うんだけどその前に、陽太くんは高専の資料で何を確認した?」
陽「(これは、2017年代の出来事を聞いてるんだよな)……えっと、そうですね……2017年ってなると新宿・京都で起きた大規模な呪術テロの事ですかね?……憂太さんと同じ特級の呪詛師が、仲間と大量の呪霊を引き連れ、新宿、京都に襲撃。高専側は、非術師を避難させて、多くの呪術師を投入して戦ったって書いてあったような……。」
乙「うん、そうだね。2017年12月24日、新宿・京都で大規模な呪術テロが引き起こされた。通称〝百鬼夜行〟。首謀者はかつて高専の呪術師であったが、追放され呪詛師となった夏油傑。夏油は自身の理想を叶える為、集った仲間と1000体をも超える呪霊を引き連れてやってきた。」
去年起きた百鬼夜行の事。私達は百鬼夜行を経験した当事者だ。その中でも憂太は、騒動の中心となった人物。百鬼夜行を語る上では欠かせない人物だ。誰よりもよりリアルに話せるだろう。彼は陽太くんに淡々とその時の様子を語った。彼が何を思い、夏油さんと戦ったのか、陽太くんが生まれる前の出来事だから想像は難しいかもしれないけれど、分かって欲しい。
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陽太side
陽「なるほど……そんな事があったんですね。」
父さんから里香さんのことについて知る為、過去にあった様々なことを聞いた。自分が高専で調べた情報よりも、とてもリアルで、とても悲しい出来事だった。
未来の母さんが、私達は大切な人を呪いにしてしまったと言っていたが、そうか……里香さんの事だったんだな。そして、父さんの術式である〝リカ〟……これも里香さんが遺してくれた術式だったのか。散らばっていたピースがひとつずつ型にハマり、ひとつに纏まり始める。
父さんが話している間、父さんを見つつもたまに母さんの方に視線を移した時、母さんは目に涙を浮かべて聞いていた。流さずに、ずっと耐えていたのだ。それに気づいた父さんは、口を止めずに手を動かし、母さんの目に手を伸ばす。指で雫を掬い、母さんに注意を向けながら話していた。二人の指に注目すると、それぞれ左手の薬指に銀色の指輪と金色の指輪をはめている。……あの指輪が、里香さんが二人に贈った結婚の約束の指輪。ちぎれそうだった二人の赤い糸を、里香さんが繋げてくれたんだな。
二人にとって、里香さんの存在はとても大切な人で、なくてはならない存在だった。このままずっと一緒にいられると思っていたのに、その夢が叶うことはなかった。全ては幼い頃の事故のせい。里香さんはあの時亡くなり、天国に逝くはずだったが、二人の想いが、里香さんを呪いにしてしまった。そして父さんと母さんは離れてしまい、それぞれ別の道で生きていた。しかし、また里香さんの存在によって、平行線だった道は交差し、縁は繋がった。今二人が仲睦まじいのも、未来でもその縁は続き俺が生まれたのも、里香さんが繋げてくれたおかげ……そして俺はそんな二人の息子だから、小さい頃に里香さんに、夢の中で助けて貰った。少女だが、何処か大人びいているところがある里香さん。里香さんは本当は凄い女の子だったんだな。
乙「ここまでが去年の百鬼夜行と、僕が呪術高専に来た所までのお話だよ。次は僕と憐が初めて出逢った時の話だね。」
陽「ゴクリっ……。」
正直その上記の話題も大変色濃いものだったが、父さんと母さんの出逢い話……こちらもこちらで大変興味があります。
――これより乙骨が語るは、ある少年とある少女の最古のお話。
――何故乙骨憂太と神崎憐は出逢ったのか……。
――二人の出逢いは、果たして〝必然〟なのか、〝偶然〟なのか……。
――どちらにせよ、二人の出逢いにも、彼らの幼馴染である〝祈本里香〟が関わってくるのである。