死滅回游
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虎「……誰だ?」
脹(誰であろうと目的は……)
化け物じみた呪力量を持った見知らぬ少年が現れた事により、虎杖達に嫌な緊張感がはしる。憐だけが、この少年の素性を知っている……彼は彼女の愛する男なのだから、憐は静かに喜んでいた。しかし、虎杖達の雰囲気を読み取り迂闊に動けずにいた。
────── ドゴンッ!!
少年は建物から飛び降りてきた。その異様な雰囲気に圧倒されている虎杖と脹相。しかし、少年は気にせずに話し始めた。
?「誰が虎杖くんの何?」
この発言に違和感を持ち、その顔を歪める憐と、確信を得た脹相。
脹「やはり悠仁の死刑執行人か……」
虎「!!」
貴「……えっ……??」
憐は脹相の方に振り向き、驚愕の表情で声を発した。その声に覇気がなかったのは、もしその言葉が真実なら、その先の展開が地獄だと読めてしまったからだ。
貴(何を言ってるの……?悠仁の死刑執行人が憂太なの……??)
貴「そんなの嘘だ……嘘だと言ってよ……」
彼女の言葉は空気に溶けて誰にも聞かれずに消えていった。今まで大人しくしていた金髪の男が、重苦しい雰囲気を気にせず軽々しく話し始めた。
?「君、乙骨くんやろ」
虎「!!(乙骨……伏黒が言っていた2年の)」
────── 五条先生と同じ……
────── 特級呪術師……!!
金髪男のお陰で異様な雰囲気を持つ少年の素性が虎杖には分かった。同期の伏黒が以前、京都姉妹校交流会の時に話してくれていた。恩師五条悟と同じくこの世にたった4人しか居ないと言われている特級呪術師……。
虎(……だけどそれにしたっては憐のこの反応……普通じゃない。同じ学年だから知り合いなはず。それに2年生は皆仲が良いとコイツ自身が言っていた……だからこの人の正体もすぐに分かったはずだよな。とんでもない人物であることに変わりないけど、だからってこんなに動揺するか……?)
虎杖は憐に視線を向けながら彼女の態度の異様さに違和感を抱いていた。憐は、目を見開き絶望したような表情で俯いている……まるで大切な選択を迫られて、選べず途方に暮れているように見えた……。
乙「……貴方は?」
直「禪院直哉。真希ちゃんの従兄弟や。君と同じで虎杖くん殺せって言われとる」
禪院直哉……禪院家26代当主禪院直毘人の息子で特別1級呪術師。禪院真希、禪院真依の従兄弟。先刻の戦いで、禪院直毘人はこの世を去った。彼の遺言によって、禪院家の次代の当主は伏黒恵となった。その決定に納得がいかなかった直哉は、虎杖(宿儺の器)を使って伏黒をおびき出し誅殺しようとしていた。
そこに現れたのが新たな刺客……呪術総監部から虎杖の死刑執行人として乙骨が送り込まれたのだ。流石の直哉でも乙骨相手に分が悪いと考え、下手に出た態度で乙骨に語りかける。
直「安心しぃ、君の邪魔はせぇへんし……よう見てみ……
────── 乙骨くんの大事なお姫さんはこの通り……傷一つ付けてへんよ」
虎/脹「「!?」」
直哉は証拠だと言わんばかりに、憐を指さした。指をさされた彼女はゆっくり顔をあげた。
貴「……」
乙「……」
久々にお互い面と向かって立ち会った乙骨と憐。本来なら喜ばしい再会だったものが、今は重苦しい空気に包まれている。二人は互いに向き合って暫く無言で見つめ合っていた。
驚きで硬直していた脹相はようやく我に返る。直哉の言葉を鵜呑みにすれば、乙骨にとって憐は余程大切な人物らしい……
脹(ここで憐を置いていけば、少なくとも奴を足止め出来る……)
脹相は虎杖に目配せし小声で話しかけた。
脹「逃げるぞ悠仁」
虎「あ?」
脹「金髪は種のあるスピードタイプ。アイツと追いかけっこは美味くない。俺が足止めする」
虎「大丈夫かよ」
脹「俺はな。狙われてるのはお前だぞ悠仁。黒髪……乙骨から逃げ切る事だけを考えろ。五条悟と同じタイプと見た。戦ったら死ぬ……だが、幸いにもあの金髪の言う事が本当なら、乙骨にとって憐は余程大事な人物らしい。ならば乙骨は勿論、乙骨と敵対したくない金髪は憐を傷つける可能性は限りなく低い。だから俺と憐を置いて、お前は先に行け」
脹(悠仁と
虎「……」
脹相は虎杖の前で気遣いが出来る兄の姿を見せることが出来、心の中で悦に浸っているが、虎杖の表情はあまり芳しくなかった。ここで憐を置いていくことが最善なのか、彼にはどうしてもそう思えなかった。
虎「……例え憐が知り合いだったとしても、金髪の話が本当かどうか確証もない上に、あの状態のアイツをここに置いていくのはヤバい気がする……」
