この恋を掘り返すのは何回目
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そうして静さんとの、これまでと変わらない日々がまたやってきた。それをぐるぐるりと繰り返していれば、そのうち冬休みがやってきた。連絡先なんて持っていないから、会うことも静さんの誕生日も祝うことなく冬休みが終わって、学校が始まって、1月が終わった。
2月に入れば3年生は自主登校の日が続いたけれど、校内で見かけることのなかった彼の姿は何故か"金曜日の夕方"に"屋上"で見ることができた。何故か、なんて私も馬鹿じゃないから分かる。私に会いに来てくれているのだ。
けれど、その行動がどの感情から繋がってきているかなんてわからない。愛情か同情か、暇つぶしか。暇つぶしの可能性が大いにあり得るのが彼だった。
そんなことを考えて過ごしていれば、すぐに彼の卒業式の前日となってしまった。
ずっと手紙を書こうと思っていたけれど、今ではないだとか気分じゃないとかで書くことを先送りにしてしまっていた。でも、遂には書かねばならないという日になってしまった。課題と同じくギリギリまで物事に手をつけない、相変わらず体たらくな私が押し入れから便箋を出したのは、お風呂に入って、好きなだけゲームをして、寝る準備を終えた23時過ぎのことだった。
もう書かなくてもいいのではないだろうかと考えたけれど、明日で最後なのだと思えば、ようやく重い腰をあげることができた。
卒業おめでとうございますから始まり、出会いはこうだったとか、我ながら手紙の枚数を増やすだけの適当な文を書くことが上手い。けれどそんなに書いても彼は読まないだろうと思って、結局予想していた枚数の半分ぐらいで収まろうとしている。そうして終わりに差し掛かった頃、今までスラスラと便箋の上で泳いでいたペンの動きが止まった。昔から手紙の最後ってなんて書けばいいかわからない。
心身ともに健康で。
これからも頑張って。
今までありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
今まで手紙の末端に書いていたどのフレーズもしっくりこなくて、シャーペンで机をトントンと軽く叩く。
「………なに、書こう」
静さんのことを考えれば考えるほど、あぁ、好きだったなぁとしか思えないことが辛い。いっそ、好きでしたとか書くべきだろうか。
「………」
っけ、やなこった。そんなこと微塵も書いてやろうと思えない。でも、ちょっと魔が差しただけだ。そう、ただほんの少し、永遠に答えを知ることのできない問いを一方的に投げかけてみたかっただけなのだ。
静さんは好きな人いますか?
そこまで文を書き進めて、勢いよく消しゴムで消した。跡すら残らないよう、紙をしっかり手で押さえつけて消した。少し紙がズレて、グシャリと歪んだが許容範囲だろう。一から書き直してあげようなんて、私はそんなに可愛い女じゃない。好きだからといって、特別可愛く振る舞うことなんてしないのだ。誤魔化すかのようにして、その文の上から少し強めの筆圧で文字を綴った。
読み返すこともなく封筒に便箋を入れ、名前の欄に静さんへと書いた。自分の名前は結局書かなかった。書かなくても私だと思い出してほしいと思ったのが半分、名前なんだったっけと思うくらいには忘れて欲しいのが半分だった。
我ながら、複雑な乙女心だ。
そうして迎えた卒業の日。
