鵜飼繋心
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鵜飼君からメッセージが届いてた事に気付いたのは、寝る直前だった。
夕飯をすませ、お風呂にゆっくりと入り、居間でごろごろ。
部屋に戻るも特に携帯をチェックする必要がなくなったせいで全く気付かなかった。
「やっば・・・」
メッセージの内容的には『会えないか』というもの。
時間指定はなかったが恐らくこれは送った時刻的に『今夜会えないか』っていうつもりだったのでは・・・。
時刻を確認する。
23時とちょっと。
「ど、ど、どうしよう・・・」
既読もついてしまった手前、返事をしない訳にはいかない。
しかし気付かなかったものは仕方ない。
「言い訳したってどうしようもないし・・・返事だけはしなきゃ、だよね」
『返事遅くなってごめんね!もうこんな時間になっちゃったけど・・・どうする?私は大丈夫だけど、鵜飼君は時間大丈夫?』
「まあ・・・向こうにも都合あるだろうし、きっと今日会うって事はないでしょ・・・」
どこか期待をしている自分が恥ずかしくなってきた。
なんで私は鵜飼君に期待しちゃってんだろ。
いや、もしかしたら私は何か彼の機嫌を損なうような事をしていたのでは?いわゆる呼び出し的な?
鵜飼君、金髪ヤンキーみたいになってたし・・・ど、どうしたら・・・。
顔色を赤から青へやら変えていると想定外の音が鳴った。
今自分が待っていた音はメッセージが届く音だったはずなのに携帯から聞こえるのは電話の着信音だ。
「ひえっ?!」
動揺しつつ画面を見ると今私が返事を求めていた相手『鵜飼繋心』の文字だった。
「いやいやいやいや!!!ちょ、電話?!!いや、出ないと・・・も、もしもし!」
『・・・苗字、だよな』
『うん!あ、あの、返事遅くなってごめんね!』
『気にすんなって!あー、もしかして忙しかったか?』
『全然!大丈夫!何か急ぎの用事だったならほんとあのゴメンナサイ!』
『そ、そういうわけじゃないんだけどよ・・・苗字、今から出れるか?』
『出れます!じゅ、10分くらい待ってもらってもいいでしょうか!』
『・・・?了解、じゃあお前の家の前まで迎えに行くわ。用意できたら連絡くれ』
無事に通話を終え、そっと机に携帯を置いて深呼吸。
「~~~~~~~~~っ!!!?」
なんだ、なんなんだ!
なんかやらかしたのか、私!!
やっぱり呼び出しじゃないですかこれ!
「って待たせるワケにはいかない!け、化粧しなきゃ!」
暗い夜とはいえ、最低限の化粧をすべく大慌てで支度を始めた。
+ + +
私が家を出た時には既に車は止まっていた。
慌てて近寄ると、鵜飼君は車から降りて待っていてくれた。
「おまたせ!」
「おう!じゃ、行くかー」
「う、うん」
鵜飼君の車に乗るのは2回目だ。
車内はこの間と違って煙草の匂いがしなかった。
シートベルトを止めるとゆっくりと車はゆっくりと走り出した。
走り出した車内はとても静かだった。
特にカーステレオが流れる訳でもなく、ただエンジン音だけが車内に響いていた。
どこを見ていればいいのかわからなかった私はそっと窓の外を見ていたが、見慣れた地元は街頭も少なく辺りは暗く何も見えない。
「俺さ、今烏野でバレー部のコーチやってんだ」
彼の声に驚き、視線を運転席へと向ける。
運転中の彼と視線が合う事はなかったが、その視線はどこか落ち着きがないように思えた。
「今日も練習でよ。それで・・・日向が・・・あーっと・・・あのちびっこい・・・」
「知ってる!あのちっちゃくてよく跳ねる子、でしょ?」
「そう、あいつな。日向のやつ、休憩中にボール触ってて・・・あの腕にボールのせるやつ」
運転中に片手でその動作をとる鵜飼君を見て私は気付いた。
もしかして、俺の教え子に変な事教えるんじゃねえっていう呼び出しだったのでは!?
ひやりと汗が流れる。
「ご、ごめんなさい!」
「へ?」
「わたわた私勝手に!その!鵜飼君がコーチしてるなんて知らなくて!あああごめんなさい!!日向君に変な事教えてしまってごめんなさい!」
「お、おい苗字?!落ち着け?!」
「ごめんなさい!!」
「待て待て待て!」
鵜飼君は近くの大きな公園の駐車場に車を止めるとエンジンを切ってこちらを向いた。
その動作ひとつが怖くて私はもう泣きそうだった。
「苗字、お前なんか勘違いしてないか?」
「・・・ええ?」
鵜飼君は照れくさそうに頭をがしがしとかく。
その仕草が高校生の時の鵜飼君と重なる。
「俺が言いたかったのは、そうじゃなくて・・・その、なんつーか・・・あれ、教えたの誰か覚えてるか?」
「あれ?」
「ボール、腕にのせるやつ」
そう言われて思い出す。
私がまだ高校1年生の時だ。
入部理由は当時好きだった子がバレー部だったから。
バレーがうまくなったらきっと彼と仲良くできるんじゃないかななんて、今思うと本当に馬鹿馬鹿しい理由だ。
だけど入部してからはバレーの楽しさにのめりこんでいった。
中学からバレー部の子は当然のようにうまくて悔しい思いもたくさんした。
だからこそ負けたくなかった。
この間の日向君みたいに私も空いた時間は下手なりに自主練をしていた。
いつだったか、いつものように公園で自主練をしようと思った時に先客がいた時があった。
坊主頭で同じ学校のジャージの男子で、その子も必死に練習していた。
彼もバレー部でまだレギュラーじゃなかったらしい。
でも彼は私の動きを見て色々とアドバイスをしてくれた。
教えるのがうまい彼は褒めるのもうまかったのをよく覚えている。
その時彼に教わった事がある。
「ボールは常に触っとけ」
その時に腕にボールを乗せる練習方法も教わった。
それから私は女子の中でも急激に伸び、レギュラー入りも果たしたのだ。
レギュラー入りすると時間が忙しく、彼と公園で練習する事はなくなってしまった。
「・・・ボールは常に「触っとけ」」
私の震える声に鵜飼君の声が重なった。
彼が寂しそうだけど、どこか嬉しそうな微笑みを私に向けた。
涙が頬を伝い、膝に落ちた。
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