鵜飼繋心
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仕事を辞めた。
地元から出て大学に入り、そのまま東京の大手企業に就職。
昔から夢だった仕事に就き、今の今までがむしゃらにやってきた。
念願だったプロジェクトの担当になり、自分のアイディアが採用された。
毎晩遅くまで仕事だったけど、苦痛だなんて感じてなかった。
だけど体はもう既にボロボロだった。
深夜の0時を過ぎた会社には誰もいなくて、倒れた私は浅い呼吸を繰り返しながら意識を手放した。
気付いた時には病院で、私の体は限界を越えていたと医者に告げられた。
発見も遅れた事もあり重症化していた。
それから1ヶ月も入院をしていれば、会社に私の居場所なんてものはなくなっていた。
プロジェクトも別の人に引き継がれ、私のアイディアなんてものもなかった事にされていた。
自分に回されてくる仕事は大半が新入社員がやるような内容だ。
皆に気を遣われる事が苦しくて、私は仕事を辞めた。
新幹線に揺られ、そこからはバスでの移動。
見慣れた停留所で降り、凝り固まった体を伸ばした。
土曜日だと言うのに人気がない地元に少しだけ笑う。
「帰ってきちゃったなあ・・・」
誰に言うでもなく呟く。
部屋も何もかもを引き払い、手にはボストンバッグ。
実家までは後少しだ。
懐かしい風景に惚けながら歩いていると正面からは懐かしい高校ジャージを着た男の子たちがランニングをしていた。
「ノヤさんはええーーー!」
「翔陽、置いてくぞー!!おっと、コンチハーー!」
「チワーーーッス!」
「こんにちは」
体育界名物の挨拶だった。
小さい男の子二人は元気に挨拶すると通り過ぎて行く。
そしてその後ろから同じ部活のメンバーである男の達も挨拶をし通り過ぎていった。
「みんな礼儀正しい・・・何部なんだろ・・・?」
高身長な子もいれば、低身長な子もいる凸凹なメンバーである。
背中を見ても皆Tシャツ姿。
部活名がわからないが、それを考えながら帰るのも悪くない。
そんな事を思いながら歩きだした時だった。
「苗字か?」
「え?」
突然車から声をかけられて慌てて振り返る。
金髪にカチューシャに咥え煙草。おまけに目つきが悪い男。
私の知り合いにこんなやばい奴はいないはずだ。
目をぱちくりさせているとその男は痺れをきらしたように口を開いた。
「俺だよ、鵜飼。鵜飼繋心。お前、苗字だろ?」
「あっ・・・えっ・・・ええええ・・・う、鵜飼くん?」
「そんなにびっくりするかー・・・?」
「するよ!私の知ってる鵜飼くんは坊主頭だった!」
「そんなに昔だったっけか。まあいいや、乗れよ!」
「え?乗れって・・・」
「早くしろー!後ろから車きてんぞー」
「えっあっはい」
その場の勢いで私は車に乗ってしまった。
車内は煙草の匂いが充満していて少しだけむせた。
それに気付いたのか鵜飼君は煙草の火を消して少しだけ窓を開けた。
「あ、ご、ごめんね。気遣わなくていいよ」
「いいって。それにしたって何年ぶりだっけな」
「そうだなぁ・・・私大学も県外だったし、全然帰ってなかったから・・・高校ぶり?」
「まじかー・・・そりゃ俺らも歳とるわけだよな」
「年齢の話はやめよ・・・ダメージがでかいよ」
「それもそうだな!・・・って用件も聞かないで車乗せちまったけど・・・」
「ああ、大丈夫。実家に帰るだけだし」
「そっか、なら少し届けもんあるからそれだけ付き合ってもらっていいか?」
「運転手様の思うままに」
用事を済ますまで懐かしい話しに花を咲かせ笑い合った。
車に乗った直後はがちがちに緊張していたけど、懐かしい話しで笑ううちにいつしか緊張はほぐれていた。
「っと、遅くなっちまったな」
「ううん、ありがとう。助かったよ」
家の前に車をつけてくれた鵜飼くんは少しだけ寂しそうな顔をしていたような気がした。
「いつまでいるんだ?」
「んー、未定!いつでもいるから暇なら呼んでよ」
そう言いながらお互いの連絡先を交換した。
「またね」
鵜飼くんの車が見えなくなるまで手を振った。
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