未来からの訪問者
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
────────────────────
五「これだよ。」
五条先生は、呪具が保管されている倉庫から布がかけられた〝ある物〟を運んできた。五条先生曰く
五「いや〜……まさか、ほんとに使う日が来るとはね……。」
そう言って不敵な笑みを浮かべ僕らに見せてくれたのは、1枚の鏡だった。この鏡は普通の鏡ではない……高専が保有する高い呪力を秘めた呪具のひとつ、〝時限の鏡〟と呼ばれるものだった。
この鏡には逸話が残っている。使用した人間は三人。
1人目は遥か昔……数千年前、日本が平安時代を迎えていた頃。あるひとりの若者が、若くして亡くなった最愛の妻を助ける為、過去に遡った。妻を助け、妻が亡くなる原因を消し去った事で、妻が若くして亡くなるという事実は無くなり、その後二人仲良く平穏に暮らした。
2人目はある身分の高い貴族の女。平安時代から数百年経った頃女の屋敷に、この鏡の噂を聞きつけてやってきた賊達の襲撃を受けた。女は先祖代々伝わる鏡の力をあまり信じていなかったが、背に腹はかえられないと思い、女は鏡に祈った。すると鏡が答え、過去に飛ばされた。それに気づいた女は、賊達の襲撃を受ける前に鏡の場所を変え、賊達も用心棒を雇い撃退した。そして鏡の力を本物だと理解した女は、二度と外部に漏れぬよう一族の中でも、重要な人物以外鏡の存在を知る事を禁忌とした。
3人目は年老いた男。2回目の使用から数千年が経った頃、男は家族仲良く平和に暮らしていた。しかし、重い病気にかかり、残り僅かの命となった。その男の息子である長男は、男から先祖代々伝わる鏡の話を聞いており、その鏡を使うことを提案した。未来に行けばその病を治す事が出来るかもしれないと。だが、男はこのまま愛する家族に囲まれて最期を迎えたいと伝えたが、長男は聞く耳を持たず一縷の望みをかけて、鏡の力を使い男を未来に飛ばした。男は数十年経った未来にやってきて絶望したが、幸いにもその病気を治せる技術が確立されていた為、年老いた長男からその技術を使う事を提案され、受け入れた。そのおかげで病は治り、健康体に戻った男は、再度過去に戻り幸せに暮らしたという。
当時鏡を代々保管していた呪術師家系の一族から、数々の逸話を聞いたが、五条は信じていなかった。そんな事があるのだろうか……人間が時間の壁を越えて、タイムスリップする。
いくらそんな話が先祖代々受け継がれているとしても、安易に信用出来ないだろう。第一誰がそれを証明出来るのだ。タイムスリップする条件は何なのか、色々と不可解な謎が残っているため、呪術師の拠点である高専で保管しておいた方が良いという判断から、守ってきた一族から譲り受けた。だいぶ揉められたが、五条の権力をちらつかせばどうってことは無い。呪術界において、御三家である五条の名は凄まじく大きいからだ。そうでなくても呪術師最強でもある〝あの五条悟〟の提案にノーと言える呪術師などいるのだろうか。
そんなことはさて置き、五条はかけられていた布を取り外す。なんてことないのような大型の鏡。目の前に立てば、真正面の人物を写している。
五「僕が、この子が未来から来たって言ったのはこの鏡の事もあったから言ったんだよ。厳重に保管しているが、いまだにタイムスリップする条件が分かっていないからね。もしかしたらって事もある。
それに、さっきも話したこの鏡の逸話……人がタイムスリップするという信じ難い話だけど、色々実験してわかった事がある。この鏡は人を選ぶ……まず一定以上の呪力を持たぬ人間には鏡は見えないし、触れない。」
真「……チッ、そうみたいだな。」
真希は自分の掛けている眼鏡を外しつぶやく。裸眼となった真希の目には、先程まで存在を認知していた鏡が見当たらなかった。五条の言う事に信憑性が増している。
五「そしてこの長い時の中で、使われたのはたったの3回。過去と未来、両方タイムスリップをしている。過去に戻った者は帰らずそのまま過ごし、未来に飛んだ者は目的を終えると元の時代に帰って行った。
あと誰でも出来る訳じゃない。その一族の血をひいており尚且つ、この鏡に選ばれた呪力を持つものだけが使えるって事だね。」
貴2「鏡に選ばれたのがひなたくんということですか??」
貴「でも、そうしたらその鏡を使える一族の子って事になると思うんだけど……。」
神崎姉妹から疑問の声があがる。自分達の家系は呪術師の家系では無い非術師の家系……だからありえない。可能性があるとしたら──────
全員の目が乙骨に向く。乙骨は多数の視線を受けて、困惑し顔を左右に振っている。
乙「僕の家系もそんな凄い家系じゃ?!」
傍から見ても異様な程に驚いている乙骨だが、彼をよそに今まで憐にくっついていたひなたが、時限の鏡を凝視し始める。
ひ「僕……この鏡しってる!ここに来る前にその鏡を見てたから!」
「「「「「「……!?!?」」」」」」
ひ「ママが来るまでひまだったから、学校の中を探検してたんだけど、その時この大きな鏡を見つけたの!鏡の前に立ってたら、急に鏡がひかりだして、きづいたらあの森の中にいたの。」
ひなたが、流暢に話し出すその内容にその場にいた乙骨達は驚きを隠せないでいた。
ひ「鏡を見ながらずっとおもってた……パパやママに会いたいなって……。」
貴「それでこの高専に……?不確定要素が多いけど、この鏡はその人間の願いを叶えられる次元に送り飛ばすんだとしたら……何故この時代に?」
憐の疑問も最もである。もしタイムスリップしたとしたら、何故この時代なのだろうか?
ひ「パパが言ってた……、子どもの頃はママといっしょに遊んでいたけど、ママがいなくなっちゃったって……。だけど、学校でママにまた会えたから、大好きな場所なんだって!ともだちもたくさん出来たから、大好きで特別な場所だって!」
パ「……憂太だな。」
真「憂太だな。」
狗「憂太。」
五「憂太だね。」
貴2「……憂太くんですね。」
乙「!?」
ひなたの話を聞いた各々は思う……確かに乙骨の人生は、話を聞く限り決して甘くはなく、辛酸をなめた日々を過ごしてきたからこそ、
五「きっとひなたの両親は、余程仲が良いんだろうね。自分達の事をよくこの子に話してたんだよ。だから、ひなたがタイムスリップする瞬間、ひなたの想いを汲み取った鏡はこの時代に送り込んだって所かな。不思議だね〜なんでひなたをこの鏡が選んだのか分からないけど、この鏡を使えばきっとひなたは帰れるよ。」
五条は笑いながら話す。信憑性は低いが、今のところこの方法しかない。
貴「……でもそうと決まった訳じゃないのに、確信もない状態でひなたくんを送り出すのはどうなの?!危ないじゃない!!危険だよ……この子にもし何かあったら……──────。」
憐は納得が出来ず、五条の話には反対だった。
安全性が確保されていない状況で行うのは無理がある。でもそれとは別に違う想いもある──────
貴(……もし……、本当にあの子が……、未来の私と憂太との間にできた子どもなら──────)
──────嬉しい……嬉しいよ……。
──────本当は諦めなければならない想いを……
──────誰にも言えない想いを……
──────小さい頃から秘めていた想いを……
捨てなくてもいいのかな……。彼を諦めなくてもいいのかな……里香。
五条に苦言を呈した彼女の顔は、何だか心苦しそうな反面、少し救われたような顔をしていた。