今も険しい様子で乙骨と見つめ合っている憐を見た悠仁は脹相の作戦に乗り気ではなかった。しかし虎杖悠仁は知らない……神崎憐についてまことしやかに囁かれているある噂を……────────────
以前から密かに考えていたことだ。勘違いだと思ったこともあったが、確信を得たのはある術師の発言だった。階級は3級と低い階級にも関わらず、補助監督や他の呪術師から何故か一歩引かれたような態度、異様な視線を感じるようになった。1年生の時は普通に接してくれた人達も、2年に上がって暫くした頃、何故か急に距離を取られるようになったのだ。その事に対して憐は変に気にしていなかった。多少やりにくさを感じつつも、最低限連携が取れれば良かったから、別段不便さを感じていなかった。
しかし、ずっと疑問に思ってはいた……何故自分は急に他人からよそよそしい態度で接せられるのか……その答えは京都校の呪術師、禪院真依の発言によって思い知らされた。
禪『……貴方自身は弱いのに、特級呪術師に守られているおかげで、他の呪術師から馬鹿にされていないのを知っておいた方がいいわよ?』
特級呪術師に守られている……これは十中八九自身の最愛のパートナー、乙骨憂太を指していたことはすぐに分かった。他人から無碍な扱いを受けない、常に気を遣われて距離を取られる。1年生の時はただの幼馴染で友人だった彼との関係が、2年生になり恋人という関係へと変わり、その差は明確なものとなった。名実共に乙骨は表立って憐を守る事が出来るようになった。
彼女への侮辱は彼への侮辱、己の最愛である憐を傷つける者は誰であろうと絶対に許さない。以前彼女を侮辱した他の術師は、後に乙骨によって酷い制裁を受けた。その事が噂となって徐々に広がり、彼女を傷つけるものは居なくなったのだ。
そんな噂を知っているのは前々から呪術師をやっているものだけ。比較的最近呪術師を始めた釘崎野薔薇や虎杖悠仁はまだ知りえなかったのだ。彼女を置いていくことを良しとしなかった虎杖は、憐を連れて行けるように徐々に下がり、憐の隣へと立つ。
直「虎杖くんを殺してもその事を上に暫く黙っててくれへん?彼を餌に会いたい人がおんねん」
一方、直哉は乙骨に自身の目的を話していた。両手を上げて逆らう意志を見せないようにしているが、心の内では伏黒恵を話に出した事を後悔していた。
脹「昨日の地点で落ち合うぞ」
虎「応!!憐も行くぞ!!俺の後を離れて着いてこいよ……」
貴「悠仁……うん……」
虎杖と脹相は段取りを決め、次の行動の構えを取る。虎杖は小声で憐に着いてくるように伝えた。彼女のスピードは呪力で底上げしており、自分に追いついてこられるものの為、そこまで心配をしていなかった。憐の様子はやはり依然として覇気がない声と辛そうな表情だったが、虎杖の声掛けで何とかこれから自分のやるべき事を決断しようとしていた。
乙「いいですよ。じゃあそっちに任せます……」
乙骨の声を合図に虎杖、憐は走り出し、脹相は術式を放つべく、動かず構えた。しかし、彼らの予想外だったのが、剥き身の刀を持って乙骨がすぐ傍まで並走しながら着いてきていること。
虎(速い!!抜き身の刀を持ってこれかよ!!)
乙(速いな。走り出して潰すつもりだったのに)
互いに自身の予想以上のポテンシャルを見せた行動に驚きを隠せずにいた。そんな虎杖の後ろを少し離れて着いて走っている憐は、大きく表情を歪めた。
貴(……憂太は私の事なんか気にしてすらない……)
……先程から自分に対して一言も言わない彼に悲しみがわいてきた。憐は、家族である虎杖を守りたい気持ちと、最愛の彼と戦いたくない気持ちがあり、自分は今だ答えは出せぬまま身を引き裂かれそうな思いでいるというのに、彼は自分に対して何も言ってくれない。ただ無言で視線を送るだけだった。
────── ずっと逢いたいと願っていたのは私だけだったのかな……
2年になってすぐ海外へと行き、離れ離れになってしまったけど、欠かさず連絡は取り続けていた。日本に戻ってきた事も、悠仁の死刑執行人になった事も何も教えてくれなかった。焦がれる思いをずっと抱いてきて、やっと会えたと思ったら喜べる再会ではなかった。
貴(どうすれば良い……どうしたら良いの……)
彼女は苦悩の表情で迷いながらも虎杖達について行く。
暫く走り続けていると虎杖と乙骨の目の前に車が横たわっていた。虎杖は上を跨いで難なく抜けるが、それより早く横から抜けた乙骨は降りてくる虎杖を目掛け、刀で斬り上げた。
貴(危ない!悠仁!!)
憐が声を上げる間もなく、虎杖は自ら危機を察知して、乙骨の刀を避けた。
貴(良かった……!)
