実験体[固定主]
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
自由を得た。
けど、突然自由を与えられても何をしていいかなんて何もわからなかった。
部屋から出るのも未だに怖い。
立香ちゃんの部屋の隣に、新しく私の部屋を用意されたけど未だにその部屋は使ってない。
気が付くと、薄暗いあの部屋(結局鬱陶しいのでロマニか飾り付けたものは全部外した)に戻ってしまう。
もう縛り付けるものは何もないけど、それでも私はこの部屋にいる事で存在を許されている気がした。
彼女たちはあまりにも眩しい。
眩しすぎて、私なんかは近くに居てはいけない気がする。
そんな事を考えながら、部屋の隅の壁に寄り掛かりながら座り込んだ。
眠ってしまおう・・・。
そう思って、目を閉じた。
遠くでピアノの音がする。
夢だろうか。
夢なんてここずっと見てない。
心地よくてもっと聞いていたい音色だったが、そっと目が開いた。
やっぱり夢だったのかと思い、身体を起こしたが未だにピアノの音色は聞こえていた。
夢ではなかった?
ぼんやりとした頭で音色に誘われるように部屋を出た。
音の聞こえてきた部屋は思いのほか近かったらしく、あっという間に部屋の前に着いた。
ドアがほんの少し開いていた。
こっそりと覗く。
悪い事をしている気持ちになってしまうが、そんな気持ちも吹っ飛んでしまうくらい美しい光景だった。
黒いスーツを着た長身の男がそこにいた。
気だるげにウェーブした銀色の髪がリズムに合わせて左右に揺れる。
曲名なんてわからないけど、それでも彼のピアノが胸の奥に響いてくる。
目を閉じ、暫くの間ドアの外から調べを堪能していた。
しかし、曲の途中だと言うのに彼の手が止まった。
何かあったのだろうかと目を開け、ドアの隙間を覗こうとした。
しかしドアの隙間から目に飛び込んできたのは黒い布。
それが彼のスーツだと気付いた時に遅かった。
開きかけのドアが開いていた。
驚き声も出ず、目を見開き一歩後ろに下がろうとし足がもつれた。
転ぶ、と思ったそのとき、目の前の彼が腕を掴んでくれた。
赤い瞳と目が合った。
「何か、用だろうか。随分と"長く"ご清聴いただいていたようだが?」
耳心地の良い声だった。
しかし落ち着いた声と裏腹に彼の言葉は最初から覗き見ていた事を知っているぞと遠まわしに
言っている。
恥ずかしさに顔に熱が集まる。
言い訳をするつもりはないが、何か、何か言わなきゃ。
そう思っていても声が出ない。
目をそらす事もできず、顔を赤くし困っているなな子を男はただ不思議そうに見ていた。
暫く見ていたが、男も困ったのか、見かねたのか、男は部屋になな子を招き入れた。
近くにあったスツールになな子を座らせると何も言わず自分はピアノへと向かった。
紡がれる曲。
曲名はわからない、わからないがどこか懐かしいような気さえしてくる。
私は無意識のうちに瞳を閉じていた。
今度は途中で止まる事無く演奏を終えた。
「・・・ご満足いただけただろうか?」
ゆっくりと目を開け、彼を見る。
「あっ、ありがとう・・・ございました」
「聴きたいのなら別に気にせず入ってくるといい、別にここは私の部屋ではない」
「でも、演奏の邪魔してしまって・・・ごめんなさい」
「別に怒っている訳では・・・」
「おや?マリー、何やら先客がいるようだよ?」
「あらほんと!サリエリと・・・あなたはどなただったかしら?」
「見ない顔だねえ?職員の制服でもないし、英霊の気配もないし・・・」
突然の人の声に驚き振り向く。
上品そうな男女が二人、微笑みながらこちらを見ている。
男の方があっという間になな子との距離を詰め、じろじろと見ている。
この上品で気品あふれる空気が恐ろしく思え、私は怖くなって逃げ出した。
「サリエリ、ごめんなさい・・・貴方たちの邪魔をするつもりではなかったのよ」
「そうだとも。君が!女性と!仲良くしているのを邪魔をするなんて!」
「彼女とは初めて会っただけだ。名前も知らん」
モーツァルトの言葉に苛立ちを覚えたサリエリはピアノの片付けを終えると部屋の出口へと向かった。
後ろで何やら声がするが聞こえなかったふりをしてドアを閉めた。
「(・・・・・・彼女の名前を聞きそびれてしまったな・・・)」
ありがとう、と礼を言った時のなな子の顔が頭を過ぎる。
―――また、弾いていれば会えるだろうか・・・。
-------
サリエリさん、復讐者ですけど理性有状態です。