この恋を掘り返すのは何回目
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夏の暑さからゆっくりと移り変わり、ようやく過ごしやすい季節となってきた。あれから、また静さんと会えない週が続いた。でも今までより遥かに心は満たされていて、その理由も明らかであった。
「そろそろ移動教室だよ」
「あ待って筆箱どっか行った、先行ってて?」
友人たちにそう声をかけて、先ほどまであったはずの筆箱を探す。どうしてこうもすぐになくしてしまうのだろうか、さっきまで確実にそこにあったはずなのに。そして、こういうときほど机の奥で眠っているものであり、無駄な労力と時間を消費したと後悔させられる。けれど、それよりも見つかった喜びの方がでかいため、私は幸せなヤツだと思う。
移動時間を考えても充分に間に合うのだが、心なしか急ぎ足で向かってしまうのはあるあるだろう。早く私も数少ない休憩時間で友人たちと喋りたいものである。
階段を登り三階へと向かう。第二理科室があるこの階には三年生の教室があった。目的地の場所は一番端にあり、三年生で賑やかな廊下を抜けていかなくてはならなくて、少し苦手だ。
それに、勿論彼の教室の前を通るのだ。別に通ったって話すわけでもなければ、挨拶すらも交わすことはない。けれど時々目が合って、そのまま通り過ぎる事がある。その瞬間が、堪らなくドキドキして心臓に悪い。
確か彼は今教室のど真ん中の席だったはず。その前は廊下側から二列目の一番後ろの席だった。その前は流石に忘れた。席替えはしたのだろうか。こんなことを考えてしまう自分は本当に気持ち悪いと思うが、誰にもバレなきゃそれでいいだろうと切り替える。
静さんのいる教室が近づいてくる。前側の扉は男の先輩たちが塞いでいて、中がよく見えなかった。前側の小窓は閉められたまま。柱を通り、後ろ側の小窓から彼の姿を探す。案外、すぐに見つかった。この小窓から一直線上にある、窓側の一番後ろの席。それが今の彼の席だった。
目は合わなかった。
後ろ側の扉は女の先輩が塞いでいたけれど、密集しているわけでもなかったので、隙間からチラリと彼の姿を確認できた。先程となんら変わらない、親しげに前の席の女の子と話す姿が見えた。
静さんって、友達いたんだ。とか失礼なことを考えてみる。人と会話をする場面を見る機会がなかったということもあって、そう思ってしまうのも仕方のないことだろう。
「遅かったね」
「えー?意外と早歩きだったんだけど。3年生の教室前、そんなノロノロと通りたくないもん」
あぁ、へらりと笑うことって、気楽だ。
第二理科室での授業が終わり、また来た道を戻る。今度は友人たちと実験の手際が悪いだの、次の授業からは第一理科室になるだのを話しながら3年生の教室前を通った。
静さんは特に誰と話すこともなく、ぼーっと窓の外を見つめていた。それをちょっとつまらないと思った自分がいた。
あの子と話していればいいのに。
そう思ってしまう自分がなんとなく嫌で、第二理科室で授業を受けるのが好きじゃなくなった。
今週も変わらず金曜日がやってきた。幸い、あれから先生の話通り第二理科室で授業が行われることはなかったため、静さんを見るのはその時ぶりだ。あの女の子は静さんと話していただけというのに、どうにも気持ちの悪い感情が胸の中を渦巻いてたまらない。そんな思いを抱えながら、今日も長い階段を登る。屋上にいるのが静さんじゃなかったら、わざわざこんな階段なんて登ってやらない。
「あんた……やっぱおもしろいし」
静さんの声が聞こえてピタリと扉へと近づく足を止めた。屋上の分厚い扉から静さんの声が聞こえてくるわけがない。そう思って後ろを振り返れば勿論そこには誰もおらず、声の主は扉の向こう側にいることがわかった。扉は少し開いていて、どうやらそこから声が漏れ出たのだと予測できる。
それ以上扉を開けることなく隙間からじろりと外の様子を伺うと、いつもの定位置に静さん。そして女の子が一人いた。その姿に見覚えがある私は、扉から一歩だけ下がって見ないように地面に視線を固定する。
静さんと教室で喋ってた前の席の人だ。
