武梨静
夢小説設定
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「…ん?あれって」
ショッピングモールにて買い物中、GとUがつくことで有名な服屋に見慣れた姿を見かけた。無闇に近づくわけにも行かず、目を細めてじーっと見つめてみると、彼の瞳が赤いことが確認できた。
静さんだ。
そう確証した私は見つかることに恐れつつも好奇心に負けて、少しだけ近づいて様子を見ることにした。パーカーのフードをぐっと被り、大きな柱に姿を隠して様子を見る。やっていることはかなりの不審者だが、平日の夜のショッピングモールは意外と人が少ないものである。
彼はなにも考えていないのか、ぼーっと目の前の服を流し見していくだけで手に取ることはない。
というか、私は一体何をしているのだろうと我に返る。彼にバレたくないのならさっさと帰ればいいものを、柱に隠れて買い物をしている彼をみている。まるでストーカーじゃないか。
そうこうしている間に、静さんはスルスルと移動していく。まるでウィンドウショッピングをしに来ているみたいだ。そもそも、普段の私服からわかる通り、静さんのようなパンクを齧ったファッションはこの店にはないだろう。
あ、めっちゃカラフルなゾーン入ってる。
…真っ赤なパーカー着る静さんとか、想像しただけで面白いな。
顔に出ないように鼻で笑ってから、もう一度静さんに視点を戻すと、何かお気に召したのか黒い服をとっている。生憎目が悪いもので詳しくはわからないが、インナーのようなTシャツのような少し薄手の黒い服だということはわかった。
モノトーンしか着ないもんね、静さん
知ったかぶりの知識を脳内で披露して、レジに向かう静さんを見送る。このときの私は静さんがどのようなものを買ったのか詳しく知らなかった。翌日、その服を着ている静さんを見て、横転してしまいそうな気持ちになるなんて予想もしていなかっただろう。
プティフールは水曜日が定休日。そんなことは誰もがわかっているだろう。そんな中、芽衣ちゃんからの声かけによって和樹、唐沢くん、静さん、私の4人が集められた。どうやら試作品のパフェを作るらしく、味見にも丁度いいであろう14時頃に皆で集合することになっていた。
シャルや勇さんがいないのは、たまには料理をしないこのメンバーで開発してみるのも面白そうだろうという勇さんの提案からであった。シャルもそれに同意し、柿崎さんはプティフールが元々定休日なこともあり、予定が入っているそうでいない。そうして比較的暇なこのメンツになったのであった。
「お誘いありがとう、芽衣ちゃん」
店に着けば早々に唐沢くんが芽衣ちゃんにウインクを飛ばしている現場に遭遇する。しかし、それを何ともないとでも言うように、テキパキと準備を進める芽衣ちゃんと、その隣で不慣れな手つきで手伝う和樹がいた。
「お、おはよー…って、みんな来るの早くない?」
「あ、芽衣っち。俺たち、先に買い出しに行っててね」
「え!?ありがとう…なんか私も手伝えばよかったよね」
「いいよ姉ちゃんは。4人もいたら邪魔だし」
「……和樹、それフォローになってないよ…」
「っは、!!ご、ごめん姉ちゃん……」
「いや事実だし別にいいよ」
芽衣ちゃんに釘を刺されて申し訳なさそうに謝ってくる和樹に声をかけつつ、事務室と一緒になっているロッカールームに向かう。ロッカーに少ない荷物をいれ、持参したエプロンを取り出してつける。ちょっぴり不格好に結ばれているであろう後ろのリボンをちょいちょいと触りながら、ロッカーの扉を閉めると同時に、事務室の扉が開いた。きっとまだ来ていなかった静さんであろう。
「アンタ、もう来てたんだ」
「あ、おはようございま」
固まってしまった。何って、静さんの格好のせいだ。鎖骨が見える七分丈の黒いVネック。それを見た途端に目をそらした。見ちゃいけないような気がする。脳裏に焼きついて離れないその光景は私を動揺させるには充分すぎるものだった。
なんか、ネックレスもつけてて、なんか。
えっちだ。
「何してるの」
「っっひ」
ぐるりと思考を現実へと戻されて、数回まばたきすると、先程より近い距離に静さんは居た。その距離、約50cm。近すぎる。急に慌てだす私に対して「意味不明」とだけ零して、静さんはロッカーを開けた。
彼が私に対して背を向けたという証拠であるロッカーの開いた音で緊張が解ける。けれど脳内のあの光景が消えることはなく、先ほどの近い距離で見たせいで、より鮮明に映るようになってしまった。
隠されていない鎖骨だとか、その近くで光るネックレスだとか、彼自身細身なのにその体にピッタリ張り付いて、より細身を強調してくる素材だとか……
変態か。
某コンビのタカのように自分にツッコミ、変態だよと自分で返す。もう思い出すのはやめようと思えば思うほど、鮮明に思い出されるのは何故なのだろうか。人間の構造は不思議である。
