装備課の○○さん
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「あの・・・仕事があるので」
「でもこの前、約束・・・」
「申し訳ありませんが仕事の時間なので・・・失礼します」
装備課の苗字さん
ドサッと資料の入った箱を机にたたきつけるように置いた。
イライラが落ち着かない。
一体あの人はなんなんだ、毎回毎回・・・。
机の引き出しからGABAのチョコを取り出し貪った。
隣の席の同僚が心配そうにこちらへ声をかけてきた。
「ねぇなな子、またあの人?」
「うん、また。もう何回目かわっかんないキレそう」
「えぇ・・・というかソイツの名前とか部署はどこなの」
「興味なさすぎて聞いてすらいなかったわ・・・」
ここ2週間くらい、同じ男に付きまとわれている。
上下グレーのスーツに記憶に残らない地味な顔に髪型。
思い出そうとしても顔が思い出せないくらい地味なのだ。
その男は毎朝、私の所属する部署の近くで待ち伏せをしている。
花だったり、お菓子だったり、毎回毎回何かしら持ってくる。
最初のうちはニコリと笑って流していたが、毎朝毎朝いると怖くなってくる。
今週に入ってからは食事の誘いまでしてくる始末。
"そういうのはお断りしています"と伝えても"約束したじゃないか"と意味不明な事を言ってくる。
なんなんだ。お前は誰と約束してんだ。
「よう!なな子ちゃんいるー?」
「あらバトーさん!ちょっと待ってね!・・・ほらなな子、バトーさんよ。あの人にでも相談しなさいよ」
「ええー・・・あの人もめんどくさいからやだぁ・・・」
「まあまあ!それはそれ、これはこれ。仕事なんだから早く行きなさいよ!」
「はいはい・・・お疲れ様です、ご用件は」
「急ぎの仕事なんだが・・・このリストに載ってるのが用意できるか確認しにきた。できるか?」
「急ぎってどのくらいです?」
「そうだな、1時間後だと助かるが・・・最速で、どれくらいかかる?」
「一時間ですか・・・今確認してみます」
「すまん・・・そういや何か面倒事でもあったのか?あっちの姉ちゃんが相談がどうとか言ってたけどよ」
「ん?あー、気にしないで下さい。変な人に絡まれるのは誰かさんのおかげでなれてますので」
「おいおい、誰かさんって・・・俺かぁ?」
「あなたも含め、です。はい、確認できましたよ。一時間後、どちらでお受け取りします?」
「そうだな、量もあるからな・・・ここで受け取る」
「かしこまりました」
バトーさんの手続きは同僚に任せ、私は今受け取ったリストの装備品を取りに行くべく支度を整えた。
+ + +
ガラガラと台車を押しながら備品庫へと急ぎ向かっていた。
備品庫は地下にある為エレベーターで移動し更にそこから目的の部屋まで徒歩数分と中々距離がある為、バトーさんのオーダーである1時間というリミットに間に合わせるには少し急がねばならない。
エレベーターで降りている間に電脳内の備品庫配置データを引っ張り出し、効率のいい動きをシュミレートしていた時だった。
一瞬、確かにほんの一瞬だったが背筋がぞわりとし思わず辺りを見回した。
エレベーター内にはなな子しかおらず、人の気配なんてものは絶対にない筈だった。
しかしこの違和感はなんだろう。
なんとも知れない恐怖を感じる。
いつの間にかエレベーターは目的の階に到着したらしく、無機質なベルの音に驚き焦った。
慌てて降り、見慣れた備品庫までの廊下を一人歩き始めた。
ガラガラと台車の音で恐ろしさを誤魔化しながら進んだがそれでも恐怖にかられ、何度か振り向いた。
勿論人の姿はなかった。
それもそうだろう、こんな地下にくる人はうちの事務所の人間くらいだ。
備品庫に入る為、入り口のセキュリティにコードを入力し素早く中に入った。
「急ぎなんだから・・・集中しないと」
作業自体は難しい事はない、鍵付きのロッカーから机の上の鍵付きコンテナへと弾薬を移動させるだけだ。
時々、時間を確認しつつ作業してた事もあり約束の時間に間に合いそうだ。
しかし時間に間に合っても弾薬の数に誤りがあっては始末書案件。
最終確認でコンテナの中身を数えていた時だった。
ゾワリと寒気がした。
今度は人の呼吸する音が聞こえたのだ。
自分の呼吸以外の音など、今この空間に絶対ありえない筈なのに。
早鐘を撞くように心臓が乱れ始め、呼吸もつられて荒くなった。
「――っ!!」
振り返ろうとしたその時だった。
ブゥン、と特殊な音が聞こえたのと同時に背後から誰かに羽交い締めされていた。
チラチラと見える服や体格の雰囲気からして犯人が男なのはわかった。
声を出そうと思っても引き攣った喉からは掠れた音しかでなかった。
私のその反応の何が面白いのか、耳元でクスクスと笑う声が聞こえて吐き気がこみ上げてきた。
「(だ、だめっ・・・殺さ、れる?いや、まず電通でっ・・・!)」
「だめだよ」
「っ!?」
パニックする頭を必死に動かし、電通を試みようとしたが犯人は手早くなな子の首筋の
インターフェイスに電脳錠がカチリとは装着されていた。
その瞬間、脳みそがシェイクされるかのようにぐちゃぐちゃになっていく。
乗っ取られていくようなそんな感覚は初めてであまりの恐怖に涙が溢れ出した。
必死に足をバタつかせると机の足に当たったのか、上にあったコンテナが床へと落ち弾薬がけたたましい音立てながら散らばった。
その音には流石に男も慌てたようだったが、イラついたように舌打ちをすると私を床へと組み敷き、身体に馬乗りになってきた。
