死滅回游
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虎「氷の壁?!」
虎杖の目の前にも同じく氷の壁がそびえ立つ。まるでこれ以上相手の侵入を拒むかのように……直前に築かれた氷壁によって彼は命を助けられた。
虎(この氷……)
乙「氷の術式。普通の氷と違って、透き通った薄紅色をしている。ようやく決心がついた?……憐」
乙骨は一歩距離を取って氷の壁を見つめながら語りかける。すると、大きな壁の前に弓を持った憐が立ちはだかった。
貴「……正直今もついてない。でもこれ以上、私の大切な人達が戦っているのを見たくないの……だから私なりの方法でこの戦いを終わらせる」
彼女は静かに持っていた弓を肩から降ろした。二人の視線は再び交わる……虎杖は壁を隔てた彼女の小さな背中をずっと見つめていた。
貴「今から私と憂太で術式無しの1:1の戦いをする。それでもし私が貴方に勝ったら、悠仁は殺さないで!」
虎「!!」
乙「……」
貴「逆に憂太が私に勝ったら、その時は悠仁じゃなくて私を殺して……」
憐は乙骨相手にある提案を持ちかけた。自分が勝てば虎杖を生きたまま解放する。もし乙骨が勝てば、その時は虎杖の代わりに自分を殺して欲しいと真剣な表情で彼に訴えたのだった。
虎「オマエ……!!何言ってんだ憐!!俺なら何とか出来るって……!!」
貴「ごめんね悠仁。でも相手はあの憂太なの。特級呪術師乙骨憂太……色々あったけど、たった3ヶ月で4級から特級に返り咲いた呪術師」
虎「でも!!……」
貴「……隣でずっと見てきたから分かる!私も皆もいっぱい助けられてきたから……本当に憂太は優しくて、友達思いで、強くて……凄い呪術師なの!この半年間くらいは離れてたから計り知れない所があった。でもさっき後ろで見ていたから分かったよ……最後に離れた時よりも彼の強さは更に上がっている。
それに彼はまだ〝本気〟を出していない……」
虎「!!(クソッ!!流石特級……まだ力を秘めてる訳かよ……)」
虎杖は悔しそうに顔を歪めた。今も自分を押さえつけている〝リカ〟が今の今まで出てきていなかった事実を踏まえるとその言葉に真実味が増した。虎杖の姿を背後に見た憐は「憂太、聞いて!!」と大声で乙骨に呼びかけた。
貴「悠仁はね、まだ呪術師を始めて間もないけど本当に強いんだよ!五条先生、七海さん、東堂さんが目にかけて育てていたから、今より更に強くなる……。此度の死滅回游も、今後の戦いも……私達呪術師が勝利する為には絶対この子は必要になる!!だから今、憂太に殺させる訳にはいかない……!!」
虎「憐……」
先程の苦悩に満ちて悲壮感漂っていた彼女とは違う……凛とした顔つきで、決意に溢れた眼で、乙骨を射抜いていた。
貴(憂太が悠仁の死刑執行人をやっているのは、恐らく上の連中の指示。絶対本人の意思じゃない。憂太も悠仁も失なわずに済む方法、今の所これしかない……)
彼女はようやく覚悟を決めた……彼等の為に今出来る自分の最善の行動……。
呪術総監部から司令が出ている憂太に悠仁の死刑をやめさせるのだから、それなりの対価は必要になる。せめて失敗ではなく、彼にも成果をあげさせて良くて痛み分け程度にしないといけない。でもこれは悠仁と私の存在価値が等価だったらの話だ。実際は比べられな程の差がある……私に悠仁程の価値はない。それでも彼女は引き下がらなかった……己の全てを差し出して圧倒的な強さを誇る彼に挑む。
貴(……私の実力じゃ今の憂太には敵わない。無謀なことくらい分かってる……でも私だって、ただこの1年遊んでいた訳じゃない。必死に任務をこなして真希や姉さんにも鍛えてもらって、1年生の時よりもだいぶ接近戦に強くなったんだから!)
憐は手にしていた弓弦を器用に巻いて懐にしまった。それにより現在手にしている弓は弓弦が無くなり、矢を射る事が出来なくなった。その代わり弓を真っ直ぐに引っ張り、形を変えた。しなやかな曲線部は無くなり棒状の形となった。その弓を地面に打ち付ける。すると、弓の下端部分が伸びて、上端部分から先端が尖った刃物が現れた。
虎(あの形……槍か?!憐の持つ弓が槍になった!これなら刀を持ったあの人と接近戦で戦える!)
