この恋を掘り返すのは何回目
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静さんと会えない夏休みなんて、とてつもなく長いんだろうなと思っていたら、いつの間にか夏休みが終わっていた。恋心よりも、授業のない日々、友人と遊ぶ日々のほうが優先されてしまったのだろうなと自覚できたが、それは決して悪いことではなかった。
依存。それがただひたすらに怖かった。あと半年で私は彼と会うことはなくなってしまうのだから。
「はよー」
新学期初日はイツメンとの挨拶から始まる。久々に会う者もいれば、この間遊んだばかりの者もおり、話題の弾み方は多種多様である。夏休み中一度も会うことのなかった友人は、彼氏と熱々の夏を過ごしたらしい。
「リア充乙〜」
「私も彼氏ほしーなぁ」
口々に叶うこともなければ特に願ってもいない、感情のない言葉を漏らす友人たちを眺める。あんたは告白されてたのに振ったでしょ、と痛いところを刺す友人Aと、それに対してあれは理想じゃない、と急所をかわして答える友人B。そんな二人はお構い無しに幸せオーラが出まくっている友人C。そしてそれを傍観するの如く頬杖をついて、ただ見つめるだけの私。
「彼氏なぁ…」
そうボツりと呟く。ほしいとかほしくないとか、そういうことじゃない。そういうところはきっと友人Bと一緒なのだろう。恐らくこいつだって私と同じで、誰かが頭の中に居座っているのだ。
「…あ、そう言えばあんたはどうなったの?」
「え?私?」
急に話を振られたかと思えば、その言葉に続いて、AもCも反応してくる。
「あのー…なんだっけ、あ、そう、屋上の人!」
「……あー、ね?」
少しキラキラとした瞳でこちらを見つめてくるBには申し訳ないが、本当に何もないのだ。夏休み中だって会うことも声を聞くこともなくて、視界に入れることすらなかった。私たちはただの知人なだけで、進展するほどの仲でもないのだ。
「ほんと、何にもないんだよなぁ。別に連絡先持ってるわけじゃないし」
「…え?持ってないの?」
「持ってないよ、別に必要ないじゃん。用事もないのに連絡する仲でもないし」
「え、でもいつも屋上で待ち合わせしてるじゃん」
「それはなんか知らぬ間に金曜に集まるってことになっただけで」
「でも梅雨の時期とかは雨降ってるし会えないよね?そういうときってどうしてたの?」
「……え、雨だから屋上開いてないし会わなくない?」
そう一言告げると、三人は一斉に溜息をついて冷めてるわー、と同じ一言。仲がいいなと思っていれば、彼女たちはハモったことなんてどうでもいいらしく、次々に質問してくる。
「雨降っててもいるかもしれないとか思わないの?」
「いや、普通になくない?濡れるし」
風邪をひいて困るのは向こうの方だ。そんなこと考えたこともなかった。向こうにデメリットがある時点で、会わないのは当然だろう。
「そもそも連絡先なくて困るでしょ?」
「えー…?別に、そんなに仲いいわけじゃないし。ただ屋上でのんびりしてるだけだからなぁ」
連絡先がなくて困ることなんて本当にない。別に同じ部活でも委員会でもないのだから、伝達事項なんてないのだ。それに、別に先輩後輩らしく勉強を教えてもらったり、テストの過去問を貰ったりしているわけでもないのだ。
それこそ前に言った通り、私と静さんは近所の公園で時々会う人のような関係性である。普通に考えて、そんな二人が連絡先を交換するだろうか。否、しないだろう。
「夏休み中に一回でも会いたいって思わなかったの?」
「………うーん?いやぁ、別に会ってもやることないしなぁ」
嘘だ。
ヘラリと笑ってしまった。
きっと静さんがここにいれば、すぐにこの事は嘘だと暴かれてしまうだろう。
「大人っていうか…子どもっていうか…」