意識が飛びそうになる中でも必死に抗おうと男から距離を取ろうとしたが馬乗りになられ身体を動かす事はほぼ不可能だった。
そこで初めて男の顔を認識した。
グレーのスーツに記憶に残りにくい地味な顔。
私はこの人を知っている。驚き戸惑い目を見開くと男はニヤァと笑った。
「約束・・・守ってくれるんだね」
「ひっ・・・!」
「君だけは、君だけは僕を、僕を受け入れてくれたから」
ハハっと笑う男の目が私を見つめている。
怖い。
「い、いや・・・・・・」
「嫌・・・?」
男の動きが止まった。
不思議そうな顔をしたかと思うと、今にも泣き出しそうな幼子のような顔へと変わった。
「君だけが僕に微笑んでくれたじゃないか君のあの言葉は違ういやあれはきっと僕の!!」
「っぁ!」
うわごとのように意味不明な言葉の羅列。
聞きとる事も難しいくらいに早口になり、その手が私の首へと伸びた。
首がぎゅうと締め付けられ、呼吸が出来ない。
既に電脳は使い物になっていない、目も霞んできた。
口からはだらしなく唾液が零れた。
「(・・・バ、トーさん・・・)」
次の瞬間、目の前から男の姿が消えた。
正しくは男が壁へと吹き飛んでいた。
霞む目を見渡しても誰も見えない。
「ぐ、けほっ・・・っだ・・・れ」
「俺だ・・・」
ブゥンと低い音がすると、そこには光学迷彩を解いたバトーの姿だった。
「なん・・・あ・・・・・仕、事」
「馬鹿。今はそれ所じゃねえだろ。怪我はねえか」
「これ・・・とっ・・・て」
「電脳錠・・・?なんでこんなもの・・・今外す、暫くは吐き気するだろうが――」
バトーの言葉が途切れたの同時に鈍い打撃音がした。
グラグラとする頭を働かせつつ、視線を上に向けるとニタリと笑う男の顔。
そして目の前ではスローモーションのように倒れるバトーさんの顔が見えた。
男の手にはコンテナの中から転がり落ちたであろうライフル用のスコープ。
ぽたりと血が床に落ちたのを見て目の前の現実に恐怖し慄えた。
ゆっくりとこちらに近付いてくるのが怖くて、震える体で後ずさりをしたが距離はどんどん詰められていく。
「君の王子様は僕じゃなきゃ僕が王子様にならないと君は僕を待っていてくれたからだから僕が今――」
「っしつけえんだよっ!」
「!」
倒れた筈のバトーさんはすぐさま立ち上がり、男に組み付き床へと引きずり倒した。
先程まで私に使っていた電脳錠を今度は男の首へと刺した。
男の情けない声がだんだん弱弱しくなり、意識を手放したのか静かになった。
組み付いていた腕を離し、そっと後ろ手に手錠を嵌め拘束し床へと投げた。
慣れた手つきで男のスーツを漁り、身元を確認しているようだった。
暫く黙り込んでいた様子を見るに電通で九課の誰かと連絡をとっているのだろう。
自身の呼吸も落ち着き、まだ頭はクラクラとするが特に不備もなく電脳も使える様子にほっとした。
体をゆっくりと起こし、床に座りこんだままバトーへと視線を向ける。
「バトーさん・・・」
「怖がらせちまったな・・・すまん」
「いえ・・・誰か来てくれるなんて思ってなかったので・・・本当に、本当にありがとうございます。あの、バトーさん・・・これ、使ってください、血が」
「血?ああ、こんなもん掠り傷だ。折角の可愛いハンカチが汚れちまうからしまっときな」
「でも・・・」
「ダンナ!?」
「お、やっと来たか。トグサおせえぞ」
「そんな事言ったってなぁ・・・!」
その後はなんやかんやと人がたくさん来て、部屋の中を色々と調べたりだとか状況説明をしたりだとかで忙しかった。
部屋から廊下へと移動し、外にあった積み重ねられたコンテナに腰掛けた。
落ち着きを取り戻したなな子は当初の目的だった理由を思い出していた。
急ぎのオーダーと言ってたが大丈夫だったんだろうか。
そんな事を考えていると中からバトーさんも出てきた。
そっと隣に立っていた彼だったがただ何も言わず頭をぽんぽんと撫でていた。
その優しさが嬉しくて、また涙が零れた。
「今日のバトーさん、かっこよかったです」
「お、ようやく俺の良さに気付いちゃった?」
「はい」
「えっ」
私の反応が予想外だったのか、バトーさんは驚き戸惑いながら顔を赤くながら慌てふためいていた。
その様子が面白くて思わず笑っていた。
「今度、お礼させてくださいね」
「お、おう!」
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後日談
「なな子!大丈夫だった?!」
「大丈夫じゃないけど大丈夫、バトーさんが助けてくれたよ」
「よかったあ・・・、実はこっちで手続き終わったからって雑談してたんだけど、バトーさんがなな子に電通飛ばしてたらしいんだけど不通だったのが気になったみたいでさ・・・そしてたらこれだもん!」
「あー、電脳錠刺さってた時かな・・・」
「は?!電脳錠?!あんたよく平気ね?!」
「いや平気じゃないから3日も休んでたでしょうに・・・」
「私なら1週間は休むね!」
「あはは・・・1週間も休んでたら事務所が大変な事になってたんじゃないかな・・・」
「・・・確かに」
3日程検査入院をしていたなな子だったが、退院後会社の机の上にはこれでもかとお見舞いの品が置いてあった。
置ききれなくなったものは床のダンボールにも入ってるようだ。
会社に復帰したが、まずはこの整理からだと思うと憂鬱になる。
机の中にあるGABAのチョコレートを口に含みながら、どこから片付けたものかと思い悩んでいた。
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