鵜飼繋心
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あれから鵜飼君とは会う事もなく、連絡もないまま数日が過ぎた。
少しだけ寂しさもあったが、きっと忙しいのだろうと思う事にした。
軽い気持ちで坂ノ下商店にも行ったが、鵜飼君に会う事はなかった。
「ひ・・・暇だ・・・」
今までが異常なまでに切羽詰った生き方だったせいで、穏やかな時間の過ごし方が全くわからない。
携帯をいじっても特に連絡はないし、掃除はとっくにすんでいる。
かと言って買い物をしに出る気力もない。
このままでは完全に引き篭もりである。
「なんか読む本あったかなぁ・・・」
だらだらとクローゼットの中にしまい込んでいる本たちを漁る。
中からは高校時代に読んでいた本や雑誌が残っていて、帰ってきてからも捨てれずに残しておいた。
その時、あるタイトルが目に止まり思わずその本に手を伸ばした。
「懐かしい・・・・・・」
バレーボール入門書。
高校の時に父親に買ってもらったものだ。
その時好きだった子がバレー部員で、会話のきっかけになればと思い女子バレー部に入ったのだ。
入部理由は邪だったが、その後は好きだった子なんかもどうでもよくなるくらいのめりこんだものだ。
今思うと笑ってしまう。
そんな昔の記憶を思い出しながらパラパラと捲るとページの間から紙が挟まっていたらしく床にハラリと落ちた。
写真だった。
高校の体育祭の時の写真だろうか。
同じクラスの子たち数名で撮った写真だ。
その中には鵜飼君もいた。
「・・・髪型とか色があれなだけで、鵜飼君何にも変わってなかったかも・・・逆に鵜飼君はよく私って気付いてくれたなぁ・・・」
私は変わった。
いや女は皆化粧をすれば変わるだろう。
高校の時の私は髪も短く、化粧っ気もない、バレーで怪我も多くて指にはいつもテーピング。体つきは他の女の子に比べれたらきっとゴツゴツしてた。
大学に入ってからは化粧をしたり、服装も気を遣うようになったし、髪だって伸びた。
高校の時の自分が映る写真を見て自分の変化にようやく気付いた。
あれから私は変わってしまった。
懐かしい思い出を封印するかのように、私は写真をはさみ直しそっと本を元の位置へと戻した。
+ + +
夕方になり、私はジャージへと着替える。
ぼーっとしすぎるのも嫌で、実家に戻ってからは朝と夕にランニングをはじめた。
学生時代は毎日やっていたが、あの時に比べて体力はしっかりと落ちていた。
更に入院期間が長かった事もあり体力はとことんまで落ちていた。
実家に戻って数日くらいのランニングでは体力が戻るはずもなく、私は息を切らせながら途中の公園で休もうと中に入った。
人気はない公園だが、遠くの方に見覚えのある男の子の後姿が見えた。
オレンジ色の髪が揺れるのを見て彼の名前を思い出した。
「えーっと・・・えーっと・・・日向くん?」
「あ!この間のお姉さん!えと、苗字さん!ちわーーっす!」
「こんにちは。自主練?」
「そうっす!もっともっとうまくなりたくて・・・」
「そうなんだ・・・お姉さんもね、昔バレー部だったんだよ!これでもレギュラーだったんだから!」
「ほんとにー!?」
「ほんとほんと。軽いお手伝いとアドバイスくらいならできるかも・・・?」
「うわああい!やったー!」
ぴょんぴょんと跳ねる彼はまるで動物のようで可愛らしい。
しかし私の体力が現役の彼についていけるのかどうかは怪しいが。
暫くの間彼の動きを見て、簡単なアドバイスをしていく。
今後の自主練にも役立つ事など色々と教えていく。
その時の彼の目があまりにも貪欲で普段の先程の可愛らしさのギャップもあってか少し怖いくらいだった。
休憩がてら近くの自販機で水を買って日向君に手渡すと先程の貪欲な目と打って変わって可愛らしい反応をしてくれた。
ベンチに二人で腰をかけながらアドバイスの続きを話す。
この雰囲気が学生生活を思い出させてくれるようで、懐かしくて思わずバレーボールをくるくると遊ばせていた。
ボールを触っていると昔教わった言葉を思い出した。
「そうね・・・・・・あとは、ボールを常に触っておくことかな」
「常に、触っておく・・・」
「そう。前にね、私もそうアドバイス貰った事あるんだ」
「へぇ・・・!」
「自分の思うままにボールを触れるようになると・・・試合が変わるよ」
私は立ち上がり、こんな風にね、と言いボールをワンバウンドさせ右腕の中心に乗せる。ボールはうまい具合に右腕に張り付くようにとどまっている。
久々に触るボールだったが、体はよく覚えてくれていたようで日向君の期待を裏切る事はなかったようだ。
「すっっげーーーーー!」
「私も久々だったから出来るか不安だったよ!よかったらあいた時間にでもやってみてね」
「苗字さん、あざっす・・・!よかったら今度練習来てください!あ、えと、忙しくなければですけど・・・」
「大丈夫!今ね、時間余ってるんだ!玉拾いでもなんでもやってあげるよ」
「流石にそこまでは・・・」
「まあ卒業生って事で学校には出入りできると思うし、迷惑にならない程度に行くよ」
「じゃあ俺待ってるッス!」
日向君は部活の時間を伝え、感謝の言葉を述べ疲れなどどこへやら走って帰っていった。