〈long〉クヴァールの瞳
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
サイトーと名乗った名刺も持たないこの男。
一体いつになったら帰るのか。
帰るタイミングを逃しただけなら申し訳ない事をしたなあと思いはじめた頃、ようやく点滴が終わりそうだった。
サイトーもそれに気づいたようで点滴袋に目を向けていた。
「ナースを呼んでくる」
「あ、いえ、ナースコールもありますし、大丈夫です。それより長く引き止めてしまって申し訳ないです。こんな遅くまで本当にすいません」
「いや気にするな。俺がしたくてしただけだ・・・」
なな子が頭を下げるとサイトーは静かに立ち上がった。
ふわりと煙草の匂いがなな子の鼻をかすめた。
「あの、ご迷惑でなければ今度お礼を・・・させていただきたいのですが」
「ほう・・・?」
なな子は照れにより目線を逸らしたが、行き場がなくなる。
手には恥ずかしさのあまり汗が滲んでいる。
さっきまでは怖い人なのではと思っていた。
しかしそれはそれとし、お礼はしなければと思いなな子は口を開いた。
きっと断られるだろうと思ったが、何故だかサイトーの反応は悪くない。
それどころかサイトーは顎に手をやり、面白そうに何か考えているようだった。
その反応に、もしかして大金を請求される?それとも体・・・はないなと思いつつも、悪い方向へと頭が働いてしまう。
やっぱりなしで!と言いたかったなな子だが、先に話を振ったのはなな子だ。
ただ顔を青くしたり赤くしながら返答を待つ事しかできずにいた。
なな子の反応を一頻り堪能したサイトーは小さく笑い、そして口を開いた。
「そうだな、じゃあ食事に付き合ってくれないか」
「・・・・・・え?」
想定外の言葉になな子は反応が遅れた。
泳いでいた視線も今はサイトーに向けられている。
目と目が合った。
その目は決して冗談ではなさそうだった。
「ダメか?それなら・・・」
「いえ!いえいえ!全然、大丈夫です!」
なな子が慌てて答えると病室にノックの音が響く。
点滴の確認でナースが部屋に入ってきた。
「じゃあまた連絡する」
サイトーはそれだけ言い残し部屋を後にした。
なな子はそれを目で追いかける事しかできずにいた。
腕に一瞬、痛みが走る。
ナースが手際よく針を抜いていた。
+ + +
サイトーが九課に戻るとソファには少佐の姿があった。
「戻ったか」
「あぁ。念の為、対象と通じてないか数日は様子を見ておく事にした」
「わかった。今イシカワに頼んで柘植なな子の経歴を洗ってるところよ」
サイトーは少佐の向かいのソファへ腰を下ろした。
胸ポケットから吸いなれた煙草を出し、火をつける。
ふぅ、と一息ついてから口を開いた。
「何かありそうなのか?」
「今のところは、何も」
遠くから一人分の足音。
階段の上からニヤついた顔と声が聞こえる。
「よう、サイトー!仕事ほっぽって女とどこに行ってたんだ?」
「病院だ。目の前で倒れた女を放置する程冷たくはないさ」
「あら?今度試してみようかしら?」
九課に残っていたバトーの茶化す声を適当にあしらったサイトーだったが、なぜか少佐までも悪乗りしてきた。
これには適わないと思ったサイトーはダイバールームに行ってくると言い残し逃げるようにその場を後にした。
「ありゃ、逃げちまった。しっかし少佐も乗ってくるとは思わなかった!」
「虐めたくなる顔してたからよ」
「おぉ怖っ・・・!」
少佐がフフ、と笑う。