「そんなこと言ってるあんたが一番拗らせてるだろ」
そう言って同志であるBの肩に頭突きをすると、彼女は急に振られてびっくりしたのか、はたまた意中の彼を思い出してしまったのか、徐々に彼女の頬が赤く染まっていく。
「か〜わい」
静さんの目にも、私がこうやって映ってればいいのにな、とか柄にもないことを考えて彼女の話に耳を傾けた。
どうしてか噛み合わなかった。いや、3年生は進路の話で持ちきりだから会えなくなるだろうとは思っていた。人によっては大学に行くし、就職するとなっても忙しないだろう。週一回の金曜日ですら無駄なことに使えないのは一年生の私にも理解できることだった。夏休みが明ければ静さんにすぐに会えると思っていた私はなんて呑気だったのだろうか。
夏休みが明けて三回目の金曜日。酷く長く感じたように思えたが、実際長かったのだから仕方がない。そう思うのも当然だった。静さんはいつもと何も変わっちゃいないとでもいうように、いつもの定位置に座っていた。
「こんちは、静さん」
ヘラリと笑うのはやめて、目元を少し和らげるかのように微笑むと静さんとかちりと目が合った。何故かいつものように怖く感じないのは、きっと私がいつもの癖を意図的に抑え込んだからだろうか。いつもとなんら変わらないを意識して、静さんの隣に腰掛ける。九月も終わりに差し掛かったというのに、まだまだ暑い日が続いている。
「…下敷き持ってくればよかった」
高い空を眺めながらぼやくと、少しぬるめの風が右頬を掠める。反射的にそちらを見ると、静さんの手には下敷きが握られていた。いつもは持ってないくせに、と少し驚けば、少し自慢げに彼は微笑んだ。
「久しぶりに会うから、コレの存在、忘れてるかと思って」
そう言ってゆらゆらと下敷きを揺らす静さんの言葉は図星すぎて、不服だと言わんばかりの表情を見せると、また彼はいつもの顔で微笑んだ。
「そりゃ一ヶ月半前の、たった一ヶ月きりの習慣なんて忘れますよ」
下敷きだけを片手に、静さんに会いに行っていた日々よりも静さんに会えていなかった金曜日のほうが長かったことに、口にしながらも少し驚いた。なんだかんだ、私は静さんのいない金曜日を退屈せずに生きていたのだろう。
なんだかその事実が虚しくて、切なくて、少しホッとした。
「アンタ、夏休み明けてから金曜日にここ来てた?」
少し、息が詰まった。
その質問に答えたら、ずっと待っていたと言うのと同じになってしまう。一瞬、答えることに躊躇ったが静さんに嘘を付くことはもう諦めたので、忠犬ハチ公の如く来てましたよと答える。
「忠犬ハチ公…っふ、アンタ、いい子」
忠犬ハチ公の響きが気に入ったのか、先ほどとは違った花が咲くような柔らかな微笑みを見せた静さんに目を奪われた。こんな風に笑うんだ、と何故か胸が強く絞め付けられた。
そんな静さんを見つめていると、不意に彼から手を伸ばされる。角度的に私の頭を狙っているのだと推測したときには、彼の掌が頭の上にぽん、と優しく置かれていた。
「………あ、の?」
犬扱いだろうか。やっぱりこの人の情緒はよくわからない。特に何も言葉を返さずに、彼は私の頭の上の掌を動かす。優しく、優しく、あやすように撫でられる。喜べばいいのか突き放せばいいのか分からなかったけれど、少し泣きそうになった。きっと恐らく、私はものすごく不細工な顔をしていると思う。
いつもの笑い方にもなりきれない、半泣きの苦笑いが彼の瞳に映った気がした。
けれどそれも一瞬の出来事で、彼の微笑みに思考を崩される。静さんが、こんなに微笑んで私の頭を撫でているのだ。もう、ほんとに、ダメかもしれない。この人がどうしようもなく怖くて、愛おしい。底も知れない沼にずぶずぶと嵌っていく感覚は、ゆっくりだけれど下降していくジェットコースターのような浮遊感があって苦手だ。