彼女は2年生になってから遠隔戦の弓だけでは駄目だと気づいた。もっと強くなる為には、他の武術も覚えた方が良いと考え自ら真希に志願した。
〝私に槍の使い方を教えて……〟
それからの日々は弓の技術を磨きだけでなく、真希から槍の戦い方について指南を受けていた。まさか早くも役に立つ日が来るとは……憐自身が驚いていた。しかし、その驚きは彼女よりも彼の方が勝っているだろう……。
乙「!!」
目を見開いて固まっている乙骨の姿を捉えた。そうなるのも無理はない……彼からしたら全てが驚きの連続だったのだ。
彼女の戦闘スタイルが増えていること、近接戦を苦手としていた彼女が自らその境地に至った事、虎杖悠仁という少年の為に、命をかけて守ろうとしている事、その為に自分の命を簡単に投げ捨てようとしている事……彼は何も知らない。知らないから戸惑いも大きいが、それよりも彼には思うことがあった。
この場で初めて乙骨の顔が苦痛に歪んだ。少し俯いていて彼の表情は影になり確認出来ない。だがしかし、先程とは異様な空気が流れていることに気づいたのは虎杖だった。
虎「いっ!?(なんだ?!急に力が強くなったぞ!!)」
自分を捕らえているリカの力が強くなったのだ。余計押さえ込まれる感覚がある。潰されるのではないかと思う程に……。虎杖を押さえていたリカは小声で呟く……。
リ「ダメ、憐……ユウタおこってる」
リカの呟きは虎杖にしか届いていなかった。
────────────────────────
乙骨side
暗く冷たい空気が漂っている。この部屋の光源は等間隔に置かれている蝋燭の燈だけ。外界と繋がりは絶たれ、ここに居るもの達は恩師曰く〝腐ったみかんのバーゲンセール〟と揶揄される日本の呪術界の中枢、呪術師社会において強い発言力を持つ決定機関、所謂〝上層部〟、〝総監部〟に所属する老齢の呪術師達が、円となって集まっていた。
僕はその中心部へと立ち、形だけの歓迎を受けていた。
『ご苦労、乙骨』
乙『労う気なんかないんだからさっさと本題に入りましょう。これで僕が貴方達の命令に従うと分かったでしょう……』
こちらも尊重する必要もないから、空っぽな言葉で返すだけ。この人達に感情なんて無意味なだけだ。ただただ従う姿勢を見せれば良いだけの話だったはず……。
『ヒッヒッ呪霊をいくら殺した所で何の証明にもならんさ』
乙『じゃあ〝縛り〟でも何でも結んだら良い』
しかし、強硬な態度を崩さない彼らに心の中で苛立ちが募る。自分で提案しといてなんだが〝縛り〟まで結ばされたら後が面倒だ。これから起こす自分の行動が、一か八かの行動となる。
乙『五条先生の教え子とか関係ないですよ。彼は渋谷で狗巻くんの腕を落としました』
仲間の皆から彼の話をよく聞いていた。明るくて、ひたむきで、皆から信頼されていて、僕と同じように自分の身に余る大いなる力を背負わされた人間。
────── 似たような経緯を持つ彼を……
────── 己の最愛がとても信頼している彼を……
乙『虎杖悠仁は……僕が殺します』
これから死刑執行人として僕は……虎杖悠仁を殺しに行く。
────────────────────────
荒れ果てた東京の道路を進んでいくと目的の人物を見つけた。予想外だったのは、彼の他に知らない人物が二人と……ずっと会いたいと焦がれていた彼女も一緒だった。
憐は僕を見て、感極まって泣きそうな笑みを浮かべていた。それを見て自分の中でも激しく鼓動が高鳴っている事が分かる。
────── 切に願っていた再会……
(僕もずっと……憐に会いたかったよ。叶うなら、今すぐにでも駆け寄ってその華奢な体を思いっきり抱きしめたい。出会えた喜びを一緒に分かち合いたい……でも、駄目なんだ。僕はまだやるべき事がある……それに優しい君は今回の件で、きっと僕の事を軽蔑する……)
────── それだけの事を今から自分はするのだから……
……嬉しそうだった彼女の表情が、途端に大きく目を見開いて青ざめていた。……きっと分かってしまったんだ。何故僕がここにいるのか……何のためにここに来たのか……
