この恋を掘り返すのは何回目
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なにを確認しに来ているのだろうか。
あの金曜日から一ヶ月が経過した。あれからあの屋上の扉を開いたことはなかった。けれど毎週金曜日の放課後になれば、屋上に足が向かい、扉前で止まってしまう。いつの日か、金曜日が扉を開けることなく踵を返すだけの日になってしまっていた。
早くその扉を開けてしまえ、と心の何処かでは思っているのに開けられない。あの光景を見るのが怖いからだろうか。それとも、何ともない顔をして、私にとってのいつもの静さんとして話し始める姿を見たくないからだろうか。
そもそも静さんからあんまり話し始めないっけ、と思い返してみるけれど、どうしてか思い出せなかった。
ずっとではないが、一人になれば静さんのことを考えてしまう。集中していない授業中であったりだとか、疲れた体にムチを打って布団に入ったときだとか。こんなもの、好きなアイドルの映像を見ればすぐに立ち直るはずなのに。確か静さんと初めて会った日もこんな憂鬱な気分だった気がする。
静さんに会えてないから、気分が晴れない。悩んだらいつでも来ていいと言ってくれた彼に会えていない。
あぁ、いやだ。
依存している。
そうしていつものように階段を登っている。静さんへの依存を認めてから、何故か急に扉を開ける気になった。気持ちの整理がついたからだろうか。
けれど、別に彼に会うために屋上の扉を開けるわけじゃない。偶然あの日と同じ気分だとわかったから、同じ気分転換をしてみるだけで。別に彼に会いたいわけじゃない。たまたま屋上に行きたい気分だっただけで。
別に、別に。
扉を開ければ、なんら変わらない景色があった。強いて言うならば、前よりも日が落ちる時間が早くなって、肌をなでる風が冷たくなったところだろうか。
なんら変わらないと思った景色の中に静さんはいなかった。
校庭でいつものように練習している野球部を見る。引退した3年生がいなくなったからか、少し活気がないようにも見えた。3年生、という言葉を反復してようやく彼が受験生であることを思い出した。
そしてそれと同時に、彼が大学に進学するのかどうかということも知らない私がいることに気がついた。
その事実に気づいたのが今でよかったと心底思う。きっと、少し前の私ならすぐに落ち込んでいただろう。正直、もう傷つきもしなかった。彼のことをよく知らないのなんて、前から知っていた。
だから、この視界の滲みは乾燥しているからだと思った。
あれからまた一ヶ月が経ち、冬休みに入ろうとしていた時のこと。私はいつも通り金曜日の放課後に屋上へと向かっていた。あれから静さんと会うことはなく、ただぼんやりと校庭を見つめて、体が身震いし始めれば帰るという生活を送っていた。彼のことはもはや幻だったんじゃないかと錯覚するけれど、時々教室前を通れば姿を見かけるからそんなことはなかった。
幸いにも、目が合うことすらなかった。
いつも通り扉を開ければ、いつも通りの光景が目に入った。また日が落ちるのが早くなって、まだ16時過ぎだというのに日は半分以上落ちている。この時期になれば部活の時間も短縮され、私が遅くまで残っていようが練習をしている姿しか見せなかった部員たちも、ぞろぞろと後片付けをする姿を見せるようになった。
どうやら、今から練習試合が始まるようだ。試合開始の合図であるホイッスルの音が微かに聞こえたと同時に、ギィと重い扉の音が鳴る。
「アンタ、なにしてんの?」
反射的に振り返れば、そこには会いたかったのかもはやわからなかった、けれど大好きな静さんの姿があった。また鼻がツンと痛んで、視界が滲み出す。その滲んだ視界の中でも彼が近づいてきていることがわかり、また校庭側へと向き直した。
耳にかけていた髪を下ろして、表情を悟られないように少し斜めを向く。彼はいつも通り私の左横に並べば、手すりに体重を預けた。
「久しぶりですね」
