未来からの訪問者
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
五「この鏡は、保管してある呪具の中でも安全な方だよ。それに、ひなたは今までずっと保管してあった鏡を何故だか知っていた。部外者なのにね〜?
……憐の心配も分かるけど、他に手はないんだし……やってみるのも良いんじゃない?」
貴「それは……。」
……五条先生の言う通り、ここは素直に従った方がいいのだろうか?
ひ「……お姉ちゃん。」
貴「ひなたくん??」
ひなたくんは、私の手を優しく掴み、じっと見上げていた。
ひ「大丈夫だよ……僕、がんばる!帰って今日のことパパとママに話すんだ!優しいお兄ちゃん達やお姉ちゃん達に遊んでもらえたって。」
貴「ひなたくん……。」
この日初めて出会った少年。知らない筈なのに、何処か懐かしい思いが滲む。一目見た時に……、その容貌に……酷く既視感を覚えた。
私の存在する記憶……。
(小さい頃の憂太にそっくり……。この顔に弱いのにな……。)
それでも尚、留まることを知らないひなたくんへの情愛。残された僅かな情報を基に、時限の鏡を使うのか判断を下さなければならない。
ふと周りを見回してみる……。ひなたくんも、全てを見ていた五条先生達も、決意が固くひたむきな目差しをしていた。あとは私の判断だけなのか……。
(この場で……私だけが、覚悟を決められてない……。)
それが酷く、情けないと思ってしまった……。
優柔不断な自分に情けなくて俯いていると、不意にひなたくんと繋いでいる手とは逆の手をそっと握られた。
乙「……憐ちゃん。」
貴「!!」
私の手を握ったのは憂太だった。
乙「……僕もね、このままひなたくんを送り出すことが安心かと言われたら、少し嘘になる。やっぱり僕も不安だけど、五条先生の言うことも一理あると思う。信じてみよう……ひなたくんが無事ご両親の元に帰れる事を。大丈夫……君だけが背負うわけじゃない。真希さんやパンダくん、狗巻くん、先生達……そして、僕もいるから!」
貴「……乙骨くん。」
あぁ―――、綺麗な黒い瞳……真剣味を帯びている真っ黒な瞳。この瞳に弱いな……私は───。
貴「ありがとう……乙骨くん。分かった、私も信じてみるよ……この方法を。ひなたくんが無事に帰れるようにね!」
乙「うん!……先生!」
五「OK、それじゃあ早速やろうか。」
未来(?)から来た少年、おっこつひなたが元の時代に帰れるように……私達は、これからこの呪物〝時限の鏡〟を使う準備を始めるのだった。
─────────────────────
五「……準備は良い?ひなた。」
ひ「うん!」
準備と言っても簡単、時限の鏡の前にひなたくんを立たせるだけ。その場合、念の為にひなたくん以外は鏡に映らないようにする。これだけだった。
そして、いよいよ準備が整った。ひなたくんが元の時代に帰る準備が。少しの間しか一緒に居なかったけど、この子は愛らしく素敵な子だった。きっとご両親に愛されて育ってきたんだろう……私にも色々ご両親の事を話してくれた。……もしかしたら未来の私達の事かもだけど、何もかも不確定なので一旦は信じないことにした。
それに憂太には里香がいる……。もしかしたら、私と一緒になる未来もあるかもしれないけど、彼の中では里香が絶対だ。里香の存在がある限り、どう足掻いても私が彼と一緒になる未来は来ないと思っているから。
パ「帰っても俺達の事忘れんなよ。」
狗「しゃけ。」
真「特に私から言う事はねーが、これから先、オマエは呪いが見える限り、嫌でも呪いと関わる羽目になる。だからせめて自分の事は自分で守れるように鍛えとけ。」
パ「……まだ早くないか?」
真「良いんだよ、早いのに越したことはねーからな。」
ひ「うん!おばけが来ても僕がやっつけられるよう強くなる!」
ひなたくんに1人ずつ声をかけて行く。パンダくんと狗巻くんは分かるけど、真希……気持ちは分かるけど、私も同じくまだ早いのでは?と思っている。小さい子どもは、大人に守られて安心して育つのがいいと思うけど、本人がやる気ならそれも良いかもしれない。
五「……ひなた見てると、子どもって良いなって思えてきたよ。どう、凛……今夜、早速……」
貴2「それ以上口にしたら、貴方とは一生口聞きませんから。」
五「酷い!!だって僕ら夫婦だから、別に問題ないでしょう!?」
貴2「時と場合を考えてください!生徒達の前ですよ!破廉恥です!小さい子どももいるのに全く……」
五「じゃあ、子ども自体はいいんだね!」