パタリと閉じられたロッカーの音に思考を戻され、ずっとここに突っ立っているのも不自然かと思い、静さんの様子を伺おうと振り向く。
彼は特に気にしていないのか、こちらに背を向けたままエプロンを着始める。まだ着ていなかったのか、と思うと同時に、後ろ姿の静さんから目が離せなくなる。
私が背中をとられることは多いけれど、静さんの背中ってあんまり見たことないな。
ぼーっと静さんの背中を見ていると、Vネックの素材の影響だろうか。静さんの肩甲骨が動く様子がはっきりと見られた。その動きに合わせて、ぐーっと体温が急上昇するのがわかった。
たかが、肩甲骨。されど肩甲骨。どこに興奮しているのだと自責しながらも、普段見ることのないその部位のはっきりとした動きに微かに興奮してしまった。恥ずかしい。こんなこと、と言ってしまうのは彼に失礼かもしれないが、こんな彼の仕草で胸を高鳴らせてしまう自分がどうにも嫌だった。
目を逸らそうにも、まるで猫のように動いているものをしきりに目で追ってしまう。彼は背中のリボンを結ぼうと指を細かに動かし始めた。その姿に、その指に、ごくりと唾を飲んでしまう。彼は器用なため、私の後ろで結ばれている不格好なリボンとは段違いの綺麗な形を保ったリボンを結んだ。
なんか、リボンが羨ましい。
思考が馬鹿になっていることを自覚しつつも、結び終えた静さんを見つめていた。普通に考えれば、ここで静さんは振り返って事務室を出ていくに決まっているのに、私は己自身の興奮と戦っていたためそのことに気づくことはなかった。
「…アンタ、まだいたの?」
こちらに振り返った静さんと目が合って、ようやくそのことに気がついた。慌てて誤魔化そうとして、へらりといつもの作り顔を見せる。そんな得意技も、今日ばかりは不発である。そもそも、静さんには作り笑顔なんてお見通しなのだが。
「今日様子おかしいし」
「……ま、まぁ?」
お前のせいだと滅茶苦茶に叫びたかったが、後々理由を問い詰められた私が後悔しそうなのでやめた。今はこのヘッタクソな笑顔で乗り切るしかない。そしてそんな私の反応が気に入らないのか、静さんは私の横をそのまま通り過ぎようとした。
が。
「あんた、結ぶの下手くそ」
そう鼻で笑ってきた静さんに、思わず「は?」と漏らしてしまった。私の作り笑顔が解けたことがお気に召したのか、口角を少し上げながら、静さんは私のリボンを解いた。
「いや、折角結んだんですけど」
「アンタより俺のほうが上手いと思う」
「…………………外したの静さんですからね」
どーぞ、という気持ちで静さんに完全に背を向けると、静さんはそれはそれはゆっくりとリボンを結びだす。私が妙に緊張して長く感じているのか、静さんが単純に遅くしているのかは分からないが、段々と冷や汗をかいてきた。
静さんのことだから、何かするのでは…?
数々の悪戯を背中で受けてきた私にとって、この考えになることは当たり前のことであった。擽られたり、後ろから抱きしめられたり、色々な悪戯を受けた私にはわかる。面白い反応をすればするほど、彼は喜ぶと。そうと決まったら、彼の興味が失せるような反応をすればいい。
どうせなら逆に静さんが驚くような反応にすればいい。とんでもなく低い声で「うおっ」と声を出すとか、物凄い大きな声で「あーーーーーー!!」と叫ぶとか。驚くまではいかなくても、期待外れだと思ってくれそうだ。
でも、期待外れな反応をすれば、静さんは私に構うこともなくなるのだろうか。
不意に浮上してきた漠然とした不安に少し泣きそうになっていると、後ろにいた気配がスッとなくなる。
「はい、終わり」
特に何もすることはなく、静さんは私のエプロンから手を離した。絞り出した拙い感謝の言葉に何も言わず頷いて、静さんは事務室の扉に手をかける。動かずにいる私に目をやって、早く出ろと言わんばかりの視線を送ってくる。
「え、?あ、行きます…!」
急いで事務室の扉の元に行き、開けてくれている扉をくぐり抜けようとしたそのとき。
「っ」
つーっと、背中を人差し指で撫でられた。急いで犯人の顔をみると、クスクスと笑っている。彼の目元が柔らかく緩む姿を見れば、静さんを責める言葉は出てこなくなった。
「アンタ、ほんと飽きない」
「構えてるんだろうなってすぐにわかったから、今してみた」
「作り込んだアンタより、素のアンタが一番可愛いし」
そう言いたいことだけを言って、静さんは満足げに事務室を後にした。火照りに火照った頬を冷え症がちの手で冷やしてみる。静さんのせいで冷えていた手がぬるくなる一方だ。
手のひらで転がされている。
彼の悪戯が成功したと言わんばかりの笑みを見る度にそう感じてしまう。彼は、私が見せたくない素の一部ばかりを見ようとしてくるから苦手だ。でも、それ以上に私は彼のことがどうしようもなく好きなのだから、結局は拒否できないのであった。