最後にくしゃりと私の髪を優しく握った後、静さんは私から手を離した。それ以上何か言葉を紡ごうとしても、何も思いつかなかった。彼の手が離れて、少し寂しいと思ったのは私だけの秘密だ。
依存。それがただひたすらに怖かった。あと半年で私は彼と会うことはなくなってしまうのだから。
「はよー」
新学期初日はイツメンとの挨拶から始まる。久々に会う者もいれば、この間遊んだばかりの者もおり、話題の弾み方は多種多様である。夏休み中一度も会うことのなかった友人は、彼氏と熱々の夏を過ごしたらしい。
「リア充乙〜」
「私も彼氏ほしーなぁ」
口々に叶うこともなければ特に願ってもいない、感情のない言葉を漏らす友人たちを眺める。あんたは告白されてたのに振ったでしょ、と痛いところを刺す友人Aと、それに対してあれは理想じゃない、と急所をかわして答える友人B。そんな二人はお構い無しに幸せオーラが出まくっている友人C。そしてそれを傍観するの如く頬杖をついて、ただ見つめるだけの私。
「彼氏なぁ…」
そうボツりと呟く。ほしいとかほしくないとか、そういうことじゃない。そういうところはきっと友人Bと一緒なのだろう。恐らくこいつだって私と同じで、誰かが頭の中に居座っているのだ。
「…あ、そう言えばあんたはどうなったの?」
「え?私?」
急に話を振られたかと思えば、その言葉に続いて、AもCも反応してくる。
「あのー…なんだっけ、あ、そう、屋上の人!」
「……あー、ね?」
少しキラキラとした瞳でこちらを見つめてくるBには申し訳ないが、本当に何もないのだ。夏休み中だって会うことも声を聞くこともなくて、視界に入れることすらなかった。私たちはただの知人なだけで、進展するほどの仲でもないのだ。
「ほんと、何にもないんだよなぁ。別に連絡先持ってるわけじゃないし」
「…え?持ってないの?」
「持ってないよ、別に必要ないじゃん。用事もないのに連絡する仲でもないし」
「え、でもいつも屋上で待ち合わせしてるじゃん」
「それはなんか知らぬ間に金曜に集まるってことになっただけで」
「でも梅雨の時期とかは雨降ってるし会えないよね?そういうときってどうしてたの?」
「……え、雨だから屋上開いてないし会わなくない?」
そう一言告げると、三人は一斉に溜息をついて冷めてるわー、と同じ一言。仲がいいなと思っていれば、彼女たちはハモったことなんてどうでもいいらしく、次々に質問してくる。
「雨降っててもいるかもしれないとか思わないの?」
「いや、普通になくない?濡れるし」
風邪をひいて困るのは向こうの方だ。そんなこと考えたこともなかった。向こうにデメリットがある時点で、会わないのは当然だろう。
「そもそも連絡先なくて困るでしょ?」
「えー…?別に、そんなに仲いいわけじゃないし。ただ屋上でのんびりしてるだけだからなぁ」
連絡先がなくて困ることなんて本当にない。別に同じ部活でも委員会でもないのだから、伝達事項なんてないのだ。それに、別に先輩後輩らしく勉強を教えてもらったり、テストの過去問を貰ったりしているわけでもないのだ。
それこそ前に言った通り、私と静さんは近所の公園で時々会う人のような関係性である。普通に考えて、そんな二人が連絡先を交換するだろうか。否、しないだろう。
「夏休み中に一回でも会いたいって思わなかったの?」
「………うーん?いやぁ、別に会ってもやることないしなぁ」
嘘だ。
ヘラリと笑ってしまった。
きっと静さんがここにいれば、すぐにこの事は嘘だと暴かれてしまうだろう。
「大人っていうか…子どもっていうか…」
「そんなこと言ってるあんたが一番拗らせてるだろ」
そう言って同志であるBの肩に頭突きをすると、彼女は急に振られてびっくりしたのか、はたまた意中の彼を思い出してしまったのか、徐々に彼女の頬が赤く染まっていく。
