〈long〉クヴァールの瞳
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素子の真面目な顔と言葉の意味がわからなかった。
自分が何者か、なんてそんなもの調べればすぐにわかる筈にも関わらず、なな子本人に聞いてくる意味が全く理解できなかった。
「私・・・私、何かしたんですか・・・?」
「心当たりでもあるのかしら」
「そんなの・・・ありません」
「なら率直に聞くわ。あなた、どうして5重防壁なんてしてるの」
「5重?」
「それだけじゃなく攻性防壁まで備えてる。軍人でもレンジャーでもないただのOLが付けるには大層な代物よ。不審がられても仕方ないんじゃないかしら?」
「・・・・・・・・攻性防壁?」
「あなた、自分の電脳なのにまさか知らなかったとか言うんじゃないでしょうね」
「知らなかった・・・です」
次々説明していくが何一つとして聞いた事がない言葉ばかりでなな子はただ首をかしげる事しか出来ずにいた。
なな子の反応を試すように話しかけていた素子だったが、手応えのない反応に見切りをつけ会話を終えた。
そして部屋の鏡に向かって合図を送るような仕草をする。
「《イシカワ、結果は》」
「《言われた通りずっと生体反応を見てたが血圧・心拍・脳波に声紋、全て嘘偽りない、白だ》」
「《・・・わかった》」
無言の素子を不審に思い眺めていたなな子だったが素子が再び口を開いた。
「それじゃあ話を変えるわね。意識を失う直前、あなたは何を見たの?」
「直前・・・」
なな子は思い出すように目を閉じた。
化粧を直そうと思い化粧室に向かった所までは覚えている。
「気付いたら、女の人が目の前で倒れてて・・・それで私・・・」
うまく説明できずにいたが、素子は責める様子はなくただ黙っていた。
「あなた以外にその現場にいた人間はいなかった、この言葉の意味はわかるわね?」
「そんな・・・私、人を殺すなんて・・・!!」
「"あなた"自身はきっと殺してないでしょうね」
泣きそうになりながら素子を見つめていたなな子だったが、素子の言葉の意味がわからず思わず首をかしげてしまった。
「それ、どういう・・・意味ですか」
「あなた、公安に協力する気はない?」
会話がかみ合っていないようでかみ合う。
怯えながらも素子の目を見る。
「それで私の無実が証明できるんですよね・・・」
「察しが良くて助かるわ」
その言葉を聞くと素子はゆっくりとなな子の拘束具を外していく。
首の後ろのインターフェースには簡易の電脳錠は刺さったままだったが。
ようやく立ち上がれると思ったが、足に力が入らずなな子は椅子から崩れ落ちてしまった。
なな子は何が起きたのかわからず目を白黒させていた。
どれくらいここで拘束されていたのかわからないが確かに全身バキバキに凝っていた。
素子の手を借り、また椅子へと戻された。
「暫くの間、この部屋であなたの事詳しく調べさせてもらうけど今はまず休みなさい」
「暫くって・・・」
「あなたの電脳の解析ができるまで、よ」
それってどのくらい・・・と思っていると部屋のドアが開いた。
茶髪の優しそうな雰囲気の男性とその後ろに見慣れた男の姿があった。
「サ、サイトーさん・・・?」
「驚かせてすまない」
「警察関係って言ってましたけど・・・公安だったなんて」
ゆっくりと目を瞬かせながらサイトーを見た。
なんとなく気まずい空気を誤魔化すようにもうひとりの男が口を開いた。
「これどうぞ。目が覚めたばかりで喉乾いてるでしょ」
「ありがとうございます・・・ええと」
「ああ、トグサだ。同じく公安九課所属」
なな子はトグサにお礼を言うと見開封のミネラルウォーターを口にした。
からからだった喉につめたい水が染み込んでいくのがわかる。
「この部屋からは出してあげれないけど、何か困った事があったら言ってくれ」
「じゃあ父に連絡させてください。無断で長時間家を開けた事なんてないからきっと心配してます」
トグサが素子の顔を見ると素子は無言で頷いた。
そしてトグサのポケットから携帯端末を出し、そっとなな子に手渡す。
「君の電脳はまだ調査中で、ネットへのアクセスも暫く使えない。だからこの端末での連絡になるけど、それでもいいかな?」
「ええ、大丈夫です」
なな子は受け取った端末を慣れない手つきで操作し父親へと電話をかけた。
電話は無事繋がり父には簡単な状況説明をし、通話を終えた。
使い終わった端末をトグサへと渡すとなな子は口を開いた。
「私に出来る事はなんでもします。でもこれだけは信じてください、私は誰も殺してなんかないです」
なな子は覚悟を決めた顔で素子を見た。
その決意に答えるように素子は微笑んだ。