〈long〉クヴァールの瞳
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「あのこれ、ほんとに痛くないんですよね?!」
「大丈夫大丈夫、少しノイズが入るくらいだと思ってくれれば」
「それって痛いには入らないんですね!!」
なな子の悲痛な声が部屋に響く。
そんな人間が新鮮なのか、ボーマがニコニコと話かけてくれるが全く安心ができそうになかった。
うつ伏せに眠れる形のベットになな子は乗せられ、首のインターフェースにはたくさんのコードが付けられている真っ最中だからだ。
痛みはないが落ち着かない。
そわそわと動こうとすると素子に無言で首を抑えられた。
「バックアップ完了、やるならいつでもどうぞ」
「こっちも準備完了だ」
イシカワとボーマは何やら忙しそうに手を動かしていたが、準備が整ったようで素子の顔を見た。
「タチコマも一緒にダイブさせる。様子がおかしければ直ちに中断」
「了解」
「なな子、あなたの電脳にダイブするけど私の事、はじき出さないで頂戴ね」
「そ、そんな事言われても電脳に入られた経験ないんでわかんないです!」
素子の方を見たくても、首のコードが邪魔なのとうつ伏せで寝ている事もあり声だけで反論するしかなかった。
泣きそうななな子の声に笑いながら、素子は自分のインターフェースにコードを刺した。
「いくわよ」
+ + +
甲高い機械特有の音が耳に響いた気がした。
ネットがオフラインの状態でアナログ的な接続をされたせいなのか、電脳の反応が少し鈍い。
「《――なな子、聞こえるかしら》」
「《っ・・・あ、はい・・・》」
「《視認しやすいようにアバターに変えるわね・・・クロマファイルをシステムに注入》」
素子がそう呟くと電脳特有の文字の羅列が美女のアバターへと変化した。
それと同時に3体の見慣れぬ青い機械も出てきた。
「《わー・・・君の電脳すごいねぇ!》」
「《こんなに堅い防壁なんて国家機密みたーい!》」
「《でもでも、彼女は普通の一般人なんだろ?》」
「《タチコマ、私語は慎め》」
「「「《ハーイ》」」」
なな子が口を挟む余裕がなく、どんどん喋りだす3体にたじろいでいた。
「《そいつらはタチコマ。思考型戦車でAIで中々お喋りな奴らでな…》」
「《へぇ・・・可愛い・・・》」
ボーマのアバターはないようで、文字の羅列のアイコンから声がした。
イシカワはコンピュータ上から状況監視しているのかアイコンも見当たらなかった。
「《タチコマ、機能全開でバックアップ。いくぞ!》」
掛け声とともに、なな子の防壁の入り口へと近付いた。
青白い数字と文字の羅列の中央に鍵のかかったインターゲートが見えた。
タチコマ達が配置につくと、素子が入り口に手を当てた。
「《も、素子さ・・・・・・な、なんだか、その、ノイズがひどいです》」
「《意識を集中して、ここを開けるのよ》」
「《わ、わかりました・・・》」
「《侵入する時、痛みはないけど・・・もしかしたら不快感が走ると思うわ》」
行くわよ、となな子が返事をするよりも早く素子が侵入を開始した。
一瞬の出来事だったが確かに何かが脳内を通り抜けるような感じがした。
「《大丈夫・・・そうです、たぶん》」
「《なら次へ進むわね》」
素子のアバターにタチコマ達もつづいた。
すぐさま次の防壁に遮られたが、なな子の協力もあり問題なくはいる事ができた。
暫くは問題なく防壁の解除を続けていたが、最後の防壁だけはなな子の意志ですら動かなかった。
「《少佐、このコード・・・ランタイムらしくこちらの速さじゃ書き換えが追いつきそうにもないです》」
「《なるほどな・・・タチコマ、タイミングを合わせろ!》」
「「「《了解!》」」」
ボーマと素子が何やら難しい話をしているなあと暢気に思っていると突然、なんとも言えない不快感が全身を襲った。
神経という神経に寒気が走り、吐き気もしてきた。
言葉もうまく紡げず、なな子は獣のように唸る事しかできずにいた。
チリチリと、電脳の奥底が焼けるように痛む。
「《や"・・・あ"ぁ・・・ッ》」
「《拒否反応か・・・ボーマ、タチコマ、急げ!》」
「《や、やってまあす!!》」
素子が一瞬の隙をついて侵入するとそこには何もない暗闇が広がっていた。
「・・・これは」
大量の文字の羅列、何かの日付のようにも見える。
導かれるようにその文字に触れると音声ファイルが再生された。
『ママ!見て見て!』
『まあすごい!あなた、やっぱりこの子天才よ!この歳でプログラムもここまで理解できるなんて・・・――――』
音が再生されるが、安定していないようで飛び飛びだった。
内容から察するになな子の子供時代の音声ファイルだ。
幸せそうな子供の声。
後ろの方で父親らしき声も聞こえる。
映像はなくてもこの親子がどれだけ幸せだったかが伝わってくる。
また、音が飛ぶ。
子供の泣き声と罵声。
『おじさん、やめてよ・・・どうしてこんなことするの―――』
『やめてえ・・・もうやだよお・・・―――』
幸せそうな音声から打って変わって、悲しげな子供の声が流れる。
データが壊れかけているのかノイズが酷く、〝おじさん〝と呼ばれる男の解析ができない。
もっと情報が欲しい。
求めるように進もうとしたが荒巻の声で止めざるを得なかった。
+ + +
「課長、どういうつもり・・・?」
電脳調査をしていた素子だったが、最優先で荒巻からの呼び出しを受け中断した。
呼び出された部屋に入り、定位置であるソファに腰をおろした。
「上からの指示だ。柘植吉春は何人かの議員との繋がりもあったようでな・・・"不当な拘束及び取り調べを受けているから即刻解放せよ"との事だ」
「それが事件の第一発見者だとしても?」
「今はこの指示に従うしかない。本人の様子はどうだ」
「電脳の調査にも協力的だったし、恐らく本人の意思は無視されての解放要求でしょうね」
「だろうな・・・彼女とはいつでも接触がとれるように護衛の意味も込めて監視をしておけ」
「了解」
「議員や関係者に関しては私の方で調べておく」