直「安心しぃ、君の邪魔はせぇへんし……よう見てみ……
────── 乙骨くんの大事なお姫さんはこの通り……傷一つ付けてへんよ」
僕より先に来ていた直哉さんがご丁寧に教えてくれた。憐にジッと視線を向ける……直哉さんの言う通り、彼女には傷一つ見当たらない。直哉さんがどういう人なのか知らないけど、真希さんが壊したがっている禪院家の人間なんて、あまり信用出来ない。だけど自分の目で見る限りは彼女に問題はなさそうだ。
直哉さんの言葉で、他の二人は察したかもしれない……僕と彼女の関係を。同期の呪術師、仲の良い友達……そんな生易しい関係じゃない……。
……直哉さんの言葉で、彼女はゆっくり俯いていた顔をあげる。先程の嬉しそうな表情は消えて、今は悲しげで動揺している様子が見てとれた。
(憐……)
────── 複雑な想いを抱えながら僕も彼女を見つめ返した……。
1年前、僕は彼女を想いながら里香ちゃんと辛く苦々しい日々を過ごしていた。里香ちゃんの交通事故をきっかけに離れ離れになった僕らは、里香ちゃんをきっかけにもう一度再会を果たす。僕らが呪った里香ちゃんを解呪する為に、やってきたこの高専に彼女が居ると聞いた時のあの喜びと驚きは今でも忘れない。そこから呪術師としての勉強が始まり、僕にも真希さん、狗巻くん、パンダくんという友達が出来て、憐とも順調に楽しい思い出を作っていった。しかし、昨年の冬に僕らにとって忘れられない出来事が起きた。
新宿・京都の場で起きた百鬼夜行と呼ばれる呪術テロ、〝百鬼夜行〟が引き起こされた。多数の死者を出したこのテロの首謀者はかつてこの高専で五条先生と学んでいた五条先生の親友、呪詛師夏油傑との戦い。この戦いで僕の友達は皆傷つき、血を流し、倒れていた彼女を見つけた時は本当に生きた心地がしなかった。その戦いの後、呪われた里香ちゃんを解放し、ずっと好きだった彼女と想いが通じ合い結ばれたのだった。
しかし、その後自分だけ海外に行くことになるとは思わず、結ばれてすぐ彼女達の元から離れてしまった。携帯で連絡を取り合っても、直接顔を見ている訳では無い為、寂しさは募っていた。僕にこの任務を持ってきた五条先生を恨めしく思う日もあったけど、仕事だから仕方ないと言い聞かせ、断腸の思いで彼女を日本に残し、アフリカへと飛び立った。そこから半年以上、海外にいてつい先日、日本に戻ってきたばかりで会えたのは会いたくもない総監部の人達。気が滅入るのもしょうがないと自分に言い訳してしまう。
総監部にいた時は、彼らに信用を見せる為無駄な感情を削ぎ落とした機械のように振舞っていた。彼らの要望は、虎杖悠仁くんの抹殺……それをこなせば彼らの信用を得られそうだった。
宿儺の器として呪術の世界に飛び込んだ虎杖くん。彼は今は高専で学び、立派な呪術師として活躍している。
僕も彼女も友達の事が大好きだから、仲間である彼の命が狙われていたら、憐は守る為に己の出来ることをする。そうなると、虎杖くんに着いていき、守ろうとする事も予想できた。しかし、僕と虎杖くんとの戦いに入ってこず、後ろから着いてくるだけ。
恐らく自分の恋人が後輩を殺そうとしているから、彼女はどうしたらいいのか悩んでいるのだろう。
直に向き合ってみて分かったが、虎杖くんは術式は使わず己の拳に呪力を纏わせて戦う近接型。対して彼女は弓を扱う後方支援型。だから油断していた……彼女はきっと前には出てこない。未だに僕と虎杖くん、どちらにつくか悩んでいるのと、僕の実力を誰よりも分かっているからこそ、迂闊には出てこられない。そう思い込んでいた……だけど、実際は自分の予想を遥かに凌駕した現実が待っていた。
貴「……正直今もついてない。でもこれ以上、私の大切な人達が戦っているのを見たくないの……だから私なりの方法でこの戦いを終わらせる。
……今から私と憂太で術式無しの1:1の戦いをする。それでもし私が貴方に勝ったら、悠仁は殺さないで!逆に憂太が私に勝ったら、その時は悠仁じゃなくて私を殺して……」