特に何も言うことがなく、ただそれだけを呟くも、特にそれといった返事は返ってこなかった。けれどその代わり、左肩をつかまれてぐっと押される。予想外の動きに、思わず静さんへと向き直ってしまい体が固まった。
少し、ほんの少し。一瞬だけ、彼の瞳がきゅっと小さくなった気がした。
せっかく耳からおろした髪も、少し右を向いていた体の方向も、彼の問いに答えなかったことも、今まで扉を開かなかったことも。今のですべて無駄になった気がした。
彼の瞳を見れば、もう何も取り繕えないとわからされてしまった。それどころか、ヘラリと笑うことすら出来なかった。
「…アンタ、」
「し、静さ」
静さんが何を言い出すか全くわからなくて、思わず彼の言葉を遮る。けれど、特に言いたいこともなく、彼の名前を呼んだっきりになった。言葉を紡ごう紡ごうと思い、口に全てを任せたように喋りだす。
「ほ、ほんと久しぶりですね。一ヶ月どころじゃなくて、二ヶ月?とか」
「あの、そういや静さんって受験するのかなーって。受験するならもうここには来ないよなーって、わかってたんです。あ、いや、今日はそもそもリフレッシュしに来て」
「今日どころか毎週ですけど。あ、それより、日が落ちるの早くなりましたよね〜。寒くもなりましたし。静さんって寒がりですか?でも夏のほうがあんまり好きじゃないですよね?」
ベラベラと喋るのだけは上手な口が回りに回って、静さんが返す隙すら与えなかった。少なくとも、静さんの前でこんなに喋るのはきっと初めてだろう。なんだかんだ、彼の前では言葉を選んでいた気がする。
「静さんはやっぱり暑いよりも寒いほうが断然お好きですよね?私は寒いほうが嫌なんですけ、どっ!?」
ぴとり、と静さんの手が頬に当てられた。火照った私の頬に冷えたその手は冷たすぎたのか、びっくりして続いていたマシンガントークが弾切れを起こした。
「ちょっと落ち着いた方が良いし」
「…………え、いや、あの、落ち着いて」
「ないし。しばらく頭冷やしたほうがいい」
そう言って、頭ではなく頬に冷えた手をグリグリと押し付けてくる。久しぶりの静さんで頭はてんやわんやと騒々しいというのに、こんなことをされてしまっては思考回路が止まりそうになる。段々とグリグリと頬に押し付ける力が強くなってきて、頬で遊ばれているように感じてくる。
いや、これは多分。
「…静さん、遊んでますよね」
「……………そんなことないし」
図星だったのか目を逸し始めた静さんにふっと笑ってしまう。いつも通りの静さんだ。いつも通りじゃなかったのは私だけだったのだろうが、変わらない静さんがいるとちゃんと実感できるとほっとした。
「何笑ってるの」
にやにやと笑みが溢れていることが自分でもよくわかった。けれどやめようとかそんなことは微塵も思えず、ただこの気持ちの悪い笑みを垂れ流していた。そんな私の頬を静さんは摘んでぶるぶると震わしてくる。
「…………元気ないのかと思った」
「ふぁい?」
そう返事すれば、静さんがようやく頬を離してくれた。少し余韻の残る頬に軽く触れながら、静さんの続きの言葉を待つ。元気がないことはバレていたのかと思うと、結局この人には何にも隠せないのだと繰り返し痛感する。
「悩んだらここに来たらいいって言ったし」
その言葉に初めて会ったときの静さんを思い出す。普通にコミュ力お化けじゃん、この人。陽キャじゃん。と、いつものように本題から脱線しそうな脳内をなだめて、まんまと手に堕ちてしまったあの瞬間を思い出した。
「…慰めて、くれるんですよね?」
「男だから二言はない。
……多分」
「な、なんなんですか…」
冷やかしはお断りですよ、と付け加えてあの時のように、いつものように私は話し始めた。テスト勉強にやる気が出ないだの、冬休みは短すぎるだの。いつも通り、自分の話ばかりだ。
私は静さんのことを知らなくてもいい。そう思ってしまった。知ろうとすればするほど、どこかで傷ついてしまう私がいることに気づいたからである。だから、静さんに私という人間を植え付けるかの如く話し続ける。
聞いているのかどうかなんてわからないし、彼が私のことを覚えていてくれる保証なんてないけれど。
