𝑀𝑒𝑟𝑟𝑦 𝐶ℎ𝑟𝑖𝑠𝑡𝑚𝑎𝑠
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乙「すぐ駆けつけられなくてごめん……。」
貴「何で憂太が謝るの?何にも悪くないじゃん。」
広場で待ち合わせ中に、軽薄で横暴な男達に絡まれたせいで、好奇な視線を集めてしまった私。一時はどうなるかと思ったけど、颯爽と現れ助けてくれた憂太のおかげで、その場を抜けられた後、適当に空いていたカフェでゆっくりティータイムを味わっていた。紅茶を飲みながら思うのは、気が滅入る出来事だったけど、憂太が守ってくれたから……改めて大切にされていることが分かり、ちょっぴり嬉しくて機嫌が良い。我ながら現金だなと思いつつも、視線は向かい側の憂太の方へ。彼は私とは違い、こちらがびっくりするぐらい落ち込んでいた。目を合わせてくれることなく下を向いたまま……私よりダメージを受けている気がする。
乙「でも、僕が早く任務を終わらせていれば、いつもみたいに寮から一緒に出かけていれば……あんなことにはならなかったよね。」
貴「そんな……憂太が責任を感じることじゃないよ。」
都内のカフェにしては、シックな色のデザインに、落ち着いたBGMが流れている。少し賑やかな店内で、私達の周りの空気だけが重い。
乙「それに、君は泣いていた……憐の性格を考えてみたら、普通の人間より強いと分かっていても、複数人の異性に囲まれたら怖いって思うことくらい分かるよ……君が声をかけられる可能性だって分かっていたのに……未然に防げた事態を許してしまった僕の責任だよ。」
前のめりで手を組みながら俯く彼の姿を、見ていられなくて思わずその手を掴んだ。
貴「憂太は悪くない……というか私達二人とも悪くないと思う。悪いのは絶対あの人達!それに周りが全然助けてくれない中、憂太だけが助けてくれた。」
私の言葉に顔をあげる憂太。貴方が私を思ってくれてるように、私も貴方が傷つく姿は見たくない。
貴「お願いだから自分を責めないで……憂太のおかげで今、私は笑えてるんだよ?ありがとう、助けてくれて……。」
目を見て伝えればきっと分かってくれる……私がどれだけ憂太に助けられているのか。貴方が思っている以上に、私は貴方に助けられているんだよ。
貴「さぁ、元気出して!今日はクリスマスだよ?楽しまなきゃ損、損!」
ちょっと無理やりだったかな?彼にこれ以上落ち込んでほしくなくて、私はもう大丈夫なことを伝えたくて、明るく振舞った。
(憂太をこんなにも落ち込ませて……断れない私も悪いけど、今度あの人達に会ったら、ただじゃおかない。)
乙「……君が無事で本当に良かったよ。」
貴「っ!……。」
(……良かった、ようやく憂太の笑ってる顔が見られた。)
―――気を取り直して、デート再開だ。
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その後の私達のデートはもう最高だった。ずっと前から楽しみにしていた色とりどりのイルミネーションを楽しんだり、オシャレなイタリアンのお店で、美味しい食事を堪能したりと、楽しい時間を過ごせた。収めた写真を見返せば、私と憂太の屈託のない笑顔が写っている。
(楽しかったな……。)
普段呪術師として血なまぐさい世界に生きている私達の時間は、一般人よりも少ないと思う。特に普通に過ごせる日なんて、もっと少ない。私はまだ低い階級の呪術師だから時間はある方かもしれないけど、憂太は特級呪術師、全国各地を巡って呪いを祓っている。
普通のお出かけだって奇跡みたいなものだ。頑張って休みをもぎ取っても、突然上から任務を言い渡されて、休む間もなく任務へ行かされることだってよくあるのだ。だから普通に何事もなく過ごす方が難しい……でも、そんな日常の中でも〝クリスマス〟という年に一度のイベントの日のデートは、いつものデートと違う気がする。……まぁ、去年はそんなこと言っている場合じゃなかったから、余計に充実した一日だったと感じる。
辛かったことなど忘れ、思う存分今日という今日を楽しんだ私達は、夜景も楽しみながらデートを終え、寮に帰ってきた。今日のプランは序盤のアクシデントを除けば、順調と言える。互いに一旦自室に戻り、部屋着に着替え、湯船にゆっくり浸かった。汚れと疲れを落とし、まっさらな姿を彼に見られるのは、最初は抵抗があったけど、もう何度もお互いの自室を行き来しているので……うん、慣れました。
何より憂太くんは、例え私がすっぴんだろうがスウェットを着てようが、変わりなく褒めてくれるので自己肯定感は上がる。
それはさておき……クリスマスと言えば、まだ大事な出来事が残っている……プレゼントだ。悠仁とショッピングに行った時、購入したプレゼントを手に隠しながら持っていく。……凄くベタだけど、去年の冬から気になってはいたのだ。結局あれから購入している素振りも見せていないということは……高い確率で所持していないことになる。
(持ってないなら持ってないで心配になるけどね。)
あれこれ考えながら、憂太の部屋の扉をノックする。……返事がない。ドアノブを捻ってみると、ガチャッと音を立てて開いた。