────── 彼女は何を言っているのだろうか……
虎「オマエ……!!何言ってんだ憐!!俺なら何とか出来るって……!!」
貴「ごめんね悠仁。でも相手はあの憂太なの。特級呪術師乙骨憂太……色々あったけど、たった3ヶ月で4級から特級に返り咲いた呪術師」
虎「でも!!……」
貴「……隣でずっと見てきたから分かる!私も皆もいっぱい助けられてきたから……本当に憂太は優しくて、友達思いで、強くて……凄い呪術師なの!この半年間くらいは離れてたから計り知れない所があった。でもさっき後ろで見ていたから分かったよ……最後に離れた時よりも彼の強さは更に上がっている。
それに彼はまだ〝本気〟を出していない……」
憐と虎杖くんのやり取りを他人事のように見つめる。虎杖くんの反応を見るに、この氷壁も作戦も憐の独断専行だと分かった。……それよりも僕には気になることがあった。
────── それはずっと存在していた違和感……
(……何で憐は虎杖くんを名前で呼んでるの……何でそんなに距離が近いの……
─── 君と虎杖くんの関係は何……??)
真っさらな白に突如として現れた黒い染みはゆっくり広がり出して、満遍なく行き渡る。白と黒は混ざり、濁った灰を作り出す……そしてやがては全てが黒に染まってゆく……。
貴「憂太、聞いて!!」
黒い思考に陥る前に、憐から呼び止められる。彼女は凛とした眼差しで真っ直ぐに僕を射抜いていた。
貴「悠仁はね、まだ呪術師を始めて間もないけど本当に強いんだよ!五条先生、七海さん、東堂さんが目にかけて育てていたから、今より更に強くなる……。此度の死滅回游も、今後の戦いも……私達呪術師が勝利する為には絶対この子は必要になる!!だから今、憂太に殺させる訳にはいかない……!!」
虎「憐……」
先程の苦悩に満ちて悲壮感漂っていた彼女とは違う……覚悟を決めて僕と対峙することを選んだ。
────── 虎杖くんを守る為に自分の命を差し出す選択をとったようだ……
乙「…………さない」
……気づいたら口から漏れていた。生涯彼女に対してだけは抱かなかったと思っていた感情がフツフツと沸き上がる。今頃自分の顔も険しい物になっている事だろう。
────── 自分の命を意図も簡単に交渉に利用する彼女に対して、初めて激しい怒りが湧いた。
乙「それだけは絶対許さない……!!」
彼女に向けた事のない怒気をぶつける。彼女は僕の様子に戸惑っているようだ……その様子に更に急激に自分の中で温度が下がっていくのが分かる。……ここまで激しい怒りが沸いたのは、去年の百鬼夜行以来だ。あの時と違うのは憎しみ等無く、純粋な怒りのみ沸き上がっている……リカちゃんが完全顕現していない辺り、まだ自分の理性が機能していることを悟った。
貴「ゆ、憂太……?(何で急に怒り出したの?!私のせいなの??)」
僕の名前を恐る恐る呼ぶ憐に、彼女に僕の想いは伝わっていなかったと思った。それに対して残念に思うけれど、不思議と少し頭が冷えた。……これからどんどん戦闘が激化していく。彼女に何か合う前に再び出会えて本当に良かった。
乙「分かった……君の望む方法で戦おう」
貴「!!」
憐は自分が愛用していた弓を槍へと形を変えて佇んでいる。恐らく彼女の師匠は真希さん。僕が離れていた間に彼女も色々な経験を経て成長したのだろう。僕の返答に静かに息を呑んだ憐。緊張しているのか呼吸が荒い。
(口で伝えるよりも、彼女の望み通りの方法で伝えた方が分かってくれそうだ……)
今一度、彼女に理解してもらわなければならない……。
────── 僕にとって君がどういう存在なのか……
乙「構えて……」
────── 僕がどれほど君を求めていたのか……
乙「手加減はしない……さぁ、行くよ憐」
────── 君の発言で僕がどれだけ怒り、悲しかったのか……
彼女に分からせる為、僕は全力で走り出し彼女に刃を向けた。
