実験体[固定主]
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「あなたが・・・"
突然の訪問者に私は開いたドアへと目を向けた。
廊下からの光が眩しくて思わず目を細めてしまった。
真っ暗な部屋に明かりと言えるものはパソコンやら機械の小さな光くらいしかない。
廊下からの光といえ、突然の眩しさに耐え切れなかった。
声からして男なのはわかった。
が、ひとりだけではなくもう何人かいる気配が感じ取れた。
足音が一歩、また一歩と私に近付いてくる。
怖い。
今度は、今度は何をされるのだろう。
誰にも認識されず、名前を呼ばれたのも遠い昔の記憶。
ただ魔力を吸われるだけの、まるで道具のような私。
今もまだ繋がれている装置が私をこの場から逃がしてはくれなかった。
+ + +
なな子の家は魔術師の家系だった。
医療魔術の研究で発展してきた家系だったが、他との接触が少ない家であった為特に目立つ事はなく細々と研究をしていた。
しかしなな子が産まれて変わってしまった。
なな子は産まれた時から身体の中で生成する魔力"小源"がまるで"大源"のように無限に作られる特異体質だった。
こんな人間は恐らく魔術協会でも聞いた事がなかった。
恐ろしくも愛おしい娘を、父と母は実験体として育てる事にしたのだ。
なな子が16歳になった時、父は魔術刻印を継がせた。
何故このタイミングで?と思ったが、何の事はないこれが最後だったからだ。
なな子はアニムスフィア家に実験の制化報告として"提出"された。
その後はカルデアに移り、非人道的実験の毎日だった。
唯一名前を呼んでくれたのは所長の娘、オルガマリーだけだった。
+ + +
目が明かりになれてくると目の前の男をようやく認識する事ができた。
その優しそうな男は困ったような笑顔で口を開いた。
「君がオルガマリーの言っていた小源、苗字なな子君だね」
「苗字・・・なな子・・・」
そうだ、そうだった。
私はそんな名前だった。
最後にオルガマリーに名前を呼ばれたのはいつだったか。
「僕はロマニ、ロマニ・アーキマン。ドクターロマンと呼んでくれ」
私なんかに自己紹介をしてくれた人は久々だったので素直に頷く。
その後ろの人物に目をやっても見慣れた顔は一人もいなかった。
「オルガマリーは・・・どこ・・・」
「っ・・・彼女は・・・」
「彼女はとある事故に巻き込まれて・・・・・・ここにはいない。彼女から君の話を聞いて迎えに来たと言う訳だ。さーて、こんな薄暗い所じゃなくてもっといい所へ移動しようか!」
「あなたは・・・」
「私かい?私はこのカルデアの技術局特別名誉顧問レオナルド・ダ・ヴィンチだ。気軽にダヴィンチちゃんとでも呼んでくれたまえ!」
「・・・・・・・・・あの、それで何の用事でしょう・・・また実験でしょうか」
「実験・・・?僕たちは君を安全な場所に」
「私、ここから動けません」
この人は何も知らないのか。
知ってしまったら、また実験に使われるんだろうか。
痛いのは、やだなあ。
「ロマニ。彼女は小源だ。恐らくこのカルデアの魔力の源としてここで"飼われてた"みたいだ」
「飼われっ・・・!?」
「ああ、見てみなよこのデータ。君も見たらわかるだろう?」
ダヴィンチはいつの間にかなな子の背後の機械を調べていたらしく、ロマニも必死に画面の情報を見ている。
「立香ちゃんの召喚した英霊達を現界できてたのは彼女の魔力のおかげってわけだ」
「だからってこんな形で彼女をここに縛り付けるなんて・・・非人道的すぎる!」
二人が私に気を遣ってくれてるのはわかった。
わかったけど、それが心苦しかった。
「でも、私、それくらいしか役に立たないから」
私はにっこりと微笑んだつもりだったけど、どうして目の前の二人はそんなに悲しい顔をするんだろう。
+ + +
「喜びたまえ!これでもう君は自由だよ」
「自由・・・?」
あれから数日後
以前のように薄暗くない部屋(ロマニが部屋をせめてリラックスできる部屋にしよう!と言って飾り付けていった)の雰囲気に未だに慣れず、落ち着かないでいると突然の訪問者だった。
よくわからないがダヴィンチちゃんがとっても天才で、素晴らしい才能により開発した連動装置によりなな子の過剰魔力を今までの有線装置ではなく、無線で吸い取り、カルデアに供給できる道具が完成したらしい。
見た目はただのチョーカーにしか見えないが、内側にはびっしりと刻印が入っている事から魔道アイテムなのはわかった。
なな子が中々つけずに見つめているのに痺れを切らしたのかダヴィンチが問答無用で首につけてくれた。
「どうだい?気分が悪くなったり、変な感じはする?」
「いえ・・・気になる点は何もありません」
よかったよかった!とダヴィンチは頷きなな子の手をとった。
「暫くはこの部屋じゃなく、別の部屋で観察をしたい。私の開発した道具だからね、間違いはないと思うけど念の為ね!」
どこへ連れて行かれるんだろう。
カルデアに連れてこられてから一度もあの部屋から出た事がないから、初めて見る"外"に不安がいっぱいだ。
時折すれ違う制服を着た職員が不思議そうに私を見る。
いつの間にか目的の部屋へと着いたようでようやく足が止まった。
「さあ入りたまえへ」
ニコニコと笑うダヴィンチが何を考えているのかわからない。
ただこのドアを開けて入れという。
従うしかない。
そっとドアを開けた。
広い部屋、食堂のようだ。
ドアの開く音に反応し、二人の少女がこちらに近寄ってきた。
「初めまして!あなたにお会いできるのを楽しみにしてました!」
「えっ・・・と」
「なな子くん、こちらは藤丸立香ちゃん。このカルデアで唯一のマスターだよ。こっちの子はマシュ・キリエライト。デミ・サーバント・・・まあこの辺はまた詳しく教えてあげよう」
今カルデアがどういう状況で、どうなっているのか、初めて聞かされた。
その上で私の必要性がよくわかった。
「今このカルデアが危機的状況なのはよくわかりました。私の魔力、存分にお使い下さい。血液そのものにも魔力は宿っているのでもし足りないようでしたら」
「違う違う!そうじゃなくて!」
「私たちはあなたと、なな子さんとお友達になりたいと思いこの場を用意していただいたんです!」
「友・・・達・・・ってどうすればいいんですか?」
まただ。
どうしてこの人たちはこんなにも悲しそうな顔をするんだろう。
私は変な事を言ってしまったんだろうか。
気を付けなきゃ。
「マスター、そんなところで立ってないで座って話をしたらどうだ?折角の紅茶が冷めてしまう」
「やったー!エミヤの入れてくれる紅茶大好きー!」
「なな子さんもこちらへ!エミヤさんの入れてくださる紅茶、とっても美味しいんですよ!」
エミヤと呼ばれた英霊が暖かな紅茶を入れてくれた。
お菓子も彼の手作りらしい。
とても甘くて、優しい味がする。
その日、私に初めて友達ができた。
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大源(マナ)=外部から吸収する魔力
小源(オド)=内部から生成する魔力
くらいに考えてもらえるとわかりやすいです。
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