「か〜わい」
静さんの目にも、私がこうやって映ってればいいのにな、とか柄にもないことを考えて彼女の話に耳を傾けた。
どうしてか噛み合わなかった。いや、3年生は進路の話で持ちきりだから会えなくなるだろうとは思っていた。人によっては大学に行くし、就職するとなっても忙しないだろう。週一回の金曜日ですら無駄なことに使えないのは一年生の私にも理解できることだった。夏休みが明ければ静さんにすぐに会えると思っていた私はなんて呑気だったのだろうか。
夏休みが明けて三回目の金曜日。酷く長く感じたように思えたが、実際長かったのだから仕方がない。そう思うのも当然だった。静さんはいつもと何も変わっちゃいないとでもいうように、いつもの定位置に座っていた。
「こんちは、静さん」
ヘラリと笑うのはやめて、目元を少し和らげるかのように微笑むと静さんとかちりと目が合った。何故かいつものように怖く感じないのは、きっと私がいつもの癖を意図的に抑え込んだからだろうか。いつもとなんら変わらないを意識して、静さんの隣に腰掛ける。九月も終わりに差し掛かったというのに、まだまだ暑い日が続いている。
「…下敷き持ってくればよかった」
高い空を眺めながらぼやくと、少しぬるめの風が右頬を掠める。反射的にそちらを見ると、静さんの手には下敷きが握られていた。いつもは持ってないくせに、と少し驚けば、少し自慢げに彼は微笑んだ。
「久しぶりに会うから、コレの存在、忘れてるかと思って」
そう言ってゆらゆらと下敷きを揺らす静さんの言葉は図星すぎて、不服だと言わんばかりの表情を見せると、また彼はいつもの顔で微笑んだ。
「そりゃ一ヶ月半前の、たった一ヶ月きりの習慣なんて忘れますよ」
下敷きだけを片手に、静さんに会いに行っていた日々よりも静さんに会えていなかった金曜日のほうが長かったことに、口にしながらも少し驚いた。なんだかんだ、私は静さんのいない金曜日を退屈せずに生きていたのだろう。
なんだかその事実が虚しくて、切なくて、少しホッとした。
「アンタ、夏休み明けてから金曜日にここ来てた?」
少し、息が詰まった。
その質問に答えたら、ずっと待っていたと言うのと同じになってしまう。一瞬、答えることに躊躇ったが静さんに嘘を付くことはもう諦めたので、忠犬ハチ公の如く来てましたよと答える。
「忠犬ハチ公…っふ、アンタ、いい子」
忠犬ハチ公の響きが気に入ったのか、先ほどとは違った花が咲くような柔らかな微笑みを見せた静さんに目を奪われた。こんな風に笑うんだ、と何故か胸が強く絞め付けられた。
そんな静さんを見つめていると、不意に彼から手を伸ばされる。角度的に私の頭を狙っているのだと推測したときには、彼の掌が頭の上にぽん、と優しく置かれていた。
「………あ、の?」
犬扱いだろうか。やっぱりこの人の情緒はよくわからない。特に何も言葉を返さずに、彼は私の頭の上の掌を動かす。優しく、優しく、あやすように撫でられる。喜べばいいのか突き放せばいいのか分からなかったけれど、少し泣きそうになった。きっと恐らく、私はものすごく不細工な顔をしていると思う。
いつもの笑い方にもなりきれない、半泣きの苦笑いが彼の瞳に映った気がした。
けれどそれも一瞬の出来事で、彼の微笑みに思考を崩される。静さんが、こんなに微笑んで私の頭を撫でているのだ。もう、ほんとに、ダメかもしれない。この人がどうしようもなく怖くて、愛おしい。底も知れない沼にずぶずぶと嵌っていく感覚は、ゆっくりだけれど下降していくジェットコースターのような浮遊感があって苦手だ。
最後にくしゃりと私の髪を優しく握った後、静さんは私から手を離した。それ以上何か言葉を紡ごうとしても、何も思いつかなかった。彼の手が離れて、少し寂しいと思ったのは私だけの秘密だ。