上靴を見れば赤色なこともあり、間違いないだろう。彼女の姿を捉えていたのはほんの一瞬だったと言うのに、そこまで見ていた自分がどれだけ気持ちの悪い人間か思い知らされる。
微かだが話し声が聞こえる。それといって内容がわかるわけでもない。けれど会話が途切れることなく続いていることだけがわかった。普段の、私が見ている静さんは特に喋らずに名前の通りの静けさを持っていて、それでいて。それでいて、なんだろうか。
あんなふうに楽しげに話していただろうか。私って、静さんのことなんて何も知らないのではないだろうか。私といるときの静さんしか思いつかないことにようやく気づいた私は、ゆっくりと登ってきた階段を降りる。
本当に仲が良いと会話がなくとも心地よいという話が頭によぎる。もしかしたら、私の方が静さんと仲がいいかもしれない。そう自惚れるのが嫌で、降りるスピードを速める。教室につくなり、その勢いのまま鞄の持ち手を掴む。けれど、掴んだまま持ち上げることはなかった。
ぐっと込み上げてくるなにかに耐えながら、ゆっくりと深呼吸をしていく。その行為と反比例にツンと鼻が痛くなる。そのせいで視界が歪んだ。痛いのなんて嫌いだ。
しばらくそうしていると、視界の歪みが落ち着き、元の視界へと戻る。零れ出たため息を教室に残して、靴箱に向かい正面玄関へ出る。くるりと校舎側へ振り返れば屋上が見えた。校庭側で喋っているであろう2人の姿は見えない。
その方が好都合だ。
帰宅する姿を見られることが気まずかった私は、すぐに門をくぐった。いつもは校庭側を通って帰宅すると言うのに、今日はそんな気分でなかった。気分だと言い訳しながら、静さんのあの瞳から逃れようとしていることは自覚済みだ。
静さんは私が屋上に来なくても気にしないだろう。きっと、静さんの心に一瞬は引っかかっても、その引っかかりが残ることはない。いつもの常連さんが来ないとか、そんなもんだ。体調不良なのかな、とか休みかな、とか何回かは思うけれど、いつの間にかその人自体の存在も忘れて、時々そんな人いたなと思い出す。
そんなもんだ、私たちの関係は。
そう割り切っているつもりでも、心の何処かで心配してくれたらいいな、なんて思ってしまった。それきり、私は屋上の扉を開くことをやめた。
「そろそろ移動教室だよ」
「あ待って筆箱どっか行った、先行ってて?」
友人たちにそう声をかけて、先ほどまであったはずの筆箱を探す。どうしてこうもすぐになくしてしまうのだろうか、さっきまで確実にそこにあったはずなのに。そして、こういうときほど机の奥で眠っているものであり、無駄な労力と時間を消費したと後悔させられる。けれど、それよりも見つかった喜びの方がでかいため、私は幸せなヤツだと思う。
移動時間を考えても充分に間に合うのだが、心なしか急ぎ足で向かってしまうのはあるあるだろう。早く私も数少ない休憩時間で友人たちと喋りたいものである。
階段を登り三階へと向かう。第二理科室があるこの階には三年生の教室があった。目的地の場所は一番端にあり、三年生で賑やかな廊下を抜けていかなくてはならなくて、少し苦手だ。
それに、勿論彼の教室の前を通るのだ。別に通ったって話すわけでもなければ、挨拶すらも交わすことはない。けれど時々目が合って、そのまま通り過ぎる事がある。その瞬間が、堪らなくドキドキして心臓に悪い。
確か彼は今教室のど真ん中の席だったはず。その前は廊下側から二列目の一番後ろの席だった。その前は流石に忘れた。席替えはしたのだろうか。こんなことを考えてしまう自分は本当に気持ち悪いと思うが、誰にもバレなきゃそれでいいだろうと切り替える。
静さんのいる教室が近づいてくる。前側の扉は男の先輩たちが塞いでいて、中がよく見えなかった。前側の小窓は閉められたまま。柱を通り、後ろ側の小窓から彼の姿を探す。案外、すぐに見つかった。この小窓から一直線上にある、窓側の一番後ろの席。それが今の彼の席だった。
目は合わなかった。
後ろ側の扉は女の先輩が塞いでいたけれど、密集しているわけでもなかったので、隙間からチラリと彼の姿を確認できた。先程となんら変わらない、親しげに前の席の女の子と話す姿が見えた。
