乙骨side


五「……でも一人は淋しいよ？」


もう誰も傷つけたくない……。そんな思いで自ら命を絶とうとした僕だが、五条先生に言われた時何も言い返すことが出来なかった。


図星だった……。里香ちゃんの呪いによって周りを傷つけてきた僕は、きっとこの世にいるだけで害をなす。だからこの手で自らの命を絶とうしたが、里香ちゃんに邪魔されて出来なかった……。だからといって、その為に人との関わり合いを絶ち、自分一人で死んでいくのは……寂しい。そんな気持ちが少しでも存在していたのだろう……自分の気持ちに嘘はつけない。


（でも叶うなら……せめてもう一度彼女の笑顔を見たかったな……。）


小さい頃、里香ちゃんと僕と公園でよく遊んでいた女の子。艶やかで長い亜麻色の髪を持ち、ブラウンの瞳はとても綺麗に輝いて見えた。


誰よりも優しく他人思いの彼女は僕にさえ、優しく接してくれた。僕も里香ちゃんも彼女が大好きだった。


……僕の初恋の女の子。その女の子は6年前、里香ちゃんの事故の後、突然僕の前から居なくなってしまった。


僕は今でもその女の子を忘れられずに探し続けていた。……僕にとって、この世で生きる為の最後の希望が、彼女だったから……。


乙「……。」


黙った僕を見て五条先生は、呪いは使い方次第で人を助けることもできることを教えてくれた。五条先生の言う通り、確かに投げ出すのは全てを知った後でも遅くはないのかもしれない。


(でも……。)


それでもやはり迷っていると、ふと五条先生が気になることを言い始めた。


五「それにね憂太。君が新しく通う学校にはね、君がよく知っている子がいるよ。」


乙「……僕がよく知っている子ですか？？」


そう言われても、心当たりの子は見当たらない。僕の知り合いということは地元の友人だろうか。


(駄目だ……全然分からない。)


僕が悩んでいる所を見て、五条先生は笑いながらこう言った。


五「分からないって顔してるね。でも分からないのも無理はないかもね。だって6年もまともに顔をあわせていないんじゃないかな？」


乙「6年も？？6年前に出会っている人ですか？？誰だろう……。」


五「びっくりするんじゃない〜？君と祈本里香が、小さい頃に遊んでいた女の子……。神崎憐と言えば分かる？」


乙「神崎憐って憐ちゃん……？！？！」


まさかそんな……。彼女が近くに居たなんて……。茫然とした僕を見て五条先生は続けた。


五「僕の奥さんから話は聞いていたけど、憂太の反応を見る限りどうやら本当のようだね。いや〜意外と世界は狭いね！そう、君の言う憐ちゃんは毎日元気に、呪術高専に通っているよ。」


乙「そう……だったんですね……。憐ちゃんはここに居たんだ。」




────── やっと見つけた……僕の最後の希望。




彼女は6年前、里香ちゃんの交通事故があった後、何も訳を言わず居なくなっていた。憐ちゃんのご両親だけは家に残っていて、話を聞くと、あまり深くは教えて貰えなかったが、都会に引っ越ししたことを伝えられた。その時は里香ちゃんのこともあり、深くは追求しなかったが、寂しかったことを覚えている。



だって僕は……────────────



(あの頃からずっと君を……憐ちゃん。)


ずっと聞きたかった……。どうして居なくなってしまったのか……、どうして僕に何も言わず居なくなってしまったのか……。ずっと知りたかった……君が離れてしまった理由を。


(だけど、その場所に行けば、憐ちゃんに会える。そうしたらきっと……その答えも聞けるはず。)


乙「五条先生……、僕は……─────────。」


僕の心は決まった……。本音を言うとまだ少し会うのが怖い。里香ちゃんの事も解決できると決まった訳じゃない。


……だげど君に会えるなら……憐ちゃんに会えるなら……。ほんの少しの勇気を振り絞って決意する。



──────君に会いに行くよ……憐ちゃん。













五条side


憂太の覚悟が決まったみたいだ。先程までの不安げな顔つきとあまり変わらないが、それでも目の奥に少しだけ生気を感じられるようになった。


（凛から話は聞いていたけど、これは予想以上だ。さっすが僕の奥さんだね！)


憂太の話をしたら、凛は、憐と自分達のこと、そして憂太と折本里香について詳しく話してくれた。昔仲良くしていた子達だと。


(さて……ここからはどうなるかな？)