それはそれは長い卒業証書の受け取りがあってうんざりした。けれど、静さんが証書を受け取るときにはちょっとだけ泣いた。親かよ、とか思いながらも涙を拭った。
式の片付けを済ました後、屋上へ向かえばそこにはポツンと佇む彼の姿があった。式の直後は人の多かった屋上だが、今は閑散としており、彼以外に人はいなかった。
「卒業おめでとうございます、静さん」
そう言って真っ先に手紙を渡せば、彼は少し目を丸くしながらも受け取ってくれた。
「…意外。アンタ、こういうの気恥ずかしくて出来ないかと思った」
「結構手紙は好きっていう話しませんでしたっけ?」
「身近にいればいるほど、アンタはこういうの苦手そうだし」
「………なんでバレてるかね」
全てをお見通しな静さんの横に並び、数名の卒業生がサッカーボールを蹴って遊んでいる校庭を眺める。まだ肌寒いが、少しずつ心地よくなってきた風に思わず深呼吸をする。そのまま静さんをみれば、ブレザーのボタンが一つなくなっているのが見えた。
「静さん、誰かにボタンあげたんですか?」
あのジンクスの如く、彼のブレザーの第2ボタンは綺麗になくなっていた。引き千切ったとかでもない、糸すら残っていない綺麗な状態であった。ゆるりと浮上してくる彼と同じ上履きを履いていた彼女の存在に胸を痛めながら聞いてみれば、彼は特に何も思っていないのか表情を変えなかった。
「とった」
「……とった、?」
「うん、とった」
第2ボタンを自分でとったことで俺、モテモテアピールができるのだろうか。そこに固執するような人だっただろうかと悩むが、何せ彼は変人なのでその可能性も否めない。
「…………っふ。アンタ、鈍すぎるし」
頭に疑問符を浮かべていれば、急にブレザーのポッケに手を入れられた。触らなくとも、彼の言葉でその行為の理由がわかった。ポケットの上から触っても間違いない。ボタンのサイズ感であった。
ポケットに手を入れ、確認するようにゆっくりとそれを触れば、間違いなくボタンであることがわかった。急いで取り出せば、その様子が面白かったのか静さんがクスクスと笑う。
「…いや、誰だってびっくりしますよ」
「でもアンタ、すごく嬉しそうだから」
「え」
「すぐ顔に出るそういうとこ、いいと思う」
そう言って、出会ったあの時と変わらない笑みを向けてくれた彼に、あの時と同じようにきゅう、と心臓が締まる音がした。呼吸もほんの少しの間だけ止まって、耐えるかのようにして下唇を噛んだ。
また、彼に恋をした。
家についた後、静は仲が良かったあの後輩から渡された手紙を開いた。よく話し、よく笑っていた彼女らしくつらつらと並べられた文字を見る。彼女は目の前にはいないけれど、どこかで彼女がこの通りに話している声が聞こえた。
よく話す彼女にしては便箋の数が少ないからか、言いたいことをぎゅっとまとめた、決して綺麗とは言えない話の流れに静はくすりと笑みを浮かべた。終わりも近いだろうと読み進めていけば、体調には気をつけろだの誤字脱字があれば申し訳ないですだの、如何にもファンレターのような締め方をしようとしているのが丸わかりであった。彼女はアイドルが好きだったな、とふと思い返しながら最後の行を読む。
私、なんとなく静さんのこと大好きでしたよ!
彼女の手紙の最後には筆圧強めの文字でそう書かれていた。少しよれているのもあって、何かを書いた跡を隠そうとしているのが丸わかりであった。静が透かして見てみようと光を当てれば、微かだが文字が浮かんでくる。
静 んは な すか?