虎杖の目の前にも同じく氷の壁がそびえ立つ。まるでこれ以上相手の侵入を拒むかのように……直前に築かれた氷壁によって彼は命を助けられた。
虎(この氷……)
乙「氷の術式。普通の氷と違って、透き通った薄紅色をしている。ようやく決心がついた?……憐」
乙骨は一歩距離を取って氷の壁を見つめながら語りかける。すると、大きな壁の前に弓を持った憐が立ちはだかった。
貴「……正直今もついてない。でもこれ以上、私の大切な人達が戦っているのを見たくないの……だから私なりの方法でこの戦いを終わらせる」
彼女は静かに持っていた弓を肩から降ろした。二人の視線は再び交わる……虎杖は壁を隔てた彼女の小さな背中をずっと見つめていた。
貴「今から私と憂太で術式無しの1:1の戦いをする。それでもし私が貴方に勝ったら、悠仁は殺さないで!」
虎「!!」
乙「……」
貴「逆に憂太が私に勝ったら、その時は悠仁じゃなくて私を殺して……」
憐は乙骨相手にある提案を持ちかけた。自分が勝てば虎杖を生きたまま解放する。もし乙骨が勝てば、その時は虎杖の代わりに自分を殺して欲しいと真剣な表情で彼に訴えたのだった。
虎「オマエ……!!何言ってんだ憐!!俺なら何とか出来るって……!!」
貴「ごめんね悠仁。でも相手はあの憂太なの。特級呪術師乙骨憂太……色々あったけど、たった3ヶ月で4級から特級に返り咲いた呪術師」
虎「でも!!……」
貴「……隣でずっと見てきたから分かる!私も皆もいっぱい助けられてきたから……本当に憂太は優しくて、友達思いで、強くて……凄い呪術師なの!この半年間くらいは離れてたから計り知れない所があった。でもさっき後ろで見ていたから分かったよ……最後に離れた時よりも彼の強さは更に上がっている。
それに彼はまだ〝本気〟を出していない……」
虎「!!(クソッ!!流石特級……まだ力を秘めてる訳かよ……)」
虎杖は悔しそうに顔を歪めた。今も自分を押さえつけている〝リカ〟が今の今まで出てきていなかった事実を踏まえるとその言葉に真実味が増した。虎杖の姿を背後に見た憐は「憂太、聞いて!!」と大声で乙骨に呼びかけた。
貴「悠仁はね、まだ呪術師を始めて間もないけど本当に強いんだよ!五条先生、七海さん、東堂さんが目にかけて育てていたから、今より更に強くなる……。此度の死滅回游も、今後の戦いも……私達呪術師が勝利する為には絶対この子は必要になる!!だから今、憂太に殺させる訳にはいかない……!!」
虎「憐……」
先程の苦悩に満ちて悲壮感漂っていた彼女とは違う……凛とした顔つきで、決意に溢れた眼で、乙骨を射抜いていた。
貴(憂太が悠仁の死刑執行人をやっているのは、恐らく上の連中の指示。絶対本人の意思じゃない。憂太も悠仁も失なわずに済む方法、今の所これしかない……)
彼女はようやく覚悟を決めた……彼等の為に今出来る自分の最善の行動……。
呪術総監部から司令が出ている憂太に悠仁の死刑をやめさせるのだから、それなりの対価は必要になる。せめて失敗ではなく、彼にも成果をあげさせて良くて痛み分け程度にしないといけない。でもこれは悠仁と私の存在価値が等価だったらの話だ。実際は比べられな程の差がある……私に悠仁程の価値はない。それでも彼女は引き下がらなかった……己の全てを差し出して圧倒的な強さを誇る彼に挑む。
貴(……私の実力じゃ今の憂太には敵わない。無謀なことくらい分かってる……でも私だって、ただこの1年遊んでいた訳じゃない。必死に任務をこなして真希や姉さんにも鍛えてもらって、1年生の時よりもだいぶ接近戦に強くなったんだから!)
憐は手にしていた弓弦を器用に巻いて懐にしまった。それにより現在手にしている弓は弓弦が無くなり、矢を射る事が出来なくなった。その代わり弓を真っ直ぐに引っ張り、形を変えた。しなやかな曲線部は無くなり棒状の形となった。その弓を地面に打ち付ける。すると、弓の下端部分が伸びて、上端部分から先端が尖った刃物が現れた。
虎(あの形……槍か?!憐の持つ弓が槍になった!これなら刀を持ったあの人と接近戦で戦える!)