貴「憂太……?」
答えはなく、静寂のみが支配する。この部屋の主は、留守なのだろうか。疑問に思いつつも、部屋の中に入る。憂太からは「憐なら、僕が居なくても勝手に入っていいからね。」と言われている為、今も当たり前のように入ってしまったけど、部屋の電気はついているし、浴室の方で音がするので、どうやら彼は入浴中だろう事が分かる。
貴「お邪魔します〜……。」
部屋にある椅子に座り、意味もなく時計の針を見遣る。緩やかな動きを眺めていると自然と瞼が下がってくる。街中を練り歩いた為疲労が体にきているのか、自分の意思に関係なく眼球を覆いつくそうとする。
(……ちょっとだけ目を瞑ろう。それで、足音が聞こえたら、スっと目を開けるんだ私……開けるんだ……よ、私……。)
憐は、首をコクコク揺らしながらも、本能に抗えず数分と経たないうちに深い眠りについていた。
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乙骨side
今日彼女と楽しい思い出を作りたくて、自分なりに試行錯誤しながらたてた予定……任務と、とあるハプニングによって一時はどうなるかと思ったが無事ほとんどの予定を終えることができた。待ち合わせの際に、憐に柄の悪い男達に絡まれるという最悪な思いをさせてしまったと、後悔し自らを責めていた僕に、憐は、優しく手を握って大丈夫だと笑って励ましてくれていた。……その行動に僕がどれだけ救われているのか、彼女にはあまり伝わっていない気がするけど、でも彼女なりに僕に伝えてくれた思いを受け止める。
その後、気持ちを切り替えてデートを再開した。憐が楽しみにしていた都内のイルミネーションも見て回れたし、素晴らしいディナーも堪能できた。外での予定を終えて帰宅し各々の部屋に帰る僕達。楽しいお出かけでも体は疲れているもの。慣れた手つきで制服を脱ぎ、お風呂に浸かり疲労と汚れを落とす。浸かっていると扉が開く音が聞こえた。そして、扉を開けた人物の中に入る足音が聞こえる。
(憐が来たかな。)
彼女と決定できるものは何も無い。あるとすれば、別れる直前に憐から「渡したい物があるから部屋にいてね。」と言っていた事ぐらいか。それは僕にとっても好都合……僕もまだ、彼女に渡たせていない物がある。……付き合って初めてのクリスマスプレゼントだ。
―――プレゼントに自信はないけど……でも、きっと優しい君なら喜んでくれると信じている……。
入浴を終え、ゆったりとした部屋着に着替える。頭の上にタオルを被せながら部屋に向かうと、椅子に座った状態で寝ている憐の姿があった。僕は慌てて、憐を抱き上げて自分のベッドに横たわらせる……無理な体勢で寝ていては後々辛くなるのは憐なのだから。
貴「……またね、里香。」
乙「!!」
寝ている彼女を見ていると、寝言を言い始めた。彼女の零した寝言には聞き覚えがあった。去年のこの時期は、百鬼夜行と呼ばれた未曾有の大規模呪術テロがあった……その時に僕と憐は、僕達の呪いによってこの世に縛られていた里香ちゃんを解放した。最後の別れは笑顔で……僕も憐も沢山涙を流したけど、ちゃんとお見送り出来たと思う。目には見えないけれど、僕達の心の中で生き続けている里香ちゃん。彼女と過ごした日々は色褪せることはない……だから、きっと……今もあの時のことを夢に見てしまうんだね。
僕は寝ている憐に近づいて、優しく頭を撫でた。……本当だったら憐を起こして、プレゼントをあげたいけど、せっかく里香ちゃんと会っている憐を起こしたくは無い。それに穏やかな顔で寝ている憐を見ていたら、僕まで眠気がやって来てしまった。
(凛先生、ごめんなさい……決して憐ちゃんには変なことをしないので……今だけは一緒に眠ることを許してください。)
彼女と付き合った後に凛先生から、
貴2「憂太くんなら大丈夫だと思いますが……二人とも、いくら恋人同士でも貴方達はまだ子どもです。自分達の事は自分達で責任を果たせるようになるまでは、節度あるお付き合いでお願いしますね。」
と釘をさされている。そんな訳があるから、どんなに夜遅くても二人きりの時は必ず憐を部屋に送り返していた。当然憐は、この世の何よりも大切な僕の最愛……僕だって何も思わない訳じゃない……だけど、安易な気持ちで事に及びたくない。せっかく一緒になれた彼女を大切にしたい、離れるつもりも無い。憐の大切な家族の人達に、信頼して貰えるように……こういった理由もあり、卒業するまでは僕と憐は、皆にも驚かれるくらい清いお付き合いをしている。
……ふと隣の机の上に物が置いてあることに気づく。それは、綺麗に装飾された箱型の物。恐らく憐が僕に用意したクリスマスプレゼントだろう。渡す前に寝てしまった彼女らしい行動に何だか笑いが込み上げてくる、そんな所も大好きだ。
乙「明日の朝一から君の顔が見られる……最高な始まりになるだろうな。お疲れ様、憐。……おやすみなさい。」
再度彼女の頭を静かに撫でて、彼女の隣に寝転ぶ。今日という日を終える時も、明日の始まりの時も、一番に見られるのは憐の姿であることに感謝し、暫く彼女の寝顔を堪能した後に、瞼を閉じて眠ることにした。