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私は考えていた。
いや、悩んでいたと言うべきなのだろうか。
自由を得てから何をしていいのか、それを悩む日々が続いていた。
そんな中で出会った銀髪の男。
名前を聞く前に逃げ出してしまった事、それがどれだけ相手に失礼だったか。
今更後悔をしても遅い。
カルデア内にいる英霊のひとりなのだから、会おうと思えばいくらでも方法はある。
だがあんなにも失礼な事をしてしまったのだ。
今更どんな顔で会えばいいと言うのだ。
だが、それ以上に彼の弾くピアノの音色が耳から離れない。
音楽というものがこんなにも心地よく、そして悩ませるものだと私は初めて知ったのだ。
また、あの音色が聴きたい。
今ようやく答えが出た。
自由を得てから、下手したら産まれて初めてだろうか、自分の意思で何かを考え、決める事は。
怖い、けど・・・それ以上にあの音楽というものは私を突き動かした。
マスターである立香に特徴を話せば直ぐにでも何者なのかわかるだろう。
立香のいそうな場所と言ってもなな子が知ってる場所は少ない。
彼女がいそうな場所・・・。
初めて会った食堂にいるだろうかと思い、私は立ち上がり部屋を後にした。
+ + +
「・・・・・・・・・」
お昼時の食堂が混雑するというのをすっかり失念していた。
思っていた以上に人が多く、二の足を踏んだ。
入り口でどうしようかと悩んでいると突然声をかけられた。
「お嬢ちゃん、入らないのかい?」
「えっ、あのっ」
「よしよし、オジサンがエスコートしてあげようかねェ」
長身で無精髭の飄々とした男はなな子の手をとり、人波を潜り抜け空いてる席へと連れて来た。
「座らないのかい?」
「は、はい。ありがとうございます」
ゆっくりと腰掛けると彼はどこかへいってしまった。
一体なんだったのだろうか?
そう思いつつ、自分の用事を思い出しキョロキョロと食堂を見渡す。
立香の燃えるようなオレンジ色の髪は遠目でもすぐに気付けるが・・・見渡す限り居なさそうだ。
「お待たせ」
どこかへ行ってしまったかと思っていたら、彼の手にはふたつカップがあった。
机にふたつ分置くと、そっと腰掛けた。
「あー、好みがわかんなくてね・・・適当に紅茶にしたけど大丈夫だったかい?」
「お心遣い痛み入ります・・・」
「いやいやいやいや、オジサンなんかの持ってきた紅茶なんかでごめんね!あ、俺はヘクトール。クラスは槍だ」
「ヘクトール、さん・・・トロイアの英雄の・・・?」
「オジサンの事知ってる?こりゃ嬉しいねェ」
「ご挨拶が遅れました、私は苗字なな子と申します・・・その・・・ただの、魔力供給役です」
「へぇ、魔力供給ねぇ・・・それはマスターにだけ回すもんなのかい?」
「ええと・・立香ちゃんの英霊召喚の時と今皆さんが現界していただく為の魔力をカルデアに回しています」
ふぅん、と興味深そうにヘクトールはなな子を見た。
彼の居抜くようなその目は心をざわつかせた。
誤魔化すように紅茶を一口飲んだ。
「なな子ちゃん、魔力の質が高いけど・・・うまく自分で制御できないのかい?」
「それは・・・どういう意味でしょう・・・?」
「いやね、なな子ちゃんから魔力が漏れててねえ・・・気になってオジサン思わず声かけちゃったんだよ」
「ごめんなさい・・・一応ダヴィンチちゃんから無線型の魔力供給装置を使ってるんですけど・・・」
「いやいや、あんまり魔力漏れてるとなな子ちゃんが魔力切れで倒れないかなってオジサン心配になっただけで責めてるわけじゃないんだよ」
「そう、でしたか・・・魔力切れってどんな感じなんでしょうね・・・」
「そんなに駄々漏れで、魔力切れした事ないの?」
「えぇ、特異体質でして・・・」
「すごいねぇ・・・とはいえ無理はしなさんな。悩みがあるならオジサン付き合うよ?」
「なや・・・み・・・」
「そ、ひとりで抱えると悪い方に考えちゃうからね」
「ありがとう・・・ございます!」
ヘクトールの言葉が温かく、嬉しかった。
ニコリと微笑むとヘクトールは一瞬驚いた顔をしたがにっこりと微笑み返してくれた。
「そうそう、女の子は笑顔でなくちゃね」
ぽんぽんとなな子の頭を軽く撫でた。
人と接する事が久しぶりすぎて、突然の事にびくりと身体が震えた。
しかし彼の手も先程の言葉同様に暖かくてほっとした。
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ギリギリアウト事案