彼女は2年生になってから遠隔戦の弓だけでは駄目だと気づいた。もっと強くなる為には、他の武術も覚えた方が良いと考え自ら真希に志願した。
〝私に槍の使い方を教えて……〟
それからの日々は弓の技術を磨きだけでなく、真希から槍の戦い方について指南を受けていた。まさか早くも役に立つ日が来るとは……憐自身が驚いていた。しかし、その驚きは彼女よりも彼の方が勝っているだろう……。
乙「!!」
目を見開いて固まっている乙骨の姿を捉えた。そうなるのも無理はない……彼からしたら全てが驚きの連続だったのだ。
彼女の戦闘スタイルが増えていること、近接戦を苦手としていた彼女が自らその境地に至った事、虎杖悠仁という少年の為に、命をかけて守ろうとしている事、その為に自分の命を簡単に投げ捨てようとしている事……彼は何も知らない。知らないから戸惑いも大きいが、それよりも彼には思うことがあった。
この場で初めて乙骨の顔が苦痛に歪んだ。少し俯いていて彼の表情は影になり確認出来ない。だがしかし、先程とは異様な空気が流れていることに気づいたのは虎杖だった。
虎「いっ!?(なんだ?!急に力が強くなったぞ!!)」
自分を捕らえているリカの力が強くなったのだ。余計押さえ込まれる感覚がある。潰されるのではないかと思う程に……。虎杖を押さえていたリカは小声で呟く……。
リ「ダメ、憐……ユウタおこってる」
リカの呟きは虎杖にしか届いていなかった。
────────────────────────
乙骨side
暗く冷たい空気が漂っている。この部屋の光源は等間隔に置かれている蝋燭の燈だけ。外界と繋がりは絶たれ、ここに居るもの達は恩師曰く〝腐ったみかんのバーゲンセール〟と揶揄される日本の呪術界の中枢、呪術師社会において強い発言力を持つ決定機関、所謂〝上層部〟、〝総監部〟に所属する老齢の呪術師達が、円となって集まっていた。
僕はその中心部へと立ち、形だけの歓迎を受けていた。
『ご苦労、乙骨』
乙『労う気なんかないんだからさっさと本題に入りましょう。これで僕が貴方達の命令に従うと分かったでしょう……』
こちらも尊重する必要もないから、空っぽな言葉で返すだけ。この人達に感情なんて無意味なだけだ。ただただ従う姿勢を見せれば良いだけの話だったはず……。
『ヒッヒッ呪霊をいくら殺した所で何の証明にもならんさ』
乙『じゃあ〝縛り〟でも何でも結んだら良い』
しかし、強硬な態度を崩さない彼らに心の中で苛立ちが募る。自分で提案しといてなんだが〝縛り〟まで結ばされたら後が面倒だ。これから起こす自分の行動が、一か八かの行動となる。
乙『五条先生の教え子とか関係ないですよ。彼は渋谷で狗巻くんの腕を落としました』
仲間の皆から彼の話をよく聞いていた。明るくて、ひたむきで、皆から信頼されていて、僕と同じように自分の身に余る大いなる力を背負わされた人間。
────── 似たような経緯を持つ彼を……
────── 己の最愛がとても信頼している彼を……
乙『虎杖悠仁は……僕が殺します』
これから死刑執行人として僕は……虎杖悠仁を殺しに行く。
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荒れ果てた東京の道路を進んでいくと目的の人物を見つけた。予想外だったのは、彼の他に知らない人物が二人と……ずっと会いたいと焦がれていた彼女も一緒だった。
憐は僕を見て、感極まって泣きそうな笑みを浮かべていた。それを見て自分の中でも激しく鼓動が高鳴っている事が分かる。
────── 切に願っていた再会……
(僕もずっと……憐に会いたかったよ。叶うなら、今すぐにでも駆け寄ってその華奢な体を思いっきり抱きしめたい。出会えた喜びを一緒に分かち合いたい……でも、駄目なんだ。僕はまだやるべき事がある……それに優しい君は今回の件で、きっと僕の事を軽蔑する……)
────── それだけの事を今から自分はするのだから……