少しでも隣にいれるなら、もうなんでもいいや。
あの金曜日から一ヶ月が経過した。あれからあの屋上の扉を開いたことはなかった。けれど毎週金曜日の放課後になれば、屋上に足が向かい、扉前で止まってしまう。いつの日か、金曜日が扉を開けることなく踵を返すだけの日になってしまっていた。
早くその扉を開けてしまえ、と心の何処かでは思っているのに開けられない。あの光景を見るのが怖いからだろうか。それとも、何ともない顔をして、私にとってのいつもの静さんとして話し始める姿を見たくないからだろうか。
そもそも静さんからあんまり話し始めないっけ、と思い返してみるけれど、どうしてか思い出せなかった。
ずっとではないが、一人になれば静さんのことを考えてしまう。集中していない授業中であったりだとか、疲れた体にムチを打って布団に入ったときだとか。こんなもの、好きなアイドルの映像を見ればすぐに立ち直るはずなのに。確か静さんと初めて会った日もこんな憂鬱な気分だった気がする。
静さんに会えてないから、気分が晴れない。悩んだらいつでも来ていいと言ってくれた彼に会えていない。
あぁ、いやだ。
依存している。
そうしていつものように階段を登っている。静さんへの依存を認めてから、何故か急に扉を開ける気になった。気持ちの整理がついたからだろうか。
けれど、別に彼に会うために屋上の扉を開けるわけじゃない。偶然あの日と同じ気分だとわかったから、同じ気分転換をしてみるだけで。別に彼に会いたいわけじゃない。たまたま屋上に行きたい気分だっただけで。
別に、別に。
扉を開ければ、なんら変わらない景色があった。強いて言うならば、前よりも日が落ちる時間が早くなって、肌をなでる風が冷たくなったところだろうか。
なんら変わらないと思った景色の中に静さんはいなかった。
校庭でいつものように練習している野球部を見る。引退した3年生がいなくなったからか、少し活気がないようにも見えた。3年生、という言葉を反復してようやく彼が受験生であることを思い出した。
そしてそれと同時に、彼が大学に進学するのかどうかということも知らない私がいることに気がついた。
その事実に気づいたのが今でよかったと心底思う。きっと、少し前の私ならすぐに落ち込んでいただろう。正直、もう傷つきもしなかった。彼のことをよく知らないのなんて、前から知っていた。
だから、この視界の滲みは乾燥しているからだと思った。
あれからまた一ヶ月が経ち、冬休みに入ろうとしていた時のこと。私はいつも通り金曜日の放課後に屋上へと向かっていた。あれから静さんと会うことはなく、ただぼんやりと校庭を見つめて、体が身震いし始めれば帰るという生活を送っていた。彼のことはもはや幻だったんじゃないかと錯覚するけれど、時々教室前を通れば姿を見かけるからそんなことはなかった。
幸いにも、目が合うことすらなかった。
いつも通り扉を開ければ、いつも通りの光景が目に入った。また日が落ちるのが早くなって、まだ16時過ぎだというのに日は半分以上落ちている。この時期になれば部活の時間も短縮され、私が遅くまで残っていようが練習をしている姿しか見せなかった部員たちも、ぞろぞろと後片付けをする姿を見せるようになった。
どうやら、今から練習試合が始まるようだ。試合開始の合図であるホイッスルの音が微かに聞こえたと同時に、ギィと重い扉の音が鳴る。
「アンタ、なにしてんの?」
反射的に振り返れば、そこには会いたかったのかもはやわからなかった、けれど大好きな静さんの姿があった。また鼻がツンと痛んで、視界が滲み出す。その滲んだ視界の中でも彼が近づいてきていることがわかり、また校庭側へと向き直した。
耳にかけていた髪を下ろして、表情を悟られないように少し斜めを向く。彼はいつも通り私の左横に並べば、手すりに体重を預けた。
「久しぶりですね」
特に何も言うことがなく、ただそれだけを呟くも、特にそれといった返事は返ってこなかった。けれどその代わり、左肩をつかまれてぐっと押される。予想外の動きに、思わず静さんへと向き直ってしまい体が固まった。
