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蕾が花開くとき

審神者の誘いに断りきれなかった明石は審神者と少し離れたところに腰掛けた。

「私、普段は髪をくくっているからな皆の前でおろしたことないし間違えるのも仕方ないさ」

審神者は笑っていた。
しかしその横顔はどこか元気がないように見えた。

「なんか、あったんですのん?」

気になった明石は審神者の話をすっとばして思わず聞いてしまった。

「……何もないよ」

「じゃあなんでそんな泣きそうな顔してますのん?」

何も無いと言った言葉と裏腹に本心を当てられて今にも泣きそうな顔をしていた。

「今日の出陣で光忠が重傷で帰ってきたんだ。誰かが重傷で戻るのはこれが初めてではない、けれど怖かった」

かすかに審神者の手は震えていた。

「光忠は大丈夫って言っていたけれど、私の判断がもし間違っていたらと考えたら私は……」

そう言うと審神者は俯いた。


前の審神者にはなかったものがこの審神者にはある。
そう確信した明石は更に試すような質問をした。

「仮にもしもの場合があればどうします?」

「私が責任をとる。怒られても恨まれても判断を誤った私の責任だから。でも、私が審神者である以上、誰一人として折らせはしない」

迷いのない答えだった。
審神者がぎゅっと握りしめた拳を見て明石はフッと笑った。

「大丈夫ですよ、そうならないように自分らもいてるんですから。」

審神者はぽかんとした顔で明石を見ると、ぷっと吹き出した。

「何がおかしいですのん?」

「いやいや、すまん。あの明石が励ましてくれるなんて珍しいなって思ってな」

審神者は笑っているけれど、明石にとっては罰が悪かった。
幾度か冷たい言い方をしたことがあったり、審神者を避ける態度をとったり。言われた通りに仕事はいちよこなすが苦手意識は消えなかった。

「分かっているよ、明石が私を苦手ってだってことは。でもそれは仕方のない事だっていうことも知っているから、私は気にしていない」

「それでも主はんを傷つけてることには変わりありまへん。えろう…すんまへん………。でもちょっともう1回信じてみますわ」

審神者は少し驚いた顔をすると、

「そっか。」

と微笑んだ。

ドキリと胸が高鳴る。
ちょうど夜風が吹いて桜の花びらが舞う中、一瞬、審神者の笑顔が綺麗だと思ってしまったからだ。

「主はん、よく見たら別嬪さんですなぁ」

「バカにしているな?」

空には綺麗な満月が2人を照らしていた。
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