貴2「もう黙っててください〜!!」
ひなたくん達から少し離れたところでは、五条先生と姉さんが何やら言い争いをしている。まぁ、内容的に五条先生が悪いかな。夫婦である2人の問題だから子どもの事について話すのはいいけど、ひなたくんの前で話すのは良くない。高専の時からそうだけど、
パ「あの2人、俺らがいるの忘れてないか?」
狗「しゃけ!」
真「ほっとけ、いつもの事だからな。」
乙「……💧(少し真希さんの言ってる事も分かってきた。)」
貴「昔から変わらないからね。」
身内の私ですら苦笑いが出てしまう。ある意味通常運転の夫婦だ。
乙「ごめんね、ひなたくん。君のお父さんとお母さんを見つけるって約束したのに見つけられなくて……。」
ひ「ううん、そんなことない!ゆうたお兄ちゃんのおかげで僕、すっごく楽しかった!ありがとう、ゆうたお兄ちゃん。」
乙「!!……ありがとう、ひなたくん。君はとっても優しいね。僕が逆に励まされちゃったよ。」
顔が似ている2人だから、憂太とひなたくんのやり取りを見ていると本当に親子みたい……というよりは兄弟かな。憂太には妹ちゃんがいるけど、弟が居たらこんな感じになるのかな。
貴「ひなたくん、元気でね。これからは、変なものに近づいちゃ駄目だよ!」
ひ「うん、気をつける!憐お姉ちゃんもありがとう!」
貴「……そこは気をつけるじゃなくて近づかない!って言って欲しかったな……。」
あれ?……分かって貰えてる気がしないよ?……子どもって好奇心旺盛だもんね。子どもに言い聞かすって難しいな。世の中のお父さん、お母さんって実は結構大変なんだね。
五「それじゃ、鏡の目の前に立って。両親の元に帰りたいと強く思うんだ。そうすれば、きっと鏡は答えてくれる。」
ひ「う〜〜……パパとママの所に帰りたい!!!」
ひなたくんは鏡の目の前に立ち、目を瞑り、りかちゃんのぬいぐるみをギュッと握り締め大きな声で願った。するとどうだろう……鏡が大きな光を放ち、ひなたくんを覆った。あまりの眩しさに私達は思わず目を閉じてしまう。そして気づいた時には、鏡だけが残されていた。ひなたくんの姿はなく、まるで最初から鏡だけが存在していたかのように鎮座していた。
狗「ツナマヨ!」
パ「ひなたが居ないぞ。」
真「行ったな。」
貴2「……無事帰れるといいですね。」
五「大丈夫、きっと帰っていけたさ。……それじゃ戻るよ〜あと一時間授業が残っているからね。」
貴2「皆〜私についてきてください!悟、貴方は鏡をお願いしますね。」
五「任せて〜!凛の頼みなら何でも受けちゃうよ!」
五条先生の言葉を機に、姉さんに続いて真希達はゾロゾロと部屋を出ていく。またこんな事が起きないように五条先生は、ある保管庫に封印する為残るらしい。
貴「……帰った後に言うのもなんだけど、ひなたくん……本当に乙骨くんそっくりだったね。」
乙「あはは……憐ちゃんもそう思うんだね。僕も凛先生に言われるまで気づかなかったんだけど、改めて見てると確かに似てるなって思ったよ。」
私達も部屋から出ていく。その途中歩きながら、改めて、私がひなたくんに感じた事について憂太に語り出す。
貴「えっ?姉さんに言われるまで、気づかなかったの?……あんなにそっくりなのに……。」
乙「恥ずかしいけどほんとだよ。僕が最初にひなたくんを見て思った事は、自分より……憐ちゃんに似てるなって思ったんだよ……。」
貴「私に……??」
衝撃の事実である……明らかに憂太の方だと思うんだけど……。というか私に似てる要素あったかな?
乙「……瞳の色とか、雰囲気とか……僕はあの子を見て憐ちゃんを思い出したんだ。」
自分では分からないけど、幼い頃から知っている憂太が言うのであればそうなんだろうな。彼と私に似たものを持ったあの子……。
貴「そうだったんだ……自分では分からないけど、乙骨くんが言うのであればそうなんだね。
……ひなたくん、ご両親の元に帰れたかな?」
廊下の窓を開け、外の景色を見ながら呟く。そこには今にも沈みそうな夕陽が見えていた。
乙「そうだね……きっと帰れたと思うよ。……もし未来で会えるなら、また会いたいな。」
憂太も同じく、窓から見える夕陽を見ながら思いを吐露した。
貴「うん……私もまた会いたいな。」
いつまで経っても来ない私達を心配した姉さんが呼びに来るまで、私達はずっと赤い夕陽に照らされた景色を見ながら、ひなたくんへの思いを馳せていた。
これはひと夏の間に起きた不思議な出来事───。
あの少年は、無事両親の元に帰れたのだろうか?
その答えを、彼らが知るのは数年後の未来であった。