静さんは すか?の部分で何かを問おうとしていることが分かったが、入念に消されているのかはっきりとは見えない。それに元々の文を書いていた筆圧もはなから消すつもりだったのかというぐらいにない。
まぁいいか、と静は手紙を差出人のない封筒に戻して机の引き出しにしまった。
「ねーー卒業しちゃったね」
「そうだね〜」
合流した友人たちの声に返事をしながら、私達の溜まり場であるカフェでお気に入りの紅茶を飲む。そんな私のケロッとした姿に3人は面白くないとでも言いたげな顔をしている。
「……なんか、あんまり悲しくなさそうなんだけど」
「1年だけだったしね〜…それに、いなくなるのわかってたから特には」
「やっぱり冷めてるよ…あんた」
「連絡先だって結局交換してないんでしょ!?信じらんない…」
「それどころか進路知らないしね。大学行くかも知らない、就職してるかもしれないし」
「冷めてるわー」
「………まぁ、そうかも?」
どうしようもなく好きだった。その結果、どうもしなかった。けれど、それでいい。いつかいい思い出になって、誰かと付き合って結婚する前にふと思い出して、好きだったなぁと一人想いを馳せるのだろう。ポケットに入ったままのボタンをするりと撫でて、ぼんやりとしていた意識を友人の話へ向けた。
この恋を掘り返すのは何回目
2月に入れば3年生は自主登校の日が続いたけれど、校内で見かけることのなかった彼の姿は何故か"金曜日の夕方"に"屋上"で見ることができた。何故か、なんて私も馬鹿じゃないから分かる。私に会いに来てくれているのだ。
けれど、その行動がどの感情から繋がってきているかなんてわからない。愛情か同情か、暇つぶしか。暇つぶしの可能性が大いにあり得るのが彼だった。
そんなことを考えて過ごしていれば、すぐに彼の卒業式の前日となってしまった。
ずっと手紙を書こうと思っていたけれど、今ではないだとか気分じゃないとかで書くことを先送りにしてしまっていた。でも、遂には書かねばならないという日になってしまった。課題と同じくギリギリまで物事に手をつけない、相変わらず体たらくな私が押し入れから便箋を出したのは、お風呂に入って、好きなだけゲームをして、寝る準備を終えた23時過ぎのことだった。
もう書かなくてもいいのではないだろうかと考えたけれど、明日で最後なのだと思えば、ようやく重い腰をあげることができた。
卒業おめでとうございますから始まり、出会いはこうだったとか、我ながら手紙の枚数を増やすだけの適当な文を書くことが上手い。けれどそんなに書いても彼は読まないだろうと思って、結局予想していた枚数の半分ぐらいで収まろうとしている。そうして終わりに差し掛かった頃、今までスラスラと便箋の上で泳いでいたペンの動きが止まった。昔から手紙の最後ってなんて書けばいいかわからない。
心身ともに健康で。
これからも頑張って。
今までありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
今まで手紙の末端に書いていたどのフレーズもしっくりこなくて、シャーペンで机をトントンと軽く叩く。
「………なに、書こう」
静さんのことを考えれば考えるほど、あぁ、好きだったなぁとしか思えないことが辛い。いっそ、好きでしたとか書くべきだろうか。
「………」
っけ、やなこった。そんなこと微塵も書いてやろうと思えない。でも、ちょっと魔が差しただけだ。そう、ただほんの少し、永遠に答えを知ることのできない問いを一方的に投げかけてみたかっただけなのだ。
静さんは好きな人いますか?
そこまで文を書き進めて、勢いよく消しゴムで消した。跡すら残らないよう、紙をしっかり手で押さえつけて消した。少し紙がズレて、グシャリと歪んだが許容範囲だろう。一から書き直してあげようなんて、私はそんなに可愛い女じゃない。好きだからといって、特別可愛く振る舞うことなんてしないのだ。誤魔化すかのようにして、その文の上から少し強めの筆圧で文字を綴った。
読み返すこともなく封筒に便箋を入れ、名前の欄に静さんへと書いた。自分の名前は結局書かなかった。書かなくても私だと思い出してほしいと思ったのが半分、名前なんだったっけと思うくらいには忘れて欲しいのが半分だった。
我ながら、複雑な乙女心だ。
そうして迎えた卒業の日。
それはそれは長い卒業証書の受け取りがあってうんざりした。けれど、静さんが証書を受け取るときにはちょっとだけ泣いた。親かよ、とか思いながらも涙を拭った。