……嬉しそうだった彼女の表情が、途端に大きく目を見開いて青ざめていた。……きっと分かってしまったんだ。何故僕がここにいるのか……何のためにここに来たのか……
直「安心しぃ、君の邪魔はせぇへんし……よう見てみ……
────── 乙骨くんの大事なお姫さんはこの通り……傷一つ付けてへんよ」
僕より先に来ていた直哉さんがご丁寧に教えてくれた。憐にジッと視線を向ける……直哉さんの言う通り、彼女には傷一つ見当たらない。直哉さんがどういう人なのか知らないけど、真希さんが壊したがっている禪院家の人間なんて、あまり信用出来ない。だけど自分の目で見る限りは彼女に問題はなさそうだ。
直哉さんの言葉で、他の二人は察したかもしれない……僕と彼女の関係を。同期の呪術師、仲の良い友達……そんな生易しい関係じゃない……。
……直哉さんの言葉で、彼女はゆっくり俯いていた顔をあげる。先程の嬉しそうな表情は消えて、今は悲しげで動揺している様子が見てとれた。
(憐……)
────── 複雑な想いを抱えながら僕も彼女を見つめ返した……。
1年前、僕は彼女を想いながら里香ちゃんと辛く苦々しい日々を過ごしていた。里香ちゃんの交通事故をきっかけに離れ離れになった僕らは、里香ちゃんをきっかけにもう一度再会を果たす。僕らが呪った里香ちゃんを解呪する為に、やってきたこの高専に彼女が居ると聞いた時のあの喜びと驚きは今でも忘れない。そこから呪術師としての勉強が始まり、僕にも真希さん、狗巻くん、パンダくんという友達が出来て、憐とも順調に楽しい思い出を作っていった。しかし、昨年の冬に僕らにとって忘れられない出来事が起きた。
新宿・京都の場で起きた百鬼夜行と呼ばれる呪術テロ、〝百鬼夜行〟が引き起こされた。多数の死者を出したこのテロの首謀者はかつてこの高専で五条先生と学んでいた五条先生の親友、呪詛師夏油傑との戦い。この戦いで僕の友達は皆傷つき、血を流し、倒れていた彼女を見つけた時は本当に生きた心地がしなかった。その戦いの後、呪われた里香ちゃんを解放し、ずっと好きだった彼女と想いが通じ合い結ばれたのだった。
しかし、その後自分だけ海外に行くことになるとは思わず、結ばれてすぐ彼女達の元から離れてしまった。携帯で連絡を取り合っても、直接顔を見ている訳では無い為、寂しさは募っていた。僕にこの任務を持ってきた五条先生を恨めしく思う日もあったけど、仕事だから仕方ないと言い聞かせ、断腸の思いで彼女を日本に残し、アフリカへと飛び立った。そこから半年以上、海外にいてつい先日、日本に戻ってきたばかりで会えたのは会いたくもない総監部の人達。気が滅入るのもしょうがないと自分に言い訳してしまう。
総監部にいた時は、彼らに信用を見せる為無駄な感情を削ぎ落とした機械のように振舞っていた。彼らの要望は、虎杖悠仁くんの抹殺……それをこなせば彼らの信用を得られそうだった。
宿儺の器として呪術の世界に飛び込んだ虎杖くん。彼は今は高専で学び、立派な呪術師として活躍している。
僕も彼女も友達の事が大好きだから、仲間である彼の命が狙われていたら、憐は守る為に己の出来ることをする。そうなると、虎杖くんに着いていき、守ろうとする事も予想できた。しかし、僕と虎杖くんとの戦いに入ってこず、後ろから着いてくるだけ。
恐らく自分の恋人が後輩を殺そうとしているから、彼女はどうしたらいいのか悩んでいるのだろう。
直に向き合ってみて分かったが、虎杖くんは術式は使わず己の拳に呪力を纏わせて戦う近接型。対して彼女は弓を扱う後方支援型。だから油断していた……彼女はきっと前には出てこない。未だに僕と虎杖くん、どちらにつくか悩んでいるのと、僕の実力を誰よりも分かっているからこそ、迂闊には出てこられない。そう思い込んでいた……だけど、実際は自分の予想を遥かに凌駕した現実が待っていた。
貴「……正直今もついてない。でもこれ以上、私の大切な人達が戦っているのを見たくないの……だから私なりの方法でこの戦いを終わらせる。