静さんって、友達いたんだ。とか失礼なことを考えてみる。人と会話をする場面を見る機会がなかったということもあって、そう思ってしまうのも仕方のないことだろう。
「遅かったね」
「えー?意外と早歩きだったんだけど。3年生の教室前、そんなノロノロと通りたくないもん」
あぁ、へらりと笑うことって、気楽だ。
第二理科室での授業が終わり、また来た道を戻る。今度は友人たちと実験の手際が悪いだの、次の授業からは第一理科室になるだのを話しながら3年生の教室前を通った。
静さんは特に誰と話すこともなく、ぼーっと窓の外を見つめていた。それをちょっとつまらないと思った自分がいた。
あの子と話していればいいのに。
そう思ってしまう自分がなんとなく嫌で、第二理科室で授業を受けるのが好きじゃなくなった。
今週も変わらず金曜日がやってきた。幸い、あれから先生の話通り第二理科室で授業が行われることはなかったため、静さんを見るのはその時ぶりだ。あの女の子は静さんと話していただけというのに、どうにも気持ちの悪い感情が胸の中を渦巻いてたまらない。そんな思いを抱えながら、今日も長い階段を登る。屋上にいるのが静さんじゃなかったら、わざわざこんな階段なんて登ってやらない。
「あんた……やっぱおもしろいし」
静さんの声が聞こえてピタリと扉へと近づく足を止めた。屋上の分厚い扉から静さんの声が聞こえてくるわけがない。そう思って後ろを振り返れば勿論そこには誰もおらず、声の主は扉の向こう側にいることがわかった。扉は少し開いていて、どうやらそこから声が漏れ出たのだと予測できる。
それ以上扉を開けることなく隙間からじろりと外の様子を伺うと、いつもの定位置に静さん。そして女の子が一人いた。その姿に見覚えがある私は、扉から一歩だけ下がって見ないように地面に視線を固定する。
静さんと教室で喋ってた前の席の人だ。
上靴を見れば赤色なこともあり、間違いないだろう。彼女の姿を捉えていたのはほんの一瞬だったと言うのに、そこまで見ていた自分がどれだけ気持ちの悪い人間か思い知らされる。
微かだが話し声が聞こえる。それといって内容がわかるわけでもない。けれど会話が途切れることなく続いていることだけがわかった。普段の、私が見ている静さんは特に喋らずに名前の通りの静けさを持っていて、それでいて。それでいて、なんだろうか。
あんなふうに楽しげに話していただろうか。私って、静さんのことなんて何も知らないのではないだろうか。私といるときの静さんしか思いつかないことにようやく気づいた私は、ゆっくりと登ってきた階段を降りる。
本当に仲が良いと会話がなくとも心地よいという話が頭によぎる。もしかしたら、私の方が静さんと仲がいいかもしれない。そう自惚れるのが嫌で、降りるスピードを速める。教室につくなり、その勢いのまま鞄の持ち手を掴む。けれど、掴んだまま持ち上げることはなかった。
ぐっと込み上げてくるなにかに耐えながら、ゆっくりと深呼吸をしていく。その行為と反比例にツンと鼻が痛くなる。そのせいで視界が歪んだ。痛いのなんて嫌いだ。
しばらくそうしていると、視界の歪みが落ち着き、元の視界へと戻る。零れ出たため息を教室に残して、靴箱に向かい正面玄関へ出る。くるりと校舎側へ振り返れば屋上が見えた。校庭側で喋っているであろう2人の姿は見えない。
その方が好都合だ。
帰宅する姿を見られることが気まずかった私は、すぐに門をくぐった。いつもは校庭側を通って帰宅すると言うのに、今日はそんな気分でなかった。気分だと言い訳しながら、静さんのあの瞳から逃れようとしていることは自覚済みだ。
静さんは私が屋上に来なくても気にしないだろう。きっと、静さんの心に一瞬は引っかかっても、その引っかかりが残ることはない。いつもの常連さんが来ないとか、そんなもんだ。体調不良なのかな、とか休みかな、とか何回かは思うけれど、いつの間にかその人自体の存在も忘れて、時々そんな人いたなと思い出す。
そんなもんだ、私たちの関係は。
そう割り切っているつもりでも、心の何処かで心配してくれたらいいな、なんて思ってしまった。それきり、私は屋上の扉を開くことをやめた。