少し、ほんの少し。一瞬だけ、彼の瞳がきゅっと小さくなった気がした。
せっかく耳からおろした髪も、少し右を向いていた体の方向も、彼の問いに答えなかったことも、今まで扉を開かなかったことも。今のですべて無駄になった気がした。
彼の瞳を見れば、もう何も取り繕えないとわからされてしまった。それどころか、ヘラリと笑うことすら出来なかった。
「…アンタ、」
「し、静さ」
静さんが何を言い出すか全くわからなくて、思わず彼の言葉を遮る。けれど、特に言いたいこともなく、彼の名前を呼んだっきりになった。言葉を紡ごう紡ごうと思い、口に全てを任せたように喋りだす。
「ほ、ほんと久しぶりですね。一ヶ月どころじゃなくて、二ヶ月?とか」
「あの、そういや静さんって受験するのかなーって。受験するならもうここには来ないよなーって、わかってたんです。あ、いや、今日はそもそもリフレッシュしに来て」
「今日どころか毎週ですけど。あ、それより、日が落ちるの早くなりましたよね〜。寒くもなりましたし。静さんって寒がりですか?でも夏のほうがあんまり好きじゃないですよね?」
ベラベラと喋るのだけは上手な口が回りに回って、静さんが返す隙すら与えなかった。少なくとも、静さんの前でこんなに喋るのはきっと初めてだろう。なんだかんだ、彼の前では言葉を選んでいた気がする。
「静さんはやっぱり暑いよりも寒いほうが断然お好きですよね?私は寒いほうが嫌なんですけ、どっ!?」
ぴとり、と静さんの手が頬に当てられた。火照った私の頬に冷えたその手は冷たすぎたのか、びっくりして続いていたマシンガントークが弾切れを起こした。
「ちょっと落ち着いた方が良いし」
「…………え、いや、あの、落ち着いて」
「ないし。しばらく頭冷やしたほうがいい」
そう言って、頭ではなく頬に冷えた手をグリグリと押し付けてくる。久しぶりの静さんで頭はてんやわんやと騒々しいというのに、こんなことをされてしまっては思考回路が止まりそうになる。段々とグリグリと頬に押し付ける力が強くなってきて、頬で遊ばれているように感じてくる。
いや、これは多分。
「…静さん、遊んでますよね」
「……………そんなことないし」
図星だったのか目を逸し始めた静さんにふっと笑ってしまう。いつも通りの静さんだ。いつも通りじゃなかったのは私だけだったのだろうが、変わらない静さんがいるとちゃんと実感できるとほっとした。
「何笑ってるの」
にやにやと笑みが溢れていることが自分でもよくわかった。けれどやめようとかそんなことは微塵も思えず、ただこの気持ちの悪い笑みを垂れ流していた。そんな私の頬を静さんは摘んでぶるぶると震わしてくる。
「…………元気ないのかと思った」
「ふぁい?」
そう返事すれば、静さんがようやく頬を離してくれた。少し余韻の残る頬に軽く触れながら、静さんの続きの言葉を待つ。元気がないことはバレていたのかと思うと、結局この人には何にも隠せないのだと繰り返し痛感する。
「悩んだらここに来たらいいって言ったし」
その言葉に初めて会ったときの静さんを思い出す。普通にコミュ力お化けじゃん、この人。陽キャじゃん。と、いつものように本題から脱線しそうな脳内をなだめて、まんまと手に堕ちてしまったあの瞬間を思い出した。
「…慰めて、くれるんですよね?」
「男だから二言はない。
……多分」
「な、なんなんですか…」
冷やかしはお断りですよ、と付け加えてあの時のように、いつものように私は話し始めた。テスト勉強にやる気が出ないだの、冬休みは短すぎるだの。いつも通り、自分の話ばかりだ。
私は静さんのことを知らなくてもいい。そう思ってしまった。知ろうとすればするほど、どこかで傷ついてしまう私がいることに気づいたからである。だから、静さんに私という人間を植え付けるかの如く話し続ける。
聞いているのかどうかなんてわからないし、彼が私のことを覚えていてくれる保証なんてないけれど。
少しでも隣にいれるなら、もうなんでもいいや。