乙「(絶対斬ったと思ったのに……)真希さんみたいだ」
掴んだと思っても、すり抜けて応戦していく姿を見て乙骨は己の仲間の姿を思い浮かべる。1年生の組手の時も、何度も予想外な動きで自分を翻弄してきた同期の真希みたいだと感じていた。
虎(見通しのいい所じゃこの人からは逃げ切れねぇ。今の内に……)
車を盾に乙骨を避ける虎杖は屋内に逃げ込もうとしたが、乙骨はその車を投げて逆に虎杖の行く道を塞いだ。
虎「!!」
乙「驚いた?パワータイプに見えないもんね」
なんて事ないように言ってのける乙骨に、冷や汗をかく虎杖。
虎(パワーがなくてもとんでもねぇ呪力量だ……)
乙「実際非力な方だしね……」
虎「俺と真逆だな」
乙「気づいた?五条先生より多いんだよ呪力量」
虎「いっ!?」
乙「でも先生には〝六眼〟があるから術式を発動した時のロス呪力が限りなく0なんだ。パフォーマンスではやっぱり先生が一番なんだよ。僕に呪力切れはあっても先生にはないしね……」
自分の事を淡々と話し始めていた乙骨は再度刀を構える。
乙「話は終わり……」
一気に走り抜け刀の切先を虎杖に向けた。虎杖は彼の異様な強さを改めて直で思い知らされていた。東堂の教えを思い出しながら、再度乙骨の攻撃を躱していく。通常一流の術師ほど呪力の流れが読みづらいもの。言い換えれば一流ほど呪力操作の精度が高いから、直前まで攻撃が予測出来ない事を示す。
虎(でもこの人は……刀を含め全身から常に呪力が立ち昇ってる!!動きを読む読まない以前の問題!!全ての攻撃が決定打になり得るし、全てのダメージが最小限に抑えられる!!)
だから少しのミスで命に関わってくるのだ。しかし、そんな事で怖気付く訳にはいかない。
────── 〝後は頼みます〟
己が慕っていたあの人から託された
虎「悪いけどまだ死ぬわけにはいかねぇんだわ」
彼の目はまだ死んではいなかった。虎杖はまず乙骨の刀に対抗するべく、逃げながら武器を探し始めた。近場に捨て去られていた四駆の中からサバイバルナイフを手に取り、乙骨の刀を受け止めた。
乙「!!(ナイフ!!どこから……!?あぁ、あの四駆か。アウトドア用か。趣味のサバイバルナイフかな。特殊な呪具じゃないなら怖がらなくていい……)」
虎杖の戦法に、目を見開くもすぐさま冷静に状況を分析し、対処していく乙骨。彼は焦ることもなく、ただただ刀を振るう……唯一、懸念に思うことがあるとすれば……横目で背後を見遣る。
自分達の後ろを、今も悲痛な面持ちで追いかけている彼女の姿を目に入れる。もうこれ以上、彼女に余計な傷を負わせたくない。乙骨憂太は軽く息を吸って、刀を持つ手に力を込めた。
刀とナイフのぶつかり合う音が激しさを増していく。今まで虎杖は得物に呪力を籠める方法は教えて貰っていない。五条にはまだ早いと言われら己の拳のみで多くの呪霊と戦ってきた。対して乙骨は、1年の時から自身の指輪、刀といった物に呪力を籠める方法から教わっていた。言わば得物を使った戦いにおいては圧倒的に乙骨の方が有利だった。
乙「意識が刀にいきすぎ」
得物を使った戦い方に慣れていないからこそ、意識をナイフばかりに集中させてしまった虎杖の無防備だった鳩尾に前蹴りを入れ、姿勢を崩させる。そして反撃してきた虎杖のナイフ毎、刀で振り落とした。その斬撃は虎杖の体に傷を入れた。
だが虎杖も負けずに乙骨の刀に足を振り下ろし、その刀身を折った。
乙(斬られた……まぁそうだよね。五条先生の教え子だもん)
乙「一筋縄じゃいかないか」
虎(傷は深い。けど内蔵は出てねぇ!!これでお互い丸腰だ!!)
得物無しの戦いに己の好機を見出した虎杖は、傷を気にすることなく距離を詰めようとしたその瞬間……体が動かなかった。
リ「なにしてるのォ……」
大きな何かが自分の体を掴んでいる。顔と腕だけが出ている怪物のようなものが虎杖の体を押さえ込んでいた。
乙「遊んでるだけだよ。リカちゃん」
虎(リカ?!なんだコイツ!!式神!?どっから出てきた!?)
虎「動けねぇ!!なんて力だ!!」
身動きが取れない虎杖に対して、乙骨はゆっくり近づいていく。
乙「抑えててね」
乙骨の術式、〝リカ〟によって体を抑え込まれた虎杖に、乙骨は折れた刀身をその体の心臓に刺そうとした瞬間……上空から呪力を帯びた矢が地面に刺さる。そこから一瞬の間に……
────── 彼の目の前に、大きな氷の壁が立ちはだかった……。