式の片付けを済ました後、屋上へ向かえばそこにはポツンと佇む彼の姿があった。式の直後は人の多かった屋上だが、今は閑散としており、彼以外に人はいなかった。
「卒業おめでとうございます、静さん」
そう言って真っ先に手紙を渡せば、彼は少し目を丸くしながらも受け取ってくれた。
「…意外。アンタ、こういうの気恥ずかしくて出来ないかと思った」
「結構手紙は好きっていう話しませんでしたっけ?」
「身近にいればいるほど、アンタはこういうの苦手そうだし」
「………なんでバレてるかね」
全てをお見通しな静さんの横に並び、数名の卒業生がサッカーボールを蹴って遊んでいる校庭を眺める。まだ肌寒いが、少しずつ心地よくなってきた風に思わず深呼吸をする。そのまま静さんをみれば、ブレザーのボタンが一つなくなっているのが見えた。
「静さん、誰かにボタンあげたんですか?」
あのジンクスの如く、彼のブレザーの第2ボタンは綺麗になくなっていた。引き千切ったとかでもない、糸すら残っていない綺麗な状態であった。ゆるりと浮上してくる彼と同じ上履きを履いていた彼女の存在に胸を痛めながら聞いてみれば、彼は特に何も思っていないのか表情を変えなかった。
「とった」
「……とった、?」
「うん、とった」
第2ボタンを自分でとったことで俺、モテモテアピールができるのだろうか。そこに固執するような人だっただろうかと悩むが、何せ彼は変人なのでその可能性も否めない。
「…………っふ。アンタ、鈍すぎるし」
頭に疑問符を浮かべていれば、急にブレザーのポッケに手を入れられた。触らなくとも、彼の言葉でその行為の理由がわかった。ポケットの上から触っても間違いない。ボタンのサイズ感であった。
ポケットに手を入れ、確認するようにゆっくりとそれを触れば、間違いなくボタンであることがわかった。急いで取り出せば、その様子が面白かったのか静さんがクスクスと笑う。
「…いや、誰だってびっくりしますよ」
「でもアンタ、すごく嬉しそうだから」
「え」
「すぐ顔に出るそういうとこ、いいと思う」
そう言って、出会ったあの時と変わらない笑みを向けてくれた彼に、あの時と同じようにきゅう、と心臓が締まる音がした。呼吸もほんの少しの間だけ止まって、耐えるかのようにして下唇を噛んだ。
また、彼に恋をした。
家についた後、静は仲が良かったあの後輩から渡された手紙を開いた。よく話し、よく笑っていた彼女らしくつらつらと並べられた文字を見る。彼女は目の前にはいないけれど、どこかで彼女がこの通りに話している声が聞こえた。
よく話す彼女にしては便箋の数が少ないからか、言いたいことをぎゅっとまとめた、決して綺麗とは言えない話の流れに静はくすりと笑みを浮かべた。終わりも近いだろうと読み進めていけば、体調には気をつけろだの誤字脱字があれば申し訳ないですだの、如何にもファンレターのような締め方をしようとしているのが丸わかりであった。彼女はアイドルが好きだったな、とふと思い返しながら最後の行を読む。
私、なんとなく静さんのこと大好きでしたよ!
彼女の手紙の最後には筆圧強めの文字でそう書かれていた。少しよれているのもあって、何かを書いた跡を隠そうとしているのが丸わかりであった。静が透かして見てみようと光を当てれば、微かだが文字が浮かんでくる。
静 んは な すか?
静さんは すか?の部分で何かを問おうとしていることが分かったが、入念に消されているのかはっきりとは見えない。それに元々の文を書いていた筆圧もはなから消すつもりだったのかというぐらいにない。
まぁいいか、と静は手紙を差出人のない封筒に戻して机の引き出しにしまった。
「ねーー卒業しちゃったね」
「そうだね〜」
合流した友人たちの声に返事をしながら、私達の溜まり場であるカフェでお気に入りの紅茶を飲む。そんな私のケロッとした姿に3人は面白くないとでも言いたげな顔をしている。
「……なんか、あんまり悲しくなさそうなんだけど」
「1年だけだったしね〜…それに、いなくなるのわかってたから特には」
「やっぱり冷めてるよ…あんた」
「連絡先だって結局交換してないんでしょ!?信じらんない…」
「それどころか進路知らないしね。大学行くかも知らない、就職してるかもしれないし」
「冷めてるわー」
「………まぁ、そうかも?」
どうしようもなく好きだった。その結果、どうもしなかった。けれど、それでいい。いつかいい思い出になって、誰かと付き合って結婚する前にふと思い出して、好きだったなぁと一人想いを馳せるのだろう。ポケットに入ったままのボタンをするりと撫でて、ぼんやりとしていた意識を友人の話へ向けた。
この恋を掘り返すのは何回目