……今から私と憂太で術式無しの1:1の戦いをする。それでもし私が貴方に勝ったら、悠仁は殺さないで!逆に憂太が私に勝ったら、その時は悠仁じゃなくて私を殺して……」
────── 彼女は何を言っているのだろうか……
虎「オマエ……!!何言ってんだ憐!!俺なら何とか出来るって……!!」
貴「ごめんね悠仁。でも相手はあの憂太なの。特級呪術師乙骨憂太……色々あったけど、たった3ヶ月で4級から特級に返り咲いた呪術師」
虎「でも!!……」
貴「……隣でずっと見てきたから分かる!私も皆もいっぱい助けられてきたから……本当に憂太は優しくて、友達思いで、強くて……凄い呪術師なの!この半年間くらいは離れてたから計り知れない所があった。でもさっき後ろで見ていたから分かったよ……最後に離れた時よりも彼の強さは更に上がっている。
それに彼はまだ〝本気〟を出していない……」
憐と虎杖くんのやり取りを他人事のように見つめる。虎杖くんの反応を見るに、この氷壁も作戦も憐の独断専行だと分かった。……それよりも僕には気になることがあった。
────── それはずっと存在していた違和感……
(……何で憐は虎杖くんを名前で呼んでるの……何でそんなに距離が近いの……
─── 君と虎杖くんの関係は何……??)
真っさらな白に突如として現れた黒い染みはゆっくり広がり出して、満遍なく行き渡る。白と黒は混ざり、濁った灰を作り出す……そしてやがては全てが黒に染まってゆく……。
貴「憂太、聞いて!!」
黒い思考に陥る前に、憐から呼び止められる。彼女は凛とした眼差しで真っ直ぐに僕を射抜いていた。
貴「悠仁はね、まだ呪術師を始めて間もないけど本当に強いんだよ!五条先生、七海さん、東堂さんが目にかけて育てていたから、今より更に強くなる……。此度の死滅回游も、今後の戦いも……私達呪術師が勝利する為には絶対この子は必要になる!!だから今、憂太に殺させる訳にはいかない……!!」
虎「憐……」
先程の苦悩に満ちて悲壮感漂っていた彼女とは違う……覚悟を決めて僕と対峙することを選んだ。
────── 虎杖くんを守る為に自分の命を差し出す選択をとったようだ……
乙「…………さない」
……気づいたら口から漏れていた。生涯彼女に対してだけは抱かなかったと思っていた感情がフツフツと沸き上がる。今頃自分の顔も険しい物になっている事だろう。
────── 自分の命を意図も簡単に交渉に利用する彼女に対して、初めて激しい怒りが湧いた。
乙「それだけは絶対許さない……!!」
彼女に向けた事のない怒気をぶつける。彼女は僕の様子に戸惑っているようだ……その様子に更に急激に自分の中で温度が下がっていくのが分かる。……ここまで激しい怒りが沸いたのは、去年の百鬼夜行以来だ。あの時と違うのは憎しみ等無く、純粋な怒りのみ沸き上がっている……リカちゃんが完全顕現していない辺り、まだ自分の理性が機能していることを悟った。
貴「ゆ、憂太……?(何で急に怒り出したの?!私のせいなの??)」
僕の名前を恐る恐る呼ぶ憐に、彼女に僕の想いは伝わっていなかったと思った。それに対して残念に思うけれど、不思議と少し頭が冷えた。……これからどんどん戦闘が激化していく。彼女に何か合う前に再び出会えて本当に良かった。
乙「分かった……君の望む方法で戦おう」
貴「!!」
憐は自分が愛用していた弓を槍へと形を変えて佇んでいる。恐らく彼女の師匠は真希さん。僕が離れていた間に彼女も色々な経験を経て成長したのだろう。僕の返答に静かに息を呑んだ憐。緊張しているのか呼吸が荒い。
(口で伝えるよりも、彼女の望み通りの方法で伝えた方が分かってくれそうだ……)
今一度、彼女に理解してもらわなければならない……。
────── 僕にとって君がどういう存在なのか……
乙「構えて……」
────── 僕がどれほど君を求めていたのか……
乙「手加減はしない……さぁ、行くよ憐」
────── 君の発言で僕がどれだけ怒り、悲しかったのか……
彼女に分からせる為、僕は全力で走り出し彼女に